大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・せやさかい・017『頼子さんのノーパソ』

2019-05-17 14:02:56 | ノベル
かい・017
『頼子さんのノーパソ』 

 

 

 どう思う?

 そう言って頼子さんはノーパソをうちらに向けた。
 
 あ、ノーパソね! ノーパソ!
 
 けっしてノーパンのお尻を向けてきたわけやない! ねんのため(^_^;)。
 
 学校にも生徒が触れるパソコンはあるねんけど、いろいろ制約があったり先生の目があったりするんで、私物のんを持ち込んでる。A4サイズでキーボードのとこを離すと厚さ五ミリほどのタブレットになるという優れもん。
 その画面にはブレザー型の制服を着た二人の少年が映ってる。
「こっちは女子なんだよ」
「「え!?」」
 留美ちゃんといっしょに声をあげてしもた。
 おちついて見るH県のF中学の新デザイン制服とある。女子の制服を選択式にして、いろんな事情からスカートが嫌な女子には、男子と同じズボンの着用を認めるということらしい。
「いろんな理由て、どんなんですか?」
「LGBT」
「エ、エルジー?」
「性同一性障害とかだよ」
 一瞬?やけど、すぐに思いついた。小学校の集会で先生が言うてた。
 
――人によっては体の性と心の性が一致しないで苦しんでる人が居てる。だから、見かけが女っぽいとか男っぽいとかで冷やかしたりしてはいけません――というようなこと。
 
 たぶん、ナヨナヨしてていじめられてた男子がおって、その子に関しての注意やったと記憶してる。
 
「頼子さんは、どう思うんですか?」
「先に言ったら二人とも影響されちゃうでしょ、まずは、さくらちゃんと留美ちゃんの感想を聞きたいなあ」
「うーーーーーん」
 わたしは腕を組んでしまうが、留美ちゃんはキッパリ言う。
「女子は、やっぱりスカートです」
「どうして?」
 あ、今の頼子さんの聞き方ステキ! やわらかくって、相手への興味と愛情が溢れてる! それにつられてか留美ちゃんはスルスルと答える。
「中高生の女子の制服というのは体の線を隠すようにできてます。セーラー服にしてもブレザーにしても上着にはほとんどタックが入っていなくて……」
「タック?」
「胸の下の絞り込みだよ、写真の制服にも小さいのが……」
「あ……これか?」
 ものを知らないわたしは不思議に思う。
「制服と言うのは、タックが無いか小さくとることでバストとウェストの差を感じさせないように出来てます。スカートもヒップや太もものラインを隠すように出来ていて、思春期の女子には一番いいと思うんです」
「なるほど、パンツルックじゃ、そうはいかないという意味ね」
「はい、一見ボーイッシュとかマニッシュに見えるかもしれませんけど、この……」
 そこまで言うて、留美ちゃんは言いよどんでしまう。
「わたしが続けていい?」
「あ……はい」
「百聞は一見に如かずだね、ちょっと待ってて」
 そう言うと、頼子さんは書架の向こうに行ってガサゴソしだした。
 
 ん……?
 
 二人で疑問符を浮かべていると「ジャジャーーン!」とエフェクト付きで出てきた……その姿は男子の制服やった!
「ウワーーー!」
 第一印象は――カッコええ!――ですわ。なんちゅうか宝塚いうか、アイドルの男装と言うか。とにかくイカシテル!
「それはね、わたしには恥じらいも抵抗もないからよ」
 見透かしたように言う頼子さんは、さらにカッコええ!
「こうやったらどう?」
  頼子さんはブレザーを脱いでポーズを作った。ズボンなんでウエストが絞られて体の線が際立つ。頼子さんは中三とは思えんくらいのナイスバディー。あの胸はCはあるやろなあ……と思てると、留美ちゃんは俯いてる。
「そうだよね、留美ちゃんは、こういうの苦手なんだよね。直ぐに着替えるから写真撮ってくれる?」
 頼子さんに言われるままに数枚の写真を撮る。
 
 一分もかからずに戻ってきた頼子さんは、もとの女子制服。
 
「ほら、こうやってしゃがんだり、腰かけてるのを後ろから見ると、ズボンというのは意外にボディーラインが出てしまうんだよね、ノビしたりするとバストも強調されてしまう。むろん上着着てたら、それほどじゃないんだけど、上着着てる期間て半年もないからね。こういうの着るのも見るのもイヤって女子はいるわよ」
 留美ちゃんが小さく頷いた。
「こういうの、ジェンダーフリーって言うんですよね」
「うん、そう。わたしは嫌いだ、ね?」
「はい」
「長い歴史の中でできあがった形とかスタイルとかは意味があると思うんだ。軽々と崩して良いもんじゃないと思う。それに、よーく見て」
 頼子さんは再びノーパソの画面を示した。
「気が付かない?」
「よく見たら、この女子かわいいです!」
 下敷きで首から下を隠してみる。
「う~ん、さくらちゃんの次くらいには可愛いかなあ」
「あ、いやいや、あたしなんか(^_^;)」
「さくらちゃんて可愛いわよ。ね?」
「はい!」
「あ、もーいいですから💦」
「注目してほしいのは首の下」
「?」
「あ?」
「留美ちゃんは分かったみたいね」
「はい、前身ごろの打合せが女子のままです」
 打合せ?
「女子の服はね、右の前身ごろが前にくるのよ」
 言われて自分のを確認する……なるほど、その通りや。
「でもね、男子は逆なんだ」
 なるほど、画面を見るとその通りだ。
「なんで、逆だか分かる?」
 自分でボタンを掛けたり外したりしてみる。男子のブレザーを手に取ってやってみる……ちょっと違和感。男物なんて着たことないもんね。
 
「脱がせやすいからよ」
 
「「え!?」」
 そ、そーゆー意味だったのか!
「アハハ、それ、考えすぎだから」
「なんでですか?」
「むかし、欧米の上流階級の女性って、召使にお召し替えさせてたのね。つまり召使が着せたり脱がせたりしやすいように右が前になったのよ。けして、さくらちゃんが妄想したようなことが理由じゃないから」
「アハ、アハハハハ(;^_^A」
「もし、ジェンダーフリーって言うのなら、この打合せから変えなくちゃね。女は着せ替え人形じゃないんだから」
「そ、そうですね」
 大きく頷く留美ちゃん。
「それにね、この記事の下の方読んでみて」
「「どれどれ」」
 読んでびっくりした。男子のスカート着用も認める……とあった!
 
 気色悪いやろ、男のスカートはあ!
 
 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公 安泰中学一年 
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主
  • 酒井 詩        さくらの従姉 聖真理愛女学院高校二年生
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母
  • 榊原留美        さくらの同級生
  • 夕陽丘・スミス・頼子  文芸部部長
  • 瀬田と田中       クラスメート
  • 菅井先生        担任
  • 春日先生        学年主任
  • 米屋のお婆ちゃん

 

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高校ライトノベル・時空戦艦カワチ・034『もう一人の清美・1』

2019-05-17 06:52:46 | ノベル2
高校ライトノベル・時空戦艦カワチ・034
『もう一人の清美・1』




 一秒にも満たなかったが十分だ。

 医務室のベッドに寝ていたのは中村清美船務長。

 いや、正しくはアイドルをやっていたころの清美だ。
「わたしじゃない!」
 目の当たりにしたが、清美は腕をブンブン振って否定した。
 たった今までアイドル姿の清美が寝ていたベッドの上で振るので、シーツや毛布がクシャクシャになってしまった。
 二度とそんなものが現れないように、どこかの異世界と繋がりを断ち切ろうとするような激しさだ。
「その激しさは、かえって認めているようなもんだよ」
「だって、だって、違うんだもん! ぜんぜん違うんだもん!」
 気ぜわしい過呼吸のまま、清美は砲雷長に掴みかかった。
「落ち着くんだ!」
「ウワーーー!」
「ごめん、清美さん!」

 プシュッと音がして清美は砲雷長に抱き付くようにして気を失ってしまった。

「あ、無針注射か……」
「しばらく起きません、ベッドに寝かせて」
 砲雷長は隣のベッドに清美を横たえた。

「やっぱり別物なんでしょうか……」

 清美の様態を確認し、コーヒーメーカーのスイッチを入れながら美花はため息をついた。
「ひょっとして……あった」
 砲雷長はアイドルの清美が寝ていたベッドから髪の毛を拾い上げた。
「あ、それで分かりますね!」
 寝ている清美からも髪の毛を一本取って、メディカルアナライザーにかけた。

 二杯目のコーヒーで結果が出た。

「……どちらも清美さんです、DNAが一致します」
「どういうことなんだ……」
「でも、顕著な違いが……アイドルの方は、とても健康的な毛髪ですけど、そっちの清美さんはとてもくたびれています」
「毛髪の情報で3Dに復元できないかなあ」
「待ってください……」
 衛生長を務めるだけのスキルはインストールされているが、全ての機器を操作できるわけではないようだ。
「俺がやってみるよ」
 さすがはゲームクリエイター、こういう映像解析系の機器はお手の物のようだ。
 モニターに滲みだすように清美の全身像が現れ始めた。
「あ、ヤバイ……」
「あ、そういう目的の為じゃないからいいんじゃないですか」
「い、いや、しかし……(;'∀')」
「ハハ、なんだかおかしい(*´∀`*)」

 砲雷長は汗をかきながら画像に局部的なボカシを入れた。

「きれいな体です……シミもシワもクスミもありませんね」
 美花はジョイスティックを使ってアイドル清美の3Dをグリグリ回した。
「ちょっと目をつぶっていてください」
 かけられたボカシも外し、衛生長らしくくまなくチェック。
「あ、もういいですよ」
「もう一人の清美くんが現れたということなのかい?」
「そうとしか考えられません……でも、ありえないんです。見てください」
 クリックすると、もう一つのモニターに現れた。
「リアル清美さんの3Dです」
「あ、ボカシボカシ!」
「めんどくさいなあ」
 画像にボカシがかかる。
「ほら、リアルの方はシンメトリーじゃないでしょ、うっすらとクスミとかもあるし……髪もお肌も荒れ気味、オッパイとかも……どうかしましたか、砲雷長?」

 砲雷長は鼻を押えて天井の方を向いていた。

「あ、鼻血……」
 
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高校ライトノベル・新 時かける少女・11〈S島奪還・2〉

2019-05-17 06:35:40 | 時かける少女
新 かける少女・11  〈S島奪還・2〉


 あたしの後に救急患者が運ばれた。

 あたしは瀕死の重傷だったけど、とぎれとぎれに視覚と聴覚は戻っていた。
 患者は、具志堅君だった。具志堅君は、その場で死亡が確認された。声で仲間先生が来ているのが分かった。一瞬とどめを刺されるんじゃないかと思ったけど、すぐに気配が消えた。具志堅君をやったのはエミーたちだろう。で、仲間先生は身の危険を感じてフケた。

 そのころお父さんは、S島から帰還した牛島一尉ら四名と決死のコマンド部隊を作った。

 むろん、お父さんには指揮権など無い。かろうじて自衛隊員の身分を保っている。
 状況に大きな変化が起こる前にS島を奪還しようというのだ。裏ではエミーたちのアメリカのエージェントが関わっている。
 今のアメリカには正面だってC国と争う姿勢はない。でも、現状に危機を感じている者も少なからずいる。米軍は、秘密裏にお父さん達を援助した。

 C国は、S島の支配を完全にするために、一個大隊の派遣を決めている。奪還するのは、この24時間しかないだろう。

 米軍は、故意に軍事衛星の制御を不能にし、ジャミングをかけ続けた。その間に、お父さん達五人のコマンドは、自衛隊機に擬装した米軍のオスプレイから、パラシュートでS島の東海岸に降下した。米軍は、島の西側に絶えず照明弾を落とし、島の7名の残存部隊を牽制した。米軍としては、戦闘行為ギリギリの行動で、C国政府も抗議していた。C国政府は、島に接近する米軍機に、島から威嚇射撃することを認めた。そして、本当に携帯型の地対空ミサイルを撃ってきた。お父さん達は、その隙間を狙って、降下したのだった。

 勝負は三十分でついた。

 お父さん達五名のコマンドは、全員二回以上のレンジャー訓練を受けたベテランたちで、牛島一尉ら四名は、つい二十時間前に、ここで戦って、敵のクセを把握していた。
 島には、日本とC国の戦死者の死体が、まだ、そのままにされていた。お父さん達は、その戦死者達に紛れて、S島の残存部隊に接近した。
 C国の七人は、まだ息のある味方の負傷者を周囲に集め、その気配に隠れていた。

 敵の七人は、瞬時に五人が即死。二人が捕虜になった。

 そして、島に奪還を示す日章旗が掲げられ、待機していた米軍が撮影。その動画は、二分後に動画サイトに投稿され、世論も瞬時に変わった。

――自衛隊5人のコマンド、S島を奪還――
――凄惨な戦場!――

 キャプションが付いた動画は、サイトの暗号化に成功していたG社によって、C国国内にも流れた。
 島に生き残っていたC国の七人は、負傷していた自衛隊員に残虐にもとどめをさしていた。明らかに戦時国際法や交戦規定に違反していた。日本人を本気で怒らせたことはもちろん、アメリカの世論も日本に味方し、安保条約の規定通り出撃し、S島を目指していた、C国の一個大隊の半数を輸送機ごと撃破した。

「わたしたちは命令に反して出撃しました。シビリアンコントロールに反する行為です。責任をとって、辞職いたします」
 お父さん達五人は、部隊章、階級章をむしり取り、自ら武装解除した。

 国民の世論は、圧倒的にお父さん達を支持し、最初の無理解な命令を出した政府を非難した。
「なぜ話し合いをしなかったのか!?」
 そう報じたA新聞は、その日のうちに百万人の購読者を失った。

 あたしは、この状況を夢として見ていた。もう助からないなと、自分でも思った。

 お母さんが、一睡もしないで付き添ってくれた。
 最後に目に入ったのは、涙でボロボロになったエミーの顔だった。
 お父さんが駆けつけてきたときには、あたしは天井のあたりから眺めていた。

 ああ、幽体離脱したんだ……。

 そう思った瞬間、あたしは時間の渦に巻き込まれていった。小林愛としての人生が終わり、別の人間として、また時空をさまよう。時かける少女なんだ。

 あたしは……。
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高校ライトノベル・『はるか 真田山学院高校演劇部物語・07』

2019-05-17 06:26:56 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
はるか 真田山学院高校演劇部物語・07 



『第一章 ホンワカはるかの再出発・7・副業』        


 ちょっと説明。

 目の前で、アッケラカンとパソコンを叩いている坂東友子。つまり、わたしの母は、つい一週間前に離婚をしたばかり。
 一週間前までは伍代友子だった。
 離婚の理由はややこしすぎるというか、長年夫婦の間に蓄積されてきたものだから、説明不能。
 でも、離婚に踏み切れた訳の一つがこのパソコンであることは確か。
 わたしが、まだお母さんのお腹の中にいたころに暇にまかせて書いた小説モドキが、ちょっとした文学賞をとっちゃって、以来、この人は作家のはしくれ。

 ほんとハシクレ。

「ハシっこのほうで、クレかかってるんだよね」
 そう言って、怖い目で見られたことがある。
 だって、本書きたって年に二百万くらいしか収入がないんだもん。
 最初はよかった。
 だって、お父さんはIT関連の会社を経営していて、お家だって成城にあって、住み込みのお手伝いさんなんかもいたし……。
 でも、わたしが五歳のときに会社潰れちゃった。
 で、お父さんは実家の印刷会社の専務……っても、従業員三人の町工場。
 でも、それもよかった……いや、そのへんからかなあ。お母さんが稼ぐ二百万が、我が家にとって無視できない収入源になってきて……あとは、世間によくある夫婦の間のギスギス。
 で、かくして夫婦仲の限界は、先週臨界点を超えてしまい、きっちり四十五分で決裂。
 なんで四十五分って分かるかというと、大河ドラマの録画したのを、わたしが自分の六畳に見にいったときに始まり。終わってリビングにもどってみると、「ようくわかったわ。はるか、明日この家出るから、寝る前に用意しときなさい」……だったから。

 最後の夫婦げんかは、明日の天気予報を確認するように粛々と終わっていた。

 わたしも子どもじゃないから、ヤバイなあ……くらいの認識はあったんだけど、そんな簡単に飛躍するとは思っていなかった。
 お母さんが飛躍しちゃったのは(本人は、当然の結果だと思っているようだけど)この二百万円……でも、これじゃ、母子二人は食べていけないから、で、友だちの紹介でパートに出たわけ。

 でも、まさか大阪までパートに来るとはね……。

 作家というのは意表をつくものなんですなあ、御同輩……って、タキさんもなんか書いてる!?
「ああ、これか……おっちゃんも、お母さんと同業……かな」
「タキさんは、映画評論だもん。ちょっと畑がちがう……」
 カシャカシャカシャと、ブラインドタッチ。
「せやけど……それだけでは食えんという点ではいっしょやなあ……」
 シャカ、シャカ……と、老眼鏡に、原稿用紙……アナログだぁ!
「おれは、どうも電算機ちゅうもんは性に合わんのでなあ」
 ロバート・ミッチャムはポニーテールってか、チョンマゲをきりりと締め直した。

 店を見回すと、壁のあちこちに映画のポスターやら、タキさん自筆のコメント。
 さらにたまげたことには、ふりかえったカウンター席の後ろの壁は、常連さんに混じって、わたしでも知っているタレントさんや役者さんのサインやコメントで埋まっていた。

「へー、すごいんだ。これ壁ごとお宝ですね!」
「店たたむときは、これだけで、不動産価値があがる」
「タキさんて、えらいんだ!」
「身体がなぁ、もうアラ還やさかい、あちこちガタがきとる」
「そんな、ご謙遜。こんなに有名人のサインがあるのに」
「近所にラジオの放送局があるんでなあ、スタッフがゲスト呼んだときに連れてきよる」
「そうなんだ」
「この店やったら、安いさかいなあ……ところで、はるか、学校はどないやった? もう友だちはできたみたいやけど……」
 百年の付き合いのような気安さで、タキさんが聞いた。
「うーん……ボロっちくって、暗い感じ。でも人間はおもしろそう。今日会ったかぎりではね」
「どんな風にボロっちかった?」
 原稿用紙を繰りながら、横目でタキさん。
「了見の狭い年寄りって感じ。ほら、こめかみに血管浮かせて、苦虫つぶしたみたいな」
「ハハハ、ええ表現や。たしか真田山やったな?」
「あ、わたし演劇部に連れてかれちゃった」
 「え、はるか、演劇部に入んの!?」
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