大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・連載戯曲・ノラ バーチャルからの旅立ち・10

2019-05-01 10:29:06 | 戯曲
連載戯曲
ノラ バーチャルからの旅立ち・10
        
  


※ 無料上演の場合上演料は頂きません。最後に連絡先を記しますので、上演許可はとるようにしてください。



時      百年後
所      関西州と名を改めた大阪

登場人物
好子     十七歳くらい
ロボット   うだつの上がらない青年風
まり子    好子の友人
所長     ロボットアーカイブスの女性所長
里香子    アナウンサー(元メモリアルタウンのディレクター)
チャコ    アシスタントディレクター



 ヤマさんのくしゃみ。

里香子: くしゃみするときはインカムのスイッチ切ってよね。
好子: わたし、アンドロイドだけど、お人形じゃないんです。
里香子: 亜里砂さん。
好子: あ、その名前はやんぺです。便宜上の名前ですから。
里香子: じゃあ、なんて呼んだらいいの?
好子: うーん……ノラ。
里香子: ノラ……イプセンの?
ノラ: さあ、いま一万回演算してでてきた名前なんです。
 ピエール・ノラ、ノラ・ジョーンズ、ノラ・スウィンバーン、ノラ・ミャオなんてのが検索されました。
 みんな、そこそこの学者やアーティストだけど、脈絡はありません。古典演劇で検索すると……出てきましたね。
 イプセン「人形の家」主人公ノラ。うん?……野良犬、野良猫の「ノラ」もありますね。
里香子: ノラロボット?
二人: アハハハ……。
里香子: って、まさか本気?
ノラ: さあ……でも、どうやらわたしにも深層心理みたいなものがあるようです。
 われながらびっくりです。これに気づかせてくれたのは……皮肉なアンビバレンツ……。

 チャコが、荷物をかついでやってくる。

チャコ: 一度局にもどりますけど。里香子先輩どうします?
里香子: わたし、もう少しここにいる。ヤマちゃん、モデムおとさないでね。
チャコ: バーチャルじゃなくって、リアルのほうにいらっしゃればいいのに。
里香子: タンカきって辞めてきた身だからね。今さら、見納めでございって顔なんか出せないわよ。あら、その小汚い靴は?
チャコ: 進一君の靴。
ノラ: 進一君の靴!?(チャコと同時に)
チャコ: そうなんですよ。楽屋のスリッパで帰ったみたい。
 彼んちの近くにADの鈴木君がいるから、届けてもらおうって思ってます。でも制服は着たまま……。
里香子: 靴を忘れていくなんて、深層心理でここにもどってきたいって気持ちなんだな。
ノラ: 古典的なフロイトの心理学ですね。
里香子: 古典をばかにしちゃいけません。ばかにした結果がこの二十二世紀なんだから。
ノラ: ばかになんかしてません。
 あの衣装のまんま帰ったところにも彼の心理が働いていると……わたし、着替えて……里香子さんに少しつき合ってからにします。
チャコ: じゃ、わたしお先に。里香子先輩、亜里砂さん。
里香子: あ、今日からね彼女……。
ノラ: いえ、いいんです。おつかれさま。
チャコ: おつかれさま。さあ、明日は八時に現場だ。新しいお仕事よこんにちは……(上手に去る)
里香子: 古いお仕事よさようなら……さ、行きましょうか。

 ノラ、メモリアルタウンに気を取られていて返事が遅れる。

里香子:……ノラ。
ノラ: あ……はい。

 二人下手に去り、木を切り倒す音が遠くに響いて幕。


※連絡先 〒581-0866 大阪府八尾市東山本新町 6-5-2 大橋 むつお

 
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高校ライトノベル・時空戦艦カワチ・018『船務長 井上多聞』

2019-05-01 07:15:21 | ノベル2
時空戦艦カワチ・018
『船務長 井上多聞』   
        



 家庭訪問に行かならあかん。

 教頭からあらましを聞いた井上の判断は早かった。

 胃潰瘍の痛みがひどいので時間給をとって医者に行ってきた。
 朝礼は学年係りの等々力先生が行ってくれている。
 今年転勤してきたばかりの等々力先生は生徒とも保護者とも反りが悪く。案の定欠席者の家庭連絡でトラブっていた。
 別件で鑑別所にも行かなければならない午後だったが、トラブル対応は一日延ばせば倍ほど解決が困難になる。
 痛む胃を押えながら受話器を取るとJアラートが鳴った。

 学校中、幾百のスマホが鳴りだし、スピーカーからも警報が鳴りだした。

 X国のミサイルだ。瞬間めったなことはないと思い、受話器を取りなおした。
 今の今まで頭にあったAの電話番号がふっとんでしまっている。
 舌打ち一つして部外秘の連絡簿を手に取る。

――海上自衛隊のイージス艦がミサイルを撃ち漏らしました あと四分で着弾します非難してください――

 合成音声がNHKのアナウンサーよりも明晰な声で呼びかけている。
 明晰さと事の緊急さが結びつかない。
「所定の避難行動を生徒にとらせてください、先生方、所定の避難行動を……」
 教頭が、マニュアルを手に職員室のみんなに呼びかける。
「え、所定の避難行動て……」
「グラウンド?」
「教室やろ?」
 混乱というより戸惑っている。
 四月に府教委から『弾道ミサイル落下時の行動について』の通達があった時には――いたずらに生徒の不安をあおるもの――と組合は抗議して、学校ではろくな対応準備が出来ていない。マニュアルは職会で配られたA4のプリント一枚だ。
 マニュアルを探す者、読みながら首をかしげる者、とにかく教室に急ぐ者、その後ろでマニュアル読み上げる教頭の声を聞いている者はほとんどいない。

 大阪城を望める窓に目を向けたのは井上が子どものころから持っていた勘だったのかもしれない。

――あ、炸裂する――

 次の瞬間、井上はカワチの転送室に実体化した。

「井上船務長、時空戦艦カワチにようこそ」
 
 純白の第一種軍装の女性がにこやかに立っている。新婚のころカミさんと観た宝塚を思い出した。
 点滴で抑えていた胃潰瘍が痛み出した。
「ウ ウウーーーー」
 井上は腹を押えてしゃがみ込んでしまう。嫌な汗が吹き出して視界の淵が黒く陰ってくる。
「吉田衛生長、あなたの初仕事よ!」
 第一種軍装の声に応えて人が駆けてくる。
 身を寄せて肩に手を置かれて――優しい手だ――そう思って井上の意識は途切れてしまった。
 
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高校ライトノベル・時かける少女・85・スタートラック『さよならアルルカン・1』

2019-05-01 06:31:23 | エッセー
時かける少女・85スタートラック
『さよならアルルカン・1』     




 ターベの反乱は四:六で、反星府軍の旗色が悪くなったところで終わった。

 ベータ星内のもめごとは、ある程度のところまでいくと国王がタオルを投げる。けして片方を殲滅するところまではやらない。
 長年のベータ星の歴史の中で、ベータ星人が身につけた知恵である。
 最初は、母星のガンマ星と同じく共和制をとっていたが、争い事が絶えず、その度に多くの犠牲者を出し、星府の方針もコロコロ変わり、ガンマ星につけいる隙を与えてしまった。それが今のガンマ星との戦争になっている。

「ラムダ将軍。あなたが、このベータ星を思う気持ちは、わたしも、星府も同じなのです。ただ、やり方が違うのです。わたしたちは、あくまでベータ星とガンマ星の共存を……将軍は、禍根を断つためにガンマ星との決戦を主張しています。そこだけが違うのです」
「わたくしは……」
「ベータ星を繁栄させることで、手を取り合いましょう。ベータ星人同士が戦って、ただでも少なくなってきているベータ星の若者の命を危険に晒すことは避けましょう」
「殿下……」

 これで一件落着である。王室という権威が間に入ることによって、敗北した者も誇りを失わずに済む。そして、いくらかの意見を勝った方が飲み、丸くおさめるのである。
 こういう権威のあり方が優れていることは、地球でも、タイや日本で立証されている。

 今回の場合、問題は、ガンマ星であった。

 どうやら、ガンマ星は、ベータ星の水銀還元プラントに興味があるようだった。副産物としてできる金のことを嗅ぎつけ、それを我がモノにせんと虎視眈々の様子である。

「先帝ご葬儀に臨席した地球の大使が……」
「承知しています、将軍。手は打ちつつあります。ほんのしばらくわたしに任せてください。そして、それがダメなら、星府と話し合い、必要な処置を講じてください」
「しばらくとは……?」
「僭越であるぞ、ラムダ」
「よいのです、ゼムラ大臣。一週間と思ってください。おそらくうまくいくと思います。成否いずれにせよ、これは国王としては越権になります。記録には残さないでください」
「殿下は、まだ女王に即位されておられません。王女の行動記録は、今までとったことがございません」
「ありがとうゼムラ大臣。では、三日は連絡をとりません。万一のときには帝室典範にのっとり妹のアンに皇位を」
「殿下……!」
 大臣と将軍が同時に声と腰を上げたが、王女は笑顔で、それを制した。

「本気ですか、王女!?」

 マーク船長が悲鳴のように言った。
「この三日間は、ただのマリアと思って。あなたたちと力を合わせなければ、この銀河の危機は救えません。そう、たった今から、わたしは予備役のマリア中尉です」
「中尉? 王族の人間なら、訓練中に大尉にはなっているんじゃ……」
「内緒だけど、シュミレーション戦闘で、間違えて味方の一個大隊を全滅させちゃったの。で、頑固なラムダ将軍が、大尉にしてくれなかったのよね。成功したら大尉にしてもらうわ。みなさんよろしく!」
 ミナコたち、クルーは驚いたが、マリア王女……マリア近衛中尉は、さっさと自分の荷物をキャビンに運び入れた。

 さよならアルルカン作戦が始まった……。

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