大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・魔法少女マヂカ・023『追う!』

2019-05-12 13:43:47 | 小説
魔法少女マヂカ・023  
 
『追う!』 語り手:マヂカ   

 

 

 八音のスマホは友だちからの電話だった。

 

 新学期が始まって間もなく、友だち同士の付き合いで悩んでいるというような内容だ。

「ちょっと散歩してくる」

 小さく言うと――ごめんね――という風に目線をくれて片手拝みされた。

 外に出ると、道路を隔てて湘南の海。初夏の太陽はようやく西に傾いて江ノ島に続く弁天橋は路面にLEDでも仕掛けてあるのではないかと思うくらいの夕陽の照り返しに輝いている。

 ちょっと行ってみようか。

 弁天橋に足を踏み入れる。ポワポワと想いがうかぶ。

 弁天様は九百年ほども江ノ島に居る。神さまとか妖精とか精霊とかは人と交わっていなければ存在できない。魔法少女である自分も同様で、こうして二十一世紀の日暮里で女子高生をやっている。弁天様は多くの人たちから崇敬されている分、人々への気配りや面倒見も魔法少女の比ではない。

 それは、児玉八音という女子高生として生きている時間も例外じゃないんだ。

 えらいなあと思う。

 自分は成り行きで関わることになった調理研の三人だけで手いっぱいだ。

 そういう言わば大先輩にあたる弁天様のためにできることはしてあげよう。

 思っているうちに江ノ島が目の前に迫ってきた。

 ちょっと潮風に吹かれてみようかくらいの気持ちだったが、いちど問題のガマを見ておこうと思いなおした。ガマは坂を上がった瑞心門の横に封じられているはずだ。

――ちょっとだけ下見しておきます――

 ラインを打って江ノ島に踏み入る。

 

 そろそろ黄昏だというのに参詣や観光の人たちでごった返している。

 青々と緑青の噴いた鳥居を潜ると引っ越したばかりの東池袋の家の前よりも幅の狭い石畳の坂だ。むろん両側にお土産屋や名産の店が続いている。観光客がぞめき歩いているので店の中までは知れないが、陽気に賑わっている。

 神社としての規模は神田明神のほうがはるかに上なんだろうが、あそこには、こういう賑わいは無い。間違ってもスクールアイドルを目指す女子高生がジョギングなどはできないだろう。

 瑞心門が迫ってきた。

 当たり前なら、この瑞心門をくぐって階段。上り切ったところが境内だ。その流れに逆らって左に折れる。

 妖(あやかし)が居るなら刺すような気配がするはず。

 気配はする。しかし、妖のそれではない。なんだか寂しい……繁盛しているスーパーの隣で閉店を余儀なくされた個人商店のような寂しさだ、

 蟇石と書かれた案内札が立っている、目的地は近い……すると、案内札が動き出した! ブルブル揺れると地面からスポっと抜けてしまい。誰かが担いでいるように上下しながら叢林の中を逃げていく。

「待て!」

 思わず叫んで後を追う。

 逃げ足が速い、叢林は、すぐに密林の様相を呈し下草が足に絡みつきスカートの裾を嬲る。

「えい!」

 両手の人差し指と薬指をくっ付けて体の前を掃うようにすると、わたし一人が通れるだけの道が開ける。魔法少女でなければ立ち往生していただろう。

 密林は唐突に洞穴に代わって行く手は闇になった。

「セイ!」

 再び払うと、自転車のランプを点けたような光芒が前方を照らす。案内札は不規則な石柱に見え隠れして先を行く。わたしから逃げているようにも誘っているようにも感じられる。

 ひょっとして罠か?

 江ノ島と言うのは周囲四キロに満たない小島だ。これだけ走れば島の外に飛び出してしまう。もう三十分は走っているぞ。

 おや?

 案内板に勢いがなくなってきた。息も絶え絶えという感じに萎れた上下運動……もう捕まえられるぞ!

 手を伸ばしたところで洞窟の闇が開けて視界が真っ白に飛ぶ!

 洞窟を出たんだ。

 目を開くと、そこは岩だらけの海岸だった……案内板を握ったまま小僧がひっくり返っていた。

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高校ライトノベル・時空戦艦カワチ・029『ちかごろカワチで流行るもの』

2019-05-12 06:54:11 | ノベル2
高校ライトノベル・時空戦艦カワチ・029
 『ちかごろカワチで流行るもの』   



 並列化がネックなのは分かっていた。

 300人のガイノイド乗員は並列化していることで俊敏な行動がとれる。
 並列化とは、一人の知識や経験が常に300人のガイノイドに共有されることである。

 例えばレーダー係りの乗員が敵を発見すると、その情報は瞬時に他の299名の乗員に共有される。
 航海科の乗員は、ただちに最適な戦闘位置に向けて舵を切り、砲雷科は主砲を敵に向けて照準を合わせ、機関科は予想会敵位置目がけて速力を上げる。
 こういった行動が瞬時にとれるため、全体としてのカワチは、あたかも俊敏な巨獣のように行動がとれるのだ。
 
 全く同じ性能の時空戦艦があったとして、それは並列化されていない人間によって動かされていて、それが戦った場合、人間の艦には勝ち目はない。
 人間の場合、並列化されていないので、敵の発見から主砲の発射まで時間がかかりすぎる。

 敵を発見⇒報告⇒艦長の判断⇒戦闘に向けて各科への指示⇒各科の対応(進路、速力、戦闘配置、戦闘方法と装備の決定)

 このダンドリを踏んでいる間にガイノイド艦からの攻撃を受けてしまって人間艦は撃破されるのだ。

 しかし、人間にはフィードバックの機能がある。

 未知の状況において、人間は観察と試行錯誤を行う。
 例えば、進路前方24シリアルに誤差範囲の歪があった場合、ガイノイドは誤差としか認識しない。誤差という認識は直ちに並列化され、それ以降はインシデントとしては認識されない。
 人間は「おや?」と踏みとどまり、観察を続け、仮説を打ちたて対策を用意する。
 思い違いであったり無駄であったりすることが多いが、時にヒットする。
 
 未知の宇宙空間を行くには、観察と試行錯誤の源である想像力が必要なのだ。

「おや、好みが分かれるんだね」

 二直目のサクラ二曹が早めに来たので、メグミ一曹とおやつを食べている。
「艦長、ご用でしょうか!?」
 二人の従兵が爪楊枝を持ったまま気を付けをする。
「いや、二人とも任務外の時間だ、気を使わないでくれ。それより……」
 給湯室の小テーブルの上には普通のたこ焼と再生たこ焼きが並んでいる。
「再生たこ焼きは最高です!」
「いいえ、やっぱり純正に限ります!」
「ハハハ、どっちも美味そうだ」
 ツクヨミ激突でテルミ一士が欠けてしまい、以来従兵勤務は二直として空き時間を設けた。
 18人の欠員は大きく、あちこちで勤務態様を変えているのだ。
「わたしもたこ焼きをもらってこよう……」

「「わたしが」」

「いいよいいよ、二人とも当直時間外なんだから」
「それではメニューを」
「メニュー?」
「はい、烹炊長がトッピングを増やしてくれたんです」
「あ、それ一昨日の、今日からは……」
 メグミが負けじとメニューを取り出すとポケットからスマホが飛び出してしまった。
「あ、すみません(n*´ω`*n)」
 艦長が拾い上げてスマホの電源が入ってしまい、マチウケが出てしまった。
「お、これは……どことなく船務長に似てる……」
「こ、これはなんでもありません!」
 サクラ二曹が狼狽えるので、メグミ一曹が突っ込んだ。
「やっぱ、中村清美のファンなんだ!」
「ち、ちがうって! まだ慣れてないからデフォなんだって」
「ひょっとして『カスタムアイドル』が完成したのかい?」
「あ、まだベータの体験版なんですけど、カスタムが面白くって、ちょっと流行りなんです」
「ということは、メグミくんもやってるのかい?」
「は、ま、話題に付いていく程度には」
「あ、じゃ、見せなさいよ!」
「そうだ、ぜひ見せてくれたまえ」
「え、あ、いやお恥ずかしい。わたしのは留美というんですけど……」
 まんざらでもない様子でスマホを取り出した。
「これです」

「「似てる……」」

「え、だれに?」

  メグミに自覚は無いようだが、留美にはテルミ一士の面影があった……。 
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高校ライトノベル・新 時かける少女・6〈ナンヤティンナイサ部〉

2019-05-12 06:41:43 | 時かける少女
新 かける少女・6 
〈ナンヤティンナイサ部〉 


 
 
 エリーといっしょにナンヤティンナイサ部を作った。
 
 一種の仲良しグループなんだけどね、今のあたしたちの状態が中途半端なので、部活のような名前にした。
 
 ナンヤティンナイサというのは沖縄の方言で「なんでもできる」という意味で、要はなんでもアリってな意味。
 大方は放課後好きなことをやってるわけで、帰宅部にニュアンスは似ているけど、アクティブという点で違いがある。

 大概は、下校途中ファストフードの店なんかで、おしゃべりしてるだけなんだけど、なにかに引っかかったり面白いと思ったら実行に移すところが、帰宅部とは決定的に違う。
 
 最初は、ソーキそばが、なぜソーキというかから始まった。フィシーズメーカーのエリーが大盛りの二杯目にかかったときに「なんで、ソーキって言うの?」というあたしの質問から始まった。エリ-は説明できなかった。本土で言えば「ラーメンを、なぜラーメンと呼ぶのか?」の質問と同じで、当たり前すぎて分からない。

「ソーキっていうのは、梳きのなまりなんだわ。ブタのアバラ使って出汁とるでしょ。そのアバラが櫛に似てるんで、櫛で梳くの梳きが、ね、なまったのよ」
 
 と、店のオバアチャンが教えてくれた。
 
「オバアチャンのお店のソーキそばって、沖縄で一番美味しいわね!」
 
 そう言うと、オバアチャンは正確、かつ正直に教えてくれた。
 
「うちより、まーさいびーん(おいしい)ところはあるよ」
 
 で、オバアチャンが教えてくれた那覇中のお店を回った。那覇以外のお店もあったけど、高校生の行動半径で行けるところで絞った。

「いろいろあるのは分かったけど、あたしの主観では、あのオバアチャンのお店だな」

 と、意見の一致を見てから、俄然アクティブさが増してきた。琉球新報と沖縄タイムスは沖縄の新聞の90%以上を占めており、本土の新聞と大きな隔たりがあることを知ると、その「なぜ?」を調べる。

 で、分かったのは、簡単な法則。

 沖縄で、全国紙をとると、朝刊が読めるのが夕方になってしまい、新聞としての意味がないから。
 
「な~るほど」
 
 と、思ったけど、全国紙(ちなみに、あたしんちはS新聞だった)に比べると、内容や数字がかなり違う。基地問題や、デモの記事が多く、デモなんかの参加人数は全国誌と大きな開きがあった。
 
 新聞に凝っている間は、学校の図書館に通い詰めた。ネットで、沖縄の新聞と全国紙の比較をやった。その姿が、とても勤勉そうに見えたので、社会科の先生が「新聞部を作ろう!」と言い出したのには閉口した。
 
 エリーは、沖縄の新聞の特殊性は知っていたようで、あまり驚かない。でも全国紙でもAとS新聞などに大きな開きがあることには、びっくりして喜んでいた。
 
「一度、電車に乗ってプロ野球がみてみたい」
 
 沖縄の子らしい感想ももらした。
 
 名護市長選では移設反対の市長が当選したが、石垣では自衛隊配備に賛成の市長が選ばれ、沖縄が揺れていることがよく分かった。

「これって、第一にはオスプレイの安全性の問題なんだよね」
 
 と、あたしが言うと、エリーは、こう言った。

 「じゃあ、一発乗って確かめてみるか!」
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高校ライトノベル・『はるか 真田山学院高校演劇部物語・02』

2019-05-12 06:11:06 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
はるか 
真田山学院高校演劇部物語・02     

 
 
 
『第一章 はるかの再出発・2』

 由香は竹内先生顔負けの手際の良さ。

 教室、おトイレ、保健室、食堂、通用門への近道などを教えてくれて、中庭で二人してベンチに腰掛けた。
「こんなもんかなぁ、いっぺんに全部は覚えられへんやろから。あたしなんかドンクサイよって、入学したとき覚えんのにゴールデンウィークまでかかってしもた」
「そうなんだ。わたしも方向オンチだから、これくらいの案内でちょうどよかった……由香さんだったわね?」
「うん、鈴木由香。由香でええよ。あんた、坂東さんやったわね、坂東はるか?」
「え、ああ……うん。坂に東の坂東。はるかはひらがな……」

 わたしは「あんた」の二人称に、少し引いてしまった。

「あ、あたし、なにか……」
 由香は方向オンチはともかく、人の微妙な気持ちの揺れなんかには鋭そう。
 こういう場合は直球がいい。
「あの……大阪の二人称って、あんた……なの?」
「二人称。あ、相手の呼び方?」
「うん」
「そやね、自分とか……たまに、おまえとかやね」
「あたし、こういうシチュエーションであんたって、呼ばれたことあんましないから……」
「あ、東京の子ぉには、ちょっときつう聞こえんねんね。まえ、テレビで言うてた。ほんなら、なんて呼んだらええんやろ?」
「はるかでいいわよ。東京じゃ友だちにはそうよばれてたから」
「え、かめへんの? もうあたしら友だち!?」
「う、うん。そちらさえよければ」
「わあ、感激! まえから東京の子ぉと友だちになりたかってん、あたし……あ、単に、東京の子ぉやいうだけやないよ。あんた……はるかとは、なんか気ぃ合いそうな感じがしたから」
「ありがとう、わたしも!」
「ハハハ……」
 二人の笑い声は中庭いっぱいにこだました。
「で、由香。竹内先生になにか用があってきたんじゃない? だったら、そっちの用事……」
「ヘヘ、クラスに転校生の子ぉが来てるゆうんで、用事ありげな顔してただけ。竹内先生には、バレバレやったみたいやけど」
「聞き耳ずきんなんだ、由香って!」
「へへ、デコメで言うたら(^#0#^)な感じ」

 それから、わたしと由香は、東西文化の違いについて、あれこれ話の花を咲かせた。

 大阪は、マックのことをマクドというのは知ってたけど、生で聞くとやっぱ、違いを肌で感じる。エスカレーターの左側を空けておくことや、駅で整列乗車をしないこと。「そうなんだ」という合いの手が、大阪の子には、ちょっと冷たく感じることなど(大阪では「ほんま!?」「そうなんや!?」てな感じで、距離感が近い)を話した。
 そして、これは東西共通。おきまりのアドレス交換をした。
そんな、セミロングとポニーテールの異文化交流を、中庭のど真ん中の大きな蘇鉄の上でマサカドクンがユラユラと、心なし笑って見ていた。
 でも、これは、由香にも、これ読んでるあなたにも理解不能なので、ひとまずシカトすることにします。

 二人で食堂に行こうという、健康な高校二年の女子としては、当然の結論に達して立ち上がり、中庭の角まで行って気が付いた。
 蘇鉄の陰に隠れた、身の丈ほどもある巨大なゲンコツに。
「なに、あのゲンコツ?」
「ああ、あれグー像」
「偶像?」
「ううん、ジャンケンホイのグー。ほんまは『初志貫徹の像』とかいうんやけど、どない見てもグーやさかいにグー像。ちなみにそのむこうの入り口の中、生活指導やさかい、要注意」
「へー……」

 数ヶ月後、わたしは、そのグー像の前でとんでもない事件をやらかしてしまうのだが、その時はトーゼン知るよしもなかった、あのマサカドクンを除いては……。
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