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東洋のエジソン田中久重、物創りに魅入られた男

2012-09-09 12:04:52 | アート
「美の巨人たち」からくり人形”弓曳童子”の生みの親、田中久重。
”茶酌娘””文字書き人形”のからくり人形の製作者でもあり、国立科学博物館に収蔵されている万年時計”万年自鳴鐘”などの、数々の発明を生した東芝の創業者だ。
かつて放送されたテレビドラマ”JIN”に、”無尽灯”の作者として登場して印象に残っている。

”万年自鳴鐘”を見たとき、その機能の多さと見た目の装飾の精緻さに、度肝を抜かれた。
天球儀・和時計・二十四節気・曜日・十干十二支・月齢・洋時計などの昨日を備え、一度ぜんまいを巻けば一年動くという脅威の性能だ。
しかも、その部品のあらましを田中久重自ら作ったというのだ。

それ以前に作られたからくり人形の滑らかな動きに、田中久重自身で作ったカムの微妙な凹凸加減、それを伝えるための糸のめぐらし方と糸の張りを調節する錘の加減、すべてに彼の天才的創意工夫と技術の確かさが、あらわれ出ている。
そして、人形の動きは、機械的な無機質さを感じさせない。
無駄のない直線的な動きだけではなく、はじめの動きと次の動きの間に、呼吸に近いちょっとした間がある。
それが、より人の動きに近い雰囲気を与える。
人形だから、人により近づけようとしたのだろうが、この些細な気遣いは、技術に命を吹き込んでいる。

田中久重が、今の時代に生きていたら、どうだろうか。
技術の発展に目を見張り、単純に褒め称え、貪欲に吸収し、さらに応用発展させようとするだろうか。
それとも、安易安価な物作りに、警鐘を鳴らすだろうか。
それは、彼の作ったものたちが教えてくれる。
良く見て、心の耳を澄ましてみよう。
人と技術、物はどうあるべきかと語りかけてくるはずだ。