部活にお茶は欠かせません。
いっつもダージリンとかなんちゃらの紅茶。
味覚が子どもなんで、スティック一本の砂糖をいれます。それが、今日は入れませ~ん。
なんちゅうても、目の前に因島の八朔ゼリーともみじ饅頭があるから。
「キーホルダーとかもあったんだけど、カバンとかにつけられないしね」
校則で、カバンにチャラチャラ付けるのは禁止されてる。むろん厳しい禁止ではなくて、常識的に一つ二つ付けてるのは言われへんねんけど。
「美味しいもの食べて、お喋りしてるほうがいいもんね」
というわけで、頼子さんの修学旅行のお土産を広げてお茶してるというわけ。
「文芸部でよかったですぅ」
留美ちゃんが小さく喜ぶ。小さくいうのは感激が薄いわけやない。留美ちゃんは、こういう感情表現をする子なんです。
「せやね、教室でやったら、お茶まで出してはでけへんもんね」
「八朔ゼリー、おいしいです」
「ほんとは、夏蜜柑丸漬 (なつみかんまるづけ)を買いたかったんだけど、萩でしか売ってないんで、それは、また今度ね」
修学旅行のコースに萩は入ってない。行ったことないけど、文芸部の三人で行けたらええなあと思う。
「デバガメ捕まえたってほんとうですか?」
「頼子さん、カメ捕まえたんですか?」
「あ、うん、お風呂場で」
わたしは、風呂場に迷い込んできた亀を思い浮かべてる。
「その、亀じゃないよ」
「え?」
「覗きだよ。お風呂場覗いてた男子捕まえたって……」
「湯船に浸かってると、窓がカタカタいうのよ。直観でうちの男子。いっしょに入ってる子たちには先に出てもらってね、思いっきりよく窓を開けてやったの」
「あ、開けたんですか!?」
「こういうのは、明るく景気よくやらなきゃ後味悪いからね」
「開けて、どうなったんですか!?」
「いっしゅん目が合ってね。手にスマホ持ってたから、思わず手を掴まえた」
「『キャーーー』とか『痴漢っ!』とか?」
「叫んだよ」
そうだろ、こういう時、女子は叫ぶ!
「相手がね。で、ものはずみで、そいつは湯船の中に落ちて来てね、もう大騒ぎ。私は、騒ぎにするつもりはなかったんだ。でも、そいつが叫んで、バッシャバシャ音立てるし。すぐに先生が飛んできて……」
「犯人は、だれだったんですか!?」
女の敵許すまじ!
「アハハ、気が動転してて忘れちゃった」
これは、嘘だ。バッチリ見たはずなのに庇ってるんや。
「スマホは湯船の中に落ちてオシャカになったしね。いやいや、咄嗟のことって、やっぱ、抜けちゃうんだね」
いやはや、女豪傑や。
そして、下校時間いっぱいまで喋って、校門を出る。
ここのところ聞き慣れた、元気のいい廃品回収の車が一つ向こうの通りをいく。
「ああ、来週は市長選挙だねえ」「ですね」
頼子さんが呟き、留美ちゃんが合わせる。
選挙とかに関心のないわたしは、それが選挙カーやいうのに気ぃついてなかった(^_^;)。
ポーカーフェイスしといたけど、頼子さんが、あたしのほう見てクスリと笑う。
ほんま、頼子さんはかないません。
☆・・主な登場人物・・☆
- 酒井 さくら この物語の主人公 安泰中学一年
- 酒井 歌 さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。
- 酒井 諦観 さくらの祖父 如来寺の隠居
- 酒井 諦一 さくらの従兄 如来寺の新米坊主
- 酒井 詩 さくらの従姉 聖真理愛女学院高校二年生
- 酒井 美保 さくらの義理の伯母 諦一 詩の母
- 榊原留美 さくらの同級生
- 夕陽丘・スミス・頼子 文芸部部長
- 瀬田と田中 クラスメート
- 菅井先生 担任
- 春日先生 学年主任
- 米屋のお婆ちゃん