大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・せやさかい・018『中間テストやねんけど』

2019-05-20 11:35:31 | ノベル
かい・018
『中間テストやねんけど』      
 

 

 

 今日から中間テスト!

 

 学校は午前中だけで、テストだけやっておしまい。

 小学校の時は、平日の授業の中でテストが行われたんで、まるまるテストいうのは新鮮!

 いつもは机の中に教科書やらノートやらゴチャゴチャ入ってんねんけど、そんなんは一切出してテストに臨む。

 机の上には筆記用具だけで、下敷きも出したらあかんねん。

 せやさかい、なんや気持ちが引き締まる。

 監督の先生が入ってきて、問題と解答用紙が配られるけど、すぐには書かれへん。

「ええか、先生が『かかれ』言うまで表むけたらあきません。取り掛かったら、最初にクラスと出席番号と氏名を書く。時計のアラームは切って、スマホは電源を切っておくこと。では、今から配ります」

 先生が最前列ごとに問題用紙と解答用紙を置いて行って、順繰りに前から後ろの席にまわしていく。

 ふだんはイチビリの瀬田や田中が真面目な顔してるのもおかしい。

 

「はい、やめー! 列の後ろの人、解答用紙だけ集めなさい! 先生の確認が終わるまで立ったり喋ったりしてはいけません」

 

 先生の声で三時間目のテストが終わる。

 隣のクラスから軽いどよめき。いかにも頑張ったテストが終わったいう感じ。それに比べて、うちの一組はシラ~っとしてる。二か月足らずで、それぞれのクラスに個性が現れてきたんやなあと思う。

 テスト期間中は掃除当番もない。部活もないよって留美ちゃんといっしょに教室を出る。

 

 あ!?

 

 校舎を出てビックリした。

 校門手前の広場に特設ステージが出来てて、ステージの上に気色悪い人らが立ってる。

 女子の制服着た男子二人と、男子の制服着た女子。

 三人の上には横断幕があって『性差のない制服を考える会』と書いてある。

「ちょ、あれ頼子さん!」

 留美ちゃんが目を丸くして立ち止まった。

 確かに、女装の男子に挟まれてる男装の麗人は頼子さんや。うちらは、こないだの部活で見てるから一発で分かったけど。せやなかったら、目ぇ合わせたないよって、さっさと通り過ぎたやろと思う。

「三年生有志は、性差のない制服の改訂を考えています。女子がズボンを、男子がスカートを穿いてもいいんじゃないかと考えています。もしよかったら、感想をお聞かせください……」

 男子二人はテレテレやけど、頼子さんは宝塚の男役みたいにカッコいい。そのうちに上着を脱いでスピーチを続ける頼子さん。

 胸張って堂々と喋るもんやさかい、例のCカップと思しきバストも強調されて、いやはや……ですわ。

 よう見ると、ステージの横には三年の女子三人が控えてて、机の上に置いたプリントに感想書いて欲しいとアピールしてる。

 ステージの頼子さんと目ぇが合いそうになったけど、幸か不幸か目えは合いません。

 そそくさと正門に向かって歩く。

 

 なんでや、頼子さんは反対やったはずやのに?

 思たけど、あたしも留美ちゃんも口を利かずに正門を出てしまった。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公 安泰中学一年 
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主
  • 酒井 詩        さくらの従姉 聖真理愛女学院高校二年生
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母
  • 榊原留美        さくらの同級生
  • 夕陽丘・スミス・頼子  文芸部部長
  • 瀬田と田中       クラスメート
  • 菅井先生        担任
  • 春日先生        学年主任
  • 米屋のお婆ちゃん
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高校ライトノベル・連載戯曲・ステルスドラゴンとグリムの森・3

2019-05-20 07:03:27 | 戯曲
連載戯曲
ステルスドラゴンとグリムの森・3

※ 無料上演の場合上演料は頂きません。最終回に連絡先を記しますので、上演許可はとるようにしてください


 時   ある日ある時
 所   グリムの森とお城
 人物  赤ずきん
 白雪姫
 王子(アニマ・モラトリアム・フォン・ゲッチンゲン)
 家来(ヨンチョ・パンサ)


 いつまでも手を振る白雪。
 暗転。
 鳥の声がして朝になる。アニマ王子の洗面所。起きぬけらしく、ガウンの下はトランクスとシャツ姿で洗面台にあらわれる。
 ジャブジャブと顔を洗った後、家来?が差し出したタオルで顔を拭く。


王子: ありがとう……ん、おまえ!?
赤ずきん: シー、お騒ぎになるとためになりません。
王子: なんだおまえ?
赤ずきん: 赤ずきんと申します。近ごろ森の中での殿下のおふるまい、ぜーんぶ知ってます。
王子: え……?
赤ずきん: 毎朝毎朝、未練たらしく白雪姫のもとに通い、唇一センチのところまで顔を寄せながら、
 首を横に振るだけで、なーんにもしないで帰ってくること。
王子: おまえ……。
赤ずきん: はい、今一度申し上げます。グリムの赤ずきんでございます。アニマ・モラトリアム・フォン・ゲッチンゲン王子さま……!

 そこへ家来のヨンチョが、タオルを持ってあらわれる

ヨンチョ: 申しわけありません、不寝番のルドルフが居眠っておりましたので、
 たたき起こそうとしたのですが、いっかな、こいつ起きません。
 こりゃあきっとゆうべ一晩宿直の者同志でオイチョカブでもしておったのではないかと、叱りつけておりまして……あ、御洗顔は。
王子: ああ、もう済んだ。タオルはこの者から……
ヨンチョ: おお、赤ずくめの怪しき奴! 賊か!? 郵便ポストの化け物か!? サンタクロースの曾孫か!? 
 それとも 王子様のお命をねらう赤き暗殺者か!? いずれにしても生かしてはおけぬ。
 それへ直れ、十重二十重にいましめて、そっこく……(刀の柄に手をかける)
王子: まてまて、この者は今日よりわたしの近習をつとめる、赤ずきんだ。
ヨンチョ: あ、さようで……。
赤ずきん: よろしく赤ずきんよ。あなたは?
ヨンチョ: 近習頭のヨンチョ・パンサである。
王子: 着替えがしたい。
ヨンチョ: はい、ただちにお召しものを!
王子: ゆっくりでよい。しばらくここで小鳥のさえずりなど聞いていたいのでな、ゆるりと、よいな。
ヨンチョ: ゆるりと、アイアイサー!(退場)
王子: ……これでいいか?
赤ずきん: さーすが。
王子: 赤ずきん、どうしておまえは……。
赤ずきん: それはね……。
王子: わたしは、これでも一国の王子、死んだ兄にはかなわねまでも、武芸一般人より優れておるつもりだ。
 白雪姫に会う時には特に気を配り、家来共も遠ざけておる。
 あたりには七人の小人達の忍んだ気配、それ以外に人の気配を感じたことはないぞ。
 ましておまえのような赤ずくめで隙だらけ、郵便ポストのように気配だらけの者など……。
赤ずきん: フフフ……顔を洗う時気づかなかったよ。
王子: あれは、いつもそこのヨンチョが……。
赤ずきん: わたしとヨンチョさん、ずいぶん気配が違うよ。
王子: ……まだ起きぬけなんだヨ!
赤ずきん: 言葉が過ぎたら許してね。わたし……生きて泣いている白雪さんに会ったの。
王子: なに……白雪姫が生き返ったと言うのか!?(あまりの驚きに、赤ずきんを部屋の隅まで追いつめる)
 いつ!? どこで!? どんなふうに!? どうしていらっしゃる、あの姫は!?
赤ずきん: 夜の間だけ。知らなかったでしょ……。
 日が昇る頃には、あのガラスの棺にもどって、また夕暮れまで死んでいるの。
 そして、話を聞いたんです。毎朝のあなたの思わせぶりな訪れを……。
 一センチにまで唇を寄せて……そして溜息をつき、せつなそうに首を振り、帰ってしまわれる。
 この仕打ちのため、白雪さんの心は悲しみとせつなさに加え、ゆうべは憎しみの芽さえ宿していたわ。
王子: 仕打ちとは心外!
赤ずきん: 心外はこっちよ、あのまま放っておいたら、いずれ人喰いの化物にでもなってしまうわ。
王子: わたしにも人に言えぬ葛藤があるのだ。
 しかし、今夜にでも森に出向き、生きているあの人に話をしよう、このまま放っておくわけにもいくまい。
赤ずきん: それはやめてください!
王子: どうしてだ!? 夜とは申せ、愛している者が生きているというのに。
 それに、わたしに会えぬ苦しみゆえに悶え、憎しみの芽さえ育てはじめているというではないか!
赤ずきん: だめなんです! 夜の白雪さんは昼間の白雪さんではありません。
 彼女の暗い内面が彼女の姿をも支配し、神もそれを憐れんでか、森に結界を張り、白雪さんが森から出られぬようにしておられます。
 おそらく王子さまが入ろうとしても、その結界が遮るはずです。
王子: しかし、おまえは……。
赤ずきん: わたしは赤ずきん、もとから、あの森とは縁のあるグリムのオリジナルキャラクターです。
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高校ライトノベル・時空戦艦カワチ・037『アイドル清美は意外に驚かない』

2019-05-20 06:50:31 | ノベル2
高校ライトノベル・時空戦艦カワチ・037
『アイドル清美は意外に驚かない』



 砲雷長のベッドの上に滲み出るようにしてアイドル清美が現れた。

 艦長も砲雷長もアイドル清美の存在を知っていたので騒ぐことは無かったが戸惑いのあまり声も出せなかった。

 彼女は生まれたままの姿で眠っていたのだった。

 なんせ六畳に満たないキャビンに所狭しとPC関連の機材があって、男二人がかろうじて収まっているのである、ベッドの清美は体温が感じられるほどの至近距離なのだ。それに風呂上りなのか髪はシットリしてシャンプーやらの香りが匂いたつ。
「機関長が居なくてよかったですね、小林君はまだ高校生だら」
「我々にも目の毒だよ、なにか掛けてやったほうがいいね」
「その棚に新しいケットがあります」
「あれか……ちょっと手伝ってくれたまえ」
 棚に手を伸ばすとベッドの清美に触れそうになるので、砲雷長に支えてもらい組体操のような姿勢でケットを取る。
「しまった……」
 枕カバーが落ちてきて清美の腰のあたりに落ちてしまった。

 ウ ウーーーーン

 二人は組体操のまま固まってしまった。
「まずい、目を覚ます……」
 一分近く組体操のストップモーション、ケットを持った手と艦長の上半身を支える砲雷長の手がしびれてきたころに清美の寝息がし始めた。
「「ふーーーー(;'∀')」」
 清美にケットを掛けてやると、二人は知らんふりしてモニターの方を向いた。
 そして五分、モニターに電源が入っていないことに気づいて「あ、スイッチスイッチ!」
 砲雷長がスイッチを入れて、ベッドで声がした。

 ウウ……あ……えと……?

「おう、起こしてしまったかな」
 ようやく目覚めた清美に、艦長は自然な優しさで声を掛けた。三次元が苦手な砲雷長はこっそり鏡を見て自分の顔色やら緊張感をチェックした。
「あ、初めて人と出会った……」
 意外なくらいアイドル清美は落ち着いていた。
「穏やかな目覚めでよかった」
「わたし!?…………よかったケットを掛けていて」
「なにか不都合なことでも?」
「お風呂上がりで……」
 さすがに後の言葉は呑み込んでしまう。
「あ、えと、ここは時空戦艦カワチの艦内で、わたしは艦長の小林、こちらが砲雷長の山本君。砲雷長」
 肩を叩くと、たった今気づいたように振り返る。
「あ、お、驚いたかもしれないが、ま、落ち着いて落ち着いて」
 両手を前に出して寝付かせるようにハタハタさせる。
「サングラスはとったらどうかね」
「え、あ、ちょっと眩しくて」
「あ、よかった優しいお顔で」
「い、いや、ども……」
 照れると意外に童顔な砲雷長である。

「落ち着いていてくれてありがたい、でも、少し説明をしておこうか?」

「はい、でも、先に船の中を見せてもらっていいですか?」
「ああ、もちろん」
「嬉しい!」
「ウ……」

 不用意に立ち上がった清美の姿に鼻血を流す砲雷長であった。
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高校ライトノベル・時かける少女 BETA・3《The implementation test・1》

2019-05-20 06:35:59 | 時かける少女
時かける少女 BETA・3
《The implementation test=運用試験・1》 


 

 エノラゲイは四国上空を通過中に日本軍のレーダー照射を受け、単機の日本軍戦闘機の射撃をうけたが、被弾はなかった。この日本軍戦闘機(所属不明)はハーフターンして第二航過で射撃を試みたが、射撃位置の占有に失敗した。

 ミナは、コビナタから、このメッセージとイメージだけを受け取った。
「IT……試験運用ですね」
「そう、ミナがどう判断し、行動するか。ITだけど、運が良ければ枯れかかったブランチが蘇るかもしれない。本気でね……」
 コビナタは世界の木を見つめた。目をミナに戻すと、もう姿は無かった。
「迅速性は合格ね……」

 ミナは三式戦闘機飛燕に乗って、四国の上空を飛んでいた。一時方向にエノラゲイを感じた。記録よりも500メートル高い。
「……予断は持たないでいこう」
 ミナは飛燕にブーストをかけ、10秒でエノラゲイと並走した。30メートルの至近距離である。

「機長、トニー(飛燕)です。ジョ-ジ、ロバート、気づかなかったのか!?」
 副機長のロバート・A・ルイスは後尾機銃手と胴下機銃手に叫んだ。
「あっという間だったんです。目で追うのが精一杯でした」
 同じ答えが二人の機銃手から返ってきた。エノラゲイはリトルボーイを積んでいるため、他の機銃は全て下ろしてあった。機長のポールはトニーを引きはがそうと操縦桿を操作するが、なんせ図体のでかいB29なので、身軽な動きができない。思い切って左翼の端で引っかけるようなそぶりをしてみるが、トニーのパイロットは相当な腕のようで、曲芸飛行の僚機のようにピタリと付いてくる。

 トニーのキャノピーが開いてパイロットが顔を出した。高度8000である。

「機長、あのパイロット女ですよ!」

 左翼が見えるクルーはみんな驚いた。キャノピーを開いたコクピットには黒髪をなびかせた少女がにこやかに手を振って、こちらを見ている。

――そっちにお邪魔するわね――

 ブロンクス訛のキュートな声が皆のヘッドセットに聞こえた。
「おまえは、いったい……」
 そこまで言った時には、ピンク色の飛行服を身にまとった少女が操縦席の後ろに立っていた。
「こんちは、ポールはじめクルーのみなさん。ジョ-ジとロバートはお顔みえないけど、よろしく。トニーのパイロットのミナです」
 航法士のセオドアが斜め後ろから取り押さえようとしたが、軽く背負い投げにされ爆撃手のトーマスの頭に背中から落ちた。トーマスは、とっさにノルデン照準器を庇い、セオドアの足が機長の体にぶちあたったので、操縦桿が左に傾き、少し遅れて機体が左旋回しはじめた。
「コクピットは狭いんだから、暴れないでよね。モリス、ワイアット、ピストルは抜かないでね。この高度で機体に穴が開いたら大変よ」
 モリスとワイアットは息をのんだ。ミナが左右に交差させた両脇から、銃口が覗いている。
「あなたたちは、リトルボーイを落とすことで、日本人に本土決戦を諦めさせる……そう、教わってるのよね」
 クルーたちは、一声もなかった。
「それ、ウソだから。日本は、もうポツダム宣言受諾の協議に入ってるのよ」
「日本人は、そんなに甘くない。オレたちはグァムも硫黄島も知ってるんだ。本土決戦になりゃ、アメリカだけで100万、日本人は何千万と死ぬんだぞ!」
 ポールが機体の姿勢を直しながら怒鳴った。
「トルーマンの陰謀よ……てのは可愛そうか。フランク(フランクリン・ルーズベルト前大統領)が死んじゃったから、その路線走るしかないんだろうけど。あと二日すればソ連が対日参戦してくるわ。それで、天皇陛下は終戦の決意をされるの。あんたたちは、ただの虐殺者にしかならないのよ」
「機長、無人のトニーが付いて離れません!」
「あたしのトニーはご主人に忠実なの。あんたたちと違って自分の頭で考えるし」
「お嬢ちゃん、あんたいったい……」

「あたしはSavior Beta MINA……」
「第二の救済者だと?」
「とんでもない、それ以上だわよ」

 ミナの瞳が鳶色に輝いた……。
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高校ライトノベル・『はるか 真田山学院高校演劇部物語・10』

2019-05-20 06:22:49 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
はるか 真田山学院高校演劇部物語・10                 


『第二章・1・山が近ーい!』 

 土曜の朝は、お母さんのいびきで目を覚ました。

「また、徹夜……」

 お母さんは、いつでもどこでも、パソコンさえあれば仕事のできる人なんだけども、やっぱし、集中してやれるのは夜のようだ。
 それにしてもねえ……この寝顔。口を半開きにしてヨダレを垂らして……。
 よく言えば「女戦士の休息」なんだろうけど、亭主の立場を想像して眺めて見ると……「百年の恋も冷める」だよ。
「お母さん、風邪ひくよ」
 娘として、一応声だけはかけておく。
 あろうことか、お母さんはbreak wind(ブレークウィンド。分からない人は辞書ひいてください)をもってこれに応えた。
 ま、ほっときゃ、そのうち自分で寝床にいくことは分かっているので、わたしはさっさと着替えて、いろいろやって(女の子の朝の身じたくなんて、「いろいろ」としか言えません)トーストにスクランブルエッグこさえ、コーヒー片手にテレビを付けると、驚いた……。
 チェシャネコ、いえ福田乙女先生が出ていた……。
「あ、これが神沼恵美子……ねえ、お母さん。これが昨日言ってた……」
 女戦士は、すでに着替えてベッドで爆睡されていた。
 洗濯機が、ピーピーと任務終了のシグナル。洗濯物を抱えてベランダに出てみた。ここに越してきて、朝に洗濯物を干すのは初めて。

「山が近ーい!」

 高安山は起伏の少ないダラーっとした山で、あんまり情緒はない。でも、目の前に緑が広がっているのは気持ちがいい。
「ん?」
 山の上に目玉オヤジがいる「なんだ、あれ?」と思っているうちに干し終わちゃった。
 部屋にもどってケータイのチェック。
 ひょっとして……やっぱしきていない。

……思い切った。夕べの制服姿を付けて、これで最後の送信のボタンを押す。

「はるかのリセット……元父へ!」と……本文。

 由香から、返信のメールだ。
「とってもカワユイよ! これでますます友だちだね!」
 背景にきちんとかたづいた由香の部屋、そして本人のドアップ。
「さすが、由香……」
 でも、メールだと標準語なんだ……フフ。

 と、次になぜか母上のメール。なになに……。
「ごめん。以下のものを買っといて……(以下、さまざまの生活用品のリスト)お金はパソコンの横の封筒。ホームセンターは検索したのを地図プリントアウトしといた」
 今朝は、借りた新刊本読もうと思ったのに……と、母の部屋を睨みつける娘であった。

 時計を見ると、まだ九時。ホームセンターが開くのにはまだ間がある。

 わたしは部屋にもどってパソコンのスイッチを入れた。
 パソコンが立ち上がるまで(って、言葉としては変だよね。パソコンは立ったりしないもん。起動とか稼働とかが正しい表現だと思うんだけど、起き抜けのボーっと血圧の低い状態から、シャキっとして「立ち上がる」って感じで、わたしは好きだ。で、わたしのパソコンはお母さんのお下がりで、お母さん同様で、血圧が低い)トランプ占いをやってみた。
 出てきたカードの組み合わせをマニュアル本で調べる。
「意外な出会い」と分かったころで、わがパソコンの血圧が正常値になった。
 
「大橋むつお」で検索してみる……。

「おお、意外に有名人か!?」
 三百件近く出てくる。数的には、お母さんといい勝負。本業は劇作家。著作は共著こみで七冊。上演実績はそこそこ、でも中高生の演劇部がほとんど。食えないだろうな、これじゃ……。
 
 おっと、時間だ。大阪に来て最初の休日、やることはいっぱいある。

 越してきた日に買った中古のオレンジ色ということだけが取り柄の自転車にうちまたがり、ホームセンターをめざしてペダルを踏む。
 角を曲がるためにカーブミラーに目をやる。ミラーの中にちらりとカラスが映った。アホー……と、一声残してカラスの飛び去る気配がした。

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