牧神の午後への前奏曲
<ドビュッシーの名を最初に轟かせた、「印象派」の呼び名のもとを作った曲。茫洋とした雰囲気が眠気をさそう。ニジンスキーのバレエ化で有名。>
○ピエルネ指揮コンセール・コロンヌ管弦楽団(CASCAVELLE/ODEON)1930/2/10・CD
止揚する音楽。なんという自在さだろう。弛緩せず速めの解釈だが、表現のひとつひとつに心が篭っており、この淡い音楽をその淡さを損なうことなくしなやかに纏め上げている。この時代とは思えないオケの巧さにも傾聴。とくに木管陣のソリスティックな技巧には舌を巻くことしばしば。ピエルネの力量を感じる。作曲家としては凡庸だったがその棒は創意に満ちている。幻想は少ないがリアルな音楽の面白さだけで十分だ。録音状態はかなり悪いが上手くリマスタリングしており感情移入に支障は無い。録音マイナスで○ひとつ。
○ストララム指揮コンセール・ストララム管弦楽団(VAI,ANDANTE)1930/2/24シャンゼリゼ劇場・CD
モイーズが1番フルートで在籍していたことでも有名な楽団。当然冒頭のソロもモイーズということになろう。微妙なニュアンスで歌うというより太く確実な発音で安心して聞かせるという側面が感じられるが、オケプレイヤーとしてはこれでいいのだろう。2枚のCDでたいした音質の差はなく、総じて悪い。SP原盤の宿命だろう。だが十分柔らかい抒情があり、雰囲気は明らかに印象派。作曲後既に数十年がたっているのだから、時代的にこのくらい意図に沿ったこなれた演奏が出てきていても不思議は無いわけだ。佳演。
アンセルメ指揮スイス・ロマンド管弦楽団(MOVIMENTO MUSICA,WEA,WARNER)1962/10/24LIVE・LP
太筆描きの独特の演奏だ。かなりリアルに音が捉えられている。バランスが悪く感じるのは録音のせいだと思うがどうだろう。スタジオ録音とは印象がだいぶ違い、まあ、拘り無く聞けばそれなりに楽しめるか。最後の音が終わらないうちに盛大な拍手が入ってくる。いわゆるフライングブラヴォーだが、どうも作為的な感じがして、スタジオ録音に拍手を加えただけの偽演のようにも思える。が、演奏それ自体は違うものに聞こえるのでここでは別と判断しておく。モノラル。
アンセルメ指揮ボストン交響楽団(DA:CD-R)1961/12/1LIVE
明晰なステレオ録音のせいか冷めたリアリスティックな音が耳につき解釈もじつに無味乾燥。響きの硬質な美しさもライヴの精度では環境雑音もあって限界があり入り込めなかった。ボストンオケはよくこういう無感情な表現をする。好みとしては無印。
ロザンタール指揮パリ国立歌劇場管弦楽団(ADES)CD
ステレオ初期独特の変なバランスで収録されたものであり、最初は抵抗感がある。フランスオケの音色の特徴がかなりデフォルメされて聞こえてきて、ともするとバラバラでヘタじゃん、という感想も呼びかねない。ロザンタールのドビュッシーはテクスチュアの細部が明瞭で、まあこの曲はむしろそれが正解なのかもしれないけど、余りに骨組みが丸見えすぎである。かといってドイツ・ロマン派的な重い解釈は施しておらず、とくに冷たい響きには現代的な感覚を感じる。ワグナーに繋がる生ぬるさは極力排されている。雰囲気に埋没するような演奏でないことは確かなので、そういう演奏を求めたら×です。純粋に曲を楽しみたいときにはいいかも。
○レイボヴィッツ指揮ロンドン祝祭管弦楽団(CHESKY)1960/6
どちらかというと即物的というか、いわゆる印象派っぽい曖昧さはあまりないのだけれども、美しい演奏だ。レイボヴィッツらしからぬ?品の良さが感じられ、ダイナミックな動きや感傷的な雰囲気は程よい程度に抑えられている。彫りの深い表現と本に書いてあったのでたぶんそうなのだろう。私の頭の中の同曲のイメージとは違ったが、十分聞ける演奏。
○パレー指揮デトロイト交響楽団(MERCURY)1955/12STEREO・CD
パレーのリリシズム炸裂!十分に感傷的で夢幻的な雰囲気をもった演奏で、しかも割合と明瞭な輪郭をつけてくるためフツーに旋律を楽しむことができる。なんて美しい旋律なんだろう、と思った。印象派と呼びたい人はこんなのドビュッシーじゃないと言うかもしれないが、とりたててこの曲が好きでない私はわかりやすくてすっかり楽しむことができた。○。
パレー指揮デトロイト交響楽団(vibrato/DA:CD-R)1975LIVE
余りのリアルな音作りに違和感。このコンビに幻想とか感傷を求めるほうがいけないのだが、なんの思い入れもないソロ楽器の棒のような音の繰り返しには首をかしげたくもなる。録音がいいのが却ってまったく印象を残さない結果にもなっている。冷徹な音響表現の確かさにははっとさせられるが。
○マルティノン指揮NHK交響楽団(NHKSO,KING)1963/5/11東京文化会館LIVE
これは真骨頂。それにしてもN響はいい音を出す。陶酔的で法悦的ですらある。但し元来明確な表現を得意とするオケだけあって、印象派的というよりラヴェル的な感じもする。無論肯定的な意味でである。○。
○エネスコ指揮シルヴァーストーン交響楽団(mercury)
ラヴェルほどの心の深層に訴えかけるような表現はないものの、なかなかの佳演になっている。フランスものへの適性は出自によるところが大きいだろうが、それであればもっと(ソロ含め)フランス近現代ものを録音しておいてほしかった。時代がそうさせなかったのだろうが。雰囲気はまさに牧神のイメージそのものである。比較的ねっとりした表現をとるのに音が乾いているのがいかにもフランス派の解釈といった感じである。抑揚はかなりつけるがテンポは速めにインテンポ気味、というちょっとぶっきらぼうなところもある棒だけれども、音の切り方がぶっきらぼうというだけで朴訥とした印象の演奏にはけっしてならない。この録音は継ぎ目が聞かれるが、それは作曲家・ソリストの余技としての棒ということで大目に見よう。立派なフランス的ドビュッシー。○。
○ミュンシュ指揮シカゴ交響楽団(DA:CD-R)1967/7live
予想GUYに神秘的である。「印象派」と言われればそうだね、と返すしかない、非常に注意深い音楽、鋭く細い響きによって構成される針金細工の輝きを見つめる牧神を、木々の間からいくら観察しようとしても目の焦点のあわないかんじ。ここにワグナーの影はない、新しい世代の独立した牧神ではあるのだが、ミュンシュは浪漫性を煽ることもなく、ひたすら忠実に、音楽に忠実に表現する。決して激しない。ソリストも巧い。冒頭が僅かに切れる。○。 (2007/2/10)
恍惚とした演奏ぶりで雰囲気は満点。静かで透明感のある音がよくマッチしている。春向きの演奏。ただ、冒頭僅かに切れる。(2007/4/6)
○モントゥ指揮ボストン交響楽団?(DA:CD-R)1959/7/19live
録音が悪くやや聞きづらい。モントゥは明確な指示で音楽をしっかり構築していくが、「整えてる!」とわからせないそつのなさがいかにも職人的だ。幻想の霧に塗れることなく生々しく実演のさまが聞いて取れるところが面白い録音でもあるが、他録と比べてどうこうという部分はない。○。
○デルヴォー指揮NHK交響楽団(KING、NHK)1978/11/17LIVE・CD
これはソロ次第という部分も多くオケの状態に非常に左右されやすいからして、正直それほど惹かれないが、ややねっとりした合奏の感じがデルヴォらしさか。
○マルケヴィッチ指揮ベオグラード・フィル(MEDIAPHON)CD
ゆったりとした落ち着いた演奏で、ときどきこの人のとる重心の低い響きがここでもきかれる。ピッチが高いのが少し気になる。
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○ワルター指揮NBC交響楽団(SERENADE:CD-R)1940/3/2
陶酔的です。いやー、ロマンティックです。ワルターだから期待していたら期待した通りの濃厚解釈。但し揺れに揺れ歌いに歌うやりかたは、ずっと聴いていると慣れてきて、面白く思えてくる。NBCの個人技にちょっと疑問を持っていたのだが(同日の「モルダウ」の出だしの木管を聴くにつけそう思う)この演奏ではほとんど瑕疵がない。意外なほど聞ける演奏だった。○ひとつ。
○ワルター指揮フィラデルフィア・フィル(PO)1947/3/1LIVE
音が比較的よい。弦の分厚さにびっくりする。陶酔的な歌い込みが独特な聴感をあたえる。ひょっとするとワルターの全「牧神」記録中いちばんデロデロかも。録音のせいか清浄に聞こえるから「臭い」演奏にはなっていないのでご安心を。
○ワルター指揮ニューヨーク・フィル(ASdisc)1949/6/19LIVE
メロディラインを強調し、その起伏を大きくつけることで曲に筋を通そうとしている。これはこれで「聞ける」のだ。ワルターの芸達者なところだろう。木管がどれも巧く、テクニックはもちろん音色だけで聞かせる力がある。そういう演奏を引き出すのもまたワルターのすごいところだ。全般音楽の流れが良く音の悪さを感じさせない演奏。○ひとつ。
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チェリビダッケ指揮ロンドン交響楽団(ARTISTS/LIVE CLASSIC)1979LIVE
ちょっと貴重かも。チェリの牧神、最初聞いたときは引っかかりが無かったのだが、2回目に聴いて、意外と印象派になっているなあ、と思った。ワグナーとの共通性をことさらに強調するでもなく、ただ響きの精妙さがよく生きている。ロンドン響の木管はそつがなくて好みが分かれようが、むしろこれはロンドンのオケを使ったから意外と精妙に表現できただけなのかもしれない。意外と雰囲気のいい、品のいい音楽だ。録音あまりよくない。未検証だがRARE MOTHのCD-R(1979/9/18LIVE)は同一音源と思われる。
チェリビダッケ指揮交響楽団(ROCOCO)LIVE
ロンドン響の演奏と同じ?
○チェリビダッケ指揮スウェーデン放送交響楽団(LIVE SUPREME:CD-R)1970/11LIVE
美しい。今しも止まるかと思うような冒頭のやりとり、妖しさをはらむ旋律は清潔な色彩で飾られ、要所要所で入るハープの散発音がなんともいえない雰囲気を醸している。ごく一部音程が狂っているところもあるが、磨き抜かれた音楽という印象は変わらない。情緒纏綿というコトバはこの人に似つかわしくないコトバだが、意外と伸縮する旋律を丁寧になぞるそのフレージングの妙は印象的。恍惚とした法悦境へと聴くものをいざなう。このオケとチェリの相性がいいのだろう、かなりイイ線いっている。遅い演奏なので余裕の有る聞き方をできない向きには薦められないが、これが印象派と呼ばれた理由がなんとなく理解できるものではある。隈取りのハッキリした表現を行うと思いきやこの指揮者、曲によってスタイルをけっこう変えてくる。ひたすら美しい響きを出す事だけを考えていることには違いないのだが。本質を捉えたなかなかの秀演である。拍手も盛大。
○チェリビダッケ指揮ミュンヒェン・フィル(SARDANA RECORDS:CD-R)LIVE
今しも止まりそうな調子で止揚するフルートソロから、ねっとりした、大波がゆっくりゆっくりと揺れるような音楽が始まる。言語を絶するほど美しい響きの連続だ。内声の一部とて疎かにせず、時には奇異なほど強調させてみる。余りに低速なため音楽のダイナミズムが損なわれている気もするが、いったんハマってしまえばそのシンフォニックな拡がりに身を委ねてしまいたくなるだろう。ハープのちらつきが美しい。
○チェリビダッケ指揮ミュンヘン・フィル(VON-Z:CD-R)1994live
恐らく既出盤だと思うが正規と聞き惑うほどに音がいい。バランスも安定ししいて言えば弦が遠いくらいで、チェリの理想の音響がきちんと収録されていると言えるだろう。チェリならではの音の彫刻、静謐に律せられた世界が展開され、そこに自由は無いが、美は確かにある。安定感のある音響、縦の重さ、それらが曲にいい意味で構築性をもたらし首尾一貫した聴感をあたえる。ソリストに重心を置くでもなくオケ総体としての迫力と鋼鉄の美はどうしようもなく素晴らしい。迷ったがチェリ美学が余り好きでない向きは無機質ととるかもしれないので○。
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シューリヒト指揮ドレスデン・フィル(BERLIN CLASSICS)1943・CD
ふつう。録音状態は篭ったモノラルに残響を加えたもの。とくに書くことが無いが、いい意味でも悪い意味でも耳馴染みはよい。雰囲気はドイツらしくない美感があるが、それでも、これ、という興味を引くものはないので無印としておく。シューリヒトは案外同時代モノを好んだと言われ、他にもフランスものの録音を遺している。
○クレンペラー指揮ロス・フィル、リンデン(FL)(SYMPOSIUM)1938/1/1PM3:00-4:00放送・CD
物凄く「純音楽的演奏」でしょっぱなから幻想は皆無。ただ、聴くにつれ非常に精緻な響きを編み出すことを目していることがわかる。実は凄く現代的なのだ。ブーレーズを引き合いに出すのもアレだけど、とにかく「音だけで勝負しようとしている」。そう思って聴くと「つまんねー演奏」という印象はなくなるだろう。耳からウロコの可能性大。情緒は皆無ではないが期待しないでください。新鮮。これで録音が最新だったら現代の演奏として充分通用するよ。批判も出るだろうけど。○。
○ロスバウト指揮南西ドイツ放送交響楽団(SWF)
意外にねっとりしたテンポで音楽は進む。音響的にはやや重いが硬質で通りはいい。とにかくフレージングに溢れる法悦感が凄く、ロスバウドの余り知られていない一面を垣間見せる。現代音楽専門指揮者というのはともすると客観主義一辺倒のように見られがちだがかつてはかなり個性的な解釈を「分析的に」施すのが特徴であったのであり、セル的な見られ方カラヤン的な見られ方をするロスバウトも、解釈においては個性の投影に躊躇はなかった。マーラーの7番あたりにはその真骨頂が聴けよう。○。
フリッチャイ指揮RIAS交響楽団(DG)1953/1
引きずるようなテンポが気になるが、気だるい雰囲気は意外に出ている。決して色彩的とは言えない指揮者だけれども、どの楽器の発音も明瞭で、そういう緻密な音の堆積によって表現する方法はドビュッシー演奏へのひとつの見識だろう。止揚する音楽の「間」の取り方がなかなか通好みである。夢幻的な音楽とはとても言えないが、ちょっと面白い。ロマンティックな表現もこの曲なら許されよう。しかし録音がいかんせんあまりよくない(モノラル)。無印。
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○トスカニーニ指揮NBC交響楽団(放送)1945/2/11live
ドビュッシーコンサートの記録で、イベリアと海との組み合わせ。放送エアチェックと思われ音量がきわめて小さく音質もノイズもひどい。演奏はスコアの裏まで明瞭に組み立てたクリアなものでドビュッシーらしさが理知的に引き出されている。速めのインテンポ気味でソロ楽器にもとりたてて魅力はなく、解釈もあってないようなものだが、小粒にまとまって聴けるのは確かだ。○。
○トスカニーニ指揮NBC交響楽団(DA:CD-R/MUSIC&ARTS)1951/2/17カーネギーホールlive・CD
生暖かい雰囲気を保った演奏というのはいつからか忌まれるようになり、オケは精密な音響機器としてこのての曲を演奏できるように鍛えられるようになった。だがフルートソロの提示する動機始めこれは頭初から「標題音楽」なのであり、綺麗に音だけを聴きたいなら一人そういう指揮者と一つそういう団体があれば十分だ。この演奏は「そのての客観的な演奏の元祖と思われがちな」トスカニーニによるものだが決して情緒的な部分を失っていない。テンポやリズムに起伏がなくても音色で音楽はいくらでも変わる。音色を聴くべし・・・というとこの録音状態じゃ少し辛い・・・とはいえトスカニーニのライヴにしては戦後だし、エッジが立って聞きやすいほうだろう。結果として、○に留まる。
トスカニーニ指揮NBC交響楽団(GUILD/ARKADIA/FONIT CETRA)1953/2/14カーネギーホールLIVE・CD
○トスカニーニ指揮ハーグ・フィル(DELL ARTE他)1938
雰囲気のよい演奏でトスカニーニのアクの強さがクライマックス以外ではほとんど出てこない。音は悪いが美しい。模範的な牧神と言えるだろう。このオケ独特の表現というものは浮き立ってこない。トスカニーニが振ればどこもトスカニーニのオケになる、そのとおりの状態である。録音は悪いが○はつけさせていただきます。
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○パウル・クレナウ指揮ロイヤル・フィル(COLUMBIA)SP
ロイヤル・フィル録音最初期の指揮者の一人。デンマーク生まれオーストリア中欧圏で活動した作曲家でもあり、ブルックナーなどの影響ある交響曲が今も聴かれることがある。やや性急でしゃっちょこばった始まり方をするが、その後は英国的な慎ましやかさを感じさせる、雰囲気のある演奏ぶり。SPは片面ずつ録音されるため、この録音も途中で演奏自体一旦終わり、再開するが、音色も音量も違和感はない。SP的な音の近さリアルさが、ハイフェッツ版ピアノとヴァイオリンのための「牧神の午後」を思い出させた。あれ、かなり変だけど、考えてみれば学生時代はハープトリオのフルートをVnで無理やりやってたような・・・
○バルビローリ指揮ハレ管弦楽団(BS/HMV)1953/12/23・CD
バルビローリ協会のフランス音楽シリーズ復刻盤。音質は思ったより良く像がはっきりしている。結構ドビュッシーの録音を残しているバルビローリだが、これは初CD化か。ソロ楽器云々では無くオケ全体が陶酔しうねるところが聞きもの。まさにバルビローリそのもので、バルビローリ以外には聴かれない息の長い歌いっぷり、ボリュームのある息遣いの大きくも自然な起伏に魅力の全てがある。特徴的な演奏で正統ではないが、ロマンチックな牧神もまたよし。○。
マルコ指揮デンマーク国立放送交響楽団(HMV)LP
オケにやや難があるものの、手堅い演奏ぶりが伺える一曲。十分に夢幻的で曲の要求するものを過不足無く持っている演奏だと感じた。対旋律を際立たせて構築的な演奏を目するようなところもしばしば聞かれ、響き的にもドイツ的な重さを感じなくも無いが、情緒的には寧ろグリーグに近い感じだ。軽やかさはないが、聴いていて違和感は感じない。録音がやや悪いため、無印。
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ストコフスキ指揮フィラデルフィア管弦楽団(ANDANTE)1927/3/10
○ストコフスキ指揮フィラデルフィア管弦楽団(ANDANTE)1940/5/28
前者は音が悪すぎる。演奏自体も地味めだ。後者は派手めな演奏で、依然余り音はよくないが、随分と個性が立ってきたように思える。全ての楽器の輪郭が明瞭で、かといって幻想味が無いということもなく、心地よく聞ける。でもまあ、録音の悪い盤に慣れない向きは避けておいたほうが無難だろう。後者のみ○。
○ストコフスキ指揮アメリカ交響楽団(DA:CD-R)1971/4/18LIVE
耽美極まれる。むせ返るような響きに恍惚としたフレージングが寄せてはかえすような官能を呼び覚ます。まあ、美しいです。ライヴすごかったろうなあ。原曲の意図を逸脱するほどにやらしい。
○ストコフスキ指揮LSO(london)1972/6/14・CD
ストコにドビュッシー適性はないというのが私の印象なのだが、このソロを継いで造ったような前期作品については、ソリストのロマンティックな表現を生かしたダイナミズムが巧くはまっている。ストコに後期ロマン派適性はありまくりなのだから。音色の立体感は録音のよさに起因するものか。リアリズムがやや耳につくが、そのての雰囲気が欲しいならフランスをあたるかゴリゴリのオールイギリス陣の演奏でも聴くがいい。大見栄もここぞというところしか施さず、最後は微温的に終わるのが陶酔的な雰囲気を煽る。○。
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○バーンスタイン指揮ボストン交響楽団(DA:CD-R)1972live
音はよく、ボストンだけあって硬質のフランスふう情緒がバンスタの生々しさを消している。ただ、特徴的というまでもないか。
○モートン・グールド指揮デトロイト交響楽団(DA:CD-R)1978live
自在に伸縮する恍惚とした音楽。非常に感傷的な音をしている。デトロイトにこんな音が出せたのかと驚嘆する。グールドの指揮の腕前は他の録音でも聴かれるようにけっこうなもので、ただまとまった曲を録音しなかったのが知名度につながらなかったゆえんだろう。作曲家としてもアメリカを代表する一人だ。それにしてもねっとりした前時代的な音楽、であるがゆえに現代の貴重な解釈者であった。
<ドビュッシーの名を最初に轟かせた、「印象派」の呼び名のもとを作った曲。茫洋とした雰囲気が眠気をさそう。ニジンスキーのバレエ化で有名。>
○ピエルネ指揮コンセール・コロンヌ管弦楽団(CASCAVELLE/ODEON)1930/2/10・CD
止揚する音楽。なんという自在さだろう。弛緩せず速めの解釈だが、表現のひとつひとつに心が篭っており、この淡い音楽をその淡さを損なうことなくしなやかに纏め上げている。この時代とは思えないオケの巧さにも傾聴。とくに木管陣のソリスティックな技巧には舌を巻くことしばしば。ピエルネの力量を感じる。作曲家としては凡庸だったがその棒は創意に満ちている。幻想は少ないがリアルな音楽の面白さだけで十分だ。録音状態はかなり悪いが上手くリマスタリングしており感情移入に支障は無い。録音マイナスで○ひとつ。
○ストララム指揮コンセール・ストララム管弦楽団(VAI,ANDANTE)1930/2/24シャンゼリゼ劇場・CD
モイーズが1番フルートで在籍していたことでも有名な楽団。当然冒頭のソロもモイーズということになろう。微妙なニュアンスで歌うというより太く確実な発音で安心して聞かせるという側面が感じられるが、オケプレイヤーとしてはこれでいいのだろう。2枚のCDでたいした音質の差はなく、総じて悪い。SP原盤の宿命だろう。だが十分柔らかい抒情があり、雰囲気は明らかに印象派。作曲後既に数十年がたっているのだから、時代的にこのくらい意図に沿ったこなれた演奏が出てきていても不思議は無いわけだ。佳演。
アンセルメ指揮スイス・ロマンド管弦楽団(MOVIMENTO MUSICA,WEA,WARNER)1962/10/24LIVE・LP
太筆描きの独特の演奏だ。かなりリアルに音が捉えられている。バランスが悪く感じるのは録音のせいだと思うがどうだろう。スタジオ録音とは印象がだいぶ違い、まあ、拘り無く聞けばそれなりに楽しめるか。最後の音が終わらないうちに盛大な拍手が入ってくる。いわゆるフライングブラヴォーだが、どうも作為的な感じがして、スタジオ録音に拍手を加えただけの偽演のようにも思える。が、演奏それ自体は違うものに聞こえるのでここでは別と判断しておく。モノラル。
アンセルメ指揮ボストン交響楽団(DA:CD-R)1961/12/1LIVE
明晰なステレオ録音のせいか冷めたリアリスティックな音が耳につき解釈もじつに無味乾燥。響きの硬質な美しさもライヴの精度では環境雑音もあって限界があり入り込めなかった。ボストンオケはよくこういう無感情な表現をする。好みとしては無印。
ロザンタール指揮パリ国立歌劇場管弦楽団(ADES)CD
ステレオ初期独特の変なバランスで収録されたものであり、最初は抵抗感がある。フランスオケの音色の特徴がかなりデフォルメされて聞こえてきて、ともするとバラバラでヘタじゃん、という感想も呼びかねない。ロザンタールのドビュッシーはテクスチュアの細部が明瞭で、まあこの曲はむしろそれが正解なのかもしれないけど、余りに骨組みが丸見えすぎである。かといってドイツ・ロマン派的な重い解釈は施しておらず、とくに冷たい響きには現代的な感覚を感じる。ワグナーに繋がる生ぬるさは極力排されている。雰囲気に埋没するような演奏でないことは確かなので、そういう演奏を求めたら×です。純粋に曲を楽しみたいときにはいいかも。
○レイボヴィッツ指揮ロンドン祝祭管弦楽団(CHESKY)1960/6
どちらかというと即物的というか、いわゆる印象派っぽい曖昧さはあまりないのだけれども、美しい演奏だ。レイボヴィッツらしからぬ?品の良さが感じられ、ダイナミックな動きや感傷的な雰囲気は程よい程度に抑えられている。彫りの深い表現と本に書いてあったのでたぶんそうなのだろう。私の頭の中の同曲のイメージとは違ったが、十分聞ける演奏。
○パレー指揮デトロイト交響楽団(MERCURY)1955/12STEREO・CD
パレーのリリシズム炸裂!十分に感傷的で夢幻的な雰囲気をもった演奏で、しかも割合と明瞭な輪郭をつけてくるためフツーに旋律を楽しむことができる。なんて美しい旋律なんだろう、と思った。印象派と呼びたい人はこんなのドビュッシーじゃないと言うかもしれないが、とりたててこの曲が好きでない私はわかりやすくてすっかり楽しむことができた。○。
パレー指揮デトロイト交響楽団(vibrato/DA:CD-R)1975LIVE
余りのリアルな音作りに違和感。このコンビに幻想とか感傷を求めるほうがいけないのだが、なんの思い入れもないソロ楽器の棒のような音の繰り返しには首をかしげたくもなる。録音がいいのが却ってまったく印象を残さない結果にもなっている。冷徹な音響表現の確かさにははっとさせられるが。
○マルティノン指揮NHK交響楽団(NHKSO,KING)1963/5/11東京文化会館LIVE
これは真骨頂。それにしてもN響はいい音を出す。陶酔的で法悦的ですらある。但し元来明確な表現を得意とするオケだけあって、印象派的というよりラヴェル的な感じもする。無論肯定的な意味でである。○。
○エネスコ指揮シルヴァーストーン交響楽団(mercury)
ラヴェルほどの心の深層に訴えかけるような表現はないものの、なかなかの佳演になっている。フランスものへの適性は出自によるところが大きいだろうが、それであればもっと(ソロ含め)フランス近現代ものを録音しておいてほしかった。時代がそうさせなかったのだろうが。雰囲気はまさに牧神のイメージそのものである。比較的ねっとりした表現をとるのに音が乾いているのがいかにもフランス派の解釈といった感じである。抑揚はかなりつけるがテンポは速めにインテンポ気味、というちょっとぶっきらぼうなところもある棒だけれども、音の切り方がぶっきらぼうというだけで朴訥とした印象の演奏にはけっしてならない。この録音は継ぎ目が聞かれるが、それは作曲家・ソリストの余技としての棒ということで大目に見よう。立派なフランス的ドビュッシー。○。
○ミュンシュ指揮シカゴ交響楽団(DA:CD-R)1967/7live
予想GUYに神秘的である。「印象派」と言われればそうだね、と返すしかない、非常に注意深い音楽、鋭く細い響きによって構成される針金細工の輝きを見つめる牧神を、木々の間からいくら観察しようとしても目の焦点のあわないかんじ。ここにワグナーの影はない、新しい世代の独立した牧神ではあるのだが、ミュンシュは浪漫性を煽ることもなく、ひたすら忠実に、音楽に忠実に表現する。決して激しない。ソリストも巧い。冒頭が僅かに切れる。○。 (2007/2/10)
恍惚とした演奏ぶりで雰囲気は満点。静かで透明感のある音がよくマッチしている。春向きの演奏。ただ、冒頭僅かに切れる。(2007/4/6)
○モントゥ指揮ボストン交響楽団?(DA:CD-R)1959/7/19live
録音が悪くやや聞きづらい。モントゥは明確な指示で音楽をしっかり構築していくが、「整えてる!」とわからせないそつのなさがいかにも職人的だ。幻想の霧に塗れることなく生々しく実演のさまが聞いて取れるところが面白い録音でもあるが、他録と比べてどうこうという部分はない。○。
○デルヴォー指揮NHK交響楽団(KING、NHK)1978/11/17LIVE・CD
これはソロ次第という部分も多くオケの状態に非常に左右されやすいからして、正直それほど惹かれないが、ややねっとりした合奏の感じがデルヴォらしさか。
○マルケヴィッチ指揮ベオグラード・フィル(MEDIAPHON)CD
ゆったりとした落ち着いた演奏で、ときどきこの人のとる重心の低い響きがここでもきかれる。ピッチが高いのが少し気になる。
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○ワルター指揮NBC交響楽団(SERENADE:CD-R)1940/3/2
陶酔的です。いやー、ロマンティックです。ワルターだから期待していたら期待した通りの濃厚解釈。但し揺れに揺れ歌いに歌うやりかたは、ずっと聴いていると慣れてきて、面白く思えてくる。NBCの個人技にちょっと疑問を持っていたのだが(同日の「モルダウ」の出だしの木管を聴くにつけそう思う)この演奏ではほとんど瑕疵がない。意外なほど聞ける演奏だった。○ひとつ。
○ワルター指揮フィラデルフィア・フィル(PO)1947/3/1LIVE
音が比較的よい。弦の分厚さにびっくりする。陶酔的な歌い込みが独特な聴感をあたえる。ひょっとするとワルターの全「牧神」記録中いちばんデロデロかも。録音のせいか清浄に聞こえるから「臭い」演奏にはなっていないのでご安心を。
○ワルター指揮ニューヨーク・フィル(ASdisc)1949/6/19LIVE
メロディラインを強調し、その起伏を大きくつけることで曲に筋を通そうとしている。これはこれで「聞ける」のだ。ワルターの芸達者なところだろう。木管がどれも巧く、テクニックはもちろん音色だけで聞かせる力がある。そういう演奏を引き出すのもまたワルターのすごいところだ。全般音楽の流れが良く音の悪さを感じさせない演奏。○ひとつ。
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チェリビダッケ指揮ロンドン交響楽団(ARTISTS/LIVE CLASSIC)1979LIVE
ちょっと貴重かも。チェリの牧神、最初聞いたときは引っかかりが無かったのだが、2回目に聴いて、意外と印象派になっているなあ、と思った。ワグナーとの共通性をことさらに強調するでもなく、ただ響きの精妙さがよく生きている。ロンドン響の木管はそつがなくて好みが分かれようが、むしろこれはロンドンのオケを使ったから意外と精妙に表現できただけなのかもしれない。意外と雰囲気のいい、品のいい音楽だ。録音あまりよくない。未検証だがRARE MOTHのCD-R(1979/9/18LIVE)は同一音源と思われる。
チェリビダッケ指揮交響楽団(ROCOCO)LIVE
ロンドン響の演奏と同じ?
○チェリビダッケ指揮スウェーデン放送交響楽団(LIVE SUPREME:CD-R)1970/11LIVE
美しい。今しも止まるかと思うような冒頭のやりとり、妖しさをはらむ旋律は清潔な色彩で飾られ、要所要所で入るハープの散発音がなんともいえない雰囲気を醸している。ごく一部音程が狂っているところもあるが、磨き抜かれた音楽という印象は変わらない。情緒纏綿というコトバはこの人に似つかわしくないコトバだが、意外と伸縮する旋律を丁寧になぞるそのフレージングの妙は印象的。恍惚とした法悦境へと聴くものをいざなう。このオケとチェリの相性がいいのだろう、かなりイイ線いっている。遅い演奏なので余裕の有る聞き方をできない向きには薦められないが、これが印象派と呼ばれた理由がなんとなく理解できるものではある。隈取りのハッキリした表現を行うと思いきやこの指揮者、曲によってスタイルをけっこう変えてくる。ひたすら美しい響きを出す事だけを考えていることには違いないのだが。本質を捉えたなかなかの秀演である。拍手も盛大。
○チェリビダッケ指揮ミュンヒェン・フィル(SARDANA RECORDS:CD-R)LIVE
今しも止まりそうな調子で止揚するフルートソロから、ねっとりした、大波がゆっくりゆっくりと揺れるような音楽が始まる。言語を絶するほど美しい響きの連続だ。内声の一部とて疎かにせず、時には奇異なほど強調させてみる。余りに低速なため音楽のダイナミズムが損なわれている気もするが、いったんハマってしまえばそのシンフォニックな拡がりに身を委ねてしまいたくなるだろう。ハープのちらつきが美しい。
○チェリビダッケ指揮ミュンヘン・フィル(VON-Z:CD-R)1994live
恐らく既出盤だと思うが正規と聞き惑うほどに音がいい。バランスも安定ししいて言えば弦が遠いくらいで、チェリの理想の音響がきちんと収録されていると言えるだろう。チェリならではの音の彫刻、静謐に律せられた世界が展開され、そこに自由は無いが、美は確かにある。安定感のある音響、縦の重さ、それらが曲にいい意味で構築性をもたらし首尾一貫した聴感をあたえる。ソリストに重心を置くでもなくオケ総体としての迫力と鋼鉄の美はどうしようもなく素晴らしい。迷ったがチェリ美学が余り好きでない向きは無機質ととるかもしれないので○。
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シューリヒト指揮ドレスデン・フィル(BERLIN CLASSICS)1943・CD
ふつう。録音状態は篭ったモノラルに残響を加えたもの。とくに書くことが無いが、いい意味でも悪い意味でも耳馴染みはよい。雰囲気はドイツらしくない美感があるが、それでも、これ、という興味を引くものはないので無印としておく。シューリヒトは案外同時代モノを好んだと言われ、他にもフランスものの録音を遺している。
○クレンペラー指揮ロス・フィル、リンデン(FL)(SYMPOSIUM)1938/1/1PM3:00-4:00放送・CD
物凄く「純音楽的演奏」でしょっぱなから幻想は皆無。ただ、聴くにつれ非常に精緻な響きを編み出すことを目していることがわかる。実は凄く現代的なのだ。ブーレーズを引き合いに出すのもアレだけど、とにかく「音だけで勝負しようとしている」。そう思って聴くと「つまんねー演奏」という印象はなくなるだろう。耳からウロコの可能性大。情緒は皆無ではないが期待しないでください。新鮮。これで録音が最新だったら現代の演奏として充分通用するよ。批判も出るだろうけど。○。
○ロスバウト指揮南西ドイツ放送交響楽団(SWF)
意外にねっとりしたテンポで音楽は進む。音響的にはやや重いが硬質で通りはいい。とにかくフレージングに溢れる法悦感が凄く、ロスバウドの余り知られていない一面を垣間見せる。現代音楽専門指揮者というのはともすると客観主義一辺倒のように見られがちだがかつてはかなり個性的な解釈を「分析的に」施すのが特徴であったのであり、セル的な見られ方カラヤン的な見られ方をするロスバウトも、解釈においては個性の投影に躊躇はなかった。マーラーの7番あたりにはその真骨頂が聴けよう。○。
フリッチャイ指揮RIAS交響楽団(DG)1953/1
引きずるようなテンポが気になるが、気だるい雰囲気は意外に出ている。決して色彩的とは言えない指揮者だけれども、どの楽器の発音も明瞭で、そういう緻密な音の堆積によって表現する方法はドビュッシー演奏へのひとつの見識だろう。止揚する音楽の「間」の取り方がなかなか通好みである。夢幻的な音楽とはとても言えないが、ちょっと面白い。ロマンティックな表現もこの曲なら許されよう。しかし録音がいかんせんあまりよくない(モノラル)。無印。
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○トスカニーニ指揮NBC交響楽団(放送)1945/2/11live
ドビュッシーコンサートの記録で、イベリアと海との組み合わせ。放送エアチェックと思われ音量がきわめて小さく音質もノイズもひどい。演奏はスコアの裏まで明瞭に組み立てたクリアなものでドビュッシーらしさが理知的に引き出されている。速めのインテンポ気味でソロ楽器にもとりたてて魅力はなく、解釈もあってないようなものだが、小粒にまとまって聴けるのは確かだ。○。
○トスカニーニ指揮NBC交響楽団(DA:CD-R/MUSIC&ARTS)1951/2/17カーネギーホールlive・CD
生暖かい雰囲気を保った演奏というのはいつからか忌まれるようになり、オケは精密な音響機器としてこのての曲を演奏できるように鍛えられるようになった。だがフルートソロの提示する動機始めこれは頭初から「標題音楽」なのであり、綺麗に音だけを聴きたいなら一人そういう指揮者と一つそういう団体があれば十分だ。この演奏は「そのての客観的な演奏の元祖と思われがちな」トスカニーニによるものだが決して情緒的な部分を失っていない。テンポやリズムに起伏がなくても音色で音楽はいくらでも変わる。音色を聴くべし・・・というとこの録音状態じゃ少し辛い・・・とはいえトスカニーニのライヴにしては戦後だし、エッジが立って聞きやすいほうだろう。結果として、○に留まる。
トスカニーニ指揮NBC交響楽団(GUILD/ARKADIA/FONIT CETRA)1953/2/14カーネギーホールLIVE・CD
○トスカニーニ指揮ハーグ・フィル(DELL ARTE他)1938
雰囲気のよい演奏でトスカニーニのアクの強さがクライマックス以外ではほとんど出てこない。音は悪いが美しい。模範的な牧神と言えるだろう。このオケ独特の表現というものは浮き立ってこない。トスカニーニが振ればどこもトスカニーニのオケになる、そのとおりの状態である。録音は悪いが○はつけさせていただきます。
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○パウル・クレナウ指揮ロイヤル・フィル(COLUMBIA)SP
ロイヤル・フィル録音最初期の指揮者の一人。デンマーク生まれオーストリア中欧圏で活動した作曲家でもあり、ブルックナーなどの影響ある交響曲が今も聴かれることがある。やや性急でしゃっちょこばった始まり方をするが、その後は英国的な慎ましやかさを感じさせる、雰囲気のある演奏ぶり。SPは片面ずつ録音されるため、この録音も途中で演奏自体一旦終わり、再開するが、音色も音量も違和感はない。SP的な音の近さリアルさが、ハイフェッツ版ピアノとヴァイオリンのための「牧神の午後」を思い出させた。あれ、かなり変だけど、考えてみれば学生時代はハープトリオのフルートをVnで無理やりやってたような・・・
○バルビローリ指揮ハレ管弦楽団(BS/HMV)1953/12/23・CD
バルビローリ協会のフランス音楽シリーズ復刻盤。音質は思ったより良く像がはっきりしている。結構ドビュッシーの録音を残しているバルビローリだが、これは初CD化か。ソロ楽器云々では無くオケ全体が陶酔しうねるところが聞きもの。まさにバルビローリそのもので、バルビローリ以外には聴かれない息の長い歌いっぷり、ボリュームのある息遣いの大きくも自然な起伏に魅力の全てがある。特徴的な演奏で正統ではないが、ロマンチックな牧神もまたよし。○。
マルコ指揮デンマーク国立放送交響楽団(HMV)LP
オケにやや難があるものの、手堅い演奏ぶりが伺える一曲。十分に夢幻的で曲の要求するものを過不足無く持っている演奏だと感じた。対旋律を際立たせて構築的な演奏を目するようなところもしばしば聞かれ、響き的にもドイツ的な重さを感じなくも無いが、情緒的には寧ろグリーグに近い感じだ。軽やかさはないが、聴いていて違和感は感じない。録音がやや悪いため、無印。
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ストコフスキ指揮フィラデルフィア管弦楽団(ANDANTE)1927/3/10
○ストコフスキ指揮フィラデルフィア管弦楽団(ANDANTE)1940/5/28
前者は音が悪すぎる。演奏自体も地味めだ。後者は派手めな演奏で、依然余り音はよくないが、随分と個性が立ってきたように思える。全ての楽器の輪郭が明瞭で、かといって幻想味が無いということもなく、心地よく聞ける。でもまあ、録音の悪い盤に慣れない向きは避けておいたほうが無難だろう。後者のみ○。
○ストコフスキ指揮アメリカ交響楽団(DA:CD-R)1971/4/18LIVE
耽美極まれる。むせ返るような響きに恍惚としたフレージングが寄せてはかえすような官能を呼び覚ます。まあ、美しいです。ライヴすごかったろうなあ。原曲の意図を逸脱するほどにやらしい。
○ストコフスキ指揮LSO(london)1972/6/14・CD
ストコにドビュッシー適性はないというのが私の印象なのだが、このソロを継いで造ったような前期作品については、ソリストのロマンティックな表現を生かしたダイナミズムが巧くはまっている。ストコに後期ロマン派適性はありまくりなのだから。音色の立体感は録音のよさに起因するものか。リアリズムがやや耳につくが、そのての雰囲気が欲しいならフランスをあたるかゴリゴリのオールイギリス陣の演奏でも聴くがいい。大見栄もここぞというところしか施さず、最後は微温的に終わるのが陶酔的な雰囲気を煽る。○。
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○バーンスタイン指揮ボストン交響楽団(DA:CD-R)1972live
音はよく、ボストンだけあって硬質のフランスふう情緒がバンスタの生々しさを消している。ただ、特徴的というまでもないか。
○モートン・グールド指揮デトロイト交響楽団(DA:CD-R)1978live
自在に伸縮する恍惚とした音楽。非常に感傷的な音をしている。デトロイトにこんな音が出せたのかと驚嘆する。グールドの指揮の腕前は他の録音でも聴かれるようにけっこうなもので、ただまとまった曲を録音しなかったのが知名度につながらなかったゆえんだろう。作曲家としてもアメリカを代表する一人だ。それにしてもねっとりした前時代的な音楽、であるがゆえに現代の貴重な解釈者であった。