大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・連載戯曲・ステルスドラゴンとグリムの森・6

2019-05-23 06:34:06 | 戯曲
連載戯曲
ステルスドラゴンとグリムの森・6


※ 無料上演の場合上演料は頂きません。最終回に連絡先を記しますので、上演許可はとるようにしてください
 
 
 
 時   ある日ある時
 所   グリムの森とお城
 人物  赤ずきん
 白雪姫
 王子(アニマ・モラトリアム・フォン・ゲッチンゲン)
 家来(ヨンチョ・パンサ)



 暗転、フクロウの声などして、夜の森のバス停が浮かび上がる。花道を、スマホで喋りながら赤ずきんがやってくる。

赤ずきん: ごめん、今日はそういうわけで遅くなる、行けないかもしれない。
 どうしてもつきとめておきたいの、だから婆ちゃんごめんね(切る) 
 何よ、てっきり白雪さんを連れてもどってくると思ったのに、もどってきたのは、いつもどおり王子一匹! 
 白雪さんはどうしたの? あの眉間によせたシワはなんなのよ!? 
 聞いてもちっとも教えてくんないし、ヨンチョのおっさんもあてになんないし……白雪さーん……白雪さーん……と、
 ここにも姿が見えない。
 棺は空だったし、きっと森の中にいるはず、小人さんたちのところにいるはずもないし心配だなあ……白雪さーん!

 花道に、腕をつり、杖をつきながら、傷だらけの白雪があらわれる

白雪: 赤ずきんちゃーん……。
赤ずきん: あ、白雪さん……どうしたのその怪我!?(白雪をたすけ、舞台へもどる)何があったの、誰に何をされたの!?
白雪: (泣くばかり)
赤ずきん: 泣いてちゃわからないよ。とにかく大丈夫だからね、わたしがついているから。
 スマホもあるし、いざとなったらお婆ちゃんもオオカミさんもいるからね。ね、どうしたの?
白雪: あの、あのね、ドラゴンがあらわれてね……。
 まだ夕陽が沈みきっていないのにあらわれて、ようやく動けるようになり始めたわたしを襲ったの。
 今日は側にあった棒きれで追い払ったけれど……明日は殺されてしまうわ……(泣く)
赤ずきん: 大丈夫、わたしがついているから、ドラゴンだろうが何だろうが、指一本触れさせやしないんだから……。
白雪: ありがとう……今はあなただけが頼り……小人さんたちにもあんな姿は見せられない。
 心配して、怒ってドラゴンに立ち向かうでしょうけど、とても小人さんたちの手に負えるしろものじゃない。
 逆に返り討ちにあって全滅させられてしまうわ。
赤ずきん: 大丈夫、今夜はおばあちゃんの家に匿ってもらうわ……今朝、お城に忍び込んで、王子さまと話をしたのよ。
白雪: え、お城まで行ってくれたの?
赤ずきん: 言ったじゃない、まかしといてって。水泳とロッククライミングは、白雪さんだけの専売特許じゃないのよ。
白雪: 赤ずきんちゃんもやるんだ……。
赤ずきん: あたりまえよ、友だちじゃないか! 王子さまは真面目な人だったよ。ただ真面目すぎて……。
白雪: 真面目すぎて……?
赤ずきん: 口づけをして救けてあげることはやさしいけども、その後、白雪さんを幸福にできないって。
白雪: どういうこと、他に好きな人でも……。
赤ずきん: そんなのいないよ。あの人も白雪さんのことが大好きだって!
白雪: だったら
赤ずきん: 王子さまは、去年お兄さんを亡くしたの。
 それで王位第一承継者の皇太子になってしまって、今そのための勉強と訓練が大変なんだって……。
白雪: それはわかるわ、わたしも違う王家とはいえ王族の一人。
 皇太子とそれ以下の並の王子とは、その自由さが天と地ほどに違う……。
 だけど、それを考えても、この仕打ちと言ってもいいおふるまいは理解できない。
 たとえ王子さまがどんなにお忙しく、お辛くても、それを分かち合ってこその夫婦……。
 いえ、まだ口づけも誓言も交わしあっていないから夫婦とは言えないけども。
 将来を許しあった恋人としては当然の覚悟、そうでしょ。
赤ずきん: そうだよ、それを、朝の一番鶏が時を告げる前からお城に忍び込み,
 宿直の二人を薬で眠らせて、王子さまが目覚めると同時に説得したわ。
 病めるときも貧しきときにも互いに助けあい、王子さまが帝王学を学ばれ、懸命の努力をなさっている間、
 きっと喜んで我慢も努力もされるはず。
 たとえ何日も顔を会わせなくても、たとえ夜遅く帰ってベットにバタンキューでも、
 きっと白雪さんは耐えて王子さまを支えてくれるはず。
 そう懸命にお伝えしたら、そこは賢明な王子さま、女王さまに朝の御あいさつに行かれるころには、
 ジュピターのように雄々しく……とまではいかないけども……ちゃんと白雪さん救出を神聖な使命とお考えになるようになったわ。
 わたしを近習の一人として森の入口まで、他の御家来習といっしょの供をするようにお命じになったくらいよ。
白雪: 信じられないわ……今朝の王子さまは、いつにも増して、険しい御表情でひざまづいて、
 わたしの顔をいとおしそうにご覧になって、何やらつぶやかれるばかり。
 棺の蓋を開けようともなさらずに立ち去ってしまわれた。
 ごめんなさい……一瞬ではあるけれども、あなたの約束を疑りもした。
 でも、やはり一日や二日の説得ではあの方の心を動かすことはできないのだと、あきらめ……。
 いえ、気長に待つことにしたの……でも、あのドラゴンののさばりよう……気長に待つうちに、
 日干しのミイラになる前に骨にされてしまいそう……。
赤ずきん: しっ! 伏せて、何か邪悪なものが……
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高校ライトノベル・時空戦艦カワチ・040『明石焼きが冷めるまで』

2019-05-23 06:15:00 | ノベル2
高校ライトノベル・時空戦艦カワチ・040  
『明石焼きが冷めるまで』





 世の中には白黒をつけてはいけないものがある。

 X国の核兵器開発。先代か先々代のアメリカ大統領が白黒をつけていれば日本に核ミサイルが飛んでくることは無かった。
 アメリカは世界の警察官ではないと白黒をつけてしまったためにC国は南シナ海を自分の海のようにしてしまったし、R国は19世紀的な南進政策にためらいを見せなくなった。
 婦人の婦の字を廃止してしまったために『看護師』という性別不明の呼び方になった。以前は看護婦で通った表現は女性看護師という言葉にしても文章にしても無機質でリズムを崩す言葉になってしまった。歴史用語としての『婦人参政権』や『婦人解放運動』が言いにくくなった。そのくせ『主婦』は健在で外国人でなくても言葉の使いように困ることになった。
 パンダの白黒をはっきりさせてしまえば、ただの黒熊か白熊になってしまって、パンダの存在価値は無くなってしまう。

 プハハハ

 そこまで自問して艦長は吹き出してしまった。

「どうかされましたか?」
 メグミ一曹が掃除機の手を停めた。
「いや、すまない思い出し笑いだ」
 掃除の邪魔をしてはいけないのでキャビンを出た。

 井上多聞補給長はアイドル清美を生み出したのは自分だと思い込んでいる。

 五番砲塔脇デッキで自分と清美が話していたところと清美が事業服を残して消えてしまったところを目撃してしまったのだ。
 あのとき手摺の鎖がチャリンと鳴って、そのあとの後姿で補給長の心が分かってしまった。
 アイドル清美が現実化したことに狼狽えているが、心の底では――自分の力は凄い!――とムズ痒くなるような喜びも感じている。
 実際のところ、あの清美は時空の狭間からこぼれ出てきたパラレルワールドの住人だ。補給長の想いとは無関係なのだ。
 バーチャル3Dの清美なら、システムというかゲームを作った砲雷長があんなに照れるはずもない。

 食堂の前を通ると、あちこちのテーブルで非番の乗員たちがアイドルゲームに興じている声がした。

 士官食堂に向かうつもりだったが、活気に誘われて足を向けた。

「おや、新メニューですか」
「明石焼きにしてみました。試してみます?」
 航海長の勧めにのってみた。
「なるほど、出汁に浸けると別物だ」
 たこ焼き一つで、これだけのバリエーションをこなす航海長に脱帽だ。
「兵員食堂だから、幹部はあっちのパーテーションでお願いしますね」
 やかましく区分することもないだろうが、幹部がいっしょでは羽も伸ばせないだろうと艦長は指示に従った。
「お、君もか」

 パーテーションの中には先客が居た。

「ハハ、ゲームの反応をみてるんですわ」
 砲雷長の手元にはアナログなメモ帳が開いている。
「コンピューターの専門家がメモ帳かい?」
「手書きは雰囲気や気分が出ますかられ、あとで読み直すのにはいいんれすよ。あ、しばらく冷ました方がいいれすよ」
 明石焼きを口に運ぼうとしていた艦長に忠告した。
「熱々の出汁に浸かってるんれドライのやつよりも二度ほど温度が高いれす」
「ありがとう、僕も『で』が発音しにくくなるところだった」
 アハハと笑った砲雷長の舌の先は赤くなっていた。

 コップの水を一口あおると砲雷長は真顔になった。

「ツクヨミといいアイドル清美といい、この土星軌道は時空的にかなり不安定になっているように思います」
「それはボクも思っている、もう少し土星軌道に留まって確かめてみようと思う」
 砲雷長はアナログでは無い方のメモ帳を出して電源を入れた。
「航海科のデータをもらってアマテラス(カワチのメインCP)に解析させていたんです……」
 砲雷長がスクロールすると膨大な情報が流れていく、そこから一つの類推ができた。しかし、艦長は容易には口を開かない。
 砲雷長は辛抱強く艦長の言葉を待った。
「分かった、行動を起こすべきなんだな」

 明石焼きは程良さを通り越して温くなってしまった……。
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高校ライトノベル・時かける少女 BETA・6《アナスタシア・2》

2019-05-23 06:06:01 | 時かける少女
時かける少女 BETA・6
《アナスタシア・2》   
      


「冬の宮殿は嫌い」

 アナスタシアは日に何度か口にするようになった。「なにをおっしゃいます」と古参侍女のベラなどに言われて、初めて自分がそんなことを言ったのに気付く。近頃では「またでございますか」と言われるようになった。
 事実アナスタシアは冬の宮殿は好きではなかった。夏の宮殿は淡い水色の壁面で、内装や什器も「夏」にふさわしく、まるでチャイコフスキーのポルカを聞いているように軽やかな気分になれたが、冬の宮殿はワーグナーのように重苦しく、壁の濃い赤茶色も、船の喫水線の下のように重苦しく。感受性の鋭いアナは、近づいてくる革命の血のように思えた。
 今まで、こんなにはっきりと口に出して言うことはなかった。

 事実、アリサが家庭教師に来てくれてからは、毎日がときめくことばかりだ。

「へー、パナマ運河って、そんなに落差があるの!?」
「はい、最大で26メートル。この冬の宮殿の倍ほど……世界中の人間の格差ほどではありませんけど。それを閘門によって段差を水平にしてゆっくりと船を進めていきます」
 アリサは本物みたいにきれいに色塗りした写真や図面で説明してくれた。
「アリサは通ったことがあるの?」
「はい、日本で一番のオチャッピーでございますから」
「おませな小娘って意味ね?」
「日本語もお上手になられましたね。特に力を入れてお教えしたわけでもありませんのに」
「フフ、あたしって語学の天才かもね!」

 事実、アナの語学に対する興味と才能はずば抜けていた。しかし、わずか3カ月で数か国語をスラングもろともマスターするほど人間離れはしていない。アリサ=ミナがアナの昼寝の間に直接前頭葉と側頭葉に働きかけるからである。今ではロンドンの下町言葉から、モスクワの貧民街の言葉までマスターしている。これは、これからアナが体験し、自ら乗り越えていかなければならない運命に必要な最低の要件だから。

「ねえ、こないだ、こっそり見に行ったモスクワ芸術座さ」
「ああ、かもめ?」
「それは一つ前よ」
「あ、桜の園ですね?」
「そう、抒情的で味わいはあるけど、わたしは、あれは基本的に喜劇だと思うの。原作も読んでみたけど、ちゃんと4幕の喜劇だって作者もトビラのところで書いてるわ」
「ま、スタニスラフスキーさんの良心的な誤解ですね。何年……何十年かしたら、文字通り喜劇で演じられるでしょう」
「わたし、アーニャって子が好きなの。時代遅れだけど憎めないお母さんのことを思いながら目はちゃんと前を向いている。わたしも愛称アーニャのままにしとけばよかった。いま、わたしのことをアーニャって呼ぶのはおばあ様ぐらいのものだもの」
「どうして、アナって呼ばせるようになさったの?」
「うーん、なんとなく。将来そんな名前の女主人公のストーリーが生まれそうな気がするの」

 アリサはアナを見直す気持ちだった。100年もすると『アナと雪の女王』が生まれる。思わずブルーレイで、このアカデミー賞のアニメを観せてやりたい衝動にかられたが、彼女には準備をさせなければならない。来るべき運命から助け出し、そして目的を果たすために。

「わたしは正式なアナスタシアが好きです」
「どうして?」
「もともとはギリシア語で『再生するもの』という意味だから。再生こそ、あなたにはふさわしいわ」
「そう、わたしは再生するのよ。20世紀の若者として……ハハ、なんだかお芝居の台詞みたいね」
「人生は壮大なお芝居。わたしはアナが、その主役になれるように……」
「人生の主役か……なりたいなあ」

 アナは、無意識に感じている、自分の運命と役割を。アリサはミナの心で、そう読み取った。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高校ライトノベル・『はるか 真田山学院高校演劇部物語・13』

2019-05-23 05:56:56 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
真田山学院高校演劇部物語・13


『第二章 高安山の目玉オヤジと青いバラ3』

「……しばらく様子を見ます」

 と、ビタースマイルで応える。

「よっしゃ、正直でええ」
 ツルリと顔をなでる。元のコンニャク顔。
「え?」
「こんなときに、景気のええ返事する奴は長続きせんもんや」
「ども……でも、どうして真田山なんですか? 他の学校もあるだろうし、なにか因縁でもあるんですか?」
 先生の先回りしたような答えについ意地の悪い質問をしてしまう。飛んでいった鳩がもうもどってきた。
「乙女先生とは、三十年近い腐れ縁でな。あの先生、なんで乙女てなガラにもあわん名前ついとるか分かるか?」
「そりゃ、生まれたときには親の想いもあるでしょうし」
「あの人は六人姉妹の末っ子やねん。生まれたときにお父さんが、また女か言うてウンザリしはってな。それで、もうこれでヤンペいう意味で〈トメ〉いう名前にしはった」
「ハハ……すみません」
「ハハハ、せやけど、いっちゃん上のお姉ちゃんが、あんまりや言うて泣くよって〈お〉を付けて、めでたく乙女にならはった」
「そうなんだ、うるわしいお話ですね」
「それがな……五年前にお父さんが亡くならはって、お母さんも二年前から具合悪うなってきてしもてな。そないなると、あんまりや言うて泣いたお姉ちゃんも含めて姉妹だれもお母さんの面倒見いひん。で、お母さんの介護に手ぇ取られて、とてもクラブの面倒まではみられへん」
「それで……」
「と、いう訳や」
 先生はまた石ころを蹴った。今度は鳩は逃げもしなかった。
「はるか、今東光(こんとうこう。いまひがしひかる、じゃないよ)て知ってるか?」
「ああ、この街に住んでたんですよね、一冊だけ『お吟さま』読みました。天台宗のお坊さんだったんですよね」
 この街に引っ越すと決まって、少しでもトッカカリが欲しくて、土地の有名人を捜した。天童よしみとジミー大西と今東光がひっかかり、作家の今東光を読んだ……といってもネットであらすじ読んだだけだけど、一冊と見栄を張る。わたしも最初は「いまひがし」だと思っていた。

 五分後、わたしたちは今東光が住んでいた「天台院」というお寺の前に来た。拍子抜けがするほど小さなお寺。こんなとこにかの文豪はいたのか……。

「本物の出発点というのは、こんなもんや。瀬戸内寂聴知ってるやろ」
「はい、たまに読みます。主にエッセーのたぐいだけど、去年ダイジェスト版の『源氏』を読みました」
 と、また見栄をはる。
「中味はほとんど忘れちゃいましたけど」
「読書感想言うてみい」
「だから忘れましたって」
「カスみたいなことでもええから言うてみい」
「うーん……やたらと尼さんができるお話」
 ヤケクソでそう答えた。
「ハハ、それでええ。寂聴さんの名前つけたんが東光のおっさんや。自分の春聴いうカイラシイ法名から一字とってなあ」
「へえ、そうなんだ! わたし、寂聴さんの〈和顔施=わがんせ〉って言葉好きなんです」
「ああ、あの、いっつもニコニコしてたらええ言う、金も手間もいらん施しのこっちゃな」
   

 身も蓋もない……。

「ひとつ聞いていいですか?」 
「なに?」
「きのう、プレゼンの部屋に入ったとき、わたしたちだけに……」
「ああ、あのスポットライト」
「と、ファンファーレ」
「はるかの顔、入ってくる前に窓から見えとったから」
「は?」
「和顔施の顔してたつもりやろ?」
「え、ま、ホンワカと……」
「そやけど、目ぇは〈ホンマカ?〉やった。好奇心と不安の入り交じった」
「だれでもそうなるでしょ、あの状況じゃ」
「いいや、あんな見事なアンバランスは、スポット当てならもったいない……ほら、今のその顔!」
 先生は、かたわらの散髪屋さんのウィンドウを指さした。
 ウインドウを通して、店の中の鏡には……はんぱなホンワカ顔が映っていた。
 お店のオヤジさんと。顔の下半分を泡だらけにしたお客さんが、振り返って不思議そうに、私たちを見た。
 わたしは、お愛想笑いを。先生は、店のオヤジさんに片手をあげて挨拶。どうやら先生おなじみの散髪屋さんであるらしい。
「あ、あの……高安山の上にある目玉オヤジみたいなのはなんですか?」
「ああ、そのまんま目玉オヤジや」
「え、まんま……」
「市制何十周年かの記念に建てた、目玉オヤジの像や。朝夕あれにお願いしたら、願い事が叶うというジンクスがある。知り合いがあれに願掛けして宝くじにあたりよった」
「へえ、そうなんだ!」
「はるか、家に帰ったら、今日の出来事メモにしとけ。情緒的やのうて、物理的に。なにを見て、なにを聞いたか、なにに触ったか。『踊る大捜査線』にでも出るつもりで」
「なんのためですか?」
「それは後のお楽しみ。それから、目玉オヤジの願掛け効くさかいに試してみぃ」
「はい……」
 返事をすると、先生はやにわにわたしに指切りをさせ、横断歩道の向こうに行ってしまった。

 その時、踏切の音がして、意外に駅の近くまでもどっていることに気づいた。


 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする