大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・時空戦艦カワチ・027『廃棄たこ焼きの画期的再生』

2019-05-10 06:45:49 | ノベル2
高校ライトノベル・時空戦艦カワチ・027  
『廃棄たこ焼きの画期的再生』 
 


 これを試してみて!

 航海長はテーブルの上に大きめのタッパを置いた。

 中身はたこ焼きなのだが、置いた時にカサコソと乾いた音がした。
「たこ焼だよね?」
「ま、御覧じろ」
 蓋を開けると、衝撃で再びカサコソ。
 見た目も匂いもたこ焼きなのだが、コロコロしていて、なんだかプラスチック製のサンプルのようだ。
 たこ焼きというのは多量の水分を含んでいるもので、カサコソとかコロコロとかの乾燥した音はしないものだ。
「サンプルとかじゃないんだよね?」
「……食べれるんですか?」
 航海長の馬力と、たこ焼の意外なたたずまいに、ちょっと興味を持ってしまう清美船務長。

 つまんだたこ焼きはビックリするほどに軽い。

 矯めつ眇めつしてみるが、佇まいはまごうことなきたこ焼きだ。
「さ、食べてみてよ!」
「う、うん」「はい……」

 サク……サクサクサク!?

 たこ焼きにあるまじき食感にビックリする。
「「フフフフ、ハハハハハハ」」
 たこ焼きごときにシテヤラレタという感じ。
 小気味よく裏切られた感じ。
 ふつう裏切りというのは腹立たしいものなのだが、なんとも愉快になる。
「思い出した……」
 記憶の底から相似形の驚きが浮かび上がってきた。
「オランダにたこ焼きソックリのAebleskiverというのがあって、子どものころに食べた衝撃に似てる……」
 清美の父親は民自党の議員であるが、その父親に同行したオランダでの体験が蘇った。
「わたしも知ってる。候補生の遠洋航海でアムステルダムに寄ってさ、屋台でたこ焼きソックリなのよね」
「ああ、ボクも防衛駐在官をしていた時に食ったことがある。でも、Aebleskiverはパンケーキみたいに甘い匂いがするから、なんとなく予想はつくんじゃないかい?」
「その時は風邪ひいて、鼻が全然利かなかったんです」
「ハハ、そりゃ衝撃だったろうね」
「でも、これは、それ以上、雪見大福初体験を超えますね!」
 
 艦長は微笑ましくなった。

「でも、艦内のたこ焼は過剰気味なんじゃないのかい?」
 同時に艦長らしい心配もする。
「これ、余ったたこ焼きを再生したもんです」
「「え!?」」
「調子に乗って焼きすぎるんで悩んでいたんです。さすがに一昨日あたりから残っちゃいましたからね。そしたら松本君(機関長)が真空フライヤーを作ってくれましてね、水分を飛ばしてスナックに変身させることができたんですよ。これだと二か月はもつし、冷めきったたこ焼きの臭いって、あんまり食欲わかないでしょ。アイデアは砲雷長です、なんでもミナミのたこ焼き屋さんが売れ残りを廃棄するのがもったいないということで始めたんだそうですよ」
「いやあ、コロンブスの卵だね」

 清美船務長が立ち直るきっかけになると艦長は思ったが、自分が言いだしてはいかにもという気がする。

 今日のところは、廃棄たこ焼きの画期的再生を面白がれたことで良しとした。
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高校ライトノベル・新 時かける少女・4〈坊ノ津の沖〉

2019-05-10 06:35:33 | 時かける少女
新 かける少女・4
〈坊ノ津の沖〉 


 

「ここで3000人が死んだの」

 宇土さんは、サラリと言った。
 
 長崎を出て三時間あまり、フェリーは坊ノ津(ぼうのつ)沖に差しかかっていた。
 
 
「3000人?」
「戦艦大和が沈んだのが、このあたり……ひいお祖父ちゃんが乗ってたの」
「じゃ、その時に亡くなられたの?」
「ううん、生き残りの300人の一人。で、戦後お祖母ちゃんが生まれて、あたしが、ここにいるの」
「そうなんだ……」

 あたしは、なんだか厳粛なものを感じた。10人中の9人が、亡くなった。その生き残り。そのひ孫が宇土さん。で、こうして、あたしたちは坊ノ津沖の海を沖縄に向かってフェリーに乗っている。
 
 お父さんが、南西方面遊撃特化連隊の連隊長になって、石垣島に赴任するため、家族のあたしたちは沖縄本島の官舎に入る。
 
 その引っ越しの運送会社のトラック助手が宇土さん。なんだか運命的。

――本船は、ただ今坊ノ津90海里沖を航行中でありますが、76年前、戦艦大和が沈没したのが、このあたりの海域です。この海戦によって……――

 フェリーのアナウンスがのんびりと放送をした。

「なんだか観光案内だわ」
「76年もたてば、観光案内よ。あたしは、ちょっと違った感傷があるけどね」
「そりゃ、ひいお爺さんが、ここで命拾いしたんだもの」
「それもあるけど、自衛隊に残っていたら、愛ちゃんのお父さんの部下で来ていたかもしれない。伊丹の施設科からも何人か行ってるのよ」
「そうなんだ、なんだか二重三重に運命的ね」

 そのときキャビンに残っていたお母さんからメールが入った。どうやら進が船酔いしたようだ。
 
「あ、あたしに任せて。船酔いに効くマッサージできるから」
 
 キャビンに戻ると、宇土さんは、器用に進の手のひらのツボを押さえて、ほんの二分ほどで弟の船酔いを治してしまった。
 
「これも自衛隊で覚えたの?」
 
 お母さんが感心して聞いた。
 
「いいえ、これは、ひいお祖父ちゃんからの伝来です」
「ひいお祖父さまって、お医者様だったの?」
 
 宇土さんと二人で笑いながら、説明をした。お母さんも感動して聞いていた。
 
「宇土のオネエチャン。船の中、探検しようよ」
「いいわよ。あたし、このフェリーは常連だから、いつもは見られないところでも見れちゃうわよ」

 宇土さんの案内で船内を見学した。船員さんにも顔見知りがいるようで、一般客の入れないブリッジや、機関室なども見ることができた。

 午後の日差しが傾く頃に奄美大島に着き、30分ほど、波止場で若干の乗客の乗り降りがあった。きぜわしく乗り降りが終わると、出航の銅鑼が鳴り、テープを投げる人などもいて、旅情気分に浸れた。

 夜になると、さすがに豪華客船のようなわけにはいかず、船客は、ホールでテレビを見るか、それぞれのキャビンで、思い思いに過ごすしかなかったけど、宇土さんは話がうまく、あたしたちを飽きさせることがなかった。

 そして、それは就寝時間が過ぎて、日付が変わる頃に起こった……。

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