大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・『はるか 真田山学院高校演劇部物語・06・タキさん』

2019-05-16 06:38:04 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
はるか 真田山学院高校演劇部物語・06  

 
 
『第一章 ホンワカはるかの再出発・6・タキさん』        


 帰り道、由香が「マクドに寄ろう」と誘ってくれた。

 しかし制服やら教科書を買いに行くため、お母さんと合流しなければならない。
「ごめん。後で、かならずメールするから」
 そう言ってわたしはY駅から環状線に乗った。

 環状線、山手線より一回り小さい。

 でも、なんだか、山手線を思い出させてくれる。わたしは、学校は地下鉄だったけど、遠足やお出かけで、たまに山手線に乗っていたので、ふと錯覚におちいったりしてくる。
 でも車窓に大阪城の鉄筋コンクリートの天守閣が見えてくると――ああ、やっぱ大阪に来たんだ――と思い知らされる。
 
 桜宮を過ぎ、大川を渡ると、すぐに天満。
 
 この駅は、真下が天神橋筋商店街。日本一長い商店街だそうである。
 お母さんが、大阪に来て勤めはじめた……というか、パートに出たお店が南森町というところにある。ほんとは地下鉄で行ったほうがいいんだけど、まだ、大阪の地理に慣れていないわたしには、このほうがいい。スマホのナビは、一応つけているんだけど、商店街をまっすぐ南に行けばあとは大通りに出て、チョイチョイで着く。

 紙ヒコ-キが好きだったお父さんが「視界没」という言葉を言っていたのを思い出した。
 
 紙ヒコーキが、風にのって見えなくなるまで飛んでいってしまうことを「視界没」と言って、紙ヒコーキファンの間では、ゴルフのイーグルのようなものらしい。が、お父さんは、この「視界没」をまだ、二回しかやったことがない。下手の横好き。生き方も下手だけど。
 この商店街はまさにその「視界没」で、見はるかす限りの商店街。その点では壮観。
 それに、お店の並び方に脈絡がない。本屋さんの筋向かいが古本屋さんなのはご愛敬だけど、オモチャ屋さんの隣がアッケラカンと派手な下着屋さん。花屋さんの隣りが八百屋さん。店先が入り組んで、どこまでが食べられる植物か分からない。
 食べ物やさんが多いのも特徴。今の視界の中にも、喫茶店や、お好み焼き屋さん。うどん屋さんなど七八件は見える。なんともコテコテの商店街。

 あ……
 
 ふと目にとまったブティックというか洋品屋さんのウィンドウ。胸に白い紙ヒコーキをあしらった群青のポロシャツ。

 お父さんに似合う……と思った。

 あやうく通り過ぎてしまうところだった。

 商店街から、視界没、群青のポロシャツ……そして、ギロチンでちょんぎられてしまったように無くなった東京での生活。そんなことがポワポワと心に浮かんでくるうちに、スマホナビの「ココデ右ニマガリマス」も、大通りの広がりもわたしの意識には入ってこなかった。また、あのマサカドクンが目の前に現れたので、そうと気づいた。

「こんにちは……」

 ズー……っていう自動ドアの音と同じくらい小さな声で、店に入る。
 入ると、お母さんが言っていたアイドルタイム(休憩と、夜の仕込みをする時間。それがこのお店は三時間もある!)のようだ。
「お、はるかちゃん……やな?」
 と、これがマスター……がっしりした上半身がカウンターの中で、和製ロバート・ミッチャム(わたし、親の趣味でわりと洋画とかにもくわしいんです)の顔をのっけてふりかえった。
 ただし、このロバート・ミッチャム、中年以降のポッチャリしたときのそれ。おまけにポニーテール!?
「母がお世話になっています。ご……坂東はるかです。マスターさんですか?」
「まあ、お座りぃ。お昼は食べたんか?」
 フライ返しをしながら、マスターが背中で聞いた。
「はい、学校で済ませてきました……あの、母は?」
 すると、奥のトイレからジャーゴボゴボと音をさせて、お母さんが出てきた。もともとではあるが色気のないことおびただしい。
「お、はるか。思ったより早かったじゃない」
「初日だもん。でも中味は濃かったよ」
「タキさん。トイレ掃除は、おわり。あとやることあります?」
「ないない、トモちゃんもお昼にしよ」
 
 タキさん、トモちゃん……初日から、もうお友だちかよ。
 ……って、わたしも人のこと言えないけど。
 
「はるかちゃんも、口さみしいやろから、これでも食べとき。それから、オレのことはタキさんでええからな」
 マスター……タキさんは、手早くサンドイッチを作って、オレンジジュ-スといっしょに出してくれた。
そして、タキトモコンビの前には、毛糸にしたら手袋一個と、セーター一着分くらいのパスタが置かれていた。
 想像してみて、セーター一着ほどいた毛糸の量のパスタを!
「お母さん、これ食べたら、教科書と制服いくんだよね?」
「え、ああ、あれね……(この間、パスタをすするタキトモコンビの盛大な音)」
 あ、また忘れたってか……!?
「あれ、行かなくってもいいことになった」
「え、どういうこと(まさか、また学校変われってんじゃないでしょうね)?」
「送ってもらうことにしたから。今夜には家に着くわ」
「だったら言ってよ。そういうときのためのスマホでしょうが! わたし友だちのお誘い断ってきたんだからね!」
「あら、もう友だちできちゃったの!?」
「さすが、トモちゃんの子ぉやなあ……(同、パスタをすする盛大な音)」
「原稿の締め切りせまってるからさあ……」
 
  いつの間にかパソコンを出してキーを叩きだした。
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高校ライトノベル・新 時かける少女・10〈S島奪還・1〉

2019-05-16 06:10:34 | 時かける少女
新 かける少女・10 
〈S島奪還・1〉


 勇猛七烈士!!

 C国のマスコミは、こぞってS島の生き残りの兵士たちを褒め称え、S島の死守に成功したことを宣伝した。

「このままじゃ、S島は、完全にC国に取られてしまう。アメリカは、仲介に入って現状を追認するつもりよ」
 エミーが、電話してきて、奇妙なほど落ち着いた声で言った。
「電話じゃ、分かんないよ。学校で詳しく教えて」
 微妙な間があったあと、エミーが言った。
「そうするわ。それから、この電話は盗聴されてるから。具志堅君でしょ、聞いてるのは。対抗措置とるからね」
 エミーが、そこまで言うとプツンとかすかな音がした。
「学校に行ったら、気を付けて。まだ、敵のスリーパーがいるから。じゃあね」

 一方的に電話が切れた。

 学校に行くと、エミーが来ていなかった。
 あたしは、職員室で念のため、日直であることをいいことに、両隣のクラスの出席簿を確認した。
 C組の具志堅という男子が欠席していた。こいつだ、盗聴していたスリーパーは。

 視線を感じた。

「よそのクラスの出席簿見ちゃダメだろ」
 教務主任の宮里先生に叱られた。
「ちょっとお父さんのことでナーバスになってるのよね。勘違いぐらいはするわよ」
「お前か、小林連隊長の娘は?」
 宮里先生は、蔑みの目であたしを見た。こんなところまで、作戦失敗の責任はお父さんにありと浸透している。マスコミの怖ろしさを感じた。
「宮里先生、この子には関係のない話です。そんな言い方はしないでください」
 音楽の仲間先生が、毅然と宮里先生に言ってくれた。
「急ぎで悪いんだけど、昼からの音楽の時間に使うプリントを配っておいてほしいの、準備室にきてくれる」
「はい」

「失礼します」

 そう言って、音楽準備室に入ると、仲間先生の暖かい眼差しが返ってきた。
「さっきは、どうもありがとうございました」
「いいえ、わたし、ああいう弱い者いじめみたいなことは嫌いだから。じゃ、これ、よろしくね」
「はい」

 プリントの束を受け取って、準備室を出ようとしたら、ドアが開かなかった。

「またか……ここのとこ鍵の具合が悪くてね、音楽室の方から出てくれる」
 仲間先生は、準備室と音楽室を仕切るドアを開けてくれた。
 とたんに突き飛ばされ、あたしはピアノの横に倒れてしまった。一瞬なにが起こったか分からなかったが、仲間先生の顔を見て分かった。今までの優しい先生の顔じゃなかった。

「卑怯なことは嫌いだから、説明してあげる。わたしは宇土麗花の姉よ。妹のカタキと任務を遂行させてもらう」
「先生……スリーパー!?」
「の、リーダーよ。ここであなたには死んでもらう」
「なんで、あたしのお父さんは解任されたわ!」
「いいえ、吾妻愛のお父さんは、まだ現役よ」
「え……」
「だって、あなたのお父さんは総理大臣だもの」
「うそよ、あたしのお母さんはDNA検査でも実の親だったもの」
「お母さんはね……」
「え……」
「小林一佐は、お母さんごとあなたを引き取ったのよ。お父さんと愛は血のつながりはない。知っているのは、ごくわずか。愛は、お父さんのことを悲観して発作的に飛び降り自殺をするの。総理はショックでしょうね……」
 そう言いながら、仲間先生は、静かに音楽室の窓を開け、その一秒後には、あたしを三階の音楽教室の窓から無造作に放り出した。

 仲間先生の悲鳴で、先生や生徒達が集まってきた。

 あたしはあちこちの骨、特に頭蓋骨骨折で「もう、死ぬんだ……」と思った。
「宮里先生が、あんな嫌みなことをおっしゃるから! 小林さん! 愛ちゃん! 死なないで!」
 薄れる意識の中で、血まみれのあたしを抱きしめて涙を流している仲間先生……いや、C国のスリーパーを呪った……。
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高校ライトノベル・時空戦艦カワチ・033『医務室の美花』

2019-05-16 06:02:05 | ノベル2
高校ライトノベル・時空戦艦カワチ・033 
『医務室の美花』



 ツクヨミと激突した時は地獄かと思った。

 十八人の死者と数十人の負傷者が出た。

 幹部を除く乗員は全てガイノイドなので、正確には故障者であり、機能回復不能な者が死者、回復可能な者が負傷者なのだ。
 しかしガイノイドは皮膚と一部のパーツが生体組織で出来ており、医務室と臨時医務室の多目的室に運び込まれてきたガイノイドたちは人間のそれと変わりなかった。
 死んだガイノイドたちも、生体組織は別として、内部のパーツは使えるものが多い。
 半ば機械なので、治療には機関長と砲雷長も手伝ってくれた。
 死亡したガイノイドは人体解剖のように切り開かれる。
「生体組織は美花ちゃんの仕事だ」
「は、はい!」
 頭蓋も体も関節も開く。人体ほどではないけれど、かなりの血が流れる、体幹に関わるところはチタンやファイバーのだが、表情筋などの細かなところは生体筋なので、本当に人体解剖、いや、解体だ。
 開いたボディーは衛生科の科員たちが洗浄し、機関長と砲雷長が点検しながらパーツを外していく。
 メカパーツを外されたボディーは、いわば皮だけのペラペラになる。
 美花は、機関科が持ってきた未使用のウエスを詰めてボディーの形を整えて縫合していく。
「分かったわね、同じようにして、他の子たちも整えてあげて!」
「「「「はい!」」」」
 お手本を示すと、あとは衛生科員たちに任せ、検分と負傷者たちの手当に専念する。

 人体解剖とスクラップ処理を同時にやるようなもので、並の神経では持たない。
 なんとか務まっているのは、インストールされている技術と、もともと看護師志望というメンタルの強さだと額の汗を拭いながら思った。

「メス、交換!」

 生体組織の脂が付くので、三体も解体するとメスが切れなくなる。
 五本目のメスを受け取り十六体目に掛かろうとして、手が停まった。

 ウッ……

 その遺体は、艦長付き従兵のテルミだった。
 カワチに転送されて間がないころ、なにくれとなく声をかけてくれた明るい子だった。
 試験的に並列化を解除し個別化がされていたので、明らかに他の乗員とは違う。
 朗らかな個性は、口の横にエクボに出始めていた。
 従兵になるにあたってヘッドは交換されていたが、エクボは最近できたもので「えへ、なんだか照れますねえ」と言いながら鏡を見て喜んでいた。
 個別化して独自の人格を持つと、こんなにも変化するんだ。

「ごめん、テルミさん……」

 美花は五体目からはやらなくなった合掌をし、顔にハンカチを掛けてからメスを入れた……。

 ……そんなことを思い出しながら乗員の健康診断のプランを考えていた。

 診断項目を考えていると、いつのまにかたこ焼きを頬張っている。
「すっかり好物になっちゃった……考え事してる時は再生たこ焼きがいいかな……でも、航海長、新しいの考えたって言ってたから、それも楽しみだなあ、こうやって好みが変わっていくってのは、これからの長い航海には必要やねえ……」
 
 ギシ

 次のたこ焼に手を伸ばしたところで音がした。
 だれも寝ている者がいないはずのカーテンで囲われたベッドの方だ。
「だれ、だれか居るの?」
 死者には慣れたが、こういうものにはビビってしまう。まだまだ転送前の吉田美花をひきずっている。

 バサ!

 思いっきりの勢いでカーテンを開けた。
「あ……!?」
 胎児のような恰好で横になっていたのは中村清美船務長だ……なぜかアイドルのステージ衣装を身にまとっている。
「船務長……」
 
 そう言ったきり見惚れてしまった。

 中村清美は議員秘書をやる前はれっきとしたアイドルだった。
 憂いを秘めた可愛さがあって男女を問わず人気があったが、美花は、あまり好きではなかった。
 カワチに来てからも、彼女が引きこもっていたこともあって、あまり良い印象は無い。
 飛行長の美樹などは、ツクヨミとの激突は船務長としての任務を清美が怠ったからだとまで言っていた。

 でも、いまベッドで寝ている清美は違う……やや偏見を持っている美花が見ても天使のような可愛さだ。
 中村清美をアイドルとして純化し、3D映像化したらこうなるんじゃないかという魅力にあふれている。

「清美さん……」

 手を伸ばすと、清美は電源が落ちたように消えてしまった。

 そんなことが二度ほどあって、三度目には油を売りに来た砲雷長が居て、いっしょに目撃した。
「ひょっとしたら……」
 砲雷長はタブレットを確認すると「清美を探してくる」と言って医務室を出て行った。

 その砲雷長がオリジナル清美を連れて戻ってくる足音が聞こえてきた……。

 
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