菱田春草 帰漁
「菱田春草展」が、国立近代美術館にて9月23日から11月3日まで開催される。
前期後期ともに行かなければならないけれど、なんと猫の作品「黒き猫」「柿に猫」「黒猫」「白き猫」「黒き猫(六曲二双 屏風)」5作が展示されるという。
猫愛好家にとっては、必見とも言うべき展覧会。
しかも、早期購入割引ありの猫ペアチケットなどと、小憎らしいものを用意している。
もっともそれだけではなく、名だたる名作代表作が一堂に会し、春草ファンにはたまらない。
彼の知的で穏やかな美をたたえた作品を、多くの人に見てもらいたい。
彼の作品に、ちょうど今頃の田舎によく見かける景色を描いたような「帰漁」というのがある。
さすがに蓑を着た人は歩いていないが、雨にあたりは煙り霞んで、木々は雨をまとって重く傾ぐ、日本に暮らす多くの人が、目にしたことのある光景だ。
この郷愁を誘うささやかな絵は、なかなかどうして墨の濃淡とバランスとリズムが絶妙で、要素が少ない分センスが試されるのだ。
「帰漁」が、今回の展覧会に出展されるかわからないけれど、もしあったならばじっくりをえの世界を楽しんでもらいたい。
彼が長命であったなら、横山大観をもしのぐ大家として日本画を牽引して行ったのではないかと思っても、しかたがないこと。
いや、短命であってもその画業は、追従を許さない域に達していると思われる。
「落ち葉」の連作は静謐な凄みを備えて、長谷川等伯の「松林図屏風」に迫っていると考えるのは、私だけとは思わない。