大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・せやさかい・016『世界遺産決定!』

2019-05-14 13:21:57 | ノベル
かい・016
『世界遺産決定!』 
 
 
 
 
 一時間目は授業になれへんかった。
 
 
 百年に一回あるかないかのビッグニュースがあったから!
 
 堺の誇り『仁徳天皇陵』が世界遺産になったんや!!
 
 正確にはユネスコの諮問機関いうとこが勧告したんやそうで、アゼルバイジャンいうとこで開かれるユネスコ世界遺産委員会というとこで正式決定らしいねんけど、もう決まったんも同然!
 
 そう解説してくれたんが春日先生。一時間目の理科の時間をまるまる使って説明してくれはった。
 
「先生くらいの世代は『ごりょうさん』て呼ぶ方がしっくりくる。最寄りのバス停も『御陵前』てるしなあ。むろん仁徳天皇陵でもかめへん。とにかく、大阪で初めての世界文化遺産や! ほんまに目出度い(^▽^)!」
 
 春日先生は学年主任でもあるせいか、普段はゆっくり落ち着いて喋らはる。うちに菅ちゃん連れて家庭訪問に来た時もそうやった。
 それが、盆と正月が一緒に来て宝くじで一等あてたくらいにエキサイトしてる。
 
「先月は年号が変わって大興奮やったけど、今度の世界遺産も負けず劣らず。いや、堺市民にとっては、こっちの方が興奮するなあ。君らも思えへんか!?」
 先生の話がうまいのんか、みんなも思てるからか、いつもの十倍くらいは集中してる。
「いつも、これくらい授業に熱中してくれたらええねんけどな」
 期せずしてみんなが笑う、先生も笑う。なんや幸せな気持ちになってきた。
「ところで、仁徳天皇陵には誰が葬られてる、田中?」
 掃除当番仲間でサッカー部の田中があてられた。
 
「え、えーーーーと……」
 
 真っ赤な顔して悩みよる。
 
 うそ……こいつアホちゃうか? そんな空気が教室に満ちる。ますます真っ赤になる田中。
「仁徳天皇陵やぞ、仁徳天皇陵!」
「え……」
 アホちゃうかやねんけど、教室の空気は暖かい。
 
 世界遺産ノミネートいう目出度い話やからか、先生がつくる空気の柔らかさからか、田中のアホをいたぶる空気はない。
 
「仁徳天皇陵いうたら、仁徳天皇さんが葬られてんのに決まってるやろがあ」
「あ、あ、仁徳天皇はつくった人やと思てた」
「そうかそうか、カスってはいてたんやな。ほな、仁徳天皇さんは、なにした人や?」
 
 みんな詰まってしもた。
 
「知らんのんか? 歌にもあるやろが」
「仁徳天皇の歌ですか?」
 留美ちゃんが身を乗り出す。
 
「いまから聴かしたる、よう聴いとけ」
 
 先生はベートーベンの『運命』を歌うようにポーズを決めた。
 
 
 高津の宮の昔より よよの栄を重ねきて 🎵
 
 民のかまどに立つ煙 にぎわいまさる 大阪市 にぎわいまさる 大阪市 🎵
 
 
 パチパチパチパチ
 
 
 拍手が起こる中、留美ちゃんが呟く「それ、大阪市歌」。一瞬間が開いて教室は笑いに包まれる。先生もいっしょになって笑い出す。
「アハハ、仁徳さんの時代は大阪市も堺市も区別なかったからなあ。で、分かったか?」
 すると、同じ掃除当番仲間の瀬田が手ぇあげよった
「高津の宮から街を見たら米炊く煙が少ないんで、これは民が貧しい証拠やということで三年の税を猶予したいう話です」
「おお、すごい! 大正解や! 瀬田に拍手ううう!」
 
 パチパチパチパチ……今度は瀬田が真っ赤になる。
 
 てな調子で一時間目がハートフルに終わった。
 
「ねえ、仁徳天皇陵見にいこうよ!」
 
 頼子さんが言い出して、放課後の部活は急きょお出かけになる。留美ちゃんが「今日は自転車間に合わない」と言ったけど、歩いてでも行こうということになり、四十五分かけて仁徳天皇陵におもむく。
 
 自転車だとヘゲヘゲになったけど、歩いて行くと平気。
 御陵前はけっこうな人が思い思いに集まってた。もし、自治体で祭日の設定ができるんやったら、間違いなく5月14日は祭日決定やと思いました。
 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公 安泰中学一年 
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主
  • 酒井 詩        さくらの従姉 聖真理愛女学院高校二年生
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母
  • 榊原留美        さくらの同級生
  • 夕陽丘・スミス・頼子  文芸部部長
  • 瀬田と田中       クラスメート
  • 菅井先生        担任
  • 春日先生        学年主任
  • 米屋のお婆ちゃん
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高校ライトノベル・時空戦艦カワチ・031『清純清潔清廉の中村清美なのよ!』

2019-05-14 06:32:40 | ノベル2
高校ライトノベル・時空戦艦カワチ・031 
『清純清潔清廉の中村清美なのよ!』



 このハゲーー!!!

 民自党の女性議員が怒鳴っているのにはビックリした。

 同じ罵倒を同じように秘書にぶつけていた父を思い出した。
 同じようにマスコミで叩かれたが、父は雲隠れなんかしなかった。

 週刊誌を先頭に、マスコミが押しかけ、テレビのワイドショーでも父の音声や映像が流れた。

 音声は事務所のバイトの子が録音していてマスコミに流れたもので、映像はブログや選挙ポスターのものである。
 民自党と言っても、陣笠代議士なので、地元以外では知名度も低くマスコミも父のことは良く知らなかった。

 ただ、暴言と与党の議員であるというファクトだけで飛びついてきたのだ。
 神戸のRカントリークラブで9ホールを周り終ったところで詰め寄った。

「本人にはいかんともしがたい身体的特徴で罵倒するのはひどいんじゃないですか!?」
 週間Sの記者が最前列で詰め寄った。一斉にシャッターが切られる。
「ぼくは、いつもこの調子ですねん。ミスがあったら言います、程度によっては怒鳴りもします。地域と国民の負託を受けての議員活動です、真剣にやってるからやないですか」
「でもハゲはないでしょ、ハゲは、それもあんな剣幕で」
「秘書さんは、郵送の為の名簿を間違えただけじゃないですか」
「あんたね、ぼくは民自党の議員ですねん。その国政報告を立進党の支持者に送るいうミスされたら怒りまっせ」
「え、立進党?」
「秘書の袴田君は、元々は立進党の前身の日本会社党の秘書やってたんですわ。その時の後援会のデータで送ったもんやさかい、全部パーですわ。立進党さんからも怒られるし、そら、ぼくかて怒りまっせ」
「え、袴田さんは立進党の秘書だったんですか?」
「ちゃんと調べてから来てくれんと、ま、あの頃の彼は高橋を名乗ってたからね。せやけど、そのくらいは調べてくださいよ。あーー暑つーーー」
「しかし『このハゲー!!!』はないでしょ」
「それはね、ほんま暑つ~~~~」
 父は腰のタオルでクルリと顔を拭くと、サンバイザーを取った。

 あ あ~~~~~~~~~~!!

 父のサンバイザーは特製で頭の部分は髪の毛になっている。
 つまりカツラ付のサンバイザーで、脱ぐと見事な禿げ頭なのだ。

「あ、しもた!」

 取材陣は、ここを先途とシャッターを切りまくった。

 そのあと、当の袴田秘書も現れての記者会見になった。
「中村議員とは中学からの幼なじみでして、生徒会などもいっしょにやっていました。時代の雰囲気で、わたしは日本会社党、中村君、いや議員は民自党になりましたが、あのころから、二人とも若ハゲの傾向がありまして、折に触れては、互いにハゲハゲと挨拶代わりに言っておりました。今回は、まことに面目ないミスで議員にはご迷惑をおかけしました」
「いや、ぼくも反省ですわ。ついバイトさんの前で叱ったもんですから、ビックリしたバイトさんが、つい撮影して流してしもたんですわ。ま、それも含めまして、マスコミの皆さん、ご心配頂いた国民各位のみなさん、また、そのハ……髪の毛のことで悩んでおられる方々に不快な思いをさせましたことをお詫びいたします」
 下げた禿げ頭に再びシャッターの音が鳴り響いた。

 父はずるい。

 こうやって人気を取って支持者を増やしていった。
 ちょっと困った人だが憎めない国会議員として名前が大きくなっていった。
 こんな政治姿勢が嫌で、スカウトされたのを機に四年間のアイドル生活。
 
 そして……いろいろあって立進党の議員秘書に。

 わたしは、アイドルをやっていても議員秘書をやっていても真剣だ、真剣なのよ。
 お父さんみたいに、ハゲを看板にしたりとか、不真面目な、オチャラケた生き方はしないのよ!
 痩せても枯れても、清純清潔清廉の中村清美なのよ!

 それがなに!?

 ストリートファイターの春麗ですって!? 
 なによ、この弄り方は!?

 カスタムアイドルなんて、もーーーーやめて!
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高校ライトノベル・新 時かける少女・8〈ガーディアン〉

2019-05-14 06:23:18 | 時かける少女
新 かける少女・8
〈ガーディアン〉 


「始まった……」

 騒音の激しいオスプレイの機内でも、エリーの呟きは聞こえた。
 
「エリー、あなたって……」
「あたしは、愛のガーディアンよ」
「ガーディアン?」
「愛を守るために、去年から那覇中央高校にスリーパーとして潜り込んでいたの」
「うそ、あたしのため?」
「南西方面遊撃特化連隊ができたときから。K国もC国も日本は本気なんだということを知ってる。だから、いざというときには混乱を引き起こして、有利に戦おうとした」
「それが、あたしを狙うことだったの?」
「そう、愛を殺せば、連隊長の判断が鈍る」
「お父さんは、そんなことで判断を誤ったりしないわ」
「敵は、お父さんを甘く見ていた。だからフェリーの中で愛を殺すことに失敗したあとは、沖縄で派手に愛を殺すことに切り替えた。大げさな事件になれば、非難は特化連隊や政府に行くわ。それで、特化連隊や日本政府の手を縛ろうとしたの。さっきの学校前の事件、A新聞なんかは、特化連隊との関連に気づいて……むろん情報をたれ込んだのは、敵のスリーパーだけどね。政府批判のキャンペーンをやり始めた」
「わ、わけ分かんないよ」
「愛に間違われた子は、死んだわ。他にも怪我人がね。日本人は、こういう事件が起こると敵よりも、敵にそうさせたと言って政府や自衛隊を非難する。敵の狙い通りよ」

 オスプレイは時間を掛けて海を渡った。おそらく内地の米軍基地を目指している。

 基地にたどり着いたのは、夕方だった。あたしたちは、他の米兵と共に、基地内の宿舎に向かった。あたしとエリーに化けた女性兵士は、護衛十人ほどが付いて別の建物に入っていった。

「愛、悪いけど髪を切って染めてくれる」

 そう言ったエリーは、他の女性兵士と同じようなショ-トヘアーになっていた。あたしも、アレヨアレヨというまにブラウンのショートヘアーにされてしまった。
「お母さんには、自衛隊で身柄を保護してあると言ってある。この二十四時間の間に事態は動くわ。政府がバカな判断をしなければスグにカタが付く」
「うん……」
「……気に掛かってるんだね、宇土って工作員が言ったこと」
「そんなことないよ。あたしは、お父さんとお母さんの娘だもん!」
「やっぱ、ひっかかってるんだ」
「違うってば!」
「だったら、なんで、そうムキになるの」

 返す言葉が無かった。

「おいで、証明してあげよう」
 エリーは、そう言って、あたしを研究室のようなところへ連れていった。
「これ、さっき切った愛の髪の毛。念のために口の中の粘膜ももらおうか」
 ポカンとしてるあたしの口に、エリーは綿棒を突っこんで、あっという間にホッペの内側をこそいでいった。
「そんな、乱暴にしなくても……」
「ごめん。ついクセでね」

 エリーの本性が分からなくなってきた。

「……これが愛の遺伝子。こっちがお母さんの髪の毛から取った遺伝子。ね、よく似てるでしょ」
 エリーは、モニターを見ながらニマニマし、エンターキーを押した。
「ジャーン。これが結果!」

 あたしとお母さんが親子である確率は99・999%と出てきた。
 正直ホッとした。
 ホッとしたのもつかの間、基地内にアラームが、鳴り始めた。

「中尉、C国がS諸島に侵攻しはじめました!」

 若い下士官が、エリーに言った。
「愛の前では、そういう呼び方しないで!」
「すみません。軍服を着てらっしゃったので、つい……」
「この上歳なんか言ったら、軍法会議」
「ハッ!」
「……かけないで、銃殺!」

 下士官は、顔色を変えてすっ飛んでいった。

「アハ、今の冗談だからね」

 しかし、事態は冗談ではない方向に進んでいった……。




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高校ライトノベル・『はるか 真田山学院高校演劇部物語・04 図書室の主』

2019-05-14 06:08:41 | はるか 真田山学院高校演劇部物語

はるか 真田山学院高校演劇部物語・04

 


『第一章 はるかの再出発・4 図書室の主』        

「由香が図書室に来るやなんて、雪降るで……で、あんたは……どこの学校の子ぉ?」
「あ……」
 わたしはまだ、東京の制服のまんまだ。
「あ、この子、東京から今日転校してきた、二年C組の、坂東はるか……」
「です……まだ、本は借りれませんか?」
「ああ、あんたが……」
 やっぱ、「あんた」はしっくりこない。
 チェシャネコはニンマリ笑って、こう言った。
「今日から、うちの生徒やねんさかい、図書カード……ここにクラスと……番号はまだわからへんねぇ。とりあえず名前だけでええよ……」
「すみません、これでいいですか?」
「ほい、どうぞ」

 わたしは、借りたばかりの本を抱えて、由香といっしょに南向きの窓ぎわ隅の席についた。

――ファイトォ、がんばろう――とテニス部とおぼしきさんざめきが、心地よく響く。
「あの先生、福田乙女先生。年齢不詳の図書室の主。神沼恵美子に似てるでしょ?」
「神沼恵美子?」
「なんや、知らんのん?」
「うん、なんだか、チェシャネコに似た人だけど」
「チェシャネコ?」
「『不思議の国のアリス』に出てくる、いつもニヤニヤしてるネコよ」
「プ……ああ、あれか。ジョニー・デップの映画にもあったよね。チェシャネコいうねんね!?」
「声大きいよ……」
「だれが、チェシャネコやねん」
「あ、福田先生!」

 東京弁で「先生」は「せんせぃ」あるいは「せんせぇ」と発音し、おおむねアクセントはなく、平板だけど、大阪弁の「先生」は「せんせ」で、「ぇ」も「ぃ」もちぎったように無い、アクセントは頭の「せん」にくるんだ……と、感心していると、チェシャ……福田先生は、ハートの女王のような顔になり、こう宣告した。

「今日から、演劇部の指導にコーチの大橋先生が来はるよって、一時になったらプレゼンに行きなさい。坂東さんもよかったらいっしょに行ってみぃ」
「え、なんで放送部のあたしが演劇部に……」
「わたし、演劇部と放送部の顧問兼ねてんの。それに放送部も、アナウンスの訓練なんかせんとあかんでしょうが。ま、ここで会うたが……」
「百年目ですよねぇ……」

 プレゼンとは、プレゼントではない。

 プレゼンテーション教室の略で、日頃から、演劇部の稽古場になっている。普通の教室二つ分をぶち抜いて、何年か前に作られた広い教室。ここをゼイタクにも実質二人の部員で使わせてもらえるのは、ひとえに、福田乙女先生のご威光によるもの。放送部と演劇部の微妙な関係。演劇部員二人の簡単なプロフィールなどとともに、五十メートルほどの廊下を歩くうちに由香がレクチャーしてくれた。

 やっぱ、由香は手際のいい子だ。

 いったい、これから何が起こるのだろうか……初登校の日。まだ一時間もたっていないのに次々におこることに、わたしの胸は高鳴っていった。

 

 


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