大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・連載戯曲・ステルスドラゴンとグリムの森・5

2019-05-22 08:06:53 | 戯曲
連載戯曲
ステルスドラゴンとグリムの森・5


 
 時   ある日ある時
 所   グリムの森とお城
 人物  赤ずきん
 白雪姫
 王子(アニマ・モラトリアム・フォン・ゲッチンゲン)
 家来(ヨンチョ・パンサ)



 
 ヨンチョが衣裳を持ってあらわれる

ヨンチョ: 御衣裳をお持ちいたしました。
王子: ごくろう。

 以下着替えをしながら、ヨンチョが慣れた手つきで介添えする。

赤ずきん: 愛しているならやってごらんなさいよ!
王子: シー! 話はそこまでだ。
ヨンチョ: わたしのことならお気づかいなく。
 小鳥のさえずりは聞こえても、殿下の大事なお話は耳に入らなくなっております。
 それが近習と申すもの。しかし、いざという時はお役に立ちますぞ。
 申すではありませんか、遠くの親類よりも、近習の他人とか、ウフフ……。
二人: ズコ(ずっこける)
王子: ギャグは言う前に申告するように。おまえのダジャレは心の準備がいる。
ヨンチョ: ……。
赤ずきん: そんなに落ち込まなくても……。
ヨンチョ: 深刻になっております……わかります? 申告と、深刻……アハハ(二人、よろめく)
王子: いいかげんにしろ(着けかけた剣で、ポコンとする)
ヨンチョ: 僭越ながら、森へのお通いは、殿下にとって大事大切な御日課と存じます。
 殿下が森におられる間、森の入口で邪魔の入らぬよう、しっかと目を配っております。心おきなく御考案の上、そろそろ御決断を……
赤ずきん: 王子さま……。
王子: うん?
赤ずきん: 王子さまは、自分のことばかり気にかけているわ。
王子: どういうことだ?
赤ずきん: 愛しあっているならフィフティーフィフティー、白雪さんにも、変化と努力を求めなければ。
 そう、王子さまが懸命の努力をなさっているなら、きっと喜んで、我慢もし、努力もするはずよ。
 夫婦というものはいつもそう、病める時も貧しき時も互いに助けあい……結婚式で神父さまもそうおっしゃるじゃない。
 彼女は、その苦労をきっと進んで受け入れると思うわ。
王子: ……そうだろうか?
赤ずきん: そうよ。王子さまが期せずして、ファミリーカーからレースカーへの変貌をとげざるを得ないのなら、
 チャンピオンにおなりなさい! キング・オブ・ザ・レーサーに! そして白雪さんは……。
ヨンチョ: レースクイーンに! よろしゅうございますぞ。ハイレグのコマネチルックに網タイツ、
 大きなパラソルを疲れたレーサーにそっと差しかけて、ひとときのくつろぎを与える……。
王子: レースクイーンか……。
赤ずきん: もう! 変な方向に期待を膨らませないでください! ヨンチョさんも! 
 白雪さんは、見かけ華やかなレースクイーンよりも、ピットクルーのチーフをこそ望むでしょう。
 レース途中で疲れはててピットインした王子さまを、クルー達を指揮し、みずからも油まみれになり、
 限られた時間の中で、タイヤやオイルを交換し、ガソリンを注入し、チューニングをして、再びレースに復帰させる。
 白雪さんは、その立場をこそ望み、見事にこなしていくと信じます。
 美しい人形のような妃としてではなく、油まみれの仲間として彼女を愛してやってください……王子さま。
王子: 仲間としてか……ありがとう赤ずきん、迷った山道で道しるべを見つけたように気持ちが軽くなった。
 よし! このこと、この喜びを決心とともに母上に申し上げ、その足で森へ急ぐぞ。二人とも、それまでに馬の用意を……!
ヨンチョ: 馬は何頭用意すればよろしゅうございますか?
王子: おまえの名前ほどに……(いったん去る)
ヨンチョ: 俺の名前ほどに……どういう意味だ?
赤ずきん: ばかだね。ヨンチョだから四丁、つまり四頭という意味でしょ。
 王子さまとヨンチョさんとわたしの分……そして白雪さんの分!
ヨンチョ: なるほど、おめえ頭いいな!
赤ずきん: グリムの童話で主役を張ろうってお嬢ちゃんよ、頭の回転がちがうわよ。

 王子が再びもどってくる。

王子: すまん、馬の数は、おまえの兄の名前の数ほどに修正だ!
ヨンチョ: と、申しますと?
王子: わたしは姫と同じ馬に乗る。鞍もそのように工夫しておけ、では……(緊張して額の汗をぬぐう)
 まず母上から口説かねば……(去る)
ヨンチョ: 女王さまは難物だからな……しかし同じ馬に肌ふれあい互いのぬくもりを感じあいながら……。
 これはやっぱりレースクイーンだべ。

 王子再々度もどってきている。

王子: バカ、変な想像をするな(ゴツン)
ヨンチョ: あいた!
王子: 今度こそ行くぞ、母上のもとへ……!

 王子上手袖へ、ヨンチョがそれに続くとファンファーレの吹奏、ドアの開く音。

ヨンチョ: 皇太子殿下が朝の御あいさつにまいられました!
女王: (声のみ、ドスがきいている)おはいり……モラトリアム……
王子: (うわずった声で)お、お早うございます母上……

 ヨンチョをともない上手袖へ、ドアの閉じる音。

赤ずきん: 王子さま、がんばって……!(手にした王子のガウンを抱きしめている)
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高校ライトノベル・時空戦艦カワチ・039『井上多聞補給長の心配り』

2019-05-22 06:46:32 | ノベル2
高校ライトノベル・時空戦艦カワチ・039 
 『井上多聞補給長の心配り』



 わざわざありがとうございます。

 後部艦橋当直士官が礼を言う。

「いえ、装備品の補給は速やかでなくてはいけませんから」
「本来なら、こちらから受領しに行くのがすじですのに、恐縮です」
 持ち場の備品や消耗品の補給は、持ち場担当士官が補給科に申し送り、申し出た部署の者が受領することになっている。
 しかし、井上多聞補給長は科業に差し障りが無い限り自分で持っていく。
 迅速な補給が出来るだけではなく、自ら足を運ぶことによって科業中の他の部署を見ることもできるし、タイムリーに科業明けの乗員が居ればコミニケーションをとることもできる。

 新任教師であったあころに先輩から叩きこまれたスキルなのだ。

「補給長のバーチャルアイドルは一筋なんですね」
 当直を終えた士官が親し気に話題を振ってくる。
 ラッタルを下りて五番ハッチから艦内に入る僅かな間だが、自然に話しかけられることが嬉しい。
「お恥ずかしい、いい歳をしてキヨミストなもんですから(n*´ω`*n)」
「その絵文字が入っているような話され方もいいです。あ、話をすれば、あそこに……」
 語尾をしりすぼみにし、士官は一層したのデッキを指さした。
 五番砲塔の横で艦長と清美船務長が語らっている。
「艦長には悪いですが、いい親子に見えますね。むろん艦長も素敵ですけど、さすがは元アイドル、事業服を着ていても、とてもチャーミングです」
「そうですね……」

 答えながら補給長は違うと思った。事業服を着ているが、あれは自分がエディットしたバーチャルアイドル清美だと直感した。
 船務長に、あのフェアリーオーラはない。
「邪魔しちゃ悪いですから四番ハッチから行きましょう」
「そうですね」
 士官に習って反対舷のタラップを目指す、バインダーを置き忘れたのに気が付いた。
「あ、バインダーを置いて来てしまった。取りに戻ります」
「じゃ、わたしはここで」
 ラッタルの上と下で別れると、再び五番砲塔が目に入る。

 え……!?

 思わず立ち止まった。
 艦長が五番ハッチの方を向いた瞬間にアイドル清美の姿が搔き消えてしまったのだ。
 あとには事業服の抜け殻だけが残って、気づいた艦長が手にするところだ。
 なんだか艦長が抜け殻を愛しんでいるように思えて胸の奥に暗い焔(ほむら)が立ち上る。

 コミニケーションツールだと気楽に作ったが、とんでもないものをエディットしたのでは……。

 急いで後部艦橋に向かった、心ならずも手摺の鎖をチャリンと揺らしてしまったことには気づかなかった。
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高校ライトノベル・時かける少女 BETA・5《アナスタシア・1》

2019-05-22 06:38:01 | 時かける少女
時かける少女 BETA・5
《アナスタシア・1》      

                       

 ミナはコビナタから一枚のとても古い写真を見せられた。二秒で解析し任務を理解してミナはリープした。

「殿下、皇后陛下がお呼びです」
 古参侍女のベラがいつもの不機嫌顔をいっそう不機嫌にして呼びに来た。
――また叱られるのか――
 そう思ってため息ついてアナ(アナスタシア)は聖書を閉じた。聖書は表紙だけで、中身はベラにも見せられない小説である。
「殿下、お召し替え願います」
「え、お母様に会うのに?」

 通されたのは、思った通り母アレクサンドラの居室ではなかった。母が私的ではあるが謁見に使っている百合の間だった。

「あら、着替えてきたの?」
 アナが、準正装であるローブを着ていたので、母の皇后は少し驚いた。
「ベラが、これを着なさいって。それに、ここは百合の間でしょ」
「会わせたい人がいるの。居間にしたかったんだけど、お相手がご身分をはばかられるんで、百合の間にしたのよ」
「平民の方?」
「いいえ、ちゃんと爵位をお持ち。ロシアのそれではないけど」
「外国の方?」
「半分正解。エレーナ、お連れして。アナは、そこに掛けて」
 皇后は侍女のエレーナに命ずると、フロアーに置かれた椅子を示した。
 五分ほどすると、エレーナが客を連れてきた。驚いたことに若い女性であった。それも立派なフランス語(ロシア宮廷は日常フランス語)を話すロシア貴族にしか見えなかった。

「アナースタシア殿下、ご機嫌麗しゅう。わたくし日本のアリサ大黒男爵でございます。本日は皇后陛下のお召しによって参内いたしました」
「え……」
 アナは疑問符でいっぱいだった。

 どうみてもスラブ人(それも、かなり高貴な)の若い女性としか見えない。それが日本人だと名乗り、ロシアでは男子にしか与えられない爵位まで持っている。そして威厳と可愛らしさが同居したような落ち着きと好奇心が店番しているような瞳に、瞬間で大変な興味をもってしまった。
「ホホ、案の定好奇心でいっぱいになってしまったようね。アリサさん、大変でしょうが、わたくしに説明したことと、わたしがお願いしたことを、アナに話してやっていただけませんこと」
「うけたまわりました。言葉を少しフランクにさせていただいてもよろしゅうございますでしょうか」
「ええ、どうぞ。アナの言葉遣いもたいがいですから、思う存分に」

 アリサは、アナの向かいではなくテーブルを囲む4脚のうちのアナの隣に腰を下ろした。

「わたしの母はロシア人です。外見は母の血を濃く受け継ぎましたので見かけはこんなですが、中身は100%日本人です。男爵の爵位は、昨年父が亡くなりました後、女の身でありながらゴネ通して授爵いたしました。だって大黒家にはわたし以外に子がいませんでしたから。日本では女性の地位向上運動とジャガイモの品種改良に命をかけております……」
 アナは、ここで吹き出してしまった。さっきとは打って変わった調子の良さと、女性の地位向上運動とジャガイモの不釣合いな対比が面白かった。なるほど、この女性なら多少法律を捻じ曲げてでも、男爵になるだろう。
「で、あなたが品種改良したら男爵イモになるんでしょうね」
「御明察。川田龍吉男爵と競争しましたけど、わたしのジャガイモの方が一か月早く収穫ができました。ま、どちらが成功いたしましても『男爵イモ』の名称には変わりがありませんので、特許申請は川田男爵に譲りました」
「え、女性の地位向上運動をしておきながら、男に譲ったの?」
「深慮遠謀です。この先の運動のために恩を売っておいたのです。情けは人の為ならずです。ロシアには寒冷地での建築と農作物の研究にまいりました。ところが、正直申し上げて、今のロシアでは気楽に農作物の研究などできません。そこで、モスクワ大学のコノスキー先生にロシアの寒冷地での研究についてつきまとわっていました」
「ホホ、それが、あまりしつこいのでコノスキー先生が、わたしに愚痴をこぼしてね」
「それで、エカテリーナ宮殿まで?」
「はい、わたしも皇后さまや、アナスタシア殿下には興味がありましたから!」
「それが、ミイラ取りがミイラになってしまったのよね」
「アハハハ」

 アレクサンドラ皇后とアリサが同時に笑った。

「というわけで、今日から、わたしアリサ大黒男爵は殿下の家庭教師です!」

 ミナのアリサは前線に赴く新品少尉のように宣言したのだった。

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高校ライトノベル・『はるか 真田山学院高校演劇部物語・12』

2019-05-22 06:20:55 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
真田山学院高校演劇部物語・12


『第二章 高安山の目玉オヤジと青いバラ3』


 ポチャン…………意外に大きな鯉が跳ねた。

 コミセン(コミュニケーションセンターの略)という市役所支所の一二階が図書館になっていた。
 あっという間に、読みたい小説やエッセーが五六冊見つかった! ってか、本のほうから「読んでくれー」と、わたしの目にとびこんできた。
 すぐにでも借りたかったんだけど、まだここの図書カードは作ってはいない。作るには身分証明が必要なのだ。わたしはまだ生徒手帳ももらっていない。
「オレのカードで借りたろか?」
「え、いいんですか!?」
「オレ七冊借りてるから、三冊しか借りられへんけどな」
 二三分悩んだ末に三冊を選んで、借りてもらった。
「ありがとうございます!」
 お礼を言って振り返ろうとしたら……。

「こら、走ったらあかんでしょ!」

 五歳くらいの女の子が、キャッキャッと絵本を抱えながら走ってきた。
 それを避けようとして、わたしは、転んでしまった。
 不幸なことに、転んだ先に身の丈ほどのラックがあった……。

 ガラガラガッシャーン!

 ラックは雑誌やチラシを派手にまき散らしながら倒れてしまった。
「キャー!」
 と、叫んだ……ところまでは覚えていた。

 気がつくと、天井が回りながら目に入った。で、大橋先生の顔。そして心配げな図書館の人たち。
「ごめんなさい」
 と、母親に頭を押さえつけられて謝る女の子。
「ほんまに、ごめんなさいね」
 と、その子の母親。
「救急車よびましょか」
 と、メガネに腕カバーの司書のおじさん。
 わたしは、ソファーに寝かされていたのだ。
「もう大丈夫ですから……」
 ほんとは身体のあちこちが痛かったんだけど。ホンワカの意地に賭けて、わたしは見栄をはった。


 図書館近くの神社まで、先生に自転車を押してもらって休憩。
 気づくと、狛犬の横にマサカドクン(昨日から、現れすぎ!) 
 しきりにわたしの左手を指している……やだ、わたしってラックからこぼれたチラシを握ったまんまだ。
 いそいで左のポケットに突っこむ。
「なんや、ついてない一日になりそうやなあ」
「厄落とししよっと」
 拝殿に向かい、ガラガラを鳴らし、お財布から五百円玉を出しかけ、百円玉に替えようとした。
「おっと……」
「シブチンやなあ、お賽銭で悩むかぁ」
「違います、この百円玉は東京駅で駅弁買ったときのお釣り。今年出たばかりのピッカピカ。ラッキーと思って残しといたんです……わたしの東京最後の思いで」
 わたしは、東京での未練を、ひとつだけ残して、「エイヤ!」てな感じで、百円玉に託して投げ入れた。
 
 背中に先生の笑顔を感じながら、ひとつだけお願いをした……。

「ヘヘ、先生少し聞いていいですか?」
 くるりと振り返って、ホンワカ笑顔で聞いた。
「なんや?」
「先生って、劇作家なんですよね?」
「よう知ってんなあ」
「今朝、ネットで検索したんです」
「ああ、イッチョマエの本書きに……ほかの奴っちゃたら見えんねんやろけど。はるかには、だいたいの見当はついたやろ。お母さん同業者やさかいに」
「ええ、正直なとこ……で、真田山でコーチのアルバイトなんですか?」
「ハハハ、あれは五万四千円や」
「え……安い月給」
「あほ、年俸や」
「ボランティアなんですか?」
「ギブアンドテイクや。きみらの面倒見る代わりに、いろいろ……オレの本演ってもろたり、実験台になってもろたり」
「わたしたち実験台なんですか!?」
「気ぃ悪うせんといてな。部員二人だけ(ああ、山田先輩とタマちゃん先輩)の絶滅寸前のクラブを立て直す壮大な実験や。コンクールで一等賞とる! とらせる! そのためのマネージメントやら、メソードの実験」
「一等賞ですか!?」
「うん。目標は分かりやすいほうがええ。はるか、しばらく演劇部付き合えへんか?」
 
 あ……真顔は勘弁してほしいんですけど。
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