大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・せやさかい・020『頼子さん効果』

2019-05-27 14:02:23 | ノベル
かい・020
『頼子さん効果』  

 

 

 天変地異の前触れかもしれへんなあ……

 

 そう呟くと、テイ兄ちゃんはグビグビと麦茶を飲み干しにかかった。

 喉ぼとけがグビラグビラと動いて、なんか別の生き物みたいや。

 テイ兄ちゃんはビールのジョッキに麦茶を入れて飲む。その方が、喉の渇きが収まるらしい。ペットボトルの口では飲んだ気がせえへんのやとか。最初はアホかいなと思たけど、昨日今日の暑さでは、むべなるかなという感じ。

 お坊さんというのは案外きつい仕事や。

 この異常気象の五月。外は三十度を超える気候やのに、真っ黒の衣着て檀家参り。

 お寺と言うのは休日が無い。というか、土日の方が忙しい傾向がある。

 檀家さんはおおむね普通の仕事してはるから、月参りや法事のお参りは土日を指定しはることが多い。

 それで、土日は、お祖父ちゃん、伯父さん、テイ兄ちゃんの三人がフル稼働。それに突発のお葬式なんかが入ってくると、もうてんてこ舞い。

「それでも、うちはマシやねんで」

 お祖父ちゃんが寿司屋みたいな大きい湯呑で熱いお茶をチビチビやってる。

「そうなん?」

「ああ、親子三代で坊主やってられんのは幸せなこっちゃ。中には、住職が八十超えてんのに後継ぎがおらんいうとこもあるさかいなあ」

「住職が亡くなったら、どうなるのん?」

「おしまいや。坊主せんかったら、寺を出ならあかん。で、寺は近所のお寺が住職を兼務して、檀家さんには迷惑がかからんようにする」

 なるほどなあ……と思いながら、うちのお寺は絶対そうならんという余裕があるから言えるんやろなあと思う。

 お寺と言うのは税金が掛かれへん。お布施は非課税やし、何百坪いう土地を持っててもお寺と言うだけで固定資産税も都市計画税もかかれへん。

「花ちゃんも、得度うけとくか?」

「あたしが!?」

「資格持っといたら喰いッパグレないでえ」

 お分かりやと思うんですが、得度いうのは本山に行って坊主の資格を得ること。浄土真宗いうのは女の坊主も多いと噂には聞いた。けど、自分が坊主……まだ墨染の衣を身にまとう気にはなりません。

「諦一、まだ行ってなかったんか?」

 とっくに午後の部に出たと思たテイ兄ちゃんが、リビングのソファーにドサッと音をさせてへたってしもた。

「あ、ちょっとシンドなってきて……」

 見ると、テイ兄ちゃんの顔が、なんや赤い。手足もしびれが来てる感じや。

「諦一、昼から五件も残ってるんやろ、わしも三件あるから代わりにはいかれへんぞ」

「だいじょうぶや、お祖父ちゃん。ちょっと横になったらいくさかい」

 お祖父ちゃんも、困った顔になる。伯父さんは名古屋の檀家さんに行ってるさかい、ほんまに交代要員はおらへん。

「せや、元気の出るもん見せたる!」

 スマホを出して、頼子さんの画像を呼び出す。

「ほら、頼子さん見て元気だし!」

「おお、頼子ちゃん!」

 お寺の落語界で頼子さんを見かけてから、テイ兄ちゃんは頼子さんのファンや。

 現金なもんというか、ある面可愛げというか、頼子さんの写真で、ほんまに元気を取り戻し、檀家まわりにでかける。

「さくら、その写真、オレのスマホに送ってくれ!」

「それはあかん」

 無断で人に送るのはでけへん。

「ほんなら、しゃあない。効き目切れたら、すぐに見られるように檀家参りについてこい!」

「えーーー!?」

 というわけで、日曜の午後はテイ兄ちゃんと檀家参りに出かけたのでした。

 

 頼子さんは、月曜の夕方には修学旅行から帰ってきます。

 うう、それにしても、なんでこんなに暑いんやあ……。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公 安泰中学一年 
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主
  • 酒井 詩        さくらの従姉 聖真理愛女学院高校二年生
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母
  • 榊原留美        さくらの同級生
  • 夕陽丘・スミス・頼子  文芸部部長
  • 瀬田と田中       クラスメート
  • 菅井先生        担任
  • 春日先生        学年主任
  • 米屋のお婆ちゃん
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高校ライトノベル・連載戯曲・ステルスドラゴンとグリムの森・10

2019-05-27 06:43:14 | 戯曲
連載戯曲
ステルスドラゴンとグリムの森・10


 
 
 時   ある日ある時
 所   グリムの森とお城
 人物  赤ずきん
 白雪姫
 王子(アニマ・モラトリアム・フォン・ゲッチンゲン)
 家来(ヨンチョ・パンサ)



ヨンチョ: これは……。
赤ずきん: これがドラゴンの正体……。
王子 :マンガ……CDにゲームソフト……。
赤ずきん: みんな童話の世界の敵……。
王子: 敵にしてしまったんだ……。
二人: ……?
王子: これらは、みな童話の世界から、別れ、自立し、育っていった者たちだ……。
 それが異常繁殖し、ドラゴンとなって、この世界を食いつぶしかけていたんだ。
ヨンチョ: とんでもねえ野郎共だ(踏みつける)
王子: よせヨンチョ……ドラゴンに変化(へんげ)したとは言え、もとはわが同胞、兄弟も同然、後ほど、塚をつくり丁重に葬ってやろう。
赤ずきん: 王子さま……。
王子: おお、こんなに怪我をして……二人ともよくふんばってくれた。
赤ずきん: 王子さまこそお怪我は?
王子: 大丈夫、みな軽いかすり傷だ……。
ヨンチョ: おう、あれに……!

 花道に白雪があらわれる、怪我は意外にも治りかけていて、額や頬にバンソーコウを残す程度に回復しかけている。

白雪: 王子さまーっ! 赤ずきんちゃーん! それに……。
ヨンチョ: 王子さま第一の家来にして近習頭のヨンチョ・パンサと申します。
白雪: こんにちはヨンチョさん、そしてありがとう。
 みなさんの御奮闘ぶりは、その丘の木陰から見せていただきました。
 三度目のドラゴンの突撃の時など思わず目をふせてしまいましたが、御立派にお果たしになられたのですね。
赤ずきん:駄目じゃないか、ちゃんとお婆ちゃんの家に籠っていなくちゃ。
白雪: ごめんなさい、赤ずきんちゃんの話を聞いて、矢も盾もたまらず。
 それに夜になって体が自由になると、思いの他傷も……ゆうべお婆ちゃんにいただいた薬が効いたみたい、幸福のポーション。
赤ずきん: でも、それ古い薬だから、効き目は半分だね、まだ、体のあちこちが痛いでしょ?
王子: お体はしっかりといたわらねば。
白雪: それはこちらが申す言葉ですわ。三人とも、こんなに傷だらけになられて。
赤ずきん: 白雪さん……。
白雪: 御心配ありがとう、でも、もう大丈夫。
 こんな痛み、薬の力で半分に、そしてこの喜びと感謝の気持ちでさらに半分に減ったわ。
 今までは仮死状態の心の目でしか王子さまを見ることができなかったけど、
 やっとこうして、フルカラー、スリーDのお姿として拝見して……バーチャルじゃない、本当の王子さまなのね。
赤ずきん: きまってるじゃないか。百パーセント混じりっ気なしの王子さまだよ。
ヨンチョ: 戦闘で、ちょいと薄汚れっちまってらっしゃいますがね、
 なあに一風呂あびて磨き直せば、この百五十パーセントくらいにはルックスもおもどりになります。
白雪: いいえ、このままでも、わたしには十分凛々しく雄々しくていらっしゃいます。
 これ以上磨かれては、そのまぶしさに目が開けていられなくなります。
王子: 姫……。
白雪: 王子さま……。
赤ずきん: 行け! 白雪さん!
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高校ライトノベル・時空戦艦カワチ・044『五番砲塔の幻想』

2019-05-27 06:22:34 | ノベル2
高校ライトノベル・時空戦艦カワチ・044
『五番砲塔の幻想』




 ラッタルを上がり切ったところで気が付いた。

「すまん、艦コーヒーを買ってくるよ」
「それならわたしが行って……」

 従兵というよりは副官のようなサクラが気を回す。
「ハハ、これは私の辻占でね、自分でやらなきゃ意味が無いんだ」
 サクラをデッキに残して艦長は上がったばかりのラッタルを下りて行く。
「よし、今日はまだ当たりは出ていないようだな」
 
 艦内の四か所に設置された自販機は日に一回当たりが出る。
 当たりになると、もう一本がタダで出てくる。街中では珍しくもない自販機だが、単調な艦内生活では潤いをもたらす遊びになる。
 先日までは当たりが出たかどうかは分からなかったが、機関科が調整してくれて当たりが出たものはランプが灯るようになった。
 それが灯っていないので、シメタと思う艦長である。

 ちちんぷいぷい~(*^▽^*)

 子どものようなノリでボタンを押す!
 ガタンと音がして艦コーヒーが出てくるが当たりにはならない。
「よし、もう一本」
 ガタンと音がしてもう一本。

 パンパカパ~ン🎶

 電子音のエフェクトがして、全てのボタンが当たりを寿いで点滅する。
「今日はついてる」
 艦長は迷わずに微糖のボタンを押した。
 艦長は、こういう選択の局面では迷わない。艦長という職種からではなく持って生まれた性分だ。
 判断力決断力が求められる指揮官としては求められる資質なのだろうが、日常生活では、ちょっと面白みに欠けるかもしれない。
 娘の友子に敬遠されるのも、こういうところに……苦笑いしてラッタルを上がるとサクラの姿が見えない。

 艦長こちらです。

 声は五番砲塔の向こうから聞こえた。
「やあ、そっちに居たのか」
「すみません、不思議なものが見えたものですから」
「不思議なもの?」
「はい、ほんの数秒ですが筑波が並走していました」
「筑波……巡洋戦艦筑波かい?」
「質量を検知できませんでしたので実体は無いと思われますが、形は筑波そのものでした」

 筑波とは、河内と同じ1917年、横須賀で爆沈した旧日本海軍の巡洋戦艦である……。
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高校ライトノベル・時かける少女BETA・10《アナスタシア・6》

2019-05-27 06:14:54 | 時かける少女
時かける少女BETA・10
《アナスタシア・6》       
 
 
         


 平和な時代ならオーストリア、ドイツを抜けてフランスに入る。

 しかし、今は第一次世界大戦の真っ最中。列車は支線に入り、クリミアを目指した。革命騒ぎでクリミアは混乱していたが、日本大使の一行なので、なんとか港に呼び寄せていた日本海軍地中海派遣艦隊の駆逐艦榊(さかき)に乗ることが出来た。

「このあたりは連合軍が握ったばかりで、まだ100%安全とは言えません。皆さん方も万一の覚悟はなさってください」
「我々も救けてもらうだけでは心苦しい、役に立つことならなんなりと」
 艦長の言葉に迫水大使は元気よく答えた。
「小さい駆逐艦ですので、船酔いなさらないように。それだけで十分です」
「それでは気が引ける。私は退役してはいるが海軍大佐だ、随員の中にも5人ほど海軍出身者がいる。ロートルだが哨戒任務ぐらいはこなせる」
「それは心強いです。なんせ駆逐艦なものですから、途中何度も補給しなければなりません。補給中は艦を停止させますので、Uボートにもっとも狙われやすいのです。その時に海上の見張りをしていただければ助かります。ところで、そのお二人のご婦人は?」
「自己紹介します。わたくし大黒有紗と申します、こちら妹の富紗です。ロシア公女の家庭教師をやっていましたが、革命騒ぎで大使に助けていただきましたの」
「ああ、あの女男爵の。お噂はかねがね……」
「ハハ、日本人には見えないというお顔ね。あたしたち母がロシア人なもので見かけはこんなですけど、中身は大和撫子、それも巴御前か山之内一豊の妻を足したぐらいの力はありましてよ」
「それは、失礼いたしました。お二人にとって、この榊、出来うる限り良き海の馬にならせていただきます」

 艦長が慇懃に挨拶するとアリサは返礼するとともに、コルトを取り出し海に目がけて二発撃った。

「な、なにを……!?」
「あそこをご覧になって」
 アリサが指差した海面に二匹のクロマグロが腹を上に浮き上がってきた。
「あれだけあれば、乗組員のみなさんにお刺身たらふく行き渡りますでしょ」
「アリサ、凄い!」
 アナが口笛吹いて感心した。
「で、オサシミって何?」
 ブリッジの一同がずっこけた。で、その夜の夕食は、船の烹炊所で烹炊員と一緒になって、100人分の握りずしと刺身を作った。
「お魚、生で食べるのぉ……?」
 アナは嫌がったが「日本人なら、だれでも食べる」とアリサが言う。
「もう、あたしのこと話してもいいんじゃないの?」
「まだ、ここはクリミアの港。安心はできないの……そうそう、お醤油をちょっとつけてネタを下にして一口で食べる」
「ウ……美味い……けど、オオ!」
「ごめん、ワサビ効かせすぎちゃった」

 無事にボスポラス海峡とダーダネルス海峡を超えたところで、イギリスの補給艦から補給を受けた。乗組員も大使館員も海上警戒にあたった。
 アリサは、もう30分も前からUボートに気づいていた。なんといっても本性は義体のミナである。百年後の対潜哨戒機並みの探知能力がある。
「兵曹さん、これが12サンチ砲ですか」
「そうです、この弾で撃つんです」
 そう言って兵曹は12サンチ砲弾を持ち上げて見せた。
「これが尾栓ね……」
 易々と尾栓をあけると、砲身の中を覗いた。
「うわー、きれいな筋が何本も螺旋に走ってる!」
「それはライフルと言います。それで弾に回転を与え直進させます」
 アリサは説明を聞きながら砲の照準を決めた。
「九時方向に敵潜、距離800!」
 アリサの叫び声はデッキ中に響いた。
「兵曹、弾を装填。照準ママ、てーっ!」
 アリサが砲術長の声で言ったので、兵曹は条件反射で行動し、潜望鏡深度まで浮上していたUボートを一撃で撃沈した。

「うわー、兵曹さんてかっこいい!」
「いや、それほどでも……」

「今度やるときには、あたしにもやらせてね!」
 オチャッピーのアナが、完全に公女であることを忘れて言った。
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高校ライトノベル・『はるか 真田山学院高校演劇部物語・17』

2019-05-27 06:03:57 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
 真田山学院高校演劇部物語・17


『第二章 高安山の目玉オヤジと青いバラ7』

 明くる日は木曜日。

 で、部活は休み。由香を誘って、志忠屋へ。
 かねてタキさんが「友だちできたら連れといでぇ」と言ってくれていたから。

 もちろん例のアイドルタイム。
 タキさんは、マカナイのパスタを出してくれた。もち毛糸の手袋の方。でもホワイトソースの中の具は、ランチの食材の残りがあれこれと入っていてとても賑やか。
「あ、モンゴイカ使てはるんですね」
 由香がフォークに突き刺してしみじみと言った。
「よう分かったなぁ」
 タキさんが、仕込みを終えて、原稿用紙を取り出しながら言った。
「あたし、黒門市場の魚屋の子ぉですねん」
 由香は、黒門に力を入れて答えた。
「黒門やったら、儲かってるやろ」
「ボチボチですわ」
 おお、大阪の伝統的ごあいさつ!
「歯ごたえと、甘さのあるイカですねぇ。刺身とか天ぷらが多いねんけど、パスタにも使うんや」
「うん、皮むくのんえらいけどな。美味いしボリュ-ム感があるよってなあ」
 それから、魚介類の話に花が咲いた。モンゴイカがカミナリイカのことであることがその話の途中で分かった。
「ああ、やっと終わった」
 奥でなにをいじけてんのかと思っていたら、お母さんはそのモンゴイカの皮むきにいそしんでいたようだ。
 それから、タキさんは、女子高生二人を相手に最近の映画が、3Dやら、CGのこけおどしになってきたこと、意外なB級映画に見所があることなどを論じ始めた。
 由香は「ええ!」「うそぉ!」「そうなんや!?」「ギョエ!」などを連発して感心した。
 わたしは、タキさんが、そうやって原稿の構想をまとめているのが分かって、おかしかった。お母さんも原稿を打ちながら、肩で笑っていた。
 タキさんにしろ、大橋先生にしろ、大阪のオジサンの話は面白い。

 ひとしきり語り終えると「ゆっくりしていきや」と声をかけて、タキさんはお母さんとカウンターに並んで、原稿用紙を相手にし始めた。
 由香とわたしは、窓ぎわのテーブル席に。
 カウンターではカシャカシャとシャカシャカ。テーブル席ではペチャクチャとアハハが続いた。

 コップの氷がコトリと音をたてて、まるでそれが合図だったように由香が切り出した。

「はるか、あんた東京に戻りたいんとちゃう?」
 お母さんのパソコンの音が一瞬途切れた。
 わたしは完ぺきな平静を装った。
「どうして?」
「え……ああ、あたしの気ぃのせえ。はるかと居ったら、いっつも楽しいよって、楽しいことていつか終わりがくるやんか。お正月とか、クリスマスとか、夏休みとか冬休みとか……」
「アハハ、わたしって年中行事といっしょなの?」
「ちゃうちゃう。せやから、あたしの気のせえやねんてば。演劇部も楽しかったけど、行かれへんようになってしもたさかい。ちょっと考えすぎてんねん」
「うん、ちょっとネガティブだよ」
 その時ケータイの着メロ。名前を確認して、すぐにマナーモードにした。
「ひょっとして、吉川先輩から?」
「え、どうして!?」
「ちょっと評判になってるよ。時々廊下とか中庭とかで恋人みたいに話してるて」
 由香は声を潜めて言った。
 逆効果だってば! お母さんパソコンの画面スクロ-ルするふりして聞き耳ずきんになっちゃったし、タキさんなんかモロにやついてタバコに火を点けだしちゃうし。
「ただの知り合いってか、メルトモの一人だわよさ。タロちゃん先輩とか、タマちゃん先輩みたく。話ったって、立ち話。由香の百分の一も話なんかしてないよ」

 ああ……ますます逆効果。お母さんのスクロ-ルは完全に止まってしまった。
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