湯・つれづれ雑記録(旧20世紀ウラ・クラシック!)

※旧ブログの一部コラム・記事、全画像は移植していません。こちらのコンテンツとして残します。

☆ツェムリンスキー:抒情交響曲

2016年11月15日 | ドイツ・オーストリア
○ギーレン指揮南西ドイツ放送交響楽団、ジョンソン(B)、オーサニック(SP)(ARTE NOVA/BMG他)1994・CD

マーラーよりはずっと客観的で単純な思考にもとづく曲で、大地の歌を参照したのは言うまでもなかろうが内容的には抽象度が高い。天国的な楽観性が支配的で、此岸のリアルな苦難と救済は全くあらわれない。だから熱狂的にのめりこむ要素というのは余りなく近代好きに今ひとつ人気がないのもわかる(現代好きには人気がある)。シェーンベルクの師匠というか少し年長の友人、シェーンベルクが時期的にブラームスからウェーベルンを包蔵した広大でやや生臭さも残る世界観を持ったとすれば、ツェムリンスキーは初期リヒャルトやマーラーの狭い世界の中で書法の純化をすすめていこうとしていた感もある。この作品に一貫する響きの透明性と音響的な怜悧さはギーレンの手によって更にその印象を強くさせるように仕上がっている。ブラスの盛大な響きでロマンティックに盛り上げることはせず(「春に酔えるもの」のような表現は無いと言うことだ)計算された管弦楽配置によって効果的に聞かせようとする方法論は現代指揮者向きである。生臭い音楽が嫌いな人にマーラー的なものを聞かせたいとき、唯一旋律にマーラーの影響の強いものが伺えるこの曲はうってつけだろう。このオケらしい清潔さがまた余りにすんなり曲に受け容れられているため、どこで終わったのかわからないくらい自然に終わってしまうようなところもあり、歌唱自体もこれはデジタル録音のためか余りに綺麗に捉えられすぎてライヴ的感興を多少残すことすらもしないため、大地の歌の延長戦を要望していた向きにはやや物足りなさを感じさせるかもしれないが、魅力的な旋律だけは評価してほしい。タゴール詩の世界との違和感は唐詩とベトゲ訳とマーラーの間の乖離に似て非なる、といったところか。マーラーはとにかく主観の存在が強い。目下薦められる演奏の上位にあることは確かだが、非常に純化され綺麗ではあるものの、交響曲としてのまとまりの演出と、押しの強さが無いのが難点か。○。
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☆プロコフィエフ:ヘブライの主題による序曲op.34(1919)

2016年11月15日 | Weblog
◎作曲家(P) ヴォロディン(CL)ベートーヴェン四重奏団のメンバー他(MELODIYA/LYS/venezia他)1937・CD

プロコフィエフの小品ではこの曲が美しい。アメリカ滞在中の室内楽作品で、三つのオレンジへの恋やピアノ協奏曲第3番といった代表作級の作品が生み出された時期に、ユダヤ人のジムロ合奏団の依属により(ひっそり)作曲された。その陳腐さが作曲家自身は気に入っていなかったといわれる。のちに人気の高さ故、管弦楽編曲が行われたのだが(寧ろそちらが有名だろう)、曲想にあわず(というか元が単純すぎるので)、原曲の方が良いように思うのは私一人ではあるまい。生硬だが素直なアンサンブルと瑞々しい曲想の連続により、プロコフィエフ特有の新鮮な感動を得られる曲だ。スコアは笑ってしまうほど単純で簡潔なものだが、チェロとヴァイオリンによる第二主題の掛け合いや、機械的なピアノのかなでるラヴェル風伴奏音形、非常に耳ごこち良い二つのヘブライの旋律など、この短い曲の中にききどころも多い。奇妙な装飾音もプロコフィエフならではだ。作曲意図からいって当然のことだが小編成の軽音楽を想起するところがあり、ストラヴィンスキーやショスタコーヴィチのジャズ風音楽に通じる印象も受ける。録音は圧倒的に管弦楽版が多いが、是非最初は室内楽編成で聞いて欲しい。この盤はプロコフィエフの紡ぎ出すさりげない美感とシリンスキーらの郷愁をさそう音が耳に優しい。LYS、venezia盤はオイストラフとのヴァイオリン協奏曲第1番とロメオとジュリエット第二組曲とともにモスクワで集中的に録音された自作自演を纏めており資料的にも価値がある(前2曲は指揮、モスクワ・フィル)。管弦楽曲の自演は他にコッポラとのピアノ協奏曲第3番が有名で、プロコフィエフのソロは圧巻。PEARLをはじめいくつかのレーベルでCD化されている。,
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☆ヴォーン・ウィリアムズ:ハーモニカのためのロマンス(1951)

2016年11月14日 | Weblog
◎マリナー指揮セント・マーチン・イン・ザ・フィールズ、ライリー(H)(LONDON)CD

静寂の中に響き渡る風のように儚いハーモニカの音に深く感銘を受ける。申し分ない演奏。ヴォーン・ウィリアムズの楽器実験の最も成功した例という認識を持たせる。私はかつて嵐の三宅島にあって黒い溶岩の海辺に座し、この曲を聞いた。それは何か特別の感情を与えるものであった。異界というものがもし存在するのであれば、あの黒と灰色の中からふっと浮き上がりまた消えていくのだろう。朧げに浮かぶ御蔵島の島影を眺めながら、繰り返し繰り返し聞いた。1993,
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☆ブルックナー:交響曲第8番(1884-90)~Ⅳ

2016年11月14日 | Weblog
○カラヤン指揮プロイセン国立歌劇場管弦楽団(KOCH)1944/9/29(ステレオ録音)・CD

い、異常だ。この音質は異常だ。異常に良すぎる。60年代のステレオ録音と言っても十分騙せるのではないか。この高音質に、まずは度肝を抜かれた。この盤には6/28のモノラル録音(1、2楽章のみ)も併録されているが、そちらはクリアなモノラル、といった感じでふつうだ。カラヤンによる初のステレオ録音記録、とあるが、初にしては余りにクリアなステレオ録音である。自然な聴感はやや硬質であるもののじゅうぶんにしなやかで聴き易い。擬似ステレオのようなものを想像していたら全然違った。奥行きがあり、各パートも明確に聞き分けることができるし、ちょっと疑ってしまうほどである。ステレオ録音については、実験的には30年代にストコフスキらが行っていたようであり(一般に出回ってはいないが)、この44年のステレオ録音は決して元祖ではないのだが、この音質に、この名演(カラヤンにしては劇的で起伏の大きい若々しい演奏、ミスなどかけらも聞き取れないオケの精度の高さ!)という意味では、事実上の本格的な(実験ではない)ステレオ録音記録と言えるだろう。カラヤンのブルックナーは若い頃のものが覇気があり面白い。丁寧で甘さのない高潔な指揮ぶりは、この時期のカラヤンがナチのために振っていたという事実を忘れさせるほどに印象的だ。1991年に旧ソ連からドイツへ返還された膨大な録音記録に埋もれていたという盤、貴重な記録としても、素晴らしい演奏記録としても、記憶に留めておくべきものだ。,
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☆ストラヴィンスキー:ロシア風スケルツォ<交響楽版>(1944/6)

2016年11月14日 | Weblog
○作曲家指揮バイエルン放送交響楽団(BRSO)1957/10/7LIVE・CD

ストラヴィンスキーはいくつかこの曲の録音を遺しているけれども、単純平易であるせいかどれも楽しい。縦線がきっちり揃ってリズムを刻まれると行進曲を聴くようで心が浮きたつ。この録音はモノラルで音場が狭く決して十全なものではないけれども、ライヴのわりによく揃っていて、音に安定感と張りがあり、聴き易い。アメリカ音楽に接近したあっけらかんとした曲想をこのドイツの古参オケはよく理解しているようで、初々しさすら感じるのは私だけだろうか。気持ち良く聞けた。録音マイナスで○ひとつ。,
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プロコフィエフ:バレエ音楽「ロメオとジュリエット」~抜粋

2016年11月14日 | Weblog
ストコフスキ指揮NBC交響楽団(RCA)1954/10/5,7・CD

正規のステレオ最初(期)録音として知られ、ステレオ録音時代突入のきっかけとなったものの一つ。ストコフスキー自身すでにベル研究所と10数年前より実験を進めており、商業録音として出せるレベルとなったのが本盤であろう。左右のバランスが悪いというか分離が激しく音も古びているものの、録音操作も念入りに施され、各楽器が浮き上がるように明確にひびき当時のシェフであったNBC響の名技も余すところなく伝えるものとなっている。ストコフスキーの解釈によるところもあるが当時のヴァイオリンのポルタメントを駆使したつやめかしい音色、フレージングの美しさも堪能できる。これはストコフスキーによる抜粋が先鋭なものや激しいものを除き、すべて叙情的で大人しいものであるところにも依るだろう。この音で存分に歌を歌わせたかったのだ。聞き覚えのあるフレーズはすべて暗示的に示されるのみで、そこがまた感情的に揺り動かされる。高音偏重で明るい色調はプロコフィエフにおいてはまったく適している。同曲を得意としたストコフスキーの、通例である選曲抜粋演奏を逆手に取ったような無名曲ばかりの編成で、聴く気が起きない方ほど聴いてほしい。ヴァイオリンのパワーに圧倒。現在は正規の廉価ボックスに収録。

噴水の前のロメオ/ジュリエット/ロメオとジュリエット/ジュリエットの墓の前のロメオ/ジュリエットの死
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プロコフィエフ:交響曲第7番「青春」

2016年11月13日 | Weblog
オーマンディ指揮フィラデルフィア管弦楽団(columbia/sony)1953/4/26・CD

復刻盤CDについて。モノラル末期のセッション録音にもかかわらず、不安定で粗雑な録音であることは信じ難い。オーマンディがこの時期(ないしそれから現代に復刻されるまで)にそういう扱いであったことは仕方のないことだが、西側初演の大成功で同曲の認知度を一気に上げた功労者であり、シベリウス同様作曲家の国においても多大な支持を受けた指揮者の、この原盤保存状態は理解できない。同時期に同曲の別の大指揮者盤があったならいざ知らず、これはまったく同傾向のライヴ録音を残しているミュンシュ同様、米国において政治的なものが背後にあることを勘ぐらせる。想像で補って書くしかないほど荒れた録音ではあるが、各声部がいちように非常に強力に発音しているのが印象的で、膨れて鳴りすぎるほどであり、シャープさよりボリュームを重視したアンサンブルは古風な感もあるが、この旋律的でハーモニーも構造もさほど複雑ではない曲については問題ない。力感で押し切るのは前記のミュンシュと同じものがあるが特徴的なのはひたすら素っ気なくインテンポで進めるところで、その速さの中に要素を緻密に詰め込んでいる。同曲のしっとりした旋律をひとつひとつ慈しむように楽しむより、数珠繋ぎの楽想の奔流に流されるのが良い聴き方なのだろう。三楽章など、余裕しゃくしゃくなところは気になるが、構造的な部分も明確に立体的にひびかせ、メロディやハーモニー、リズムだけではない、管弦楽の楽しさを伝えることも怠っていない。全般メリハリのハリしかないところはあるが、職人的な上手さ、オケの力強さを楽しむには、何とかなっている録音である。
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☆ブリテン/マクフィー:バリの音楽(編曲)

2016年11月13日 | Weblog
○マクフィー、作曲家(P)(PEARL)1941・CD

正確に言うと編曲者はマクフィーのほうで、原曲はバリ島の民族音楽そのものということらしいが、マクフィーというマイナーな名のもとに書くには余りに特徴的で面白い曲のため、ブリテンの名で書いておく。連弾だが音は非常に限られていて、オスティナートなリズムがひたすら奏でられる上に、ドビュッシーに啓示をあたえた所謂五音音階に基づく旋法的なメロディが乗っていくスタイル。ピアノ連弾というところがミソで、頭の中でバリの楽器にあてはめながら聴いてみるとまぎれもなくバリ音楽なのに、純粋にピアノ曲として聞くと、コンサートホールで奏でられるたぐいの楽曲、モンポウあたりのピアノ曲に聞こえてくる。その異化の手法が非常に洗練されているというべきか。ここに支配的なミニマルな趣は非常に新しい感じがするが、陶酔的なものすら感じさせる単純なリズムが何より印象的で、リズムに全面的に乗ったハーモニーも美しく気持ちがいい。5曲中にはどことなくバタ臭い曲もあるが、あからさまにケチャみたいなパッセージも織り交ざって飽きさせない。10分弱の小組曲だがぜひ聴いてみてください。単純なのに面白い、作風はぜんぜん違うがヴォーン・ウィリアムズのピアノ曲のような曲です。演奏は初曲がやや不揃いで、どちらかの演奏者があきらかにヨタっている。ので○にとどめておきます。1曲め:ペムングカー(影絵芝居への序曲)2曲め:レボン(影絵芝居より「愛の音楽」)3曲め:ガムバンガン(間奏曲)4曲め:ラグ・デレム(影絵芝居からの音楽)5曲め:タブ・テル(儀式音楽)。,
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☆スクリアビン:交響曲第2番(1897-1902)

2016年11月13日 | Weblog
スヴェトラーノフ指揮
◎ソヴィエト国立交響楽団(RUSSIAN DISC他)1992/5/14LIVE・CD、
○ソヴィエト国立交響楽団(MELODIYA)1963・CD

純粋なシンフォニーとしては3作しかないスクリアビンの2作目。いずれも標題的な言葉を伴うが、本作は「悪魔的な詩」と呼ばれる。広義ではスクリアビン独特の「詩曲」に含まれるが、あきらかに爛熟した末期ロマン派音楽の影響色濃い「交響曲」だ。余りに豊かな楽想と余りに安易な楽器法(シューマンになぞらえ、これを良しとする向きもあるかもしれないが)、陳腐な展開と深い思索といった、相反する要素のゴッタ煮だ。といっても1番ほど分裂症的ではないが。明らかにひとつの到達点を示す単一楽章(但し有機的に結合する2部(曲想的には3部分)から成る)の3番と比べて、特に終楽章のゲーム音楽のようなファンファーレは本人も後年かなり気にしていたということも肯ける一種幼稚さを感じてしまう。だが、チャイコフスキーや、何よりも同時代の作曲家、暗い情念の蟠りから突き抜けた明るさへの盛り上げかたに工夫を凝らしたシベリウスのそれも初期、1、2番シンフォニーとの共通点を感じる。畳み掛けるような旋律のクドさがスクリアビンの場合目立ちすぎるだけで、本質は同じ物だろう。だが一方で、リムスキーの側で思いっきりロシア国民楽派の人間関係にどっぷり漬かっていながら、他のどのロシア人作曲家とも異なる、ショパン、ワグナーの申し子たる特異な中欧的作風は特記すべきだろう。スクリアビンの中期までの曲はどこを取っても両先達の影響を指摘できる。この曲もそうだ。しかし、聴く者はそれでもあきらかに「スクリアビン」そのものを聴き取ることもできる。シンメトリー構造の頂点となる3楽章に聞かれるトリスタン的法悦性は、ワグナーそのものの音楽でいながらも奇妙な明るさと透明感、そして神秘性を秘めており、独特である。この楽章は恐らくスクリアビンの書いた最も美しくロマンティックな管弦楽曲として特筆できよう。さて、スヴェトラーノフ盤である。この指揮者が現代的演奏とロシア的伝統の高度な融合を誇示していた頃の旧録に比べ、迫真性と円熟の極みを示す、ロシアン・ディスク(今は廉価レーベルで全集盤が出ている模様)のライヴ盤が圧倒的に面白い。スクリアビン全集としては恐らくこのスヴェトラーノフ盤の右に出るものはいまい(1994当時)。オーケストラの力量とスヴェトラーノフの絶妙な距離感のコントロール~それは決して過剰ではなく、オケの自主性を重んじ、それを舵取る程度にとどめられている~、そして作品への共感がこのような豪華な響きを可能としたのだ。3楽章の美しさは比類無い。ワグナーよりむしろスヴェトラーノフが好むと言われるマーラーを感じさせる。刹那的な法悦、幻でしかない天上の国を夢見る哀しさを持つ。(1994記)
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☆アイヴズ:祝日交響曲~Ⅱ.デコレーション・デイ

2016年11月12日 | アメリカ
○コープランド指揮ミネソタ管弦楽団(DA:CD-R)1976live

縁深いミネアポリスオケとのこれもレクチャーコンサートで取り上げられたもので、アメリカ音楽特集の一曲。コープランドの説明は通り一遍のものだが(「祝日交響曲」の楽章(2)という説明をしているが元々は独立した作品)、アメリカ・アカデミズムの申し子がこの前衛祖派のアーティストを、何だかんだ言っても西欧音楽の伝統に楔を打ち込んだ”音楽史上のモニュメント”として尊敬し、クラシック音楽における真のアメリカニズムを(”アイヴシング”という言葉でアメリカ的ですらない孤高のような言い方も混ざるが)体言した作曲家としている。演奏でもそこに古きよきアメリカの風土伝統を見出そうとしているかのように優しい。

アイヴズが生地ダンベリーから大学でイェールに移り、更に長らくニューヨーカーとして実業との二重生活を送った、その流転ぶりを説明する中、保守的な風土の故郷ではほとんど評価されなかったのにひたすら故郷を描き続けた、という部分などなるほどそうだと思った。会社の副社長として辣腕を振るいながら、「個人的な意見では」世界で最もオリジナリティ溢れる作品を作り続けたことを、「想像できない」、としている。コープランドはアイヴズを表向きはアマチュアとして退けたが、それはプロの作曲家としての技術においてのみであり、音楽はけして理解していないわけではない、少なくとも一部の素朴な曲は愛好しピアノでかなでていたと言われる。ここでは愛しているように聞こえる。

〜1973年開催されるヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールに、コープランドは6分の短い曲を提供した。それは英語で「夜想」とだけ記された。コープランド最後の独奏曲集におさめられている同曲は老いの諦念を感じさせる静けさに満ち、硬質な響きを伴いながら、なぜか仄かに抒情が宿っている。正確に構成された課題曲であるものの、雰囲気には冷えた北部の空気が感じられ、ある作曲家の最も良質の作風を想起させられざるを得なかった。その副題は「アイヴズ賛」という。アイヴズを追悼した著名作曲家の曲を、私は他に知らない。2012年、同コンクールの記念コンサートにて、ソン・ヨルムにより再演された。〜

あくまでアカデミズム側からの解説解釈であり、演奏もアイヴズの立体的で完全に複層的な音楽を単線的な旋律と精妙な和声の音楽に整理し換骨奪胎している(だがアイヴズの演奏法としてこれは一般的である)。時間軸は精密に追っているが上に積み重なる音楽の層は構造的ではなくあくまで和声的なものとして処理している。

ここで実感されるのはアイヴズが素材だけでも実に才気溢れる素晴らしいものを持っていたということで、既存素材の流用にしても選択と利用方法が的確。デコレーション・デイと聞いてかつてのニューイングランドの若者が誰でも思い浮かべる情景をうつした「音画」(コープランドはこの言葉でアイヴズの描こうとした世界を適切に説明している)、元来ごつごつした像のぶつかり絡み合う前衛抽象画であるものを見やすく印象派絵画に描きなおしたものとも言えるが、ただ、この曲は(デコレーション・デイの情景を知らない者にその祭日の時間軸に沿った音楽の変化自体の意味は伝わらないだろうが)それほどぐちゃぐちゃではなく、アイヴズも印象派的な感傷性をはっきり残しているので悪くは無い。だから逆説的にコープランドも振ったのだろう。録音は左右が揺れるモノラルというちょっと聞きづらいもの。○。
(参考)
祝日交響曲としてはティルソン・トーマス/シカゴ盤をお勧めします。
New England Holidays: Music by Charles Ives

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75年BBC交響楽団とのコンサート録音についてはこちら

ロックフェスタ帰りにしっくりくるアイヴズの音響的音楽 :デコレーション・デイについて説明しています。
アイヴズにかんするいくつかのこと。
アイヴズ、マーラー、シェーンベルクそして死
アイヴズについて考えているいくつかのこと

サイトの項目:アイヴズ
本ブログのアイヴズのカテゴリ
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☆エシュパイ:合奏協奏曲

2016年11月12日 | Weblog
◎スヴェトラーノフ指揮ソヴィエト国立交響楽団(RUSSIAN DISC/ALBANY)1974・CD

この曲はエシュパイの作品の中でも白眉たるものです。10回聞いたら飽きましたが、それまではとても楽しめました。ジョリヴェかメシアンか、という色彩感・オーケストレーションにジャズのイディオムを加え、快楽派聴衆としてはサイコーに面白い楽曲に仕上がりました。まず掴みがいい。冒頭ジャズふうのパッセージがピアノ・ソロからテンション高く提示されると、これはもう楽曲と演奏が一体化しているものとして書かしていただきますが、じつに派手で下品で最高のオケが大音響でジャズ的走句をぶっ放す、この流れは否応無く楽曲に聴衆を引き込ませる。迫力有る表現はさすがスヴェトラーノフ、ガーシュインでは珍妙なメタ・ジャズを披露していたが、ここでは(ワタシはジャズはよくわからないが)立派なモダン・ジャズの「ような」ビリビリくる緊張感溢れる演奏を繰り広げている。しばらくただ丁々発止の音の奔流に身をまかせていると、現代風の冷たいハーモニーに先導されるように、緩やかな中間部に入る。ここでペット(?)やダブルベースのソロ奏者が長い長い憂うつな旋律を奏で続けるのだが、音響的にあきらかにジャズを意識しているものの、どちらかといえばヴィラ・ロボスの緩徐楽章のようなセンチメンタルな感覚を呼び覚ますものとなっていて、響きは硬質であるが、たとえば夜空の星を見上げているような思索的な雰囲気を呼び覚ます。比較的長めな中間部は再び顕れるけたたましい走句に引導を渡され、あっというまに尻切れのように終結。この終わりかたもきっぱりしてかっこいい。それにしてもこの人はロシアの作曲家なんだよなあ・・・しかも演奏しているのはスヴェトラーノフなんだよなあ・・・ちょっとカッコ良すぎるきらいもあるが、まずは最初の「掴み」の部分でがっちり掴まれてしまってください。文句無し◎。名曲、名演奏。ALBANY盤はやや茫洋とし歯ごたえがイマイチ。,
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☆ミャスコフスキー:シンフォニエッタ イ短調(1945-46)

2016年11月11日 | Weblog
○ヴェルビツキー指揮ソヴィエト国立交響楽団(MELODIYA)CD

後期ミャスコフスキーの中にも聞き込めば良い曲はたくさんある。この弦楽のための小交響曲も、一度演奏してみたいと思わせる美しい旋律に溢れている。仄暗い雰囲気は寒々とした夜の雪景色を思わせる。其の中の一軒家暖炉の暗い火を前に、楽器を弾いている人々、という感じか。どこか悲しい曲想は、生涯の終焉に際し自身の芸術的人生を思い返して、実の実らない苦難の連続に対する深い諦念を象徴しているかのようだ。演奏も素晴らしい。音色幅のある響きの重なりが心を打つ。,
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☆ヴォーン・ウィリアムズ:野の花(1925?)

2016年11月11日 | Weblog
◎プリムローズ(Va)ボールト指揮フィルハーモニアO他(EMI)CD 

ソロ・ヴィオラと無歌詞による小混成合唱、そして小管弦楽による組曲というヴォーン・ウィリアムズらしい編成によるこの曲。1925年8月、名手ライオネル・ターティスの独奏によって初演されました。リハーサルの段階で演奏家達がいたく感じいり、作曲家を喜ばせたと伝えられます。タリス~田園の系譜からヨブ~第4交響曲の系譜に至る迄の輝ける小路を飾る美しい野花。惨い世界戦争の傷覚めやらぬ時期の絶望と慰めの曲です。古い録音ですがプリムローズ独奏によるボールト盤で聞いています。ここではほの暗い夢幻のうちにさ迷う美しくも悲しい想いが、密やかに綴られています。新しい明快な音でないからこそ、心の深層に響く。初めてこの演奏を聞いたとき、あのどこまでも続く灰色の野と冷ややかな霧を思い起こしました。其の中から立ち現れる夢ともうつつともつかない人影。それは恋人の姿か、いにしえの廃虚の住人か、やがて幻の祭列が現れ、過ぎ去ったあと、雲間に薄く光が射し、希望の温もりをもたらす。宗教的な雰囲気の濃厚な曲ではありますが、一聴をお勧めします。新しいものでは、作曲家ゆかりのリドル/デル・マーによる録音が、CHANDOSより出ています。,
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☆ミヨー:交響曲第10番

2016年11月11日 | フランス
○フルニエ指揮ヴェルサイユ管弦楽団(ARIES)LP

恐らくライヴ。引き締まったリズミカルな演奏でミヨー自身の演奏スタイルによく似ている。細部はともかくちゃんと押さえるところ押さえているので楽曲の把握がしやすい。聴き所のスケルツォ的な三楽章などなかなか面白く仕上がっている。四楽章は勢いに流されてしまった感もあり雑然としてやや凡庸だが、ライヴだから仕方ないかと思う。全般「誰かと置き換え可能な演奏」だとは思うが、この曲の数少ない音盤としては価値があるだろう。二楽章などの静謐さの描き方はやや要領を得ない。四楽章の途中でハープ等から出てくる音列技法的な主題は、委属元であるまんま「OREGON」の文字を織り込んだものとミヨー自身が言及している。こういった名前を織り込むやり方は古来特に珍しいものではなく、現在ショスタコーヴィチの専売特許のように見られがちなのは何か変な気がする。フランセもそうだが、わかりやすい楽曲に突然無調的な静謐な音列が導入されると、曲にワサビがきくというか耳に残りやすくなる。この演奏では旋律性と強引な流れがある程度重視されているがゆえに、そこだけに流される凡庸な印象というものが、無調的主題により覆されるというのは逆説的にミヨーの作曲技法の巧さでもある。晩年作では比較的有名であるのは、単に演奏録音機会が多かっただけでもなかろう。
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☆ミヨー:男とその欲望

2016年11月10日 | Weblog
○作曲家指揮ロジェ・デゾルミエール・アンサンブル(SACEM他)1948/6/21・CD

自作自演にはVOXの新しいものも有るのでこれがどの程度価値を持つものなのか評価は分かれよう。ただ、作曲時の息遣いを感じさせる一種の生生しさがあるのは事実。古い演奏家の艶めいた表現様式のせいもあるだろう。曲はミヨーの代表作の一つと言ってもいいとても演奏効果の高いもので、原始主義的な嬌声と打楽器主義的なオケ・アンサンブルのかもす雰囲気は、ジョリヴェより簡潔でストラヴィンスキーより人好きするものだ。この曲の裏に南米体験があるのは言わずもがなで、旋律性は失われない。旋律の重要性はミヨーが著書で力説していたものだが、ここには確かに旋律が有る。後半では第一室内交響曲の終楽章と同じ楽天的なメロディが使われていことも親しみやすさを増す元になっている。暑苦しくはなく、乾いた都会的な雰囲気もあり、ミヨーの欠点である音響の徒な肥大も殆ど無い。最初から最後まで太鼓の音にのせて気分良く聞いていられる楽曲です。近いといえばストラヴィンスキーの「結婚」が近いか。演奏は古く聞きづらいが十分楽しめる力がある。○。,
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