大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・163『日光・2』

2020-07-02 13:43:39 | 小説

魔法少女マヂカ・163

『日光・2』語り手:マヂカ    

 

 

 この川を渡ると神域です、心してください。

 

 森を抜け、赤い橋のたもとで立ち止まると猫娘……いや眠り猫娘が立ち止まって、背中で言う。

 川というよりは谷なのだろう、清涼なミストのような飛沫を感じる割には、橋の袂からは川面が窺えない。

 日光で赤い橋と言えば大谷川にかかる神橋だが、魔法少女ごときが渡れる橋ではない。神がお通りになる橋で、普段は凡夫がうかつに渡らないように車止めのような柵がしてあるはずだ。

 しかし、聞いてはいけないのだろう。端の向こう側に三匹の猿が控えている。

「あの猿たち、感じワル~だよ、わん」

「あれ、三猿だよね」

 友里まで声を潜めているのは『見ざる聞かざる言わざる』の三匹だ。

 口を塞いでいるやつ、目を塞いでいるやつ、耳を塞いでいるやつ。

 本来の意味は、それだけの知識も経験もない若輩者に対する警句で、けして悪い意味では無いのだが、説明が面倒だ。

「おまえたち、今日は違うだろう」

 眠り猫娘がたしなめると、三猿は、それぞれ片方の手を離した。

「わん!」

「吠えるな、ツン。おまえをおちょくっているわけでもないんだ」

 犬娘なので、猿がやることはいちいち気に障るみたいだ。

「必要なことは、ちゃんと聞いて、見て、喋りなさいってことかな?」

「……分かっていればいいの」

 また猫娘の背中が言う。

「あ、五重塔がある」

 神社である東照宮に五重塔があることを友里は不思議なようだ。高校生としては水準を超えてた疑問だ。仏塔は、元来が釈迦の遺骨を納めた墓、供養塔で神道には馴染まない。仏教伝来以来神仏習合が進み、明治初年の神仏分離令が出されるまでは、普通に神道と仏教は馴染んでいた。神宮寺という言葉のように神社と寺を兼ね合わせたものが日本中にあった。

「あの五重塔はスカイツリーの設計にもヒントを与えているのよ、東日本大震災で東京タワーの先端は傾いてしまったけど、スカイツリーはビクともしなかった」

「え、倍ほども高いのに!?」

「その基になったのが、あの五重塔」

「そうなんだ!」

 思わず立ち止まる友里とツン。

 ツンは五重塔とスカイツリーの関係などには興味はない、猟犬本来の勘が意識を向けさせているのだろうが、半ば以上人間になってしまって確信が持てないのだろう。

 魔法少女の勘は、階段を上がった陽明門の向こうこそが問題だと言っている。眠り猫娘が立ち止まっているのも、五重塔の解説のためではない、それに気づいて行動しろと言っているのだ。

「さすがは魔法少女、そうなの、良からぬものが奥つ城に蟠っている。それを退治してもらってから、要望を聞かせてもらうわ!」

 言い切ると同時に眠り猫娘は跳躍して、後方の大杉の天辺に退避した。

「三猿ども、しっかり見届けるのよ!」

 ウキキキ!

 三猿どもが練塀の上に現れ、口だけは押えたまま、両目、両耳、おまけに鼻の穴まで膨らませて、これから始まる戦いを監視し始めた。

 

 

 

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あたしのあした・41『あたしの中に住んだ人・1』

2020-07-02 06:24:20 | ノベル2

・41
『あたしの中に住んだ人・1』
      


 

 金縛りになった。

 と言っても、生まれて初めてのことなので確証はない。
 意識は冴えているのに体が動かない、目玉だけが動かせる。話しに聞いた金縛りの症状なので、いちおうそうなのかと思う。
 人間と言うのは、自分や自分の身の回りのことをカテゴライズしておかなければ落ち着かないものなんだと思う。
 だからカテゴライズすると少し落ち着いた。
 だって考えてもみてよ。
 夜中にパチッと目が覚めて、目玉以外動かなきゃ狼狽えてしまうでしょ? ま、そのくらい怖いものなのよ。

 階段を誰かが上がってくる気配。

 お母さんじゃない、お母さんなら、もう少しこし速い。
 それに階段を踏みしめる音にズシリと重みがある……これは男の人だ。
 お母さんと二人暮らしの家に男なんかいない。もし、お母さんが男でも連れ込んでいなければ……。

――おもしろいことを考えるんだね。

 気配が口をきいた。いつの間にかベッドの脇に立っている。
 スーツを着て落ち着いた感じのオジサンだ、全身から人柄の良さが滲みだしているようで、恐怖とか不安とかは感じない。てか、どこかで会ったことがあるような気がする。

――思い出してくれたかな?

――あ…………………風間さん?

 そうだ、引きこもりが最悪の時、フラッと行きついた駅のホームから電車に跳び込もうってか、跳び込んだ時に助けてくれたオジサンだ。
 この人のお蔭で、あたしはかすり傷だけで助かった。風間さんは寝たきりになってしまっている……とても申し訳ない。

――それはきみのせいじゃないよ。
 風間さんは心が読めるようだ! 
――読んでいるわけじゃないんだ、ま、その説明は後にして……私が寝たきりなのは、脳腫瘍が大きくなりすぎたせいなんだよ。
――脳腫瘍?
――もうステージ4の末期。きみについて跳び込んだときには、もう意識が切れていた。覚えているのは君に抱き付いた瞬間までだ。
――えと……その風間さんが、なんでここに?
――いちおう伝えておいた方がいいと思ってね、それと、お願いしたいこともあったし。
――えと……なんでしょう?
――この姿は、君の心の中に投影したものなんだよ。実際はここには居ない、わたしは君の心の中に居るんだ。
――心の中?
――あれから、自分の行動や考え方が変わったとは思わないかい?
――えと……。

 思い当たることは次々に浮かんできた。

 智満子をやっつけ、あたしをイジメていた子たちと仲良くなれた。だけじゃなくて、それがショックで不登校になった智満子を復帰させた。更衣室を覗いていた覗き魔を水野先生といっしょになって捕まえた。早乙女女学院とのいろいろ、毒島を相手に戦おうとしたこと。どれをとっても、それまでのあたしには考えられない行動力や決断力だ。お茶や将棋についての知識もあたしには無いものだ、初対面の人なのに、すでに知っていたような気がした……これって……? そうだ、最初は、とても不思議だった。慣れてしまって、あまり気にしなくなってしまったけど……これって、全部風間さんがやったこと!?

――そうじゃないんだ……

 続きを言いかけて、風間さんの姿はフェードアウトしてしまった。あたしは再び眠りに落ちた。

 

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プレリュード・17《O先輩・1》

2020-07-02 06:16:08 | 小説3

プレリュード・17
《O先輩・1》    



 

 O先輩に一台遅れてエレベーターで降りた。

 時間がはんぱだったので、お昼にするかお茶にするかで悩んだ。
 積もる話もあるし、どうせ昼を跨ぐのは目に見えてたので、お昼も食べられて、ゆっくりお喋りもできるという難しい店を探し始めた。こういうご都合はスマホでは分からない。女子高生特有の嗅覚が一番。

「あ、あれ……!」
 
 直美が叫んだ先、シネコンのガラスを通してO先輩らのとんでもない姿が、目に飛び込んできた。
 なんと先輩を含む男六人と、彼女一人がもめていて、彼女は後部座席の真ん中に、先輩は、なんとトランクに詰め込まれてしまった!

「あ、ら、ら、拉致や!」

 と叫んだのは、おばちゃんたち。他のお客さんも一斉にガラスの外の騒動に顔を青くしてる。

「け、警察や!」

 一人のオバチャンが叫ぶと、それが合図だったみたいに何人かが一斉に通報。何人かは、一部始終をスマホのカメラに収め、車が走り去った直後には、慣れた手つきで、SNSに投稿していた。

 O先輩は、変わった人だけど、拉致されるほどの悪さはしてないと思う……いや、思っていた。嫌いだったけど、どこかで同じ高校演劇の世界にいてたという安心感があった。だから、卒業式の二日前、学校の中庭で、まだ初々しかったころのあたしやら演劇部を思い出して泣けてきたんだ。

「奈菜はアマチャンや」

 家に帰ると、亮介が平然と言った。
「きょうび、こういう犯罪に素人と玄人の境目が曖昧になってきてる。Oいうのは見栄とはったりのきつそうなやつやから、これは本物やで」
 亮介の言葉を裏付けるように、ことは大ごとになってきてる。
「どのチャンネル押しても、このニュースばっかりや」
 お母さんが、お昼の宅配ピザを運びながら言ってる。
 けっきょく直美は、いっしょに家までついてきた……というか、自然の流れで家まで来た。お母さんも亮介も、ごく自然にリビングに集まって、ごく自然に、宅配ピザの昼食になり、みんなでテレビの実況を見ている。

――白昼堂々の、都会のエアーポケットを狙ったような拉致事件。車は、阪神高速を西に向かって進んでおります。覆面パトカーが前後に二台ずつ……実際は、もっと多いのかもしれませんが、警察も手の内をさらさずに追跡しております。なお犯人には放送が気づかれないようワンセグでは見られないようにしてあります。ご不便をおかけしますが、拉致された男女の安全を考慮した上でのことでありますのでご了承願います――

 映像は、ヘリコプターからのもので、遠くに警察のヘリコプターが飛んでいるのが分かる。
「こんな実況、サリンの事件以来やなあ……」
 お母さんが呟いたあと、事件は急展開した。ジャンクションから一般道に降りようとしたところで、パトカーが新たに四台加わり、それを契機に覆面パトと合わせて、十台のパトカーで包囲し停車させた。
 パトカーからは、合計で三十人ほどのお巡りさんが拳銃を構えながら急接近。あっと言う間に、そのうちの一人がフロントグラスを叩き割り、犯人たちを逮捕、女の子とトランクの先輩を無事に保護した。

 で、結果は、メッチャしょーーーーーーーーーーーーもない。

 実は、車に乗っていた六人は、O先輩も含んで、みんな友だち。映画を観た後、先輩の友だちが免許をとったとメールが入り、その友だちがアベックの先輩を誘った。で、六人は乗り切らないので、先輩がええかっこしてトランクに入ったいう、しょーもない話。

 テレビで放送されこそせえへんかったけど、SNSでは出まくり。
「君たちの浅はかな行動で、どれだけの警察官が動員され、費用がかかったか分かっとるのか!」
 という警察の隊長さんが現場で怒ってるのを、誰が撮ったんか、ほとんどライブでSNSには流れてきた。

「しょ-もなあ!」

 アニキはため息とオナラをかまして自分の部屋へ。直美は必死で笑いをこらえてる。

 このあと、先輩たちの行動は意外な展開を見せてくれる……。

             奈菜……♡ 

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