大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ライトノベルベスト・『魔女の宅配便』

2020-07-13 14:20:19 | ライトノベルベスト

ライトノベルベスト
配便』
          


 文化祭で、みんなでコスパレードをやることになった。

 コスは手作りでも、借りてきても、買ってきてもOK。
 それを着て、学校から駅前までパレード。途中AKBの恋チュンを流して街の人たちも巻き込んで、一大イベントにしてユーチューブに投稿しようというタクラミだ。

 言いだしべえは、家が洋裁店をやっている生徒会の文化部長・片平恵美。家が洋裁店だから、どんなコスも自分ちでロハでいけると、その時はひがんだ。

 そのころのあたしは、とにかくひがみっぽかった。

 でも、パレードに恋チュンなら楽しくやれそうだ。あたしはママゾンにアクセスして、仮装コスプレ衣装で検索した。
 ため息が出た。

 コス衣装とは言え、高校生の懐具合からは桁が一つ違う高さだった。
 AKB関連のコスだけでも70近くある。でも条件にあうようなものは一つもなかった。

 あきらめて、夕食の用意。家では半年前から、あたしが炊事係。

 簡単なものがいいので、冷蔵庫の中身と相談。即カレーライスと決まる。なんせ材料を刻んで炒めて煮込めばしまい。あとはいつもの二割増しぐらいにご飯を炊けばいい。上手い具合に今日は金曜日。元海上自衛隊だったお父さんは、金曜はいつもカレーだった。それにかこつければ文句も出ないだろう。
 煮込んでいる間はヒマだ。でも、時々かきまわさなきゃならない。その間いろんなことが頭をよぎる。
 この六カ月のこと……そして文化祭のこと。あたし三年だから最後の文化祭。やっぱ精一杯ハッチャケたいよ。

 あたしは、もう一度ママゾンを検索してみた。

 トップに『ラフライブ』の制服とウィッグのセットが出ていた。Mサイズ送料こみ2000円だ。この人気アニメのコスなら目立てる。それもウィッグ付。モデルのオネエサンが、ちょっと若作りに見えたけど。問題は商品。コンビニ決済で即注文。

 ちょうどカレーも、ころあいに煮えたので、ガスを切ってコンビニへ。

 でもって土日を挟んで、学校へ。

 文化祭は週末だ、気の早い連中はコスの見せっこをしている。
 何人かはママゾンで恋チュンのコスのレプリカを見せびらかしていた。クソ、あたしだって着たかった。でも、あれって、どこの通販みても一万以上。あたしには高嶺の花。まあ、2000円のラフライブで逆転と空元気を付ける。

 その日の帰り、駅の改札を出たところで声をかけられた。

「立花恵梨香さんですね?」
 振り返ると、ラフライブの制服を着たオネーサン。
「魔女の宅配便です。ママソンからのお届け物です」
「はあ!?」

 気が飲まれたというところだろう、受け取りにサインすると……なんということ、ラフライブのコスを着ているのはあたしだった。

     

 オネーサンは、年相応のカットソーとジーパンの姿になって……で、気が付いた。このオネーサンともオバサンともつかない人は、ママゾンを検索したときのコスのモデルだった。

「ごめんなさい、ウィッグ忘れてた!」

 そう言われると、頭に違和感。駅前の洋品店のガラスに写ったあたしは、ラフライブの主人公そっくりな姿になっていた。
 メイクもしていないのに、際立ったアイライン。目が二回りも大きく見える。制服もぴったり、ウィッグも特徴あるサイドのテールがピョコンとしていて、根本の黄色いリボンがライトブラウンの髪を引き立てていた。
「あれ……?」
 ウィッグを引っ張ると、頭の地肌が引っ張られる。まるで自分の髪だ。
「それ、特殊な最先端のウィッグで、つけると自分の髪同然。外してって思えば元にもどるから」
 信じがたいけど、そう思うと、元の自分の髪に戻った。

 だが、オネーサンは戻らなかった。

「あ、受け取りのサイン済ませましたけど……」
「あら、あたしも商品の一部。分かってなかった?」

「ええ、うそ!?」
 オネーサンは家までついてきた。で、パソコンを操作した。
「恵梨香が二度目に打ち込んだのは、ママソン。ZとSって近いからミスタッチしやすいのよね。で、この商品よーく見て。商品内容はここに写っている物全てです……ね、だからあたしも付いてきたわけ」
「そ、そんな……」
 ちょうどびっくりしたところへ、お父さんが早番で帰ってきた。

「おお、そうやって並ぶと生まれながらの母子だな!」

 お父さんは、ごく自然に自分の妻に対するように、オネーサンに接していた。

「それが文化祭の衣装か、よく似合ってるぞ」
「ね、そうでしょ」
 二人は、まったく自然な夫婦だった。そのうち弟が帰って来て、弟も、ごく自然に「お母さん」と呼んでいる。

 それは、半年前に崩れてしまった家庭には無かった自然な温もりがあって、お風呂から上がったころには、あたしも、ある意味自然に受け入れていた。

「ええ、やだよ。こんなクマちゃんのついたパンツ!」
「なに言ってんの。クマちゃんパンツは、恵梨香の保育所からの勝負パンツじゃないの。それ穿いて、文化祭がんばんのよ!」
「文化祭は、週末だよ」
「七枚セットで買ってあるから、文化祭終わるまではクマちゃんパンツ大丈夫!」

 宅配お母さんの予言は当たった。

 文化祭のパレードでは、あたしが断トツで、グランプリをとった。
 人生は捨てたもんじゃない、奇跡がおこるんだもん! 秘密だけどね……。

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かの世界この世界:08『旧校舎の中廊下』

2020-07-13 05:46:21 | 小説5

の世界の世界:08

『旧校舎の中廊下』    

 

 

 それは予感していた。

 旧校舎の中廊下のドアは、みんな閉まっているのだ。

 授業に使われることが無くなって久しく、いくつかが部室として使われているらしいけど、それらもマイナーな部活で、人の出入りはほとんどない。

 ずっと奥の方だと記憶しているので、ギシ ギシ……板張りの廊下を踏みしめながら、手前のドアから試してみる。

 そして、一番奥のドアまで試してみるが、開くドアは無かった。

 

 予感はしていたんだけど、常識的な選択肢から試してみるのは性格なのかもしれない。

 

 二階?

 そう思って打ち消す。

 記憶をたどっても階段を上がったのは、最初に屋上を目指したときだけだ。

 真っ直ぐ屋上に上がり、迫って来る足音に耐えられなくなって飛び降りたんだ。

 一瞬、頭蓋骨が割れるイメージ、フルフル首を振って、廊下の奥に視線を戻す。

 

 そうだ。

 

 わたしの脳みそは段階を踏まなければ思い出さないようだ。

 ドアなんか開けていない。

 追い詰められて、ドシンと壁にぶつかって……

 奥の壁を叩いて、三か所目でビンゴだった。

 

 キャ!

 

 どういう仕掛けか、フッと壁が無くなって、タタラを踏んで転げ落ちた。

 ドサリと畳の感触、顔を上げると志村・中臣両先輩が座敷童のように座っていた。

 

「お帰りなさい」

「とりあえずは回避できたみたいね」

 

 曖昧な笑顔を向ける両先輩、まるでVRのスリラーゲームの一コマのよう。

 前回のことがなかったら、悲鳴を上げて気絶していただろう。

 

☆ 主な登場人物

 寺井光子  二年生

 二宮冴子  二年生、不幸な事故で光子に殺される

 中臣美空  三年生、セミロングで『かの世部』部長

 志村時美  三年生、ポニテの『かの世部』副部長

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あたしのあした・52『雲母八万石の城下町』

2020-07-13 05:37:55 | ノベル2

・52

『雲母八万石の城下町』     

 

 

 雲母市は雲母八万石の城下町だ

 その三百年記念行事『雲母藩三百年祭』が来年に迫っていて、そのプレ行事として『雲母姫ふぇすた』が行われる。
 そのエキストラに、あたしとネッチは応募した……らしい。

「え、あたしも!?」

 実は応募したのはネッチのお母さん。
 商店会の用事で市役所に行った時にポスターを見て、直ぐに応募したらしい。
 自薦他薦を問わず、二名以上応募して、その二名以上が腰元のエキストラに選ばれれば、地元の名産雲母蕎麦一か月分がもらえる。
 そういう景品大好きなお母さんが、娘と娘の友だちであるあたしの名前を書いて応募。写真は、以前お邪魔した時の写メがあったので、ドラッグしてダウンロードした仮想応募用紙に貼りつけた。
 で、きのう書類選考を通ったと連絡がきた。

「……というわけなのよ。申し訳ないけど、つきあってもらえないかなあ」

 拝まれてはしかたない。
 さいわい、智満子たちの『キララTDK』にも参加していないことだし、腰元のコスをするのも面白そうなのでOKした。

 で、雲母市役所の大会議室に来ている。

 奥の方に、実行委員長を始め、助役さんやらのエライサンが並んでいる。全部で八人いるんだけど、何の仕事をする人か良く分からない。ま、お役所仕事って、こんなものだろう。
 あたしたちの周りには、十代後半から二十代前半の女の人が、あたしとネッチを含めて二十人ほどいる。腰元の最終選考に残った人たちだろう、美人さんが多い。
「ちょっと、ビビっちゃうね……」
 ネッチが書類の封筒で口を隠して呟いた。
「ネッチも大したもんだって」
 同じようにしてささやき返す。
 こういう状況は、入試の会場で、他の人たちが自分より賢く見えるのと同じで、みんな自分よりもベッピンさんに見える。
 でも、最終結果が出る前に凹んでしまうのはやなんで、なけなしの胸を張る。

「それでは『雲母姫ふぇすた』腰元の最終選考会を始めます」

 実行委員長であるライオンズクラブのオジサンが宣言する。
「まず、ふぇすたにおきまして、雲母姫の大役を務めていただく、雲母二十五代目のお子さんでいらっしゃる雲母きららさんをご紹介いたします」
 会議室奥のドアが開き、市長さんにエスコートされて、雲母きららさんが現れた。

 本物のお姫様が現れるとは思っていなかったのでぶったまげた!

 紅葉色っていうんだろうか、シックなオレンジ系のワンピが良く似合う、多分ハイティーンの女の子。皇族のプリンセスと言っても通用しそうな雰囲気に、腰元候補のみんなの息が漏れた。

「みなさん、こんにちは。この度、雲母姫の大役を仰せつかりました雲母きららです。御初代さまには及びもつきませんが、雲母八万石の名に恥じないようにがんばります。本番の一月までよろしくお願いいたします」

 内親王様のように綺麗なお辞儀をすると、サラサラのロングヘアーが肩を滑る。
 初手から、もう圧倒されてしまった。

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