大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・時空戦艦カワチ・022『試作のたこ焼』

2019-05-05 06:17:28 | ノベル2
高校ライトノベル・時空戦艦カワチ・022  
『試作のたこ焼』                



 船務長の中村清美は自室にこもったままだ。

 従って船務科の仕事はガイノイドたちだけでやっている。

 船務科はレーダーや無線通信、搭載機の航空管制が仕事で、いわば船の目と耳の役割を担っている。
 高度にシステム化された自衛隊の艦船では重要なセクションで、時空戦艦カワチにおいても同様である。
 しかし、平時の実務はガイノイドで間に合っているので、目立ったトラブルは起こっていない。

 それどころか、人間の科長が試行錯誤をしている他科は細かいトラブルが続き、課業効率が落ちていることは前回においても触れたとおりである。

「フン、なにやってんだか」

 清美はモニターに映る各科のトラブルを鼻で笑いながら一人自室で昼食をとっている。
 田中航海長が炊烹長を兼ねるようになって用済みになったレプリケーターを一台持ち込んでいる。
「たまには士官食堂においでよ、個食ってのは健康によくないよ」
 今朝は炊烹長自ら試作のたこ焼を持ってきてくれたのだが「ジャンク食べたい心境じゃないの」と断った。
「ジャンクだからこそ奥が深いのよ。たこ焼って一駅違えば味も風味も違うんだから……ま、気が向いたら試してみてよ」
 そのたこ焼はサンプルのように固くなってしまっている。

 カワチノ中甲板以下は時空戦艦に相応しい機器と設備がぎっしりだ。

 その中でも最大のスペースを取っているのが格納庫だ。
 格納庫には戦闘爆撃機ダンジリが補用機を含めニ十機配備されている。
 軽空母並みの搭載数だが、ダンジリは略式ではあるがカワチと同じコンゴウ機関を搭載しているので大きさは軽自動車ほどの大きさしかない。兵装は20ミリのクスノ機関砲と7・7ミリのクスノ機関銃、腹の下アダプターが付いていて250キロまでの爆弾やミサイルを搭載できる。
 
 ギュイーーーーーーーーーン

 訓練を終えた十機のダンジリが帰って来た。
 隊長機のイワオコシのキャノピーが開いて飛行服の美樹が颯爽と下りてきた。
「航海長、24シリアルに歪みを感じる」
「今日も?」
「うん、コンマ002程だけどダンジリの速度が落ちる」
「昨日もだったわね、エンジンに異常は無いのよね」
「それは無い、スキャナーだけじゃなく目視でも異常は感知できなかったよ」
「艦長みずからチェックされたんですか?」
「飛行長が飛行隊長を兼ねるほど珍しくはないと思うんだけど」
「え、あ、ま、そうですけど」
 最低の科長のみ人間がやっているので、ちょっと人数が不足している。
「機関長の意見でね、なるべく多くの目で見た方がいいということなんだ」
「船務科に確認しても、レーダーもソナーも感無しやからね、第一に考えられるのはコンゴウ機関の異常やろからね」
「整備でも航路の問題でないとしたら……」
「まあ、マニュアル的解釈だと誤差の範囲なんだけども……」
 納得しようとするが、どこか釈然としない空気が幹部たちの中に立ち込める。

 訓練を兼ねて、日に一度ダンジリ隊がカワチの前方を哨戒しているのだが、決まって艦首前方24シリアル空域でダンジリの速度が落ちているのだ。マニュアル的には誤差の範囲なのだが、幹部一同微妙に気分が悪い。

「ここで悩んでいても整備の邪魔だから、ダイニングに来てよ。新作のたこ焼作ったから」
「どーりでいい匂いだと思った!」
 美姫が女子高生の顔に戻って手を叩いた。

 結論が出ないことを悩んでいても仕方がない。

  頭を切り替えて士官食堂を目指す幹部たちであった。
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高校ライトノベル・時かける少女・89・スタートラック『ミナコ コンプリート・1』

2019-05-05 06:00:31 | エッセー
時かける少女・89スタートラック 
『ミナコ コンプリート・1』  
 





 第3惑星にみとれて、気づくとコクピットのみんなが静止していた。

 バルスは、反重力エンジンのモニターを見つめたまま。
 コスモスは、第3惑星をアナライズしようと、アナライザーを起動させようとしたまま。
 ポチは、第3惑星の姿を見ようとして、背が足りない分、ジャンプしたまま。
 船長は、驚愕の眼差しで第3惑星を見つめたまま。
 ミナホは……立ったまま。だけど、呼吸はしていた。ガイノイドの擬似呼吸ではない自然な呼吸に見えた。

「ミナホ、あなた意識があるの……?」

 数秒遅れて、ミナホは小さく頷いた。
「でも、体が動かない……こんなの初めて」
「他のみんなは、人形みたいにフリーズしている。まともに動けるのは、あたしだけ……?」
「そうみたい。わたしは……」
「動き出した、どこへ行くの?」
「分からない。自分の意志じゃないわ……」

 ミナホは、中央のエレベーターに向かった。

「ミナホ……!」
「ミナコ、あなたも付いてきて……」
「待って、行っちゃだめよ!」
 ミナコは、ミナホの腕を掴もうとしたが、逆に腕を掴まれてしまった。
「ミナホ、どこに行くつもり!?」
「分からない……貨物室のよう……」
 ミナホは、第一層の貨物室のボタンを押した。
「ミナホ、いったい……」
 ミナホは、なにか言おうと唇を動かすが、もう声にはなっていなかった。

 貨物室につくと、驚いた。ハッチが開いている。開いたハッチからは第3惑星が大きく、いっぱいに見えた。船は、惑星の周回軌道を回っているようだった。

「うそ……成層圏なのに空気が漏れない」
 その信じられない状況に驚いている暇は無かった。ミナホがミナコの腕を掴んだまま、ハッチから船外に身を躍らせた。
「ミナホ、死んじゃうよ!」

 二人は手を繋いだムササビのように、成層圏を滑空し、やがて大気圏に突入。当たり前だが、空気との摩擦で熱くなりはじめた。
「あ、熱い……!」

 二人は隕石のように燃えながら、地上に落下していき、地上5000メートルあたりで燃え尽きて消えてしまった。

 あたし流れ星……それがミナコの最後の意識だった。

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