大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・『はるか 真田山学院高校演劇部物語・01』

2019-05-11 06:29:34 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
はるか 真田山学院高校演劇部物語・1
  
 
『第一章 ホンワカはるかの再出発』  




 環状線Y駅を降りて、見上げた空にはホンワカと雲ひとつ。絵に描いたような五月晴れ!

「おーし、この調子でホンワカと!」

 ……と思っていたら唐突に校門が目の前に立ちふさがった。むろん開いてはいたけど印象はまさに通せんぼ。

 言っとくけど、学校が駅前にあるわけじゃない。駅から三つ角を曲がるんだけど、緊張のあまりボンヤリしてた。で、ついでに言っとくけど、いつもボンヤリしてるわけじゃない。

 今日は特別よ、ト!ク!ベ!ツ!!

 転入試験で一度は来たんだけど、やっぱ緊張してたんだ。校舎のこととか全然おぼえていない。
 わたし、坂東はるかは、東京の荒川って下町から訳あって、この大阪の真田山学院高校に転校してきた。
 この学校は、府立高校の中で、ただ一つ「学院」の名前が付く。元々は大正時代にできた私学なんだけど、第二次ベビーブームのころに府が買収。有力国会議員が数人いる同窓会の強い意向で元の校名が残った。わたしの偏差値なら、他にも受けられる学校はあったんだけど、この「学院」という私学的な校名に惹かれて、ここを選んだ。

 そして今日がはじめての真田山学院高校の生徒としての登校。

 登校たって、今日は中間テストの最終日の放課後。いろいろ説明うけて、校内案内してもらったりするだけなんだけど……校舎を見上げただけで、わたしのホンワカはふっとんでしまった。

 校門から校舎につづくネコのオデコほどのアプロ-チ。五階建ての古ぼけて、あちこちに浮き出た血管のようにはい回っている配管。渡り廊下ってか、渡り校舎の下が薄暗いピロティー。そのピロティーの中から、あきらかにわたしをモノメズラシく見つめる生徒サンたちの視線……。
 そりゃそうだろう、わたしはまだ東京の高校の制服のまんま、それがウサンクサゲというか怒ったような顔(わたしはビビると怒ったような顔になる)で校舎見上げてんだもん。
 
 あ、校門の脇にマサカドクン! 

 こいつについては、後ほどくわしく述べます。ひとまず不思議な存在と思っていてください……。

「電話してくれたら校門まで迎えに行ったげたのに」
「いえ、こんなに校舎の中が複雑だとは思ってなかったもんですから……」
 一通りの説明を受けたあとの、わたしの担任竹内先生との会話。
 竹内秀哉先生。黒目がちの目の上に太筆で「一」を書いたような眉。終始わたしの目を見ながら笑顔を絶やさない。先生というより、商売人のオジサンのエビス顔だと思ちゃった……その瞬間。
「アメチャン食べる?」
 さすが大阪、絶妙な呼吸!

 でも、男の人でもアメチャン出すんだ。
 
「失礼します」

 ちょうどタイミングよく入って来たポニーテールに、先生はもとのエビス顔。
「あ、ちょうどよかった、由香。この子、東京から転校してきた坂東はるか君や、学校の中案内したってくれるか」
「はい、よろこんで、ころこんで!」
 と、調子よくポニーテール。

 これがわが親友鈴木由香との出会いであった。

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高校ライトノベル・時空戦艦カワチ・028『カスタムアイドル』

2019-05-11 06:06:02 | ノベル2
高校ライトノベル・時空戦艦カワチ・028
『カスタムアイドル』



 一七三〇(ヒトナナサンマル)レーダーに感ありません。
 一七三〇(ヒトナナサンマル)ソナーに感ありません。

 毎正時に発せられるレーダー、ソナーの報告が一七三〇に行われる。

 これは船務長の通常任務が終わったことを知らせてくれているのだが、清美は船務長のシートから動けないでいる。
 再生たこ焼きになったつもりで、やっとCICに出るようになったがスタッフたちと馴染めずにいる。
「船務長、引き継ぎます」
 先任電測員のミナミが交代を告げる。
「え、あ、渡します」
「いただきました」
 電測ボスのシートを明け渡すと、とたんに清美は居心地が悪くなる。
 CICのスタッフは、それぞれの計器やモニターに集中し、勤務時間を外れた船務長を顧みる者はいない。
 みんなそれぞれの任務を果たしているだけなのだが、とても疎外感を感じる。

 立証はされていないが、ツクヨミの激突は船務長のせいだと無言で咎められらているような気がして顔があげられない。

「船務長、いいですか?」

 ラッタルを上がろうとしたところで声を掛けられた。
「砲雷長……なんでしょうか?」
「明けのところ申し訳ない、ちょっと見て欲しいものがあるんだけど」
 砲雷長は元職がゲーム会社のディレクターなので、どこかざっかけない。
「あ、えと……」
「清美ちゃんでなきゃということがあってね(^_-)-☆」
 人懐こいウィンクに断る気持ちも失せてしまう。

「これなんだよ」

 連れていかれたCP室、一番奥のコーナーに二台のモニターが点いている。
「これは……」
 左のモニターにはスクリプトが、右側には清美を3D化したキャラがクルクル回っている。
 CPは苦手な清美だが、開発途中のゲームらしいことは見当がついた。
「暫定的なタイトルは『カスタムアイドル』っていうんだけどね」
「ギャルゲー……」
「アイドルの育成と恋愛を掛け合わせたゲームなんだ、艦内で流行らせてやろうと思ってね」
 せわしくキーボードをたたくと、清美を映していたモニター画面が十個に分かれ、十人のバーチャルアイドルに代わった。
 クリックすると男子アイドルに入れ替わる。名前は微妙に違うが、いずれも実在のアイドル達だ。
「この男女十人ずつがデフォなんだけど、完全に一からカスタマイズも出来る、このデフォを改造することもできる。ユーザーはこのアイドル達が一般人のころに知り合って、付き合っていくことでお互いの運命を変えていくんだ。メインはアイドルだけど、他の職業も選択可能なんだ」
「で、わたしのキャラ?」
「議員秘書の前はアイドルだったでしょ」
「残念なアイドルでしたけど」
「民自党議員の娘がアイドルになったてんで、一頃は評判だったんだけどね」
「反抗心だけでアイドルなんてやってられないし……て、使うんですか!?」
「乗員はガイノイドばかりで優秀なんだけどね、優秀な者には限界がある、クリエートな発想が苦手だ。いわば、あらゆる知識と型を覚えているだけで応用がきかない。艦長も手を打ち始めてる、俺も一肌脱ごうと思ってね」
「そうなんだ……」
「清美ちゃん、CICのスタッフたち、冷たいと思ってるだろう」
「え、あ……」
「隠しても分かるさ、冷たいんじゃない、気が周らないのさ。かれらの頭の中には航海のあらゆる可能性がインプットされている。不測の事態で犠牲者が出ることも計算の中に入っている。ツクヨミとの事故は、そういうものの一つなんだ。清美ちゃんを責めているわけじゃなんだ。だから、そっけなさは想像が働かないだけで、君に悪意があっての事じゃない。これからの航海はこの状態じゃ難しい、その改善の一手がゲームというわけさ、週末にはベータ版にしたくてね。ま、その監修をお願いしたいというわけさ」

 そう言うと砲雷長はガハハハと笑い出し、腹筋の緩みで、ストンとズボンがずり下がる。

 ゲームの前に自分をカスタムしろよなと思う清美であった。
 
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高校ライトノベル・新 時かける少女・5〈那覇中央高校〉

2019-05-11 05:55:27 | 時かける少女
新 かける少女・5 
〈那覇中央高校〉


 
 沖縄に越してからの一カ月は、あっという間に過ぎた。

 官舎は、今度の南西方面遊撃特化連隊の創設に合わせて作られた新築で、新しいというだけで嬉しくなった。ただ、長崎に居るときとは違って、官舎なので他の隊員の人と同じく3LDK。まあ、お父さんは連隊長で、ほとんど石垣島に貼り付きなので、うちの家族は、お母さんと弟の三人家族のようなものだったので、そう手狭には感じない。

 フェリーでの出来事は、今では夢か現実か分からなくなっていた。運転手さんや助手の宇土さんが代わったのは会社の都合で、いっしょにフェリーに乗っていた他の隊員さんのところでも似たようなものだった。唯一の物理的な証拠であるお守り袋の穴も、官舎に入ったころには塞がっていた。で、忙しさもあって、あたしはほとんど忘れかけていた。

 いや、忘れようとしていた。あたしが総理大臣の隠し子……ぶっとんだ話だけど、心に刺さっている。

 学校は、那覇中央高校への転入になった。

 隊員の家族には、二十人ほどの高校生がいたけど、学力に応じて中央高校と東高校に振り分けられた。それ以外の高校に行った者はいない。中学と小学校、幼稚園は、みんな同じところにいれられた。みんな同じ官舎にいるんだから、当たり前のように思えたけど、セキュリティーの問題があると、高校生ぐらいになると分かっていた。南西方面遊撃特化連隊というのは、それほど日本の安全保障には重要な部隊なんだ。

「ゲ、体重計に目隠しがない!」

 発育測定で、ぶったまげた。
 
 今まで行った学校では、発育測定の時は測定する先生の側だけ見えるようになっていて、本人にも周りのクラスメートにも見えないようになっていた。ところが、中央高校では平気で一般公開だ。
 
「みーかー、また増えてるよ!」
「あーねー変わらんねえ!」
 
 などとやっている。ちなみに「みーかー」は美加のこと「アーネー」は茜のこと。名前の呼び方が独特。
 
「へえ、あーいーは50キロ。やっぱウチナンチューの子はスマートやね!」
 
 測定の先生までが、平気で言う。でも、小林じゃなく、みんなと同じように「あーいー」と呼ばれるのは嬉しい。
 
「エリーは、食うとるんか?」
 
 あたしの次の、比嘉恵里が言われている。恵里は漢字で書くと「恵里」だけど、読みは「エリー」だ。
 他の子が、方言で「みーかー」や「あーねー」になっているようなんじゃなくて、元々の読みがエリーなのだ。いわゆるハーフで、お父さんがアメリカ人。ビックリするほど可愛いんだけど、本人も周りも全然意識していない。で、出席番号が隣りなんで、すぐに仲良しになってしまった。
 
 ちなみに、エリーは大食いだ。何度も学校の帰りにファストフードの店になんかいくけど、あたしがMのところなら、LとかLLとかを食べている。
 
「いいねえ、エリーは太らなくて」
「ハハ、お父さんなんか『エリーはフィシーズメーカー』だって言うよ」
「フィ……なにそれ?」
「ウンコ製造機!」
 
 さすがに、店の人まで笑ったが、あくまでも明るい。本人もハンバーガーを持ったまま大口で笑っている。

 あたしは、この明るさが大好きになった。

 笑いながらお店を出ると、曲がり角からバイクがやってきて、危うく跳ねられそうになった。エリーは一瞬早く気づいて、あたしを抱えて地面を転がった。

「しなさりんど!」

 エリーは、バイクのアンチャンに悪態をついた。アンチャンは一瞬ムッとしたが、直ぐに照れた顔で、こう言った。
 
「ガチマヤーのエリーには、かなわんね!」
 
 で、二人は大笑いしておしまい。
 
「あの、今の翻訳してくれる?」
「あ、『しなりさりんど!』は『シバキ倒すぞ!』で『ガチマヤー』ってのは『大飯食い』てな意味」
 
 そう説明をうけたころ、周囲はごく当たり前の日常に戻っていた。

 那覇中央高校での生活は、驚きと発見のうちに楽しく始まった。




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