スゼー(B)ボールドウィン(P)(polydor/emi/warner)CD
中世詩でさほど特徴的な内容でもない。恋人に捧ぐ、母のために母の依頼で作った祈り、パリの女、奔放ではあるがストレートとも思える…二曲目を除けば。今朝この曲を取り上げたのはノートルダム寺院炎上が念頭にあってのことだ。晩年近いドビュッシーにしては夢見るように軽快なかつて全盛期の調子を持つ一、三曲目にくらべ二曲目〜ノートルダム寺院における祈り〜は異例の宗教的な敬虔さを示している。聴き方によっては暗くも感じられる。安定したスゼーの声にあっては突出したものはないものの、静かな真摯なものが通底している。晩年のドビュッシーの抱えた闇、突然の楽想の変化や晦渋で不可解な進行はこの曲にも無いわけではないし、他の演奏、たとえば管弦楽伴奏できけばより奇矯さが表に出るのかもしれない。音楽においてもあの教会は大きな存在だった。ヴィヨンの母がもし実在していたとしたら、一昨日まで存在した空間の中でヴィヨンの言葉をつぶやいたのだろう。
ドビュッシー:作品全集(33CD) | |
Warner Classics |