りきる徒然草。

のんびり。ゆっくり。
「なるようになるさ」で生きてる男の徒然日記。

茜色の夕暮れに。

2009-09-14 | Weblog
昨日の夕方、雑用があったので、実家に帰った。

一人で帰るのがなぜか照れくさかったので、退屈そうにTVを
見ていた息子を誘った。

帰ると、親父とお袋がいた。

親父は居間でTVを見ていて、
お袋は台所で夕食の準備をしていた。
親父は、僕が息子を連れて帰ったことに気付くと、僕をそっちのけで、
孫の相手をはじめた。
「幼稚園は楽しいか?」
「何で、お姉ちゃんは連れてこんかったんな?」
「せんべい、食うか?」
・・・絵に描いたような好々爺である(笑)

僕は、2階の昔の自分の部屋に上がって、用事を済ませると階下に降りた。
息子の相手は親父に任せて、僕は台所に行って、冷蔵庫から勝手に麦茶を
出して飲んだ。
「別に麦茶じゃななくても、オレンジジュースとかあったじゃろう?」
麦茶を飲んだ僕を見て、お袋はそう言った。
お袋は魚をさばいていた。
たぶん、今日の夕食は煮魚だろう。
最近、めっきり歯が弱くなったと、親父もお袋も言っていた。
「喉が渇いとっただけじゃけぇ、麦茶でええわ」
僕はぶっきらぼうにそう答えた。

それから僕は食卓に座って、お袋と他愛もない会話をした。
家庭のこととか、子どものこととか、近所のこととか、まぁ、そんな話だ。
その流れの中で、僕は思わずポロッと、こんな言葉を口にしてしまった。

「俺も、今度の土曜日で40歳だよ・・・」

その言葉を聞いた母は、さばいた魚を皿に移しながら、笑った。
「そりゃあ、年も取るわね、子どももあんなに大きくなったんじぇけぇ、
あんただけ若いまんまの方がおかしいじゃろ?」
「じゃけど、40歳ってもっと大人だと思ってたけど、こんなに幼いと
いうか・・・こんな40歳でええんかなぁ?」
「あんた、そりゃあ、何歳になってもそう思うもんよ、私だってもう
65歳なんじゃけぇね」
そう言って、お袋はまた笑った。
「でも、どう転んでももう“オトナ”じゃもんねぇ・・・甘えるような
トシじゃなくなるわ・・・。若い頃は“40歳”って、もうホントに大人に
見えたもん」
僕がそう話しても、お袋は笑うだけで、僕に背を向けて包丁で何かを
切っている。

「甘えても、いいんよ」

お袋が、振り返ってそう言った。
お袋が切っていたのは、豆腐だった。

「あんたも家族がおるんじゃけぇ、しっかりせんといかん時は、しっかり
せんと。・・・でも何歳になっても甘えられる時は、甘えてもええんよ」
お袋の言葉に、少しだけ、ほんの少しだけ、目頭が熱くなる。

お袋の言葉を聞いて、僕はお袋と会話をはじめた時から、喉のすぐ上まで
昇って来ていながらも、口にするのを躊躇していたある言葉を、思い切って
お袋にぶつけた。

「なぁ、俺、もうすぐ40歳になるけど・・・お袋や親父にとって、いい子
だったかな?」

「ああ、ええ子じゃった」
お袋は、即答した。
「今も、ええ子じゃ」
お袋は、続けた。
「子どもの頃はよう心配かけられたけど、今はちゃんと働いて、家族を持って、
子どもを連れてこうやって家に顔を出してくれる。H(弟)もそうじゃ。昔は
ヤンチャで本当にどうなるのか心配したけど、あの子もちゃんとした大人に
なって、今は遠い所に住んどるのに家族みんなでよう帰って来てくれる。息子
同士が今も仲よくしてくれて、孫たちが家で遊んでくれて、お嫁さん同士が
仲よくしてくれている姿を見れるのは、本当に幸せ。それに何よりも、みんな
元気で健康じゃろ。それだけで、もう十分。・・・本当にあんたらは、みんな
ええ子じゃ」

何も、言葉が出てこなかった。
お袋も自分の言葉に何かを感じたのか、それっきり僕に背を向けて再び流しで
夕食の準備をはじめた。

「帰るわ」
しばらくして、そう言って僕が腰を上げると、
「気をつけてね」と、
少し鼻くぐもったお袋の声がお袋の背中越しに聞こえた。

居間に行くと、チラシの裏に絵を描いている息子と、その絵に向かって
「これはどういう名前の恐竜な?」と質問している優しい目をした親父がいた。
僕が帰ることを告げると、息子はまだ居たそうな表情をしたが、晩ご飯とか、
ちびまる子ちゃんとか、サザエさんとか、そういう言葉を並べて説得すると、
渋々と帰る準備をはじめた。

息子と一緒に実家の玄関を出ると、周囲はすっかり夕暮れの景色になっていた。
西に目を向けると、空の端がほのかな茜色に染まっていた。
コメント (8)
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