大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・せやさかい・019『頼子さんの企み』

2019-05-24 12:49:17 | ノベル
かい・019
『頼子さんの企み』  

 

 

 まことに申し訳ありませんでした。

 

 角を曲がったら職員室というところで聞こえてきた。頼子さんが神妙に謝る声が。

 留美ちゃんと二人でフリーズしてしもた。ただ事やない雰囲気やから。

「鏡……」

 留美ちゃんが小さな声で廊下の鏡を指さした。

 鏡には、男子と、そのお母さんらしいオバチャンに深々と頭を下げてる頼子さんと頼子さんの担任、その後ろのは教頭先生。

「あ、女装させられてた男子やわ!」

 留美ちゃんの観察で事態が呑み込めた。こないだ、正門のとこで男子に女子の制服、頼子さんが男子の制服を着て制服改定のアピールしてた。男子はむっちゃ恥ずかしそうな顔してた……その件で親がねじ込んできたんや。

 

 見たらあかんもんを見てしもた……。

 

 噂は学校中に広まった。

 部活で、どんな顔したらええねんやろ……

 ところが、当の頼子さんはアッケラカ~ンとしてた。

 いつもの紅茶を淹れた後、俯いてるわたしらに頼子さんは切り出した。

「心配してくれたのよね、ありがとう」

「あ……いえ」

 わたしは、かろうじて声が出たけど、留美ちゃんはうつむいたまま。

「こりゃ、きちんと話さなきゃいけないわね……これ、見てくれる?」

 頼子さんは、一枚のプリントを差し出した、プリントには『2020年度からの制服改定』とタイトルがあって、頼子さんが書いてたのとは別の制服プランが載ってる。頼子さんのとは違うねんけど、女子のズボン、男子のスカート着用を認めるという点に変わりはなかった。そして、下の方には安泰中学校制服改定委員会と書いてある。

「これ、うちの学校のんですか?」

「うん、わたしの件が無かったら、今日のホームルームで配られるはずだった」

「学校が企んでたんですか!?」

 留美ちゃんは手厳しい言い方をする。こないだの部活で頼子さんのプラン聞かされて動揺してたもんなあ。

「うん、きょう三田くんのお母さんがねじ込んできたので、タイミングが悪いって中止になったの」

「え、えと……どういうことなんですか?」

 男子のスカートを喜んでた頼子さん。正門のとこでファッションショーまでやって、頼子さんはジェンダーフリーの制服に大賛成やったはず……。

「毒を制するには毒をもってよ」

「あ!」

 留美ちゃんが、パッと明るい顔をした。

「わかりました! 先に生徒に見せておいてヒンシュクになるのを見越してたんですね! 男子も、わざわざ嫌がる子にやらせて……ひょっとして、親がねじ込んでくることも計算に入ってた!」

「ハハハ、留美ちゃん勘いいよ!」

「「そうだったんだ……」」

「わたし一人が反対したって、学校って動かないじゃない。先生からも睨まれるしね。あえてね」

「さっすが、頼子先輩!!」

「う~~~ん」

 わたしは感心したけど、留美ちゃんは腕を組んだ。

「なにか?」

「でも、スカート穿かされた男子かわいそう……なことないですか?」

「三田と黒田はね、クラスの子イジメてたのよ。それで、バラされたくなかったら手伝ってと、お願いしたわけ」

「……それって(恐喝なんとちゃいますのん?)」

「なに?」

「いいえ、なんでも」

「あの二人、まだイジメてた子には謝ってないから、これから第二幕。そーだ、わたし、明日から修学旅行だからね。この問題も修学旅行までには片づけたかったから、まあ、わたし的には満足。帰って来るのは月曜の夜だから、二人に会うのは火曜日かな。ま、お土産とか楽しみにね」

「「はい!」」

「それと、部活では敬語禁止、いいわね」

「は、はい」

 返事はしたけど、こんなスゴイ先輩に友だち言葉……ちょっと無理です。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公 安泰中学一年 
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主
  • 酒井 詩        さくらの従姉 聖真理愛女学院高校二年生
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母
  • 榊原留美        さくらの同級生
  • 夕陽丘・スミス・頼子  文芸部部長
  • 瀬田と田中       クラスメート
  • 菅井先生        担任
  • 春日先生        学年主任
  • 米屋のお婆ちゃん

 

 

 

 

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高校ライトノベル・連載戯曲・ステルスドラゴンとグリムの森・7

2019-05-24 06:53:13 | 戯曲
連載戯曲
ステルスドラゴンとグリムの森・7


※ 無料上演の場合上演料は頂きません。最終回に連絡先を記しますので、上演許可はとるようにしてください
 
 
 時   ある日ある時
 所   グリムの森とお城
 人物  赤ずきん
 白雪姫
 王子(アニマ・モラトリアム・フォン・ゲッチンゲン)
 家来(ヨンチョ・パンサ)



 二人身をひそめる。バサバサと音をたてて、ドラゴンが梢の高さほどのところを通り過ぎる気配がする(音と光で表現)

白雪: ……今の見えた?
赤ずきん: ううん、気配だけ。多分ドラゴン。
白雪: そう、ドラゴンよ。夕方わたしを襲った時も、半分体が透けていたけど、とうとう……。
赤ずきん: ステルスになっちまいやがった。よほど気をつけないと、不意打ちをくらってしまう。この分では狸バスも……。
白雪: どうしよう……。
赤ずきん: 仕方ない、今夜はわたしも婆ちゃんちに……。

 スマホを出そうとすると、下手よりかすかなパッシングと間の抜けたクラクション。

赤ずきん: 狸バス、あんなところに隠れていたんだ……(狸語が返ってくる)
 え、今日は特別に婆ちゃんちまで送ってくれる? 
 じゃ、白雪さんを送ってもらって、それから、ちょこっとだけ婆ちゃんと話して、それからお城まで……。
 オッケー?(狸語)え、そのかわりしばらく休業? 
 仕方ないわねえ、あんなぶっそうなドラゴンがいたんじゃねえ……。
 (白雪に)婆ちゃんに薬をもらおう、よく効くの持ってるから。じゃタヌちゃん、お願いね!(狸エンジンの始動音)

 二人、下手の狸バスに行くところで暗転、小鳥たちの朝を告げる声で明るくなる。
 花道を、王子を先頭に、ヨンチョが続き、赤ずきん遅れて駆けてくる。


王子: だから何度も言ったろう、その場で気持ちが変わったのではない。
 姫の女性としての尊厳を守るために、わたしはあえて我慢をして……。
赤ずきん: なにが尊厳を守るよ、白雪さんの気持ちはズタズタよ。
王子: それを乗り越えて自分で行動を起こさねば、一生わたし、つまり男性に従属せねばならなくなる。
 男の口づけを待って生命をとりもどすなど、女性を男の玩具とし、その尊厳を汚すものだ。
 わたしに出来ることは、男とか女とかを越えた人間としての地平から「がんばれ、めざめられよ!」と叫び続けることだ。
ヨンチョ: 王子は叫ばれた!
王子: 「がんばれ、めざめられよ!」
ヨンチョ: 「がんばれ、めざめられよ!」
赤ずきん: ……それが何やらつぶやかれるってやつね。それ、自分の考えじゃないよね。
王子: わたしのの考えだ!
ヨンチョ: 王子さまのお考えである!
赤ずきん: 影響されたわね……女王さまに? 朝の御あいさつに行ってから変だもん。
王子: ……参考にはした。しかし自分の考えではある。
ヨンチョ: 御自分の考えではある! とおおせられた。
赤ずきん: うるせえ!
ヨンチョ: おっかねえ……。
赤ずきん: 家来にバックコーラスしてもらわないと自分の考えも言えないの!? 
 女王にちょこっと言われただけでコロッと考え変わっちゃうの!?
王子: ……。
赤ずきん: わたし、昨日は自分の説得力に自信持ったけど、とんだピエロだったようね。
 さようなら、時間かかるけど別の王子さま探すわ。そして白雪さんの怪我はわたしが治して見せる!
王子: 待て! 姫は怪我をしているのか……!?
赤ずきん: ええ、森のドラゴンが成長し、夜と昼のわずかな境にも居座るようになり、
 ガラスの棺からよみがえろうとして、まだ低血圧のところを襲われた。心配はいらない、全治一ヶ月程度の怪我よ。
 それにこれからは、わたしたちグリムの仲間で白雪さんを守るから……じゃ、さよなら!
王子: 待て、待て、行くな……行くなと申しておるのだぞ!(ヨンチョに)赤ずきんをつかまえろ!
ヨンチョ: アイアイ(サー……と動きかける)
赤ずきん: (花道の途中で立ち止まり)バカヤロー! そんなことも家来に言わなきゃできないのかよ!
王子: ……すまん、わたしの悪い癖だ……頼む、もう一度もどってきてはくれないか?

 階段(花道のかかり)まで進み、手をさしのべる 
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高校ライトノベル・時空戦艦カワチ・041『試射をしていてはタイミングを失う』

2019-05-24 06:38:08 | ノベル2
高校ライトノベル・時空戦艦カワチ・041
『試射をしていてはタイミングを失う』




 そこは避けてきたんですが……

 航海長は当惑していた。

 重力波異常のところを重点的に航海しろというのだから、艦の安全航行を担う者としては当たり前だ。
 高速道路を走るのに、わざわざ亀裂や穴の開いているところを走れというようなものである。
「思っている以上に時空の歪は深刻なようなんだ」
 艦長は、それまでに出くわしたアクシデントやインシデントをかいつまんで話した。

 ツクヨミとの激突、激突犠牲者の宇宙葬のあとカワチの近くを流れた流星群、アイドル清美の出現など。

「艦長と同じ見解です、だからわずかな重力波異常のところも避けて飛んできました。艦内の態勢が整い次第土星軌道は離脱しようと思っています、それをわざわざこちらから突っ込んでいこうというのは無謀です」
 食堂でたこ焼を焼いているときの食堂のおばちゃんの感じは全然しない。こと航海に関わることでは艦の安全を第一に考え、相手が艦長であっても容易には頷かない気迫がある。
「たとえば……この壁面にヒビが入っているとしよう。亀裂と言うほどではない、アナライザーの非破壊検査でやっと分かる程度の」
 艦長はブリッジの壁面にクラックのシルシを入れた、橋梁検査で入れるチョークのシルシだ。
「ヒビの進行を緊急に止めるにはどうしたらいいと思う?」
「樹脂の充填、あるいはクラックを生じた部位全体の縛着ですね」
「そうだね、震災直後の橋梁修理などでは、よくやられた正攻法だ。でも、今日明日にでも橋梁を破壊しそうな場合は……こうだ」
 艦長はヒビの両端にドリルによる穿孔のシルシを入れた。
 穿孔、つまり穴をあけると、短期的にはクラックの進行が停められる。
「これをやれと……」
「うん、理念的には冷めたたこ焼きをフリーズドライの再生たこ焼きにするのと同じだよ」
「クラックは食べられませんけどね」
「呑んでかかろう、どうせ呑むなら大きい方がいい」
「なら、これですね。地球の方を向いている重力波異常です、微細なものですが奥が深そうです」
「よし、かかろう」

 艦内放送のスイッチを入れると、落ち着いた声で指令した。

――総員戦闘配置、総員戦闘配置、対ショック対閃光防御をなせ――

――面舵二十度、第二戦速――

 航海長の指示が続き、カワチは大きく艦首を振った。

 航海長が振り返ると、艦長が小気味よくラッタルを下りる音だけを残した。CICに向かったのだ。

「砲雷長、一番二番三番主砲を座標に指向」
「撃つんですか?」
「配置完了しだいテラパルス斉射」
「テラパルスは試射をしないと危険です」
「試射をしていてはタイミングを失う」
「了解しました」

 戦闘配置の完了を受けて、カワチは主砲三基九門が最大出力のテラパルスの一斉射を放った!

 ズビューーーーーン!!
 
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高校ライトノベル・時かける少女 BETA・7《アナスタシア・3》

2019-05-24 06:26:05 | 時かける少女
 時かける少女BETA・7
《アナスタシア・3》                 


 
「もう目を開いてもよろしゅうございますよ」

 アナスタシアは、一瞬鏡を見ていると錯覚した。
 目の前に自分と同じ姿の少女がいて、同じ表情で驚き、同じしぐさをしていた。アナは驚くと口と胸元に手をやる癖がある。そのタイミングまでいっしょで、数秒後には興奮になり、胸元を手でさすり始めた。100年後のアイドル前田敦子の癖ににている。
「アハハ、そっくりでございましょ?」
 その子はアリサの声で笑った。
「アハハ、あたし、びっくりして気絶するところだったわ。でも、喋ると、やっぱりアリサなのね」
「でも、喋ると、やっぱりアリサなのね」
 アリサは、アナそっくりの声で繰り返した。
「エ、エエ……!?」
「アハハ、やろうと思えば、声だって、この通り!」
「アハハ、すごいすごい! これならお母様やお姉さまが聞いても分からないわ。すごい、アハハ!」
「アハハ!」
 その時ノックと同時に、ベテラン侍女のベラが怖い顔をして入ってきた。
「街では暴動の真っ最中。宮殿の中の者は、畏れ多くも皇后陛下から猫まで息をひそめて心配しているのです。お元気であられるのは結構でございますが、もう少し神妙になさってくださいまし。お次の間を通して廊下にまでお声が響いております。アリサ男爵もお気を付けくださいますよう!」
「ごめんなさいベラさん。殿下が、あまりにもお元気がなかったもので、少しはしゃぎすぎました。気を付けます」
 アリサは、自分の姿に戻って、すまなさそうにベラに謝った。
「男爵のご努力には感謝いたします。でも、ほどほどに願います」
 ベラは、幾分落ち着いた顔にもどって、ドアの向こうに去った。
「アリサ、いつの間にもとにもどったの?」
「これが伊賀流の術です」
「すごいのね忍術って!」

 その時、遠くで一斉射撃の音がした。

「軍が発砲したのかしら……」
「おそらく。でも、銃声に緊張感がありません。あれは威嚇射撃ですね」
「怪我人が出なければいいのに……」

 ペトログラードは二月革命の真っ最中である。昨日の国際婦人デーに、街のカミさんたちが請願デモをおこした。
 平穏なデモは戦争と飢餓、政情不安で沸点に達していた市民の不満に火を点けてしまった。12年前におこった「血の日曜日事件」にならないように、警備の軍隊は慎重だったが、もうなだめすかしでは通じなくなってきた。
 皇帝ニコライ二世は前線の部隊から数個連隊をペトログラードに派遣させた。その知らせを受けて軍の警戒部隊も強気に出たのである。

「大丈夫ですよ。12年前も無事に収まりました。今度も無事にいきます」
「アリサ……あたし怖い」
 アナは、アリサの胸に飛び込んだ。アリサは優しくアナをハグした。まるで仲のいい姉妹のようだった。
「怖がっていてもなにも解決しません。あたしたちでできることを考えましょう」
「え、あたしたちが役に立てるの!?」
「はい、元々は街のオカミサンたちの請願運動。要は食べられるようにしてあげればいいんです」
「でも、宮殿は広いけど、とてもあの街の人たちみんなを食べさせられるだけのスペースも食材もないわ」
「そりゃ、ここじゃ無理です。民衆は強いのです。知恵を授けてやれば、自分たちでやります。日本には貧しい食材でも美味しくてお腹がいっぱいになって温かくなる料理がたくさんあります。それを学びに日本大使館にいきましょう」
「日本大使館?」
「ええ、あちらの方はまだ落ち着いています。食材も豊富です。アナ自身が出向いて勉強なさいな。そしてオカミサンたちに教えてあげるのです。皇后さまや皇太后さまでは畏れ多すぎて、街の者たちは寄り付きません。アナは、まだ17歳のオチャッピーです。成功の可能性は高いです。それともマカーキ(猿=日本人)の手を借りるのは嫌かしら?」
「ううん、あたしはお父様とは違う。日露戦争の恨みなんかありません」
「じゃ、きまり。今から行きましょう!」
「でも、この警備の中を……」
「こうします」
 アリサは、毛布とクローゼットの衣装で、アナに似た人形を作ってしまった。
「すごい、これも忍術?」
「はい、忍法空蝉(うつせみ)の術。喋って」
「え?」
「いえ、人形に言ったんです」

「今は一人にしておいて」

 人形はアナそのものの声で言った。
「アナも、ちょっと変えましょうね」
 アリサがちょちょいといじると、黒髪でブラウンの瞳の侍女見習いが出来上がった。
「うわー、新入りの侍女みたい」
「さ、レッツゴー!」

 アリサには分かっていた。アナが二度とこの宮殿には戻れない、戻ってはいけないことを。粗末な馬車は日本大使館を目指した……。
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高校ライトノベル・『はるか 真田山学院高校演劇部物語・14』

2019-05-24 06:13:59 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
真田山学院高校演劇部物語・14




『第二章 高安山の目玉オヤジと青いバラ4』

 家に帰ると、お母さんがやっとヒトガマシイ姿にもどって、一人で宅配ピザを食べていた。

「あ、娘をさんざんこき使っといて、そんなのありー!?」
「はるかの分もとってあるわよ」
「ピザは、焼きたてでなきゃおいしくないよ」
「だって、はるか遅いんだもん。わたし、夕べからなにも食べてなかったのよ」
「だってね……」
「いらないんだったら、食べちゃうわよ」
「いるいる!」
 にぎやかに母子で遅い昼食の争奪戦になった。
 わたしはピザで口のまわりをベトベトにしながら、午前中のあれこれを話した。お母さんに楽しいことを話すと、二倍にも三倍にも楽しくなる。それに笑っているうちに……。

「ハハハ……で、お釣りは?」

 敵は、その手には乗ってこなかった。
 仕方なく、左のポケットを探ると、例のチラシがクシャクシャになって、お釣りの封筒といっしょに出てきた。
『青春のエッセー大募集!』のキャッチコピーがチラシの上で踊っていた。というか、その下の、賞金五十万円に母子の目は釘付けになった。
「なーんだ、十八歳までか。ガキンチョ相手のA書房だもんね」
 空気の抜けた風船のようにお母さんは興味を失って、ピザのパッケージを片づけはじめた。
 わたしは、その下の、銀賞二十万円から目が離せなかった。東京の学校の学園祭でも準ミスだった。二等賞の銀賞なら手が届くかも……。

 洗濯物を取り込んで、高安山に目をやる。目玉オヤジが夕陽に照らされ神々しく見えた。
 パンパンと、小さく二礼二拍手一礼。
「南無目玉オヤジ大明神さま、われに銀賞を獲らさせたまえ」
 そんでもって……振り返ると、お母さん。
「わたしの原稿料を上げさせたまえ……」
 と、便乗していた。

 その夜は先生に言われたように、その日の出来事を物理的にメモった。そして、明くる日曜日になんとか段ボール箱を片づけ、やっと本格的に新生活が始まった。


 学校は順調だった。
 由香の他にも四五人の友だちができた。
「あんた」の二人称にも親密感を感じられるほどに大阪弁にも慣れた。
 イケメンのテンカス生徒会長吉川裕也は、二日に一度くらいの割りでメールをくれる。廊下とかで会ったら、短い立ち話くらはいするようになった。
 もちろん、今や親友となった鈴木由香とはしょっちゅう。

 演劇部は、最初十五人いたのが八人にまで減ってしまった。残念ながら、その脱落組に由香も入っていた。
「うち魚屋やさかい夕方忙しいよって家のことはあたしがせなあかんねん。お姉ちゃんおるけど忙しい人やし……ごめんな。はるか」
 昼休みの中庭のベンチで、食後のフライドポテト(食堂の特製。百二十円)をホチクリ食べる手を休めて、由香がポツンと言った。
「いいよ、そんなこと。わたしだっていつまで続くか分かんないし(ほんとは、ほとんど首まで漬かりかけていたんだけど)クラブ違ったって親友は親友だよ」
「おお、わが心の友よ!」
 由香は、ジャイアンのようなことを言って抱きついてきた。
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