大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・魔法少女マヂカ・029『友里の新テクニック』

2019-05-31 14:35:58 | 小説
魔法少女マヂカ・029  
 
『友里の新テクニック』語り手:マヂカ   

 

 

 ジャーーーン、これを入れまーす!

 

 友里が目の高さに掲げたものを見て、ブルってしまった。

 友里が掲げているものは、わたしの目の錯覚でなければマヨネーズだ。

「大丈夫よ、マヨネーズの主成分てタマゴだからね、卵焼きの材料になってもおかしくないのさ!」

 いやいや、マヨネーズの中には酢も入ってるんだぞ、酸っぱい卵焼きなんてありえないだろ!

 ノンコは、ホーーって顔して。清美は、そう言う手があったかと感心している。二人は、友里の指示に従って、ガスコンロに卵焼き器とフライパンを温めている。

「いっきまーす!」

 宣言した友里は、それぞれ卵が一個入った器にマヨネーズをムニュッと入れた。

「じゃ、素早くかき混ぜて焼いてちょうだい!」

「「お、おう」」

 ノンコと清美は、受け取った器を、器用不器用の差はあるが、かき回して、スクランブルエッグと卵焼きを作り始めた。

 わたしが知っているものとは微妙に異なるニオイをさせながら卵料理ができあがってくる。

 

 ま、こんなもんかな? という表情で、二人とも焼き上げる。マヨネーズが入ったぶん、普通に一個だけで焼いたものよりも大きい。かといって綾香姉がつくる二個分のよりは小さくて、お弁当のおかず用にはピッタリの大きさ。

 

「食べてみようよ!」

「「おう!」」

 割り箸を持って、スクランブルエッグと卵焼きを味見する。

「どう?」

「おお、ちゃんと卵焼きだ!」

「アハハ、ちょっと、マヨネーズがきついとこあるけど、イケてるよ」

「でも、言われなきゃわかんないかも、マヨ入りだなんて」

「フフフ、魔法みたいだな」

 自分で感心しておかしくなる。

「これで、真智香のお弁当問題は解決だな!」

 これを綾姉に伝授すれば、わたしのお弁当問題は解決だ。

「お母さんに、よろしく言っといてね」

「うん、じゃ、記念撮影するよー!」

 四人で卵焼きを捧げ持ちながらの記念撮影。わが調理研のレパートリーも、少しずつ増えてきた。毎日やる部活じゃないけど、こうやってレパートリーが増えてくると、なんだか達成感で嬉しくなってくる。

 料理なんて、ちょっとイメージしたら目の前に出現させられる魔法少女なんだけど、こういう喜びはアナログならではだ。

 

「う~~ん、もう少しかき混ぜた方がいいわね」

 

 サンプルを徳川先生に試食していただいた。さすがは家庭科のボス。一瞬でかき混ぜが足りないことを見破った。

「ホイッパーを使うと短時間で効率よくかき混ぜられるわよ」

「ホイッパーって、何ですか?」

 ノンコが首をかしげると、清美がかき混ぜる仕草をする。

「ああ、かき混ぜ器!?」

「でも、洗い物が増えちゃいますね」

「だったら、お箸を五六本持ってやってもいいのよ。使い終わったら水に浸けて、あとで洗えばいいから」

「「「「なるほど」」」」

「卵焼きは、好みにもよるんだけどね、あんまりかき混ぜちゃダメだわよ」

 それは矛盾だ。

「そうね、もっとかき混ぜろって言ったところだわね。でも、和食の卵焼きなら混ぜ過ぎは禁物」

「どうすればいいんですか?」

「暇な時に作っておいて、冷凍庫で凍らせておくの。凍ったままお弁当に入れたら保冷材の代わりにもなるしね」

「「「「な、なるほど!」」」」

 正直に感心すると、先生はとびきりのドヤ顔になる。

 お礼を言って準備室を出る。

 廊下に差し込む夕日は、思いのほか傾いていた。

 日暮里を音読みして日暮の里という響きが似合っていると思った。

 

 

 

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連載戯曲 すみれの花さくころ(宝塚に入りたい物語)・3  

2019-05-31 06:38:04 | 戯曲
連載戯曲 すみれの花さくころ 
(宝塚に入りたい物語)・3 
※ 無料上演の場合上演料は頂きません。下段に連絡先を記しますので、上演許可はとるようにしてください

 
すみれ: え……?
かおる: あ……見えないんだ、すみれちゃんには……買って間がないから、まだ持ち主になじんでないんだね……
 いろいろできるんだよ。情報の端末になってて、買い物したり、占いしたり、好きな場所の映像とりこんだり。
 これで宝くじ買ったんだよ、ゴーストジャンボ!
すみれ: え、幽霊にも宝くじがあるの?
かおる: もちろんよ。生きてる人の世界にあるものはたいていあるわよ。だって、もとはみんな生きてる人間だったんだから。
すみれ: 一等は、やっぱ三億円?
かおる: ううん、生まれかわり!
すみれ: 生まれかわり?
かおる: 幽霊って、めったに生まれかわれないんだよ。だって、死んだ人って、生きてる人の何千倍、何万倍もいるんだからね。
すみれ: そうなんだ。
かおる: そうだよ。特にこのごろは少子化の影響で、めったに生まれかわったりできないんだよ……
 見て、今日の占い! あ、見えないんだ……。
すみれ: なんて出てるの?
かおる: 今日は、あなたの死後で一番のラッキーデーでしょう。運命の人との出会いがあります……すみれちゃんのことだよ!
すみれ: あたしが!? ちがうちがう、あたしそんな運命的な人なんかじゃないよ。
かおる: ううん、絶対そうよ! この占いは絶対だよ。だって、阿倍野晴明さんが占ってるんだよ、本物の。
すみれ: アハハ……本物か。そうだよね。
かおる: あ、メールが入ってる。
すみれ: 阿倍野晴明さん!?
かおる: まさか、そんな偉い人が……お友だちよ……え……
 アハハ(道路の電柱一本分むこうに声をかける)そんな近いところからメール打つことないでしょ。
 直接声をかけてくれればいいのに……え……もう石田さんたらテレ屋さんなんだから!
すみれ: 誰と話してるの?
かおる: 石田さん。わたしの友だち。メール打ったり、いっしょに宝くじ買ったり。
すみれ: あ、かおるちゃんのカレでしょ!?
かおる: 違うよ、女の人だよ。婦人……女性警官。ほら、去年パトロール中に死んじゃった女性警官の人、いたでしょ?
すみれ: ああ、暴漢におそわれた子供を助けようとして、刺された……
 気の毒に亡くなったんだよね、お母さんなんかウルウルだったよ。
かおる: あはは、照れてる……行っちゃった……今でも、ああしてパトロールやってんの。
すみれ: 一人で?
かおる: うん。今日は迷子の男の子の手をひいてる。
すみれ: 迷子……幽霊の?
かおる: けんちゃん。二日前に死んだばかりで、まだ自分が死んだってことが分かってないんだ……
 お母さんがわりかな、しばらくは……あたしもね、宝くじ預けてるの。
 あたしって忘れ物の名人だから。今まで三枚もなくしちゃったのよね。
すみれ: あは、そそっかしいんだ。
かおる: 失礼ね、大らかなのよ、人がらが。
すみれ: そうなんだ。でもさ、だいじょうぶ人に預けたりして?
かおる: どういうこと?
すみれ: だって、万一当たりくじだった時にさ。すり替えられちゃったりしたら、分かんないじゃない。
 どうせ自分のくじの番号なんか覚えてないんでしょ?
かおる: そりゃ……覚えてないけど……失礼だよ、そんなふうに考えるのは。
すみれ: ちがうよ。そういう貴重品はちゃんと自己管理しなくちゃ。
かおる: 自己管理!?
すみれ: そう、自分の物は自分で責任持たなくちや。
かおる: それって、人を見たら泥棒と思えってこと?
すみれ: まあね、学校でも自分の物には自分で責任もてって言ってるよ。
かおる: 学校で!?
すみれ: 常識だよそんなこと。
かおる: 常識って、教育勅語習ってないの?
すみれ: キョウイクチョ……。
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高校ライトノベル・時空戦艦カワチ・048『進行方向の星たちは闇夜の誘蛾灯』

2019-05-31 06:21:42 | ノベル2
高校ライトノベル・時空戦艦カワチ・048
『進行方向の星たちは闇夜の誘蛾灯』



 光速を超えると星々は進行方向にしか見えない。

 背後の星々は、その発する光がカワチの速度に追いつかないからだ。

 進行方向の星たちは闇夜の誘蛾灯のように蠱惑的である。
 星々の中央にはカワチを光速の10倍で牽引しているプロキシマbがあり、正体が分からない今は怖れでしかないはずなのに目がいってしまう。
 人間というのは自らを万物の霊長などとうそぶいているが、こういうところは誘蛾灯に集まる虫けらと変わりはないように思える。

「虫けらなのかもしれないね、おれたちは」

 艦コーヒーを愛しむように掌(たなごころ)の上に転がして呟く艦長。
「一寸の虫にも五分の魂と言います」
「そうだね、五分の魂は光速の10倍でも、プロキシマbに引きずり込まれるのは五カ月も先だと教えてくれる、ガツガツすることはないね」

 ペシ

 そう呟いてしまうと、少し肩の力が抜けてプルトップを開けた。
 不思議なもので、千早姫が近くに居ると開き直れる艦長だ。

「副長はどうしていたんだい?」
「父の苦労は見過ごしにできませんので……思いのほか時間がかかってすみませんでした」
「正成さんだね」
「ええ、帝がなにもかもご自分でなさろうとされるものですから」
「後醍醐天皇……だったよね」
「はい、建武の新政です。ご本人は建武の中興とお呼びですが」
「たしか、後醍醐という諡号も御在位のうちにお決めになったんだよね」
「はい、東宮さまも践祚のあとは後村上と諡号をお決めになっています」
「延喜・天暦の治(えんぎ・てんりゃくのち)を至高の治世と思われてるんだね。日本史で習ったよ」
「大仰なものではないんですけど、帝の目でご覧になると、そう見えるんです」
「わたしがプロキシマbからの牽引ビームに慌てふためいたのと逆だね」
「帝は至尊でなければなりません、至尊はじかにマツリゴトに手を染めてはならないんです……ま、やれるだけのことはやってきましたし、これからはカワチの副長職に邁進します」
「ありがとう、きみがいるだけでぶれずにすみそうだ」
「では、提案です。牽引ビームがかかっているうちは速度も方位も自由になりません、当面なにをすべきかを乗員に示しましょう」
「なにを示すんだい?」
「それを考えるんです、真正面に星々が輝いているうちは大丈夫ですから」
「そうだね、周囲いっぱいに星が見えると言うことは光速を離脱してプロキシマbに取り込まれた時だろうからね」

 二人は進行方向の星々を一瞥してから艦内に戻った。

 星々は、希望の徴のようにも禍々しい凶星のようにも思えた。
 
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高校ライトノベル・時かける少女BETA・14《アナスタシア・10》

2019-05-31 06:13:26 | 時かける少女
時かける少女BETA・14  
《アナスタシア・10》                   


 
 北樺太とウラジオストクは一か月で、アナのロシア帝国に帰属した。

 もともとがロシア帝国の領土であり、ソヴィエトの力も、ここまでは及んでいなかった。この地域に住んでいたロシア人は帰属する国家が消滅し、オロオロしているところに、アナが艦隊を引き連れて現れたのである。ほとんど何の抵抗もなくアナは掌中に収めることができた。

「東郷提督、ありがとうございました」

 無事入港を果たしたとき、デッキに一緒に立った東郷平八郎に、改めて礼を言った。
 日本は第一次大戦が始まると、同じ連合国として日露戦争で鹵獲した艦船の半分をロシアに返し、それらは事故で失われたもの以外はソヴィエトのものになってしまっていた。
 そこで、残りの6隻の艦船をアナの新生ロシア帝国に返還、急きょロシア極東艦隊が再編され、いまこうして、ロシア海軍旗を掲げ、ウラジオの港に入港している。むろん日露戦争から10年以上もたち、戦闘艦としては陳腐化していたが、新生ロシア帝国の威容を誇るのには十分だった。アナが乗っているレトウィザンを始めロシア艦隊の後ろには日・米・仏の艦隊が控え、瞬間的ではあるが、東洋一番の艦隊になっていた。
 港では残留していたロシア人、西からウラル山脈を越え、はるばる逃れてきたロシア人、在留外国人たちが歓呼の声で、この東洋一の艦隊を出迎えた。
「登舷礼ヨーイ、総員上甲板」の号令がかかった。
 東郷は、この日のために日本中から亡命ロシア人の若者を集め即席のロシア海軍の軍人したてようとした。しかし亡命者の中には老若取り混ぜて本物のロシア軍人がかなり混じっており、各艦の大半は彼らで占められた。
 ただ、各艦ともに相当改造されており、ロシア人の慣熟には時間が足りず、運用の実態は日本海軍が担った。
 そして、レトウィザンには東郷始め各国の提督が並び立ち、新生ロシアは各国と協力して再建されることを目に見える形で人々に示した。中でも東郷の存在は、かつての敵将であったにも関わらず、ロシア人を奮い立たせる力があった。

「アナ、大事なことはこれからよ」

 歓迎レセプションを終え控室に戻ったアナをアリサは急き立てた。
「分かってる」
 一言言うとアナは、ローブデコルテを脱ぎ捨て、軍服に似た女帝事業服に着替えた。
「歩きながら説明するわ、実は……」
「え、ほんと!?」
「ええ、早く手を打たないと、みんなソヴィエトに持っていかれるから。善は急げよ」

 アナは、まだ宮殿を持っていなかった。樺太でもウラジオでも、ホテルを借り上げて仮宮としていた。それには深慮遠謀があった。

 会議室には、ロシア軍やコサックの部隊長、各国の派遣軍司令官と参謀、それにユダヤ資本を始めとする財界人たち、そしてウラジオ周辺に移住してきたチェコやポーランドの代表者たちが混じっていた。
「わたしはロシアのくびきでもなく専制独裁者でもありません。ただの文鎮です」
 アナは、紙の束の上に文鎮を載せてみた。
「文鎮があれば……(紙の束を吹いて見せた)このように紙の束は吹き飛ぶことはありません。でも……コサックのヘトマンさんこちらへ」
 傲然としてはいたが、隅の方でひかえていたコサックの部隊長ヘトマンは少し驚いたが、アナの前に出て敬礼した。
「あなたが吹いてみてくださる。思い切り」
「……よろしいんですか陛下?」
「ええ、思い切り!」
「ハ、仰せのままに」
 コサックの巨漢が肺一杯に空気を貯めて吹き飛ばすと、紙束はささやかな文鎮もろとも吹き飛ばされてしまった。
「では、ヘトマンさん。この文鎮でお願いします」
 アナは、一キロほどの重たい文鎮を紙束に乗せた。さすがのコサックの巨漢でも、これは吹き飛ばせなかった。
「ありがとう、ヘトマンさん。さてみなさん……わたしは、この小さな文鎮です。コサックのヘトマンさんのひと吹きで飛んでいきます。しかし、この少し大きめの文鎮なら吹き飛ぶことはありません。ここに無骨なモーゼルという拳銃があります。これを置くと紙は吹き飛びませんが、上の何枚かの紙を傷つけてしまいます。少しの間、わたしを大きめの文鎮にしていただけないでしょうか。けして紙を傷つけることはありません。それに……」

 アナは、悠然とモーゼルを構えると、テーブルに乗り、紙の束を真上から撃った。

「ご覧のとおり、モーゼルと言えど、この文鎮にまとめられた紙の束を打ち抜くことはできません」
 モーゼルの弾は上から20センチのあたりで見つかった。貫通はしていない。このことで同席の者すべてがアナの非常大権を認めた。
「まず、ハバロフスクまでの治安と主権を回復します」
 地図を示した。異議が出た。
「ご無礼ながら陛下、我々の力をもってすれば、イルクーツクあたりまで一年でとりもどしてみせますが」
 イギリスの司令官だった。
「いいアイデアです司令官。わたしも同じ意見です。ただ、あまり人の血を流したくないんです。もうロシア人同士……いえ、人類の血を流したくないんです。バートル・ダルハンさん入ってください」

 正面の扉から、一人のモンゴル人が入ってきた、なにやら横綱の入場を思わせる風格があった……。
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高校ライトノベル・『はるか 真田山学院高校演劇部物語・21』

2019-05-31 06:03:29 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
はるか 真田山学院高校演劇部物語・21


 
『第三章 はるかは、やなやつ!3』

 その週末は『ドラマフェスタ』の通し券を、タロくん先輩から借りて、お芝居を観に行った。

 由香も誘ったんだけど、土日はお店が忙しく、家事は由香の仕事である。頼めば大学生のお姉さんもやってくれるらしいんだけど、この日は就活のガイダンスでアウト。
「ごめん、タイミング悪うて。また誘ぅてな」
 スマホの向こうで洗濯機の音がした。
 通し券では一人しか入れない。二人となると、一人分の当日精算券をワリカンにしなくてはならない。
 いくらになるのかなあと、当日精算の受付を横目で見る……。
 え、三千五百円! ワリカンで千七百五十円……映画の学割より高いよ。
 由香を誘えなくてよかったかも。今度由香と遊びに行くときは映画にしよう。

 土曜のマチネーで混んでいたけど、一人なのでなんとか座れた。
 演目は、ブレヒトの『肝っ玉お母とその子供たち』
「へえ、ブレヒトか……」
 という大橋先生から、本を貸してもらって読んだり、ネットでブレヒトを調べたり。
 迫力はあった。大勢でいっぺんに同じ台詞をしゃべったり、突然大阪弁の漫才みたくなったり……ああ、これが「異化効果」なのかと思ったりしたが、正直「それでどうなのよ」である。

 その前は、タイトルは忘れたけど「イジメと自殺」のお芝居。
 上手いんだけど。こんなことで自殺する? 
 で、その子の遺書にイジメた子の名前が書いてあって、その親たちが責任のなすり合い。最後に親たちが和解してカタルシス。
 ああ、最初にこのカタルシスがあって、そのカタルシスのために組み立てたストーリーだな……と思った。
 正直イジメはある。
 東京にいたころもあったし、大阪に来るときは、自分自身のこととして心配もした(現にクラスの何人かからはシカトされてもいる)
 でも、死んだりしない。死なないで苦しんでいるのが大多数だ。
 わたしなら、いじめられて、泣いたり、いじけたり、ときには戦ってボロボロになっていくところを書く。そこにこそドラマがあるからだ。
 和解のカタルシスのために、その子を死なせるのは、やっぱ変だと思った。

 その前は『西遊記』をもじったコメディーだった。とても上手い人と下手くそな人がいた。
 でも、なんで上手く、また下手くそに感じるのか、説明はできない……。
 そんなことを思っているうちに、ブレヒト芝居はカーテンコール。満場われんばかりの大拍手。白けてんのはわたしひとり。
 やっぱ、わたしって、芝居には向いていないのかなあ……さっき思い出したお芝居も、けっこうお客さんたちは喜んだり感動したりしていた。やっぱ、わたしって演劇オンチ?


 劇場を出て駅に向かう。ケータイの着メロ。
「あ、吉川裕也……」
――今どこにいる?――
 どこったって、説明なんかできないよ。大阪の地理なんて、まだよく分かんない。
 仕方がないので、「T駅へ向かう途中」……とメールを打ったら、打たれた。
 肩を軽くポンポンと。

「あ」

 振り向くと、吉川裕也がニコニコとイケメン顔で立っていた。
「もう、側にいるんだったら直接声かけてくださいよ」
「だって、怖い顔して歩いてんだもん。声かけづらくってサ」
「考え事してたから……ヘヘ」
 急場しのぎのホンワカ顔になる。
「デートしようぜ」
「デート、今から!?」
「うん、今から。だって前から言ってただろう」
「う、うん」
「それとも、なんか先約でもあるのか?」
「ないない、ありませんけど……」
「じゃあ、決まり。これから大阪の原点を見にいこう」
「大阪の原点?」
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