大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・魔法少女マヂカ・022『児玉八音の部屋』

2019-05-07 15:17:56 | 小説

 

魔法少女マヂカ・022  
 
『児玉八音の部屋』 語り手:マヂカ   

 

 

 まるで休眠する前の昭和のようだ。

 

 二坪ほどの三和土(たたき)から式台へ上がるとエンジのスリッパが並んでいて、足をスリッパに収める僅かの間も八音は控えて待ってくれている。坪庭が見える廊下を「く」の字に曲がると階段と奥へ続く廊下とに分かれ、階段を上る八音の後ろに続く。

 潮騒は相変わらずだが、海岸通りを走っていた車の音が止んでいる。二階廊下の片側は縁を隔てるガラス戸が嵌っているのだが、そこから臨む江ノ島は百年ほども前のもののように思えた。

 コンクリートの江ノ島大橋は、桟橋の名が相応しい木製のものに変わっているし、江ノ島のシンボルである展望塔の姿も見えない。

「落ち着いた雰囲気が好きなので、家の中に入ると百年ほど昔にもどるようにしているの」

「とても懐かしいわ」

「マヂカが活躍した時代も、こんな感じでしょ?」

「活躍なんてできなかったけど、精一杯足掻いていたのは、こんな感じ。休眠前は魔法も禁じられて、出撃を前にした特攻隊員にもロクに食べさせてあげることもできなくて、こういう貸席とか待合とかで昼寝をさせてあげて、僅かの微睡みの中で見る夢を飾ってあげるくらいのことだった」

「ふふ、なんか見透かされてるみたい。わたしもたいしたこと出来ないから。相談にのってもらう間の雰囲気くらいね」

 八音が手を振ると、一気に時間が進んで夕暮れの湘南になった。

 海岸通りを懐かし色に染めているのは、どうやらガス灯で。江ノ電の駅までの通りはボンボリのろうそくの明かりだ。

 道行く人たちの半ば以上が下駄か草履で、カラコロと小気味いい音を響かせている。階下の貸席にはお客が入ったようで、複数の部屋から穏やかに談笑の声が漏れ、お客に挨拶したり案内する仲居さんの声や足音。

 そのうちの一つが階段を上がって部屋の前で停まった。

「お嬢様、お茶うけをお持ちしました」

「ありがとう」

 八音が返事をすると、障子が身幅ほどに開いて和装のお仕着せを着た仲居さんがお茶とお茶うけの盆を差し入れ、一礼をして姿を消した。挙措動作が懐かしい。

「昔はこうだったから」

「まあ、シベリア!」

 勧めてくれるお茶うけはシベリアだった。薄いカステラに羊羹を挟んでサンドイッチのようにしつらえたお菓子は七十四年前、特攻隊員たちに所望されても叶えてあげられなかった逸品だ。

「食べながら聞いてね」

「うん」

「じつは、江ノ島の正面、赤い鳥居が見えるでしょ。その鳥居をくぐった向こうの入り口みたいなのが瑞心門」

「ああ、あの竜宮城みたいなの?」

「うん、九百年ほど昔に悪さばっかりするガマを封印したんだけどね、そいつが、わたしの好きを狙っては封印を破って……まあ、九百年もたつんだから、少々のことは目をつぶってやってもと……」

「放置していたら、手が付けられなくなった」

「あ、まあ、そういうとこ。それでね……」

 八音が続けようとすると、スマホが鳴りだした。

「マナーモードにすんの忘れてた。ごめん、マヂカ」

 すまなさそうにウィンクする八音。

 

 とたんに、明治レトロな和室は、六畳フローリングにピンクのカーペットを敷いた今どきの女の子の部屋に変わってしまった。

 

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高校ライトノベル・時空戦艦カワチ・024『衝突した宇宙戦艦』

2019-05-07 06:22:54 | ノベル2
高校ライトノベル・時空戦艦カワチ・024
『衝突した宇宙戦艦』     



 痛む左腕を庇いながら艦橋を目指した。

 中村清美船務長の無事だけは確認した。
 とっさに庇ったので無事である。庇った分だけ艦長への衝撃は大きく、どうやら左腕は骨折している。

 艦内は、けたたましく警報が鳴って――各部被害状況を報告せよ! 艦長至急艦橋へ! 衛生部は負傷者の救助を急げ! 手すきの者は負傷者救助を支援せよ!――副長の千早姫が艦内放送を繰り返している。
 艦橋に着くまでの通路やラッタルでは怪我人でごった返している。中にはあり得ない方向に手足や首がねじ曲がった者もいて衝撃の強さを物語っている。手足はともかく首がねじ曲がった者はダメかもしれない。ガイノイドとはいえ受容できる衝撃には限度がある。

 出くわしたガイノイドたちが情報を並列化させ、艦長の所在と艦内の被害状況を千早に送っていた。

「認識コードのない戦艦が艦首左三十度から激突しました。あれです!」
 
 モニターを確認するまでも無かった、艦首を交点としてT字を作るように宇宙戦艦が重なっている。
「まるでガミラス艦だな……」
 それはカワチのように母体となった艦船の形はしておらず、スペースアニメに出てくるような流線型で、ラグビーボールを細くして各種の装備を付けたような戦艦であった。
「カワチのCPには登録されていません」
「それは銀河宇宙の船ではないという意味だろうか」
「なんとも言えません、カワチのCPといえど、全宇宙の情報を持っているわけではありませんから」
「アナライズ情報は?」
「アナライザー二機とダンジリ一機が捜索中です」
「艦長、治療いたします」
 艦首方向に気を取られていた艦長は、いささかビックリして振り返った。衛生長の吉田美花がメンソレータムのナースのような出で立ちで控えていた。
「おや、かわいい看護婦さんだ」
「ク、クローゼットのアレンジミスです! それよりも怪我を見せてください」
「すまん、大したことはないと思うんだが……」
 右手で庇いながら左腕の関節部を見せた。
「骨折ですね、だれかを庇いました?」
「あ、そんなところだ。固定してもらえたらありがたい」
「痛み止めもしておきます……しかし、乗員の中に艦長に庇ってもらった者はいませんが」
 インストールしたスキルとは言え、衛生長の手当は素早い。
「情報の並列化は一時中断しました、不確定要因が多すぎるので」
「そうね、乗員はアグレッシブな者が多いですから、収拾がつかなくなるかもしれない」
 副長と衛生長の呼吸はうまく合っているようだ。
「ガイノイドだったら情報は上がっているはず……これは人間の乗員をお庇いになったんですね」
「ああ、船務長とたこ焼きを食べている最中だったんでね」
「なるほど……」
 それ以上言わない。衛生長は見かけによらず大人の思考が出来るようだ。
「はい、電子ギブスは見えませんし、痛みは止まってますから、くれぐれも無茶はなさいませんように」
「分かった、ありがとう。で、現状での被害は?」
「現状の怪我人は141名です。目視診断はできていませんが、回復不能者が13名は出そうです」
 さきほど見かけた負傷者が目に浮かんだ、あのうちの何人かは回復不能(死者)になるのだろう。

――艦長、渡辺です――

 飛行長兼飛行隊長の渡辺美樹がモニターに現れた。
「なにか分かったかね?」
「アナライザーの表面探査の暫定結果が出ました」
「いったいどこの艦なんだい」
「艦の構成物質は全て地球起源のものです」
 艦橋のスタッフの視線がモニターに集中した。
「地球の船だというのかい」
「はい、間違いなく地球の船です。ただし……」
「ただし?」

「少なくとも十億年は昔の船と思われます」

「「「「十億年!?」」」」

  並列化を中断して正解だった。十億年前の宇宙戦艦など説明のつけようがないのだ……。
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高校ライトノベル・新 時かける少女・1〈その始まり〉

2019-05-07 06:00:53 | 時かける少女
新 かける少女・1
〈その始まり〉  


 
「じゃ、また明日!」
「アハハ、明日は日曜だよ!」

 そう言いあって三叉路で別れたのが最後の記憶。

 それから、川沿いの道を歩いた。

 いつもとは違っていたような気がする。

 いつもは、もう一本向こうの道まで行って川を渡る。

 少し遠くなるけど、向こうの道が安全なんだ。お喋りも長くできるし。

 でも、その日は、なにか特別なことがあって、少しでも早く帰りたかった。

 川沿いをしばらく行くと、川の中で女の子が溺れているのが目に飛び込んできた。

 この寒さ、この流れの速さ、あたしが助けなければ、その子は確実に死んでいただろう。


 あたしは、パーカーの袖口、裾、首もとを絞った。短時間でも浮力を得るために。スカートは脱いだ。足にまといつくし、水を吸って重くなる。ハーパンを穿いているので恥ずかしくもない。
 川に飛び込むと、冷たいよりも痛かった。胸回りは、パーカーに溜まった空気で幾分暖かい。浮力もある。

「が、がんば……って!」

 口を開けると水が入って来るけど、それでも、なんとか声を掛けると、弱々しいながら、その子は、あたしの方に顔を向けた。
 
 大丈夫、これなら助かる!
 
 そして、川の中程で女の子を掴まえ抱きかかえ、橋桁に掴まった。

「だれかあ、助けて下さい!」

 十回までは覚えている、次第に体温が奪われて意識がもうろうとしてくる。
 
 ああ、ダメかな……そう思って目を閉じかけると、川岸の人影が何か言いながら、スマホで……119番に電話してくれている様子。
 救急車の音がかすかにした……救急隊員の人が、女の子を確保したようだ……。


 で、気づいたら、ここにいた。


 真っ白い空間。
 床はないけどちゃんと立っていられる。
 寒くはなかった。体も無事なよう……。

 でも記憶がなかった。三叉路で曲がったところまでは鮮明に覚えている。でも、だれと別れたのか思い出せない。なんで、あの道を通ったのかも……なにか楽しいことが待っていたような……女の子が溺れていた。  
 あたしは冬の川に飛び込んだ。女の子は助かったよう……でも、あたしは助かったんだろうか……実感がない。

 あたしは……あたし……え? あれ……自分の名前さえ思い出せなかった。

「余計なことをしてくれたな」

 目の前五メートルほどのところに男が現れた。周りの白に溶け込みそうな白い服で、カタチも定かではない。まるで白の中に首と手が出ているようなものだ。
 
「われわれは、積み木細工のように条件を組み合わせ、やっとあの子の命を取るところまできていたんだ。もう二度と、あの子には手が出せない」
「……悪魔なの、あなた?」
「なんとでも呼べばいい。それより下を見ろ」

 男が言うと、白い床が透き通って、はるか下にチューブだらけのあたしが機械に取り巻かれて眠っていた。

「あれ、あたし……」

「そうさ」
「助かったんだ」
「でもな、脳の大半は死んでいる。名前さえ思い出せないだろう……おれたちの仕事をダメにした報いだ」
「やっぱり、死んじゃうの?」
「死ぬより辛い目にあってもらう」
「死ぬより辛い目に……」
「そうとも……これからは、死ぬよりも辛い時の狭間でさまようがいい!」

 恨みの籠もった声でそう言うと、男の姿は消えてしまった。
 文句を言おうと思ったけど、もう、声の出し方も分からなくなってしまった
 
 床の下に見えていたあたしの姿は、どんどん遠くなり、グラリとしたかと思うと上下左右の感覚も無くなった。
 どこかへ上っていくような感じでもあるし、落ちていくような感じでもある。なにがなんだか分からない。

 ……どこかに連れて行かれるんだ。

―― 時の狭間……それって、なに? どこ? あたしは……怖いよ…… ――

 そして体の感覚が無くなり、意識も無くなった。

 
 無くなったことが全ての始まりだった……。

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