大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・魔法少女マヂカ・025『風呂上りの来客』

2019-05-18 13:46:14 | 小説
魔法少女マヂカ・025  
 
『風呂上りの来客』 語り手:マヂカ   
 
 
 
 
 そりゃあ、ガマの、し、し、し、尻の穴だ!
 
 そこまで言うと、ケルベロスはセミロングの髪を振り乱して笑った。
「わ、笑うなあああ!」
「これが笑わずにいられるか、アハ、アハハハ」
「弁天さんは、そうは言わなかったぞ!」
「それは、弁天さんの優しさだし、上品さだ。アハハハ、ああ可笑しい、アハハハ」
 
 東池袋のマンションに帰って、粗々にことの顛末を話すと、笑いの止まらないケルベロス。
 
「綾香の姿で笑わないでくれる! 見てくれは清楚系のOLなんだからさ、そんな口と股座おっぴらげて笑うと女装の変態にしか見えないから!」
「ああ、すまんすまん。いや、ごめんね。いやあ、魔法少女も形無しよね。そうだ、ブレスケアとかあるから使ってみる?」
「え、臭う?」
「ううん、でも、気持ちの問題?」
「そ、そうね」
 
 ……って、なんか惨めな気持ち。
 
「ま、仕方ないわよ。江ノ島のガマって言えば鎌倉時代から住み着いてる、まさに海千山千だもんね。なにごとも真正面から向かっていくマヂカには荷が重かったかもね」
「んなことないわよ。七十年も休眠してたから、ちょっと勘が戻ってないのよ、勘が。ケルベロ……お姉ちゃんも仕事とかどうなのよ、そんな清楚系OL風なんだから、一日中家に居たらおかしいでしょ」
「仕事は決めたわよ、ほら」
 名刺をズイっと差し出した。妹への狎れとOLの職業的慣れの混ざった振舞いが、悔しいけど見事だ。妹的――なによ――的な半身の姿勢で受け取る。
「ん? 南部探偵事務所……探偵やるの?」
「しばらくは事務だけどね」
「しばらくね……」
 江ノ島の半日でくたびれたので、ちょうど――お風呂のお湯が沸きました――のメッセージがしたので大人しく風呂場に向かう。
 
 魔法少女は入浴などしなくても呪文一つで清潔さは保てるのだけど、人間のマンションに住んでいることだし、こういうアナログにも捨てがたいものがある。
 
 ピンポ~ン
 
 お風呂から上がって冷蔵庫のドアを開けようとしたところでチャイムが鳴った。
「ごめん、真智香出てえ」
 入れ替わりに風呂場に行ったお姉ちゃんの声。
「しょーがないなあ」
 冷蔵庫のコーラをあきらめて玄関に向かう。
 
「こんばんは」
 
 にこやかに入って来たのは例の神田明神の巫女さんだ。
「江ノ島でのご苦労、神田まで聞こえてますよ」
「う、それが?」
「仕事を依頼したのはうちだし、様子を見てくるようにとの将門さまに申し付かってきたの」
「え、あ、ま、どーぞ」
 
 巫女さんなので一間だけある和室に通す。   「流れ三つ巴」の画像検索結果(流れ三つ巴)
 
「失礼します」
「しかし、その巫女姿で歩いてたら目立たない?」
「だいじょうぶよ、それより、あなたよ。そんなに落ち込んでいないようで安心」
「え、あ、ま、魔法少女には軽い仕事だわよ」
「次は大潮の干潮ね」
「うん、四日後」
「ガマに騙されないようにコンタクトレンズを持ってきてあげたわ」
「コンタクトレンズ?」
「うん、神田明神謹製よ」
「お、トレードマークのなめくじ巴」
「失礼な、流れ三つ巴とおっしゃい」
「いいじゃない、親しみがあって……ウ!?」
 唇がよじれてしまった。
「流れ……三つ巴」
「よろしい、試しに装着してみて」
「うん」
 
 こいつを着けたら、巫女の正体が分かるぞ。ちょっと期待した。
 
「あれ、やっぱり巫女の姿だ?」
「あたりまえでしょ、これがわたしの姿なんだから」
「ん~、ほんとうに効果あるの?」
 
「あら、いらっしゃい」
 
 ちょうど風呂上がりのお姉ちゃんが入ってきた。
 
「お姉……!?」
 
 風呂上がりのスゥエットの上はケルベロス本来の黒犬の首だった……。
 
 
 
 
 
 
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高校ライトノベル・連載戯曲『ステルスドラゴンとグリムの森・1』

2019-05-18 06:34:32 | 戯曲
ステルスドラゴンとグリムの森・1
 
 ※ 本作は自由に上演していただいて構いません、詳細は最後(11)に記しておきます
 
 時   ある日ある時
 所   グリムの森とお城
 人物  赤ずきん
 白雪姫
 王子(アニマ・モラトリアム・フォン・ゲッチンゲン)
 家来(ヨンチョ・パンサ)

 幕開くと、グリムの森のバス停。表示板と街灯が、腰の高さほどの藪を背景に立っている。
 街灯の周囲だけがなつかし色にうかびあがり、その奥の森の木々は闇の中に静もっている。
 時おり虫の声。ややあって、赤ずきんがスマホでしゃべりながら花道(客席通路)を小走りでやってくる。

赤ずきん: ……うん、わかってるって。でも朝が早いから、うん、やっぱり帰る……ありがとう。
 婆ちゃんも、近ごろ森もぶっそうだから、オオカミさんにも言ってあるけど、戸締まりとかしっかりね……。
 変なドラゴンが出るから、戸を開けちゃだめよ……え、ああ夜泣き女。
 それは 大丈夫、人間相手だったら赤ずきん怖くない……もう、そうやって人を怖がらせるんだから……。
 じゃあ、またね、バイバイ(切る)……もうお婆ちゃんたら長話なんだから……最終バス……(時時刻表を見る)
 わ、出ちゃったかな……わたしの時計も正確じゃないから……排気ガスの臭いも残っていないし、バスはよく遅れるもんだし……。
 大丈夫よね……なんとかドラゴンに、夜泣き女……。
 オオカミさんも婆ちゃん守らなきゃとかなんとか言って、レディを送ることもしないで……。
 本当は自分がビビってんじゃん(;^_^A……でも、わたしは良い子強い子赤ずきん! 怖くなんか(;゚Д゚)……

 間、静寂、虫の声も止む。

赤ずきん: ……怖くなんか……(;'∀')

 静寂の中から、女のすすり泣く声が聞こえる

赤ずきん: ……なに、今の……?

 森の闇と藪の間に、幽霊のように、顔を手で被って泣く女の影が浮かび上がる

赤ずきん: 出たあああああああああああああああ!……(舞台の端まで逃げて、ふと思いつく)
 ……って、ひょっとして、そのコスチューム……ひょっとして、もしかして……あなた白雪姫……?
白雪: (泣いたままコックリする)
赤ずきん: あ、あなたって呼び方むつかしいのよね。思わず白雪姫って、呼びすてにしちゃったけど、どうお呼びすればいいのかしら? ユアハイネス? 殿下? 白雪姫様? プリンセス・スノーホワイト、それともシュネー・ビットヒェン?
白雪: ……雪でいいわ。
赤ずきん: 雪だなんて、まるでそっ気ない冬の天気予報みたい……。
白雪: なら、雪ちゃん。日本で最初の翻訳では雪ちゃんだった。
赤ずきん: 雪ちゃん……?
白雪: 白雪でもいいわ、同じグリム童話の仲間としては。
 でも、わたしとしては、より親しみの感じられる雪ちゃんの方が嬉しいんだけど……。
赤ずきん: ん……でも、それだと対等にわたしのことを呼んでもらった場合、赤ちゃんになっちっちゃうでしょ。
 年上でもあるし……白雪さんてことで……。
白雪: ありがとう、敬意をはらってくれたのね、赤ずきんちゃん。
赤ずきん: どういたしまして……でも、その白雪さんが、どうしてこんなところで泣いているの? 
 ひょっとして近ごろ評判の夜泣き女って……。
白雪: ……多分、わたし。夜になると、こうして泣きながら森をさまよっているから……( ノД`)シクシク…。
赤ずきん: 白雪さんて、ゲームで言えばミッションコンプリートの一歩手前、九十九パーセントクリアの優等生でしょ?
白雪: はい……。
赤ずきん: 無事に毒リンゴ食って仮死状態になり、小人さんたちにガラスの棺に入れられて。
 花屋十軒分ほどの花に囲まれて、あとはいよいよ待つだけでしょ……。
 その、王子さまがあらわれて……その、いいことすんのが……(n*´ω`*n)。
白雪: そんな、いいことだなんて……
赤ずきん: わたしなんか、せいぜい、おばあちゃんがホッペにキスしてくれるぐらいのもんだからね、子供ってつまんないわよ。
白雪: ……

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高校ライトノベル・時空戦艦カワチ・035『マストの上を星が流れた』

2019-05-18 06:17:39 | ノベル2
高校ライトノベル・時空戦艦カワチ・035 
『マストの上を星が流れた』




 バーチャルアイドル清美を作ったのは自分です……。

 井上多聞補給長は、小さく、でもしっかりと言った。

 艦コーヒーを握った指が白くなっている、アルミ缶だったらへしゃげていただろう。

「ほう……」
 艦長はおだやかに反応する。
「砲雷長が作った『カスタムアイドル』……補給科でも流行っていましてね、なかなか良くできたコミニュケーションツールです」
「そうですね、自分は、ああいうものには疎いので、みんながエディットしたアイドルやバトルやら書き込みとかを見て喜んでいるだけですけどね……いや、なかなか面白いもんです。あれを巡って乗員の個性化が進んできました。並列化されたままの乗員たちでは、あんな競い合いにはならないでしょうしね。砲雷長は、なかなかいいものを作ってくれました」
「人と仲良くなるには、共通の趣味を持つことです。それもハンパじゃいけない、どっぷり浸かって自分自身『面白い』と思わなきゃ仲良くはできません」
「そうですね、それが出来ないもんで、娘とは接点を持てないままでした。井上さんは学校の先生だから、そういうもので自然とコミニュケーションが取れるようになられたんでしょうね」
「もともとがミーハーなんですよ、生徒と一緒にやっていると意地になりましてね育成系に限らずゲームでは並の生徒よりはできたと思います。格ゲーなんかはゲーセンに通いましてね、パチンコとかはやりませんので自分自身の憂さ晴らしにもなりますしね。ゲーセンで接点が持てた生徒もいましたよ」
「そういうスタンスは良いと思いますよ、井上さんの年齢ならタマゴッチとかもやったんじゃないですか?」
「ええ、教師になりたての頃でした。授業中にやられましてね、こういうのは禁止するだけじゃ無くならないし、頭ごなしに禁止しては、生徒の気持ちが離れて行くだけです。それで自分でも始めました……すぐに生徒のスキルを超えてしまいました、ハハハ、やっぱり好きなんでしょうね……一人上手い奴が居ましてね……気づいたら嫁さんになってました」
「おお、それはそれは……」

 補給長は遠い目になった……奥さんとの件は、今は探るべきではないと艦長は思った。

「清美さんのファンは多かったです、AKBとかグループが全盛の時代にソロで天下を取りかけましたからね。学校でも大方の生徒はアイドルグループでしたが、一部の生徒は熱烈なキヨミストでした。独立独歩なところがいいんでしょう、独立独歩でありながら、底の底では人恋し気で……そういう斜め上を向いてるところが、同じように学校にもクラスにも距離の有る生徒の共感を得るんでしょう……わたしも、あの頃の清美さんは好きでしたよ」

 プシ

 補給長は温くなった艦コーヒーのプルトップを引いた。

 それが合図であったかのようにマストの上を星が流れた。

 なにかの終わりにも始りのようにも思えた。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高校ライトノベル・時かける少女 BETA・1《リスタート》

2019-05-18 06:09:00 | 時かける少女
かける少女 BETA・1 
《リスタート》         


 
 よくもって明日の朝だと言われた。

 菜緒子に残された数時間、数十分……数分かもしれない時間。母はそれを永遠にしたい気持ちで、弱く脈打つ娘の手を握っていた。
 父は無精ひげのまま、看病やつれした妻を庇うようにその手を重ねた。

「菜緒子……菜緒子なんて名前つけなきゃよかった」
「なにを言ってるんだ。菜緒子は、菜緒子だ。菜緒子はがんばれる子だ」
「あたしの名前をとったのが良くなかったのよ」
「菜緒の娘だから菜緒子。立派な名前じゃないか、頑張れる名前じゃないか!」
 
 父は、妻を抱く手に力を込めた。
 
「この子は受け継いでしまったのよ、あたしの運命を……!」
「ちがう。受け継いだのは母さん自身の強さだよ、母さんの運の強さだよ……」

 その刹那、菜緒子の心臓が止まった。

「菜緒子! 菜緒子! 行くな、しっかりしろ!」
 父の声が届いたのか、菜緒子の心音が戻ってきた。
「見ろ、菜緒子は菜緒子だ、強い子なんだ!」
「そうね、そうね、菜緒子、菜緒子……」
 
 気づくと菜緒子の足許に女医が立っている。ぶら下げたIDがほんのり黄色く光っている。

「すみません、つい取り乱して」
「いいえ、こんな時ですもの、しっかり声をかけてあげてください」
 
 女医の声は聞きなれた主治医のそれでは無かった。
 
「……東條先生じゃないんですか?」
「申し遅れました、小日向と申します。いま東條先生から引き継ぎました」

「え……」

 両親はとまどった。
 
「わたしの方が助けられる可能性が高いので交代しました。とりあえず強心剤を……」
 
 女医は、菜緒子の胸の上から赤いペンライトのようなもので照らした。菜緒子の心音が強く規則正しくなってきた。
 
「心音が……」
「お母さん。お父さんのおっしゃるように名前のせいじゃありません。まして、お母さんが17の歳で患った脳腫瘍を引き継いだわけでもありません。ただの偶然です」
「そ、そうですとも。で、先生、菜緒子は治るんですか!?」
 
 女医は小首を傾げた。
 
「治ります。ただ少し……」
「障害が残っても構いません。寝たきりでもかまいません。生きていてくれさえしたら!」
「障害は残りません。ただ少し我慢していただかなくてはなりません」
「……我慢と申しますと?」
「きちんと治るまで、娘さんには会えません」
「そんなの、いくらでも待ちます。何日でも何カ月でも何年でも!」
「菜緒子を助けてやってください!」

 女医のIDがグリーンに変わった。両親は、そんなこと気にも留めていなかった。

「分かりました、そのご決心が聞きたかったんです……小日向です。状況グリーン、ストレッチャーを」
 
 女医は、さっきのペンライトに話しかけた。
 数秒おいて二人のナースがストレッチャーを運び入れた。二人のナースはそっと手を添えるだけで、マジックのように菜緒子をストレッチャーに乗せた。病室のドアが開いてストレッチャーは音もなく廊下に出た。
 
「先生、よろしくおねがいします!」
「お二人は、ここでお待ちください」
「せめて、待合まで……」
「お約束です。治るまではご辛抱を」
 
 そう言うと、女医とナースたちは、廊下を足早に行ってしまった。父はストレッチャーに脚もキャスターも付いていないことに気づいた。
 
「ちょ、ちょっと先生!」
 
 突き当りの角を曲がったところで追いついた……つもりだった。

 エレベーターは止まったままだった。ナースステーションの当直のナースが怪訝な顔で見ている。女医の姿もストレッチャーもナースの姿も見えなかった。

 かすかに「リスタート」という声が聞こえたような気がした……。


  
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高校ライトノベル・『はるか 真田山学院高校演劇部物語・08』

2019-05-18 05:57:35 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
はるか 真田山学院高校演劇部物語・08  

 

『8:当たっているだけに、むかつく』        


 お母さんが目をむいた。

「図書の先生がね、演劇部の顧問。でね、本を借りたら、そういうことになっちゃって」
「演劇って根性いるんだよ。その場しのぎのホンワカですますわけにはいかないんだよ」
「なによ、その場しのぎのホンワカって!」

 当たっているだけに、むかつく。

「はるかは、本を読んではおもしろがってるしか、能がない子なんだよ」
 さすがに排泄するだけとは言わなかった。

 でもね、はるかの苦労は、あなた様が元凶なんですぞ。母上さま……!

「で、どや、おもしろかったんか?」
「うん、大橋っておじさんがコーチ。変なオヤジかと最初は思ったけど、わりとおもしろかった」
「大橋て、ひょっとして大橋むつおか? ニューヨークヤンキースのスタジャン着て、字ぃのへたくそな」
「うん、そう! 有名な人なの?」
「オレのオトモダチや」
「え!?」

 母子は同時に驚いた。

 それから、わたしの半日の出来事にタキトモコンビは笑い転げ……ながらも、しっかり原稿は仕上げていた。
 夜のディナータイムは、給湯器の具合が悪くなって、ガス屋さんを呼んで臨時休業。タキさんは、その修理に付き合い、わたしとお母さんはお家に帰ることにした。
帰るにあたって、地下鉄か環状線かでヒトモンチャクあったが、商店街が日本一長いと言うと、好奇心旺盛なお母さんは、あっさり宗旨替えをした。
 さっきの洋品屋さんの前で足が止まった……。
「どうかした?」
「え、あ……ううん、なんでもないよ」
 言えなかった。

 たった一言「あのポロシャツ、お父さんに似合うね」って。
 
 鶴橋で近鉄に乗り換える。

 鶴橋。ここは日本で一番おいしい匂いのする駅。高架になってる駅の真下に百軒以上の焼き肉屋さんがひしめいている。
 二軒ほど(一軒は、なぜか京橋って、四つ手前の駅のとこにある)おいしい店をタキさんに教えてもらったので、近いうちに行こうということになっている。
 近鉄と環状線がクロスしているので連絡の改札からエスカレーターまでは、みんな小走り。中にはダッシュする人もいて壮観。
 エスカレーターでは東京の習慣のまま左側にボサーっと立っていた。そしたらドンと後ろから、おじさんの一団に追い抜かれてしまった。
「ボサっとしとったら、あかんで!」
 おっかねえ……。


 鶴橋から、準急で四つ目の高安で降り、母子の新居である二LDKの賃貸にたどり着く。

 簡単な夕食をとったあと「今夜は片づけよう!」と誓い合った段ボール箱をシカトして、お風呂に入る順番を母子でジャンケンをした。
 運良く勝ったわたしは、トロトロと服を脱いで湯船につかり、そのままトロトロと居眠ってしまった。
 瞬間、夢を見た。
 白い紙ヒコーキが群青の空を滑るように飛んでいる。
「ウワー……!」
 歓声をあげたとたん、紙ヒコーキは荒川の真ん中にポチャン。
「ゲホ、ゲホ、ゲホ!」
 しこたまお湯を飲み込んでむせかえっった。
「なにやってんの、制服と教科書きたわよ」

 制服を着て鏡の前に立ってみる。

 昼間会った真田山学院高校の女生徒たちと同じ姿がそこには映っていた。
 あたりまえっちゃ、あたりまえ。
 でも、なんだか自分でないような気がした。
 壁に掛けた古い制服が、むりやり脱皮した抜け殻のように思えた……。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする