りきる徒然草。

のんびり。ゆっくり。
「なるようになるさ」で生きてる男の徒然日記。

自転車に乗って。

2009-09-27 | Weblog
「自転車に乗りたい」

先日、息子が突然、そう言った。
今まで妻のママチャリの後ろの補助席が専用席だったくせに。
妻が言うには、その日、近所で息子の同級生が自転車で
颯爽と走る姿を目にしたらしい。しかも補助輪なしで・・・。

子どもが何か新しい事に挑戦しようと決意する時は、今も昔も同じなのだ。
外部から強烈な刺激を受けた時。
それ以上に自分を変えるきっかけはない。
自信を持って言える。だって、僕もそうだったから。

土曜日の午後、練習をする約束をした。
場所は近所にある、「ドラえもん」に出てくるような広場。
息子はぎこちない持ち方で、自転車を広場まで押して行った。

当然、最初から乗れるわけがない。

乗り方を教えた。
教えたと言っても、ハンドルの握り方やペダルへの足の乗せ方とか、
そんなもんだ。他に教えようがない(笑)

「乗れ」

僕は、そう言った。

「後ろ、持ってるから」

そう付け加えた。

ゆっくり、ゆっくり走りだす息子。
ハンドルが左右にぶれる。
ペダルの上に乗ったいた足が、離れて宙に浮く。
案の定、倒れる。
カエルのように地面に倒れる自転車と息子。

「ハイ、もう1回」

僕が冷静にそう言う。
息子は僕の言葉を聞いて、倒れたままの姿勢で上目づかいで
僕を見つめた。
悔しそうに。泣きそうな眼で。下唇を突き出して。
自転車を自分で起こさせると、もう一度息子を自転車に跨がせた。

「まっすぐ。身体も自転車も方向も。いいか?まっすぐだ」

僕の言葉に頷く息子。
もうちょっと上手く説明してやりたいけど、ホントにこれだけは
説明のしようがない(笑)身体で覚えるしかない。
前輪とハンドルと自分がまっすぐになっていることを確認すると、
息子はまっすぐ前を向いた。100mほど先に電信柱がある。

「なぁ、広場の先に電信柱があるだろう?あそこまで走ろう。まっすぐに」
「うん・・・」

息子が自信なさそうに答える。

「お父さん、後ろ持ってるから・・・さぁ、行こう」

僕の声で、再び走り出す息子の自転車。
しかし、2mも走らないうちに自転車は大きく迂回して転倒した。

「大丈夫、最初から上手く乗れるヤツなんていないから」

僕がそう言っても、もう息子は僕の顔を恨めしそうに見上げなかった。
少し痛そうに顔を歪めたと思ったら、すぐに自転車をヒョイっと起こし、
今度は自分からサドルに跨った。

「少しずつでいいから。焦るな。少しずつ進めばいい」
「そうそう、その調子!」
「ハンドル!ハンドルだけは自分でちゃんと握れ!」
「大丈夫、後ろは気にするな!」

自転車の後ろを持って、僕はそう言う。
たぶん、息子にはもう何も聞こえていないのだろう。
必死にペダルを漕いでは倒れ、漕いでは倒れる。


まるで、“親子の関係”そのもののようだ。


息子の自転車を後ろから支えながら、一瞬そう思った。
息子の人生は、あくまでも息子のもの。
最初から上手く生きていける人間なんていやしない。
目標を定めても、ハンドルの操作を誤まることも多いだろう。
目標に近づきたくても、ペダルと足がうまくかみ合わなくて
何度も何度も挫折するだろう。
でも、そういう経験をしないと、自転車を上手く乗りこなす
ことはできない。


自分の生きる道も、みつけることはできない。


そして親は、子どもがそうやって七転八倒していたとしても、
せいぜい自転車の後ろを支えてやることぐらいしかできない。
そして、いつか自分の力だけで自転車を走らせることが
できるようになっても、親にできることは、子どもがまっすぐに
進んで行けることを祈ってやることぐらいだ。

目標の電信柱に到着したのは、20分後ぐらいだった。
その間、息子は、10数回転倒した。

気がつくと、広場を囲む山の稜線が影絵のように暗くなっていた。
夕暮れが近づいていた。

「明日も、練習するか?」

僕が息子に尋ねると、息子はいっちょ前にみけんの中央に皺を寄せて
少し考え、そして、頷いた。

うん。男なら、そうでなくっちゃ。

僕が一番嬉しかったのは、この息子の最後の頷きかもしれない。
僕は心の中で笑顔になった。

・・・それにしても、自転車を後ろから支えていた時の姿勢は、
辛かった・・・。だって、ずっと中腰なんだもん。
誰か・・・誰か・・・僕に湿布をください(笑)
コメント (2)
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