大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・せやさかい・015『中央図書館に行ってきた』

2019-05-09 12:20:05 | ノベル
かい・015
『中央図書館に行ってきた』 

 

 

 電動自転車ある?

 

 部活の終わりに頼子さんが聞く。

「え、電動ですか……はい、あります」

 そう答える留美ちゃんの返事で本堂の脇にある自転車を思い浮かべた。

 引っ越しに際して持ってきたのは普通のママチャリ。お寺の自転車が三台あったと思うねんけど、電動があったかどうかは定かではない。

「えと、電動自転車をどうするんですか?」

「うん、明日から家庭訪問期間で半日授業になるでしょ。放課後半日空いてるから中央図書館に行こうかと思ってるんだ」

「中央図書館?」

「うん、ラッキーなことに、一番近いのが中央図書館なのよ。ほら、ここ」

 壁に掛かったポスターを示す頼子さん。なるほど、仁徳天皇陵の南西角のところに中央図書館が記されてる。

「堺には十三の図書館があるんだけど、うちの学校は中央が一番近いの。中央っていうくらいだから、堺じゃ一番蔵書が多いのよ。ま、文芸部の校外学習ってことで行ってみようかと思うの」

 地図を見るのは苦手やけど、目印が仁徳天皇陵。家からはほんの一キロちょっと。自転車で行ったらあっと言う間。

「なんで電動自転車なんですか?」

「うん、三十号線超えると、ずっと坂道だからさ」

「え、ああ……」

 家から東の景色を思い浮かべる。仁徳天皇陵のすぐ脇……楽勝! 運動神経はイマイチやけど、体力には自信がある。

「だいじょうぶ、変速機付きの自転車やし、余裕で行けます!」

 

 力こぶのガッツポーズで応えると「そっか、じゃ、明日の放課後、いったん帰宅したあと集合ね!」と話しが決まる。

 

 家に帰って本堂脇の自転車をチェック。伯母さんのと思しき自転車が電動だったけど、ま、自分の自転車で十分と判断する。

「さくら、うちに居なくてええのん?」

 家庭訪問のために午後からの半休を取るお母さんが言う。

「なんで?」

「だって、家庭訪問でしょ?」

「親だけでええみたい。それに、菅井先生(さすがに親には菅ちゃんとは言わへん)一回来てはるし」

「あ、そやったね……プフフ」

 納得しながら吹きだすお母さん。菅ちゃんは入学早々わたしに不適切な対応(わたし本人は気にしてないねんけど)したことで学年主任の春日先生と家庭訪問に来てる。

 お母さんも、どこか抜けたトコのある人やけども、会社じゃキャリアのバリバリなそうな。バリバリでもパリパリでもええねんけど、仕事の鬼いうようなとこがあって、めったに仕事は休まへん。そやけど、苗字も変わって新しい環境、わたしの学校に関わることはできるだけ休み取ってでも対応しようとしてくれる。ま、本人も半分以上は息抜きや言うてるから、ええんです。

 

 三十号線に面したコンビニの前で待ち合わせ。

 

 途中で米屋のお婆ちゃんに出会う。

「さくらちゃん、お出かけかあ?」

「うん、図書館行くんで先輩らとコンビニ前で待ち合わせ」

「ああ、十三号線のとこのやなあ」

「あ、三十号線」

「せや、十三号線やなあ」

 ボケてはるんやろか。訂正しまくっても年寄り傷つけるだけやから、ええかげんな微笑み浮かべて「ほんならあ」と、別れる。

 

 ほとんど同時にコンビニ前に姿を現した留美ちゃんと頼子さん。なんでか、背中に空と思われるでっかいリュック。

 コンビニで水分補給用のペットボトルを買って出発。

 十分ちょっとで図書館に着いた。

 着いたんやけど……坂道をナメテましたあああ(*_*)!

 三十号線を超えたとたんに坂道。見た目にはほんのちょっとの勾配やねんけど。これが、けっこうきつい。特に、もうちょっとで図書館やいうとこで勾配がハンパやなくなってきて、着いた時には、わたし一人がヘゲヘゲで図書館前の自販機で、もう一本ペットボトルを買うハメになってしもた。

「だいじょうぶ?」

「アハハ、だいじょぶだいじょぶ……(^_^;)」

 館内に入ったら冷房……効いてないんで(なんせ、まだ五月になって間がない)涼んでから館内を探検。

 頼子さんの勢いが伝染して三冊も本を借りる。ちなみに頼子さんも留美ちゃんも六冊ずつ。リュックを背たろうてきた意味が分かった。

 

 家に帰って、暇してるお祖父ちゃんに捕まる。一日のあれこれを釣鐘饅頭食べながら話す。ま、居候の身、祖父さん孝行です。

 で、話してると、待ち合わせしたコンビニの前の道のことで、また混乱。わたしが三十号線や言うのにお祖父ちゃんは十三号線。この界隈はボケ老人菌が蔓延してるんかいな!?

 なんでか、地元では三十号線のことを十三号線と呼ぶそうな。

 お祖父ちゃんは、分かりやすうに説明してくれたけど、半分寝てたんで、よう覚えてません。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公 安泰中学一年 
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主
  • 酒井 詩        さくらの従姉 聖真理愛女学院高校二年生
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母
  • 榊原留美        さくらの同級生
  • 夕陽丘・スミス・頼子  文芸部部長
  • 瀬田と田中       クラスメート
  • 菅井先生        担任
  • 春日先生        学年主任
  • 米屋のお婆ちゃん

 

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高校ライトノベル・時空戦艦カワチ・026『冷えたたこ焼き』

2019-05-09 06:31:10 | ノベル2
高校ライトノベル・時空戦艦カワチ・026
『冷えたたこ焼き』


 
 またたこ焼きだ

 我ながら芸が無いが気は心だと思う。

 航海長のたこ焼は、瞬くうちに艦内の名物になった。
 元は海自の女性隊員だったが、その何倍も長く学校食堂のオバチャンをやっているので、人に喜んで食べてもらうと調子に乗ってしまう。また、たくさん作るのに慣れても居る。

 小林艦長は、艦内が和気あいあいと弾んでいるのが嬉しいし、たこ焼は子どものころからの好物でもある。

 ツクヨミとの衝突で18人の犠牲者が出た。
 艦長付き従兵として他の乗員より早く個性化が進んでいたテルミ一士も犠牲になった。
 乗員はガイノイドなので人間的な意味での死亡ではないが、CP、特にメモリーが回復不能なまでに壊れてしまっては仕方がない。
 交換可能なパーツを外され外郭の生体組織だけにされた抜け殻がシュラフに入れられて宇宙葬にされた。
 十八個のシュラフは慣性が付いているので、舷側から宇宙空間に放たれても、なかなかカワチからは離れない。
 海葬の経験はある艦長だが、このいつまでも艦から離れようとしないシュラフには往生した。

 沈んだ艦内を少しでも明るくしようと航海長も烹炊所で奮闘した。その結果が艦長の土産になっている。

「予測は不可能だったと思ってるよ」
 中村清美船務長に切りだして一時間……いや二時間がたってしまった。

 飛行長兼飛行隊長の美樹が哨戒飛行の途中、艦首前方24シリアルのところで極小の歪を感じて報告してくれていた。
 歪の数値が誤差の範囲なので継続調査ということにしていたが、いま思うと、あれが時空の裂け目で、そこからツクヨミが出現したのかもしれない。解析中ではあるが、艦内の噂は、その方向に傾斜しつつあった。

「あれは、わたしの責任じゃありませんから!」

 清美は繰り返したが、繰り返しているということが、清美自身とても気にしていることの現れだろう。
 どうでもいい話題はとうに品切れになり、二人の間のは気まずい沈黙が支配した。
「嫌いなんです……冷めたたこ焼きの臭いって」
「あ、たしかにな」
 自分の好物であり評判のいいたこ焼きなので、三回目になる訪問にも持ってきてしまったのだ。
 改めて鼻を利かすと、もたれるような油やショウガ、つまりたこ焼きの臭いが立ち込めている。
「すまん」
 艦長は、残ったたこ焼きにラップをかけると、あたりを見回した。
「ちょっと洗面を借りるよ」
 洗面に向かうと、艦長は不自由な左腕を庇いながら濡れタオルを絞った。
「なにをするんですか?」
「こいつを部屋中でたなびかせると臭いの分子を吸着してくれる。空気清浄機を使うよりも即効性があるんだ」
 長年自衛隊で暮らして身に付いたテクニックだ。

「わたしって、冷え切ったたこ焼きみたいなもんです」

 臭い消しで解れかかった空気が、また萎んでいく。
「時空戦艦だとか、大阪の復権が世界を救うとか、X国が飛ばしたミサイルに核弾頭が付いているとか、そんなのは信じません」
「清美くん」
「こんな船に乗せられて、そんなの信じません。みんなフェイクです、ネトウヨよりもぶっ飛んだたわごとです!」
「できるものなら、君の日常に帰してあげたいが、変えるべき平穏な日本は、この遠征を無事に終えなければ取り戻せないんだ」
「そんなの……」
「じゃ、君にとって確かなことってなんなんだろう?」
「事故の事はリアルです、艦長が庇ってくれて、這いずりだした廊下で見えたものはフェイクじゃありませんでした」
 十八人の犠牲者が出た、あの艦内の惨状だけは疑いようがないのだ。
 自分の責任ではないと叫びながら、逆に胸は締め付けられている様子だ。

「冷え切ったたこ焼きです……誰も手を出しません」

 もうお手上げ……そう思った時キャビンのドアが開いて航海長が入って来た。
 
  
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高校ライトノベル・新 時かける少女・3〈長崎港のトラブル〉

2019-05-09 06:21:57 | 時かける少女
新 かける少女・3
〈長崎港のトラブル〉 


 

「え、今からですか?」

 運転手さんの声が、ここまで聞こえた。
 
 助手のオネエサンと、なにやら話した後、運転手さんは、待合いにいたあたしたちに済まなさそうな顔でやってきた。
「すみません。会社からの指示で、ここで失礼します。どうも、急にドライバーの手が足りなくなったみたいで。助手の宇土は残します。宇土もトラックの運転はできますのでご心配なく。那覇についたら現地のドライバーが付きます」
 
 間もなく会社のトラックがやってきて、運転手さんを拾っていった。
 
「人数ギリギリでやってるもんですから、三件も急ぎの仕事が入ると、人のやりくりがつかなくって。申し訳ありません」

 宇土さんは、会社を代表するように頭を下げた。

「そうだ、お母さん。あたしたち二等の四人部屋でしょ。一つベッド空いてるから宇土さんに入ってもらったら!」
「そんな、あたしは仕事で乗っているんですから三等でけっこうです」
 
 宇土さんは、遠慮したが、あたしは、構わずに話を進めた。
 
「三人で使おうが、四人で使おうが料金は変わりないんだから、ね、そうしましょうよ。あたしと宇土さんで二段ベッド一つ使うわ。いいでしょ?」
「一泊だけど、船旅。仲間が多い方が楽しいわ。宇土さん、そうしてよ」
 
 お母さんも宇土さんの人柄が気に入ったようで、積極的に賛成してくれた。

「じゃ、お言葉に甘えてご一緒させていただきます。ありがとうございます」

 フェリーの出航時間までには一時間近くある。
 
 宇土さんは、さっさとトラックをフェリーに入れると、待合いに戻って、あたしたちにいろいろ案内や説明をしてくれた。沖縄のことにも詳しく、官舎がある街のことを、タブレットを出していろいろ説明してくれる。街の学校や子供たちのことも、面白可笑しく話してくれて、人見知りの弟に気を遣ってくれているのが分かる。
 
「宇土さん、ひょっとしてだけど、元自衛官じゃない?」
 
 お母さんが、イタズラっぽく聞いた。
 
「え……あ、分かりました?」
「匂いがね……自衛官の女房を二十年もやってりゃ、勘が働くわ」
「ハハ、伊丹の第三師団の施設科にいました。ブルドーザーもダンプも動かせます」
「へえ、施設科なの。人当たりがいいから、広報かと思っちゃった」
「鋭いですね奥さん。調子のいいのをみこまれて、展示などでは、よくMCをやらされました」
 
 あたしたちは、さらに宇土さんに親しみを感じた。

 それは乗船十分ほど前に起こった。

「おーい、人が落ちたぞ!」

 声がして、埠頭にいってみると、埠頭近くの海面を、女の子が浮き沈みしているのが目に入った。
 直ぐに埠頭やフェリーから浮き輪が投げられた。
 その子は、真冬の海をものともせずに、救助に向かったボートまで泳ぎ、自分の力でボートに乗り込んだ。
 
「あの、女の人、お姉ちゃんに、そっくりだ……」
 
 弟の進が呟いた。

 確かに、ボートに乗り込んだ女の子は、あたしと同じサロペットのジーンズにポニーテール。ジャケットの色も、あたしと同じだった。ただ、発するオーラは違った。まるでトライアスロンの選手のような闘志を感じた。
 
 毛布にくるまれて、桟橋に上がると、救助の人たちに取り巻かれるようにして、あたしたちの前を通っていった。ぐしょぬれだけど、ショックを受けた様子ではなく、なにか……。
 
「あの人、怒ったときのお姉ちゃんそっくりだ」
 
 進が呟いたあと、救急車のサイレンがした。

 で、あたしのそっくりさんは、救急車が到着すると、救急車の到着前に急スピードで横付けしたセダンに飛び乗ってさっさと、行ってしまった……。
 

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