ジャーーーン、これを入れまーす!
友里が目の高さに掲げたものを見て、ブルってしまった。
友里が掲げているものは、わたしの目の錯覚でなければマヨネーズだ。
「大丈夫よ、マヨネーズの主成分てタマゴだからね、卵焼きの材料になってもおかしくないのさ!」
いやいや、マヨネーズの中には酢も入ってるんだぞ、酸っぱい卵焼きなんてありえないだろ!
ノンコは、ホーーって顔して。清美は、そう言う手があったかと感心している。二人は、友里の指示に従って、ガスコンロに卵焼き器とフライパンを温めている。
「いっきまーす!」
宣言した友里は、それぞれ卵が一個入った器にマヨネーズをムニュッと入れた。
「じゃ、素早くかき混ぜて焼いてちょうだい!」
「「お、おう」」
ノンコと清美は、受け取った器を、器用不器用の差はあるが、かき回して、スクランブルエッグと卵焼きを作り始めた。
わたしが知っているものとは微妙に異なるニオイをさせながら卵料理ができあがってくる。
ま、こんなもんかな? という表情で、二人とも焼き上げる。マヨネーズが入ったぶん、普通に一個だけで焼いたものよりも大きい。かといって綾香姉がつくる二個分のよりは小さくて、お弁当のおかず用にはピッタリの大きさ。
「食べてみようよ!」
「「おう!」」
割り箸を持って、スクランブルエッグと卵焼きを味見する。
「どう?」
「おお、ちゃんと卵焼きだ!」
「アハハ、ちょっと、マヨネーズがきついとこあるけど、イケてるよ」
「でも、言われなきゃわかんないかも、マヨ入りだなんて」
「フフフ、魔法みたいだな」
自分で感心しておかしくなる。
「これで、真智香のお弁当問題は解決だな!」
これを綾姉に伝授すれば、わたしのお弁当問題は解決だ。
「お母さんに、よろしく言っといてね」
「うん、じゃ、記念撮影するよー!」
四人で卵焼きを捧げ持ちながらの記念撮影。わが調理研のレパートリーも、少しずつ増えてきた。毎日やる部活じゃないけど、こうやってレパートリーが増えてくると、なんだか達成感で嬉しくなってくる。
料理なんて、ちょっとイメージしたら目の前に出現させられる魔法少女なんだけど、こういう喜びはアナログならではだ。
「う~~ん、もう少しかき混ぜた方がいいわね」
サンプルを徳川先生に試食していただいた。さすがは家庭科のボス。一瞬でかき混ぜが足りないことを見破った。
「ホイッパーを使うと短時間で効率よくかき混ぜられるわよ」
「ホイッパーって、何ですか?」
ノンコが首をかしげると、清美がかき混ぜる仕草をする。
「ああ、かき混ぜ器!?」
「でも、洗い物が増えちゃいますね」
「だったら、お箸を五六本持ってやってもいいのよ。使い終わったら水に浸けて、あとで洗えばいいから」
「「「「なるほど」」」」
「卵焼きは、好みにもよるんだけどね、あんまりかき混ぜちゃダメだわよ」
それは矛盾だ。
「そうね、もっとかき混ぜろって言ったところだわね。でも、和食の卵焼きなら混ぜ過ぎは禁物」
「どうすればいいんですか?」
「暇な時に作っておいて、冷凍庫で凍らせておくの。凍ったままお弁当に入れたら保冷材の代わりにもなるしね」
「「「「な、なるほど!」」」」
正直に感心すると、先生はとびきりのドヤ顔になる。
お礼を言って準備室を出る。
廊下に差し込む夕日は、思いのほか傾いていた。
日暮里を音読みして日暮の里という響きが似合っていると思った。