せやさかい・017
『頼子さんのノーパソ』 

どう思う?
そう言って頼子さんはノーパソをうちらに向けた。
あ、ノーパソね! ノーパソ!
けっしてノーパンのお尻を向けてきたわけやない! ねんのため(^_^;)。
学校にも生徒が触れるパソコンはあるねんけど、いろいろ制約があったり先生の目があったりするんで、私物のんを持ち込んでる。A4サイズでキーボードのとこを離すと厚さ五ミリほどのタブレットになるという優れもん。
その画面にはブレザー型の制服を着た二人の少年が映ってる。
「こっちは女子なんだよ」
「「え!?」」
留美ちゃんといっしょに声をあげてしもた。
おちついて見るH県のF中学の新デザイン制服とある。女子の制服を選択式にして、いろんな事情からスカートが嫌な女子には、男子と同じズボンの着用を認めるということらしい。
「いろんな理由て、どんなんですか?」
「LGBT」
「エ、エルジー?」
「性同一性障害とかだよ」
一瞬?やけど、すぐに思いついた。小学校の集会で先生が言うてた。
――人によっては体の性と心の性が一致しないで苦しんでる人が居てる。だから、見かけが女っぽいとか男っぽいとかで冷やかしたりしてはいけません――というようなこと。
たぶん、ナヨナヨしてていじめられてた男子がおって、その子に関しての注意やったと記憶してる。
「頼子さんは、どう思うんですか?」
「先に言ったら二人とも影響されちゃうでしょ、まずは、さくらちゃんと留美ちゃんの感想を聞きたいなあ」
「うーーーーーん」
わたしは腕を組んでしまうが、留美ちゃんはキッパリ言う。
「女子は、やっぱりスカートです」
「どうして?」
「どうして?」
あ、今の頼子さんの聞き方ステキ! やわらかくって、相手への興味と愛情が溢れてる! それにつられてか留美ちゃんはスルスルと答える。
「中高生の女子の制服というのは体の線を隠すようにできてます。セーラー服にしてもブレザーにしても上着にはほとんどタックが入っていなくて……」
「タック?」
「胸の下の絞り込みだよ、写真の制服にも小さいのが……」
「あ……これか?」
ものを知らないわたしは不思議に思う。
「制服と言うのは、タックが無いか小さくとることでバストとウェストの差を感じさせないように出来てます。スカートもヒップや太もものラインを隠すように出来ていて、思春期の女子には一番いいと思うんです」
「なるほど、パンツルックじゃ、そうはいかないという意味ね」
「はい、一見ボーイッシュとかマニッシュに見えるかもしれませんけど、この……」
「タック?」
「胸の下の絞り込みだよ、写真の制服にも小さいのが……」
「あ……これか?」
ものを知らないわたしは不思議に思う。
「制服と言うのは、タックが無いか小さくとることでバストとウェストの差を感じさせないように出来てます。スカートもヒップや太もものラインを隠すように出来ていて、思春期の女子には一番いいと思うんです」
「なるほど、パンツルックじゃ、そうはいかないという意味ね」
「はい、一見ボーイッシュとかマニッシュに見えるかもしれませんけど、この……」
そこまで言うて、留美ちゃんは言いよどんでしまう。
「わたしが続けていい?」
「あ……はい」
「百聞は一見に如かずだね、ちょっと待ってて」
「あ……はい」
「百聞は一見に如かずだね、ちょっと待ってて」
そう言うと、頼子さんは書架の向こうに行ってガサゴソしだした。
ん……?
二人で疑問符を浮かべていると「ジャジャーーン!」とエフェクト付きで出てきた……その姿は男子の制服やった!
「ウワーーー!」
第一印象は――カッコええ!――ですわ。なんちゅうか宝塚いうか、アイドルの男装と言うか。とにかくイカシテル!
「それはね、わたしには恥じらいも抵抗もないからよ」
見透かしたように言う頼子さんは、さらにカッコええ!
「こうやったらどう?」
頼子さんはブレザーを脱いでポーズを作った。ズボンなんでウエストが絞られて体の線が際立つ。頼子さんは中三とは思えんくらいのナイスバディー。あの胸はCはあるやろなあ……と思てると、留美ちゃんは俯いてる。
「そうだよね、留美ちゃんは、こういうの苦手なんだよね。直ぐに着替えるから写真撮ってくれる?」
頼子さんに言われるままに数枚の写真を撮る。
一分もかからずに戻ってきた頼子さんは、もとの女子制服。
「ほら、こうやってしゃがんだり、腰かけてるのを後ろから見ると、ズボンというのは意外にボディーラインが出てしまうんだよね、ノビしたりするとバストも強調されてしまう。むろん上着着てたら、それほどじゃないんだけど、上着着てる期間て半年もないからね。こういうの着るのも見るのもイヤって女子はいるわよ」
留美ちゃんが小さく頷いた。
「こういうの、ジェンダーフリーって言うんですよね」
「うん、そう。わたしは嫌いだ、ね?」
「はい」
「長い歴史の中でできあがった形とかスタイルとかは意味があると思うんだ。軽々と崩して良いもんじゃないと思う。それに、よーく見て」
「うん、そう。わたしは嫌いだ、ね?」
「はい」
「長い歴史の中でできあがった形とかスタイルとかは意味があると思うんだ。軽々と崩して良いもんじゃないと思う。それに、よーく見て」
頼子さんは再びノーパソの画面を示した。
「気が付かない?」
「よく見たら、この女子かわいいです!」
「よく見たら、この女子かわいいです!」
下敷きで首から下を隠してみる。
「う~ん、さくらちゃんの次くらいには可愛いかなあ」
「あ、いやいや、あたしなんか(^_^;)」
「さくらちゃんて可愛いわよ。ね?」
「はい!」
「あ、もーいいですから💦」
「注目してほしいのは首の下」
「あ、いやいや、あたしなんか(^_^;)」
「さくらちゃんて可愛いわよ。ね?」
「はい!」
「あ、もーいいですから💦」
「注目してほしいのは首の下」
「?」
「あ?」
「留美ちゃんは分かったみたいね」
「はい、前身ごろの打合せが女子のままです」
「はい、前身ごろの打合せが女子のままです」
打合せ?
「女子の服はね、右の前身ごろが前にくるのよ」
言われて自分のを確認する……なるほど、その通りや。
「でもね、男子は逆なんだ」
なるほど、画面を見るとその通りだ。
「なんで、逆だか分かる?」
自分でボタンを掛けたり外したりしてみる。男子のブレザーを手に取ってやってみる……ちょっと違和感。男物なんて着たことないもんね。
「脱がせやすいからよ」
「「え!?」」
そ、そーゆー意味だったのか!
「アハハ、それ、考えすぎだから」
「なんでですか?」
「むかし、欧米の上流階級の女性って、召使にお召し替えさせてたのね。つまり召使が着せたり脱がせたりしやすいように右が前になったのよ。けして、さくらちゃんが妄想したようなことが理由じゃないから」
「アハ、アハハハハ(;^_^A」
「もし、ジェンダーフリーって言うのなら、この打合せから変えなくちゃね。女は着せ替え人形じゃないんだから」
「そ、そうですね」
「なんでですか?」
「むかし、欧米の上流階級の女性って、召使にお召し替えさせてたのね。つまり召使が着せたり脱がせたりしやすいように右が前になったのよ。けして、さくらちゃんが妄想したようなことが理由じゃないから」
「アハ、アハハハハ(;^_^A」
「もし、ジェンダーフリーって言うのなら、この打合せから変えなくちゃね。女は着せ替え人形じゃないんだから」
「そ、そうですね」
大きく頷く留美ちゃん。
「それにね、この記事の下の方読んでみて」
「「どれどれ」」
「「どれどれ」」
読んでびっくりした。男子のスカート着用も認める……とあった!
気色悪いやろ、男のスカートはあ!
☆・・主な登場人物・・☆
- 酒井 さくら この物語の主人公 安泰中学一年
- 酒井 歌 さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。
- 酒井 諦観 さくらの祖父 如来寺の隠居
- 酒井 諦一 さくらの従兄 如来寺の新米坊主
- 酒井 詩 さくらの従姉 聖真理愛女学院高校二年生
- 酒井 美保 さくらの義理の伯母 諦一 詩の母
- 榊原留美 さくらの同級生
- 夕陽丘・スミス・頼子 文芸部部長
- 瀬田と田中 クラスメート
- 菅井先生 担任
- 春日先生 学年主任
- 米屋のお婆ちゃん