大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・連載戯曲・ステルスドラゴンとグリムの森・2

2019-05-19 07:05:25 | 戯曲
連載戯曲・ステルスドラゴンとグリムの森・2
 
 
 時   ある日ある時
 所   グリムの森とお城
 人物  赤ずきん
 白雪姫
 王子(アニマ・モラトリアム・フォン・ゲッチンゲン)
 家来(ヨンチョ・パンサ)




赤ずきん: どうしたの、クリア寸前に邪魔が入ったの?
白雪: いいえ。ちゃんとガラスの棺に納まって、小人さんたちが心の底から嘆き悲しんでくれました。
 そして小人さんたちがその場を離れたその後に、定石通り白馬に乗った王子さまがあらわれたのです。
 アニマ・フォン・モラトリアム・ゲッチンゲン王子が……。
赤ずきん: やったじゃん!
白雪: そして、棺の蓋を開け、熱い眼差しでカップメン一杯できるほどの時間、わたしの顔をご覧になり……。
 そして……口づけをなさろうと……なさろうと……一センチのところまで唇を寄せてこられて……。
赤ずきん: 寄せてこられて……ゴクン(生つばをのむ)
白雪: そして、溜息をつき、せつなそうに首を左右に振っては帰ってしまわれるの、毎日毎日……。
 だからわたしは生き返ることができず、日が落ちてから、夜ごと幽霊のように森の中をさまよっているの……。
 日が昇れば、またコウモリのように洞窟ならぬ、ガラスの褥(しとね)にもどらねばならない。
 こんなことが夏まで続けば、わたしミイラになってしまうわ。
赤ずきん: どうして……。
白雪: どうしてだかわからない。毎朝きまった時間に、あの方の馬の蹄の音が聞こえる……。
 今日こそはと胸ときめかせ、棺の蓋が開けられ、あの方の体温を一センチの近さで感じて、悶え、あがいて……。
 でも、わたしは指一本、髪の毛一筋動かすこともできない。
 この生殺しのような苦しみを一筋の涙を流して知らせることもできない。
 七人の小人さんたちも、木陰や藪に隠れて、その様子を見てくやしがり、せつながってくれている。
 でも体が自由になる夜、小屋にもどるわけにはいかない。小人さんたちにわたしの苦しみを悟られるわけにはいかない。
 でも、じっとしていては気が狂いそう。いえ、もう狂っているかも知れない。
 夜な夜な森の中をほっつき歩くようじゃね……いっそ、月明かりをたよりにわたしの方から王子さまのもとへ……。
 もう、はしたない……。
赤ずきん: はしたない?
白雪: なんて言ってる場合じゃない。
 はしたないだけなら、とうにこの森を抜け出し、王子さまのお城にむかっているわ。
 こう見えても、水泳やボルダリングは得意なの。王子さまの部屋なんかヒョイヒョイっと……。
 でも、何の因縁か、夜、体は自由になっても、この森のいましめから外へ出ることができない。
 きっとリンゴの毒気が悪魔と呼応し、この森に、わたしだけをいましめる結界を張ったのよ。
赤ずきん: 神さまかも知れないよ。
白雪: 神さま? 神さまがどうしてこんな意地悪を?
赤ずきん: 悲しみとせつなさと……それに育ち始めた憎しみで、ひどい顔になってるよ。
 神さまでなくとも、そんな白雪さんを人目にはさらしたくなくなるよ……今はお后の魔法の鏡も、気楽に真実が言えると思うよ。
白雪: (コンパクトで自分の顔を見て)ほんと、ひどい顔……。
赤ずきん: 悲しみとせつなさはともかく、その胸にともりはじめた憎しみを育ててはいけない……憎しみは人を化物にするわ。
白雪: うん……自信はないけど。
赤ずきん: 同じグリムの仲間だ、一肌脱いであげる。
 夜は最終のバスが来るまで話し相手になってあげる。そして、できたら王子さまに会って話もしてくるよ。
白雪: ほんと?
赤ずきん: うん、王子さまにも何か事情があるのかもしれないからね……。
 あ、バスが来る(遠くから狸バスの気配)じゃ、それから、変なドラゴンが森に住みつきはじめたから気をつけてね。

 バスの停車音。ライトを絞り、バス停のかなり手前で停車する。

赤ずきん: 何よ、バス停はここよ! ライトまで絞っちゃって!
狸バス: (声、狸語でなにやら語る)
白雪: なんて言ってるの?
赤ずきん: ドラゴンを避けるためだって……早く乗れって。じゃ、白雪さんも気をつけて!(下手に去る。バスの発車音)
白雪: お願い! がんばってね!
赤ずきん: (遠ざかる声で)まかしといて……

 いつまでも手を振る白雪。暗転。 
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高校ライトノベル・時空戦艦カワチ・036『重力波異常』

2019-05-19 06:47:02 | ノベル2
高校ライトノベル・時空戦艦カワチ・036
『時空波異常』




 マストの上を星が流れた……

 ちょっと変だ。空気なんて一ミリ立方メートルも存在しない土星の大気圏外で星が流れるはずがない。

 流れ星というのは、星屑が惑星の大気圏に突入して空気との摩擦で燃えるから光るんだ。

 ま、いいか。いわゆる流れ星の理屈以外で光が見えることもあるだろう。
 十億年前の宇宙船が現れたり、バーチャルアイドルが実体化して見えたりしているんだから。星の一つや二つが輝きながら流れて行ってもおかしくないかもしれない。

 井上多聞補給長とは星が流れて艦コーヒーを飲み干したことで「じゃ、これで」ということになった。

 補給長と別れて五番ハッチを下りると、ゴトンと音がした。
「艦長、お一ついかがですか」
 砲雷長が買ったばかりの艦コーヒーを差し出した。左手にもう一つ持っている。
「いいんですか?」
「自分用に買ったら、当たりになって、もう一個出てきたんですよ。ついてます」
「わたしも、さっき当たったばかりなんだ」
「そうなんですか、こいつは日に一回しか当たりが出ない仕掛けになってるんですが……」
「ま、こんなこともあるでしょう、ありがたく頂きます」

 これもなにかの辻占かと、砲雷長は自分のキャビンに艦長を誘った。

「こういう空間は好きだなあ」
 六畳に満たないキャビンは備え付けのベッドやデスク以外にPC関係のあれこれが一杯で、二人はほとんどひざを突き合わすようにして収まった。
「まだ個人的な仮説なんですが……」
「ここのところ起こっている不思議なことですか?」
「ええ、話が早い……これを見てください」
 モニターに細かい数値がゾロゾロ現れた。
「カスタムアイドルが出てくるのかと思った」
「それは後でお見せします、これはカワチの艦内と周囲の時空波の計測数値です」
「カワチの計測機器で時空波が測定できるんですか?」
「機関長にも手伝ってもらいました、もうちょっと早く完成していたらノーベル賞が獲れたかもしれませんがね……ほら、ここがツクヨミと激突したところです軸先24シリアルポイント、当初は木星軌道上に連続して起こる空間の歪かと思ったんですが、どうやらカワチ自身が因子になって起こる時空異常のようです」
 クリックすると、カワチノ3Dモデルが現れて、あちこちに時空波異常のアラームが現れた。
「ずいぶんあるね……このマストの先は……さっき流れ星が出現したしたところだ」
「流れ星ですか」
「似た何かだろうと思っていたんだが……あそこだけ、どこかの惑星の大気だったのか……」
「ここは、五番ハッチ下の自販機です。どうやら、艦長が使った自販機は別の時空のものだったのかもしれません。医務室、艦長室……他にも艦内各所に時空波異常の痕跡が見られます」
「これは……」
「そうです、アイドル清美が目撃されたポイントです」
「じゃ、彼女は……補給長のカスタムじゃ」
「なにかの関係があるのかもしれませんが、別時空から現れたものだと思います。ツクヨミもそうでしょう、別の時空では十億年前の地球に、今と同程度以上の人類文明があったのかもしれません」
「お、新しいサインが……」

 それは自販機付近で現れて、天気図の台風のように移動して、このキャビンのベッドの上に停滞した……。
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高校ライトノベル・時かける少女 BETA・2《BETA覚醒のとき》

2019-05-19 06:33:00 | 時かける少女
時かける少女 BETA・2
《BETA覚醒のとき》                


 

 淡いグリーンの壁自体ががほのかに光る不思議な部屋だった。

「目が覚めたようね」

 声が先に聞こえて、そちらの方を見るとドクターのようなナリをした女性が立っていた。白衣は壁のグリーンに染まっていたが、手足や顔はしっかりしたフレッシュスキンだ。

「ちょっとチェックするわね」

 女性が、手をかざすと目の高さにモニターの画面だけが現れ、上から下に何百もの項目がスクロールされていった。その項目たちのほとんどがグリーンに輝いている。ところどころイエローになっているところがあり、そこにくるとスクロールが止まり。その都度現れるキーボードを女性が操作すると、ほとんどのものがグリーンに変わった。

「この程度なら大丈夫だわ。わたしはコビナタ。あなたは?」

 最初のショックが襲ってきた。

 自分の名前が分からない……。

「OK、教えてあげる。ミナよM・I・N・A、MINA。正式にはSavior Beta MINA。長ったらしいからカタカナのミナ。Saviorは「救世者」Betaは「β」アルファベットの「B」これを見て」

 コビナタが手を振ると、壁の一面が透けて女の子が裸で円筒形の透明なパイプの中に居るのが見える。髪がフワフワしているところを見ると透明な液体が充填されているようだった。

「あの子は……?」
「これを見て」

 コビナタが目で示したベッドの端に鏡が現れた。

「え……うそ」

 なんとミナはパイプの中の女の子と同じ姿かたちだった。

「あのパイプの中に居るのが本来のミナ。今のミナの体は義体よ」
「ギタイ……?」
「80%は機械、20%は人工の生態組織。意識はミナ本来のものよ。ただし、いくつかの記憶はブロックしてある。そうでなきゃ、この状況は受け入れられないから。どう、平気でしょ?」
「少しショックです」
「なーる……CPUがイエロー、状況を把握しようとして活発に動いている。そして心は十分に耐えているわ」
「わたしには、なにか任務があるんですね?」
「そう、これを……」

 ベッドの左横に大きな木のようなものが現れた。太い幹があり、そこから無数の枝が延び、その大半は霞んで先がみえなかった。

「……これはパラレルワールドを含んだ世界の模式図ですね」
「飲み込みが早いわ。世界は、こんなに分岐して多様なの。先細りで途切れたように見えるのは……」
「絶滅した世界ですね」
「そう、そして霞んで見えないところは、まだ続いている世界。つまり無数のパラレルの可能性……」
「ちょっと嘘がありますね……枝の色が悪い。絶滅しかけているパラレルがいっぱいあります」
「……そうよ。このまま放置しておくと、この人類の木自体が枯れてしまう」
「世界の消滅ですね」
「そう、この枯れかけたパラレルの緑を取り戻すのが、ミナ、あなたの任務」

 というわけで、コンバットスーツを身に着けてチュートリアルが始まった!

 最初はアナログな危険から身を守ることだった。10トン~100トンの岩が霰のように降ってくる中を走破。1000トンの巨岩が落ちてきたときは意識的に下敷きになってみたが無傷だった。

 一万丁の機関銃の掃射を避けることもできたし、弾着にも耐えられ、大和級の46サンチ砲弾の直撃にも動じなかった。

 さすがに、核爆弾を落とされたときは生体組織が死滅してスケルトンになってしまったけど、30分で元に戻った。

「慣れれば、数秒で回復できるわ」

 コビナタは容赦なかった。次にCPUに対するハッキングや電子攻撃にもさらされたが、逆探知してアタックしてきたCPUを破壊した。

 トドメが宇宙戦艦ヤマトの波動砲とデスラー砲の同時攻撃……これにも耐えた。

「じゃ、これが最後。わたしに擬態して」
「擬態……?」

 ミナには本能的な拒絶心があった。

「簡単なことよ。わたしのことをイメージして」
「でも……」
「大丈夫、チュートリアルだから、やってみて」

 ミナはコビナタをイメージした。そしてコビナタそのものになってしまい、本物を目の前に混乱した。

「一割の自分を残しておくこと。そうでなきゃ自我を失ってしまう」

 それから何十人かに擬態して、やっとコツが掴めた。

「一つ聞いてもいいですか」
「いいわよ」
「……わたし戻らなきゃならないところがあるような気がするんです。わたしを待ってくれている人がいるような気がするんです。あちらの本来の自分に戻って」

 パイプの中の自分を愛おしそうに見た。

「あの体は、がん細胞に侵されている。進行しすぎて元に戻せるかは五分五分。戻りたいという気持ちは残しておいて。そうしなきゃ、ミナは……化け物になるわ」
「……はい」
「じゃ、しばらくスリープしましょう。その間に微調整する。今度目が覚めたら任務だと思って」

 ミナは銀河鉄道999の夢を見た。だが、そこにメーテルはいないようだった。

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高校ライトノベル・『はるか 真田山学院高校演劇部物語・09』

2019-05-19 06:20:00 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
はるか 真田山学院高校演劇部物語・09 

 

『第一章・9 再出発』        


「お母さん、写真撮ってよ、写真!」

 お風呂に入りかけていたお母さんをつかまえて、ピ-スして写真を撮ってもらった。
「似合ってるじゃない。はるかって、順応するの早いんだ。ま、女ってそういうもんだけどね」
 そう言い残して、この人でなしは、そそくさと風呂場に行った。
「溺れるんじゃないわよ!」
「誰かさんとはちがいま~す」
 で、あとは湯気にこもった鼻歌が聞こえてきた。

――ホンワカはるかの再出発!――

 デコメいっぱいのタイトルとともに由香にメールを打った。
 吉川裕也からメールがきていた。
 ほら、食堂、標準語で声をかけてきたテンカス生徒会長。
 気まじめそうなイケメン。話してみると案外おもしろい。
 小学校を卒業すると同時に横浜から大阪に来たらしい。
 大阪弁と、標準語てか、横浜弁を器用に使い分けるバイリンガル。
 とりあえずメルトモになっておいた。
 あと、山田先輩とタマちゃん先輩にも。
「今日はいい出会いだったね。真田山にはいろんな人がいて、習慣とかも、東京とは、かなりちがう。分からないことがあったら、いつでも! YK」
 OKの打ち間違いかと思ったら、
「ああ、イニシャル……キッカワ ユウヤだもんね」

 そして……ひそかに心待ちしていたメールは来ていなかった。
 幼なじみにさえ伝えていない新しいアドレス教えてきたのに!

 制服をパジャマに着替えると、風呂場で「ゲホゲホ……」とむせかえる声。
「ざまー見ろ」
 と、心で毒づいてベッドに潜り込む……と。
 あ、今日借りた本読まなくっちゃ……そいで、机に目をやると、部屋のかたすみにマサカドクン。
 ちょうどいい。マサカドクンについて説明しとくわね。

 わたしが五歳のときお父さんの会社が潰れたって話はしたよね。で、実家の会社とは名ばかりの町工場の専務になったって。
 その年の秋、わたしはお父さんに連れられて、浅草の酉の市に行ったわけ。熊手にいっぱい縁起物付けてもらって、帰るのかなあ……と思ったら、
「ちょっと、寄っていくところがある。いいかい、はるか?」
 いいも悪いも、お父さんがそう言ったのは、もうタクシーの中。それっきりむっつり黙っちゃって。着いたところは、ビルの谷間。
 きれいに玉砂利なんかが敷いてあって、奥のほうに大きな石碑。
「なんだろ、これ……?」
 お父さんは、それまで見たこともないような怖い顔になって、深々と頭を下げていた。
 わたしもしなくちゃいけないのかなあ……そう思って、ぶきっちょに頭を下げたら、
 そこにマサカドクンがいた。
 二十センチくらいの、ホワーって、輪郭がボケてて顔もよくわかんない。でもなんだか、三等身くらいで、いちおう人のカタチをしている。
「おとうさん、これなに?」
「え……?」
 お父さんには見えないらしい……それが家まで付いてきちゃった。
 
 小学校に行ってから、お父さんと行ったところが将門塚であることが分かった。
 それから、なんとなく目鼻立ちが分かるようになってきた。どうして分かるようになったか、それも分かんない。
 ただ、なんとなくわたしに興味を持っているらしいということは分かってきた。逆に言えばわたしも、それだけ親しみを持つようになってきたということかもしれない。
 それから、わたしは、この「ホワちゃん」を「マサカドクン」と呼ぶようになった。
 ひょっとしたら、大阪には付いてこないかなあ……と半分さみしい気持ちで思っていたら、新大阪に着いたとき。新幹線のドアが開くと、足許にマサカドクンがホワホワと立っていた。

 演劇部……次も、いちおう行ってみようかな……あ、まだ本読んでなかった。
……でも、ね、む、い……。
 おやすみなさい……。


 この話に出てくる個人、法人、団体名は全てフィクションです。
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