大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・せやさかい・013『ひと月ぶりに大和川を超える』

2019-05-03 14:29:41 | ノベル
せやさかい・013
『ひと月ぶりに大和川を超える』 
 
 
 
 ひと月ぶりに大和川を超える。
 
 この前は北の大阪市から超えて堺市に入ってきた。お父さんの失踪宣告をして苗字もお母さんの酒井になって越してきた。
 難波行の電車は大和川を超える鉄橋に差しかかった。窓の外に堤防が見えてくる。
 
 ちょっとせき上げて来るもんがある。
 
 来るときは思わへんかった。生まれてからずっと大阪市のA区に住んでた。
 保育所から中学校卒業するまでずっと住んでた。
 そのわりに、引っ越すときに、せき上げてくるもんとか想いとかはなかった。
 わたして、案外ドライな子ぉなんちゃうやろかと思た。
 別にお母さんに気ぃ遣うてのことやない。正直、お母さんは、もうちょっと娘に気ぃ遣うてもええんちゃうかと思うくらいや。
 案外簡単に新生活に馴染めるんやないかと思たし、じっさい、家にも学校にも馴染んだ。
 
 ガタンゴトン ガタンゴトン
 
 鉄橋に差しかかって、振動が変わる。
 普通のレールの上を走ってる時よりも体の芯まで伝わってくるような振動。
 
 ガタンゴトン ガタンゴトン
 
 心の引き出しがゆすぶられて、直してたもんが出てくるような、そんな響き。
 あかん、涙が滲んでくる。
 ハンカチ出そかと思たけど、こっそり涙が流れるよりはハンカチで涙拭く動作の方が大きい。きっと車内の人が変に思う。
 筋向いに座ってる四歳くらいの女の子が、こっち向いてる。
 
 あ、あ、どないしょ。めっちゃ心配そうな顔してるし。
 
 顔を背けて窓の外を見る……あ、あかん、涙が流れ落ちてきた。
 
 ズズーーッ
 
 どないしょ、無意識に鼻すすってしもた!
 
「どうぞ……」
 
 女の子がハンカチを差し出してくれてる。ああ、めっちゃ動揺する!
「あ、大丈夫よ、ちょっと花粉症でね」
 ヘラっと笑顔を作るけど「そんでも……」と女の子は手を引っ込めない。
「ハンカチやったら、自分で持ってるし」
 自分のハンカチで涙を拭く。
 すると女の子は、空いてたシートの横に上がってきて、小さな手で、わたしの頭を撫で始めた。
「いいこいいこ いいこいいこ」
「あ、アハハハ(#*´ω`*#)」
「ちょっと、ユイちゃん!」
 お母さんがたしなめて、女の子を引き剥がす。
「ごめんなさいね」
「あ、いえ」
 女の子が振る手に、わたしも小さく振って応える。
 
 そうそう、なんで電車に乗って大和川を超えているかと言うと、コトハちゃんの吹部の定期演奏会があるからなんです。
 
 その演奏会の話をするつもりやったのにね。
 その話は、また今度にいたします。
 
 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公 安泰中学一年 
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主
  • 酒井 詩        さくらの従姉 聖真理愛女学院高校二年生
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母
  • 榊原留美        さくらの同級生
  • 夕陽丘・スミス・頼子  文芸部部長
  • 瀬田と田中       クラスメート
  • 菅井先生        担任
  • 春日先生        学年主任
  • 米屋のお婆ちゃん
 
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高校ライトノベル・時空戦艦カワチ・020『地球周回軌道離脱』

2019-05-03 06:35:05 | ノベル2
時空戦艦カワチ・020 『地球周回軌道離脱』                 




 出港準備 指揮官艦橋!

 甲板作業員が係留策をシングルにする。
「ラッパ用意」
 
 パパラパー パパラパー パパラッパララッパラー🎵

 艦橋待機していたラッパ兵が満を持して出港ラッパを吹く。
 簡単な旋律だが緊張する、出港ラッパをトチるのはゲンが悪いのだ。
「一番離ーせ」
 砲雷長の号令で艦橋伝令が前部指揮官に伝える。
「碇揚げーー」
 ガラガラと碇の揚がる音が聞こえる。前部指揮官が揚錨完了のシグナル。
「両舷前進微速 方位150度」
「両舷前進微速 方位150度」
 艦長の指示を砲雷長が復唱、主機の振動が艦橋にいても武者震いのように響いてくる。
「時空戦艦カワチ出港!」
 カワチの艦内に力が漲ってくる。
「両舷前進元速 赤黒なし」
「両舷前進元速 赤黒なし」
「航海長操艦」
「「「「「「航海長操艦」」」」」」
「頂きました航海長 両舷前進元速 赤黒なし 方位150度」

 艦長や航海長には懐かしく手馴れた出港手順だが、ニワカと言っていい砲雷長や船務長も馴染んだ様子なのが面白い。

「なんでこんなレトロな出港するのよ、レトロなのは艦の外観だけじゃないの?」
 船務長がプータレる。任務に関するスキルはインストールされていて連携を崩すことは無いが、改進党議員秘書の感覚はしっかり残っているので、ファナティックでアナクロの権化にしか見えないカワチが腹立たしくて仕方がないのだ。不機嫌な顔で艦長に敬礼すると自室に戻っていってしまった。
「艦長、船務長には、もうちょっとハードにインストールしておいた方がいいんじゃないですか」
「砲雷長、必要なのは君たちのパーソナリティーなんだ。ハードなインストールをすると従順にはなるが、ここ一番という時に能力も力も発揮できなくなる。まだまだ先は長い、ゆっくりやろう」
「了解しました」
 チームワークが命のゲーム会社に勤めていたので呑み込みは早い。
 結論は分かっていても、何事も投げかけて反応をみてみようというスタイルのようだ。

「いやあ、こんなにワクワクするRPGは久しぶりですよ! じゃ、戦闘システムのバランス操作をしてきますよ」

 砲雷長は、まだゲームの中に居るように思っているようだ。
「このままワープしますか? やるんなら、最初なので10パーセク以内に抑えたいんですが」
「100パーセクでも問題ないと思うけど、太陽系をしっかりアナライズしておきたい。これだけしっかりした恒星系だ、すでに浸透してきた異星人勢力がある気がする」
「承知しました、木星の公転軌道でウェイティングします」

 日本の旧軍人や戦後の自衛官はマニュアルには強く、戦術的には卓越しているが大局的な戦略眼が弱いと言われてきた。

 軍事専門家たちの間にこんなジョークがある。
 下士官・兵を日本人に、将校をドイツ人に、軍司令官以上をアメリカ人で構成すれば世界最強の軍隊が出来あがる。

 そういう点、喜一は中小企業の社長には不向きであるが司令官に向いているのかもしれない。

 まだまだ乗員の頭数が揃っただけであるが、艦首を太陽系外縁に向け、ようやく地球の周回軌道を離脱していく時空戦艦カワチであった。

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高校ライトノベル・時かける少女・87・スタートラック『アルルカンのアルターエゴ』

2019-05-03 06:23:46 | 時かける少女
時かける少女・87スタートラック 
『アルルカンのアルターエゴ』    


 
 コクピットに、アルルカンが実体化していた……。

「それは、アルルカンのアルターエゴよ!」
「分身……これが?」
「違うよ。これがオリジナルさ。いま船ごと蒸発したのがアルターエゴ(分身)さ。けっこう気に入っていたのにね」
 分身は、まるで百歳のお婆さんだった。
「もう、二三体アルターエゴを作っておけば、こんな無様な姿を晒すこともなかったんだけどね。まさか王女様自らお出ましになるとはね」
「わたしは、予備役だけど軍人なの。ベータ星の危機は見過ごさないわ」
「その正義感が命取りだね……この船も、わたしの船のようにしてやる……」
「させるか……」
 
 マーク船長は、ワープスイッチをCPUとのリンク無しに入れた。目的地を入力していないワープは、亜空間に投げ出される。つまり、現実世界ではない宇宙の狭間に。
「どないや、これで、この船を破壊したら、バアサン、元の世界には戻れんようになってまうで」
「戻ろうなんて気はないよ。水銀還元プラントもダウンロードの最中。アルターエゴを作り直すには、あたしの残り時間は少なすぎるからね……ただ、あんたらを生かしておいちゃ気が済まないんでね……」

 ビューン バシッ!

 耳障りな音がした。
 コスモスが自分のコスモエネルギーを破壊モードに変換。アルルカンにぶつけ、はじき返された音だ。

「残念だったね、コスモス。シールドを張ってあるんでね」
「残念……」
 その言葉を残して、エネルギーを使い果たしたコスモスは棒のように倒れてしまった。

 そして、船が、ビリビリと振動し始めた。

「この船には意志があるんだね。破壊の思念に抵抗している……」
「そうさ、破壊される前に、あんたの命の灯が消える」
「舐めちゃいけないよ、このアルルカンを……!」

 アルルカンの思念が、さらに強力になり、船は悲鳴に似たきしみ音をたてる。

「くそ……!」
「あと二十秒も持たないだろうね、へへへ……」

 そして、船のきしみが分解寸前に達したとき、いきなりアルルカンの首が飛んだ……!

 首が離れたアルルカンの体がドウと倒れると、その背後には意外な人物がコスモセーバーをはね上げた姿勢で立っていた。

「マグダラ……」

 それは、女宇宙海賊マグダラであった……。
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