魔法少女マヂカ・025
『風呂上りの来客』 語り手:マヂカ
そりゃあ、ガマの、し、し、し、尻の穴だ!
そこまで言うと、ケルベロスはセミロングの髪を振り乱して笑った。
「わ、笑うなあああ!」
「これが笑わずにいられるか、アハ、アハハハ」
「弁天さんは、そうは言わなかったぞ!」
「それは、弁天さんの優しさだし、上品さだ。アハハハ、ああ可笑しい、アハハハ」
東池袋のマンションに帰って、粗々にことの顛末を話すと、笑いの止まらないケルベロス。
「綾香の姿で笑わないでくれる! 見てくれは清楚系のOLなんだからさ、そんな口と股座おっぴらげて笑うと女装の変態にしか見えないから!」
「ああ、すまんすまん。いや、ごめんね。いやあ、魔法少女も形無しよね。そうだ、ブレスケアとかあるから使ってみる?」
「え、臭う?」
「ううん、でも、気持ちの問題?」
「そ、そうね」
……って、なんか惨めな気持ち。
「ま、仕方ないわよ。江ノ島のガマって言えば鎌倉時代から住み着いてる、まさに海千山千だもんね。なにごとも真正面から向かっていくマヂカには荷が重かったかもね」
「んなことないわよ。七十年も休眠してたから、ちょっと勘が戻ってないのよ、勘が。ケルベロ……お姉ちゃんも仕事とかどうなのよ、そんな清楚系OL風なんだから、一日中家に居たらおかしいでしょ」
「仕事は決めたわよ、ほら」
名刺をズイっと差し出した。妹への狎れとOLの職業的慣れの混ざった振舞いが、悔しいけど見事だ。妹的――なによ――的な半身の姿勢で受け取る。
「ん? 南部探偵事務所……探偵やるの?」
「しばらくは事務だけどね」
「しばらくね……」
江ノ島の半日でくたびれたので、ちょうど――お風呂のお湯が沸きました――のメッセージがしたので大人しく風呂場に向かう。
魔法少女は入浴などしなくても呪文一つで清潔さは保てるのだけど、人間のマンションに住んでいることだし、こういうアナログにも捨てがたいものがある。
ピンポ~ン
お風呂から上がって冷蔵庫のドアを開けようとしたところでチャイムが鳴った。
「ごめん、真智香出てえ」
入れ替わりに風呂場に行ったお姉ちゃんの声。
「しょーがないなあ」
冷蔵庫のコーラをあきらめて玄関に向かう。
「こんばんは」
にこやかに入って来たのは例の神田明神の巫女さんだ。
「江ノ島でのご苦労、神田まで聞こえてますよ」
「う、それが?」
「仕事を依頼したのはうちだし、様子を見てくるようにとの将門さまに申し付かってきたの」
「え、あ、ま、どーぞ」
巫女さんなので一間だけある和室に通す。 (流れ三つ巴)
「失礼します」
「しかし、その巫女姿で歩いてたら目立たない?」
「だいじょうぶよ、それより、あなたよ。そんなに落ち込んでいないようで安心」
「え、あ、ま、魔法少女には軽い仕事だわよ」
「次は大潮の干潮ね」
「うん、四日後」
「ガマに騙されないようにコンタクトレンズを持ってきてあげたわ」
「コンタクトレンズ?」
「うん、神田明神謹製よ」
「お、トレードマークのなめくじ巴」
「失礼な、流れ三つ巴とおっしゃい」
「いいじゃない、親しみがあって……ウ!?」
唇がよじれてしまった。
「流れ……三つ巴」
「よろしい、試しに装着してみて」
「うん」
こいつを着けたら、巫女の正体が分かるぞ。ちょっと期待した。
「あれ、やっぱり巫女の姿だ?」
「あたりまえでしょ、これがわたしの姿なんだから」
「ん~、ほんとうに効果あるの?」
「あら、いらっしゃい」
ちょうど風呂上がりのお姉ちゃんが入ってきた。
「お姉……!?」
風呂上がりのスゥエットの上はケルベロス本来の黒犬の首だった……。