大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・せやさかい・014『連休の最後は如来寄席』

2019-05-06 14:45:38 | ノベル
せやさかい・014
『連休の最後は如来寄席』 
 
 
 
 
 連休最後の日は朝から本堂の掃除。
 
 お寺の本堂というのは二つに分かれてる。
 
 内陣と外陣(げじん)。
 
 内陣いうのは阿弥陀さんとかの仏さんが居てはるとこで、特大の仏壇みたいになってるとこ。
 外陣いうのは内陣より一段低いとこで、三十六畳の畳敷き。住職はじめ人間が阿弥陀さんを拝むのは、この外陣から。
 内陣は大事なとこなんで、テイ兄ちゃんが作務衣姿でやってる。あたしはコトハちゃんといっしょに外陣の掃除。
 掃除機二台で六畳に換算したら六部屋分をかける。これはチョロいねんけど、そのあとで雑巾がけ。
 
 カタ絞りにした雑巾でせっせと拭く。
 
「二つ折りにして畳二枚を拭く。そして、汚れたところを内にしてもう二枚。つぎにそれを二つに折って残り二枚を拭く。拭き終ったら流しで洗って、次の六枚。つごう三回やったらOKね」
「ラジャー!」
 コトハちゃんにレクチャーしてもろてとりかかる。
 結局は、コトハちゃんの方が早くできて、わたしがやったのは六畳二つ分。なんや、申し訳ない。
「いつもは雑巾がけまではやらないんだけどね、今日は落語会だから」
 そう言いながら手際よく座布団を並べる。
「さくらちゃんは、椅子並べてくれる」
 コトハちゃんが示した外陣の隅にはアップライトピアノの横に幼稚園のんとちゃうんかと思うようなかいらしい椅子が積み重ねてある。
 五つずつ持ち上げて、座布団席の後ろに並べる。
 その間に米屋さんの米田のお婆ちゃんら檀家のお年寄りが本堂の縁側と境内を掃除しにかかってる。
 わたし以外は、人に指図されることもなくチャッチャとやってる。お寺のチームワークはなかなかのもんです。
 
 十時前には掃除も準備も終わって落語家さんとお客さんを待つ。
 
「さくらちゃん、こないだ来てくれたお友だち来てくれへんやろか」
 伯父さんが言う。
「え、なんで?」
「いや、予定してたお客さんが飛行機の都合で間に合えへんようになってな。十人分穴があくんや」
「先輩らは落語なんかでけへんけど」
「ちゃうちゃう、観に来る人や。連休で海外旅行行ってはったんや」
「あー、それやったら、直ぐに!」
 
 直ぐにラインで連絡。五分後には――喜んで!――の返事があって、留美ちゃんも頼子さんも来ることになった。
 
 せやけど、十人も足らんのに、わたしが二人呼んでも足らんのやないかと心配。
 
 けど、心配することはなかった。コトハちゃんが五人、テイ兄ちゃんが三人のお仲間を呼んで不足分を補ってた。
 
「お招きありがとう!」
 
 感激のまなざしで現れた頼子さんと留美ちゃんは制服姿。
「こないだ来た時も制服だったから」
 なんや、お寺いうのは改まったとこやと思てるらしい。
 テイ兄ちゃんの連れは学生風のニイチャン二人。テイ兄ちゃんと違うて、女の子見てチャラチャラすることもないんで一安心。なんせ、頼子さんはブロンドのベッピンさん。それに、コトハちゃんが呼んだ五人も制服は着てへんけど、聖真理愛女学院のブラバン仲間の女子高生。
 
「桂米国(かつらよねくに)さん?」
 
 特設高座の横に置かれたメクリの名前を見て頼子さん。
「桂っていえば、米團治とかですもんね」
 留美ちゃんも納得。
 米團治と言われても、落語なんか聴いたこともないので、よう分からへん。文芸部の二人はなかなかのもんです。
 
 やがて出囃子にのって現れたんは……なんと外人さん!
 
「大勢のお運び、まことにありがとうございます。本日如来寺さんのお招きを受けまして高座を務めさせていただきます、桂米国(かつらべいこく)でございます。二十歳の歳で日本にやってまいりまして、幸か不幸か落語という物に出くわしまして、師匠やら一門の兄さんたちの口車に乗りまして、いつの間にやらイッチョマエに羽織を着せてもらえるようになりまして、名は体を表すで『米国』やなんて名前を頂きました……」
 
 大阪落語の桂一門の落語家さんは米團治さんを筆頭に、名前に『米』の字が付く人が多い。その流れで米国と付いたのか、今日の枕の話では分からへんけど、ほんまにアメリカはシカゴの出身であるらしい。
 出し物は、お寺に似つかわしい『所帯念仏』と『崇徳院』と『地獄八景亡者の戯れ』。
 もう二時間笑いっぱなし。落語いうたら年寄りのもんやいう意識が合ったけど、なかなか、今どきの中学生にも面白い。『崇徳院』では崇徳院の和歌――背を速み、岩にせかるる滝川の割れても末に合わんとぞ思ふ――が留美ちゃんのツボにハマった。百人一首が趣味の留美ちゃんは、有名な崇徳院の和歌で、こんなに面白い話ができるいうのに感動したらしい。
 
 米国さんの落語が終わると、お招きいただいたお礼ということで、コトハちゃんのお仲間がブラバンの曲を二曲披露。落語の木戸銭だけでブラバンまで聞けて、ほかのお客さんも喜んでる。
「わたしもやる!」
 頼子さんのハートに火が付いた。コトハちゃんと一言二言打ち合わせると本場の英語で『オーバーザレインボー』をワンコーラスぶちかました。
「いやあ、あんたのは、イギリスの英語やねえ!」
 米国さんも感動、英語にイギリスもアメリカもあるんかいな?
 
 そのへんは、また次の如来寄席で、おあとがよろしいようで……。
 
 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公 安泰中学一年 
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主
  • 酒井 詩        さくらの従姉 聖真理愛女学院高校二年生
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母
  • 榊原留美        さくらの同級生
  • 夕陽丘・スミス・頼子  文芸部部長
  • 瀬田と田中       クラスメート
  • 菅井先生        担任
  • 春日先生        学年主任
  • 米屋のお婆ちゃん
 
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高校ライトノベル・時空戦艦カワチ・023『艦長は船務長とたこ焼きを食べる』

2019-05-06 06:29:31 | ノベル2
高校ライトノベル・時空戦艦カワチ・023
 『艦長は船務長とたこ焼きを食べる』                  



 なんで人間が必要なんですか!?

 いきなり噛みつかれてしまった。

 船務長の清美を見舞った艦長は、慰めの言葉を掛けようと息を吸い込んだところだった。
「えーーと……」
 半端に吸い込んだ息は意味を載せた言葉にはならなかった。
「宇宙の果てに地球ソックリな星があって日本があって、大阪があって、その大阪を元気にすれば宇宙のバランスがとれて、X国の核ミサイルが飛んでこなくなるなんて信じてませんから!」
「ま、それは置いておこうよ……それより、航海長が焼いたたこ焼、どうかと思って。いっしょに食べようよ」
 艦長は、ズカズカと入ってくるとテーブルの上にレジ袋に入ったたこ焼きとペットボトルのお茶を置いた。
「たこ焼なんていりません、それより質問に答えてください」
「じゃ、たこ焼きを答えにしておこう。ま、尖がってないで食べようよ。もう乗組員で食べてないのは船務長だけだ」
「そんなのレプリケーターでいくらでも作れます」
「ま、騙されたと思って……」
「わたしは騙されません」
「あ、え、じゃ……」
「それに船務長だなんて呼ばないでください、引き受けたつもりはありませんから!」
「じゃ、清美さん」
「下の名前で呼ばないで!」
「じゃ、中村くん」
「あ、どうして中村だったら『くん』になるんですか!?」
「あ、無意識だから気に障ったらごめん、中村さん。失礼していただくよ、まだ晩飯も食べてないんでね」
 たこ焼きのパックを開けると、艦長は小袋入りの鰹節をハラハラと振りかける。
 鰹節は熱々のたこ焼の上で命あるもののようにクネクネと踊りはじめる。
「おもしろいね、航海長が食べる直前に掛けろと言った意味が分かった」
 艦長は爪楊枝を構えたまま、鰹節のダンスに見入った。
「昨日までは削り節じゃなかったんですか」
 船務長にとっては、たこ焼などは所詮ジャンクフードで、それを面白いと思うようなオッサンは存在そのものがジャンクに思えるようだ。
「遊び心だと思うんだけど、いけないかな?」
「味に変わりはないでしょ」
「面白いと思った分は美味しくなるんじゃないかなあ……アフ、アフ……」
 丸々頬張ると、口の中でホロホロさせるオッサン顔が忌々しい。
「レプリケーターの方が食べごろのを出してくれるわ。レプリケーター、たこ焼お願い、ソースマヨネーズでトッピングは鰹節」
 数秒すると『チン』と音がして注文通りのたこ焼が出てきた。
「どう、これなら表面温度50度で火傷の心配もないわ!」
 そう言って一つ頬張ると、親の仇のように咀嚼して、さっさと呑み込んだ。
「それは味気ないんじゃないかい?」
「美味しけりゃいいでしょ、艦長も食べてみて」
「うん……」

 二人の間に気まずい間が開く。単にたこ焼きを食べている間なのだが、なんだか意見の違う学者同士が実験結果を確認し合っているような雰囲気だ。

「こういう雰囲気じゃ味が分からなくなるなあ」
「逃げないでください」
「いや、少なくともね、レプリケーターから出てきたたこ焼きには驚きが無いよ。注文通り過ぎて」
「注文通りだからいいんじゃないですか!」
「それに、鰹節が元気に踊っていない」
 大人げないとは思ったが、こういう点で艦長は頑固なようだ。

 ドッカーン!!

 凄い衝撃と音がして、キャビンの艦首側の壁にたこ焼きがすっ飛んで行った。
 そして、たこ焼の千倍ほどの質量を持った二人も吹っ飛んだ。

 艦長は吹っ飛びながらも船務長を抱きかかえるようにして庇ったのだった……。
 
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高校ライトノベル・時かける少女・90・スタートラック『ミナコ コンプリート・2再起動』

2019-05-06 06:02:08 | 時かける少女
時かける少女・90  
『ミナコ コンプリート・2・再起動』         


 


 久々の心地よい目覚めだった。

 長い夢を見ていたようだが、朝日の温もりを窓側の体全体で感じた時には忘れていた。
 なんだか、ついさっきまで体が燃え尽きてしまいそうな熱さだったようで、それが程よく冷めたような心地よさだった。

「もう大丈夫だろう、峠は越えたようだ……しかし、ペニシリンの効果は絶大だね。これが間に合わなきゃ、助かる命じゃなかった」
「先生、バカな質問なんですけど……」
「なんだね?」
「わたし、いったい誰なんでしょう……ミナコらしいことは分かるんですけど」
「回復期の混乱だね。あとは面会人に聞きなさい。それが一番の薬だ。どうぞ中尉……多少混乱があります。まだ本調子でもありませんので、五分程度にしてください」
「分かりました」

 懐かしい声が答えた。

「あなたは……」

「やっぱり……でも、よくなって良かった」
「とても懐かしい感じがします……」
「山野健一海軍中尉だよ。今日船が出るんで、顔だけでも見ておこうと思って……ラッキーだった。回復した君に会えて」
「船……出撃ですか!?」
 ミナコは真剣な顔になり、起きあがろうとした。
「だめだよ、寝てなくっちゃ」
「でも……」
「出撃と言えなくもない……軍縮交渉だからね」
「軍縮交渉?」
「主力艦の保有制限。まあ、日本は率先して、主力艦の建造を武蔵で止めて、信濃は空母に、四番艦は解体した。優位に交渉できそうだけどね。アメリカが航空機の生産数制限を言い出してこなければね」

 山野は、鏡を使って港の船を見せてくれた。大きな戦艦が目に付いた。

「大和だ。去年の観艦式で、君も乗ったんだぜ。世界最大最強の戦艦。でも、正直二番艦の武蔵で止まってよかった。あんなものを沢山作った日には、軍事費で日本は破産だ。正直渡りに船だよ」
「戦争はやってないんですか……?」
「ああ、日露戦争からこっちはね。満鉄をアメリカとの共同経営にしたのが分岐点だったね。なんたって、アメリカのユダヤ資本からの資金提供がなきゃできない戦争だった。あの戦後処理につまづいていたら、今頃はドイツみたいに世界相手に戦争をしていたかもしれない」
「そうなんだ……」

 山野は、簡単に状況を説明してくれたが、自分が婚約者であることは言わなかった。ミナコが自然に思い出すのを待つことにしている。

「じゃ、時間だ。お土産はシャネルの五番かな。じゃ……」
「山野さん。わたしの名前、漢字で、どう書くんですか?」
「それも思い出せないか。こう書くんだよ」

 山野は、メモ帳に『時任湊子』と書いた。

「まあ、苗字の方は何年もつか分からないけど」
「まあ」
「アハハ、その意味が分かれば上等。じゃ、行ってくるよ」

 山野がドアの向こうに消えたとき、湊子は、夢の断片を思い出した。

 わたしは……もう一人のわたしといっしょに空から落ちて燃え尽きた……どこか別の星で。その星は、銀河のカルマを司る星。わたしと、もう一人のわたしが燃え尽きることで、銀河のカルマがリセットされた。
 なんだか、そこに行き着くまで、たくさんのミナコを生きてきたような気がする。

 とりあえず、あるべき自分に戻れた。やっと……湊子は、春の日差しにまどろみ始めた……。


 時かける少女   完 
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