大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

かの世界この世界:12『ループ』

2020-07-17 06:28:11 | 小説5

かの世界この世界:12

『ループ』              

 

 

 いちど帰宅してから神社に向かう。

 

 巫女神楽は三度目だけど、二度目が終わった時に心の糸が切れているので、形はともかく気持ちが入ってこない。

 日数が無いのですごく集中する。

 バイト同然の巫女仕事に力を入れてもと思う人が居るかもしれないけど、わたしも冴子も、そういう性格だから仕方がない。

 左手に榊、右手に鈴を持って、舞台中央で冴子と交差する。

 シャリン! トン!

 鈴を打ち振ると同時に、右足で床を踏み鳴らし、踏み鳴らした勢いのまま旋回して冴子と向き合う。

 勢いがって平仄も合って、宮司さんも満足そうに微笑んでいる。

 三間(5・4メートル)向こうの冴子、軽く眉間に力が入って、それがとても美しい。

――光子も美しいよ――

 冴子が目の光だけで言っている。

――でも、わたし負けないから――

 そう続いて、さらに冴子の表情を引き締める。後ろではヤックンがお囃子の中でわたしたちを見ている。

 ヤックンに近づいちゃいけない。ヤックンにコクるきっかけを与えちゃいけない。

 その思いだけでお稽古を終わり、サッサと着替えて宮司さんたちに挨拶。

「お先に失礼します」

 ペコンと一礼、

 視界の端で、ヤックンが立ち上がる気配。

 ダメだ、わたしを誘っちゃ!

「一緒に帰ろ!」

 二人の間に冴子が立ち上がる。冴子も信じられないくらい早く支度を済ませている。

 わたしとヤックンを二人っきりにしたくないのだ。

「そうだね、じゃ、鳥居のとこで待ってる」

 二人とも装束を仕舞えていないので、わたしが先に出る。

 

 鳥居の所で待つこと二分ほど、社務所の陰から二人のシルエット。

 陰気なのはいけない、肩の高さまで手を上げてヒラヒラと振る。冴子も明るく返してくる。

「じゃ、いこっか」

「「うん」」

 声が重なって鳥居を出る。ゲームのダンジョンに踏み入ったように緊張する。

 ここから帰宅するまでは、親しい三人の友だちを演じなければならない。

 三人揃ってというのは久々のはずなのに、何度もやっているような徒労感がある。

 

 寺井さん

 

 夜道の斜め前から声が掛かる。

 

「あ、中臣先輩!?」

「こんな時間にごめんなさい、ちょっと部活の事で話があるの。寺井さん借りてもいい?」

「はい、ごめん。二人で帰ってくれる?」

 少し戸惑ったような顔をしたが、うん、じゃね。と二人連れで帰っていく。

 この帰り道のどこかで、冴子がコクればいいのに……そう思うけど、冴子はヤックンがコクルのを待っているんだ。自分からコクルなんて百年待ってもやらないだろう。

 二人が闇に説けるのを待って、先輩が口を開く。

「これで、108回目……」

「え、なにがですか?」

「三人で帰るのが」

「え、えと……話が見えないんですけど」

「ヤックンに告白させないまま三人で帰るのが108回あったの。そして家に帰って玄関を開けると、今日の夕方に戻って、また神社に急ぐ」

「え、そんな?」

「学校を帰ってから、この瞬間までがループしてるの」

「ループ?」

「……うん」

「ヤックンに告白させないために、無意識に時間を巻き戻している」

「もう、旅立たなければ無限ループの闇に落ちてしまうのよ」

 いつの間にか志村先輩も現れて、前を塞ぐように立っている。

「このままでは、光子、あなたが世界の綻びになってしまうわ」

 

 二人の真剣さに、ゾゾッと背中を怖気が走った……。

 

 

 

☆ 主な登場人物

 寺井光子  二年生

 二宮冴子  二年生、不幸な事故で光子に殺される

 中臣美空  三年生、セミロングで『かの世部』部長

 志村時美  三年生、ポニテの『かの世部』副部長 

 

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あたしのあした・56『きららさんに呼ばれる』

2020-07-17 06:13:28 | ノベル2

・56

『きららさんに呼ばれる』        


 市役所から電話がかかってきた

 雲母姫役のきららさんが、わたしに会いたいとおっしゃっているそうだ。


 個人情報にうるさいご時世なので、わざわざ市役所を通して連絡してこられたのだ。

「ごめん、ちょっと家の用事で」

 放課後、遊びに行く約束をしていたネッチに断りを入れるのは心苦しかったけど「他の人には言わないで」と言われている。
 学校の玄関まで市役所の車が迎えに来たのには慌てた。
「アハハ、実は、うちのお母さん、闇の雲母市長なんだよね(´;ω;`)」
 ラノベみたいにぶっ飛んだ言い訳を言う。
「え、あ、そうなんだ」
 ネッチが車に向かって頭を下げる。「え?」と思ったら、セダンの後部座席には、スーツ姿のお母さんが座っているではないか!?
「お、お母さん」
 声がうわずった。
「わたしの横に座って」
 後ろのドアが開いて、わたしはオズオズと収まる。セダンなんて乗り慣れなくて、右足から乗り込んだので、お尻を収めると、スカートが股を開いた状態でめくれ上がる。ネッチが笑って、男子どもの視線が集まるのでテンパってしまう。
「ドア、閉まります」
 運転手さんの注意があって、車は学校の正門を出る。
「お母さ……え?」
 わたしの隣には誰も座っていなかった。
「お母様の話をされましたので、合わせておきました」
「は、はあ……」

 お母さんは3Dのホログラムかなんか? 不思議の、ほんの入り口だった。

 雲母八万石の末裔なので、さぞや立派なお屋敷と思ったら、十二階建てのマンションだった。

「ここからは、恵子さん御一人でお願いいたします」
 車を下りて、正面のステップを上がる。ガラスの自動ドアはロックされているので、墓石のような共有端末のインタホンに向かう。
「あ」
 インタホンに並ぶキーボタンを見て「しまった」と思う。テンキーボタンにになっていて部屋番号を入力しなければ繋がらない仕掛けだ。

――いま開けるわ、エレベーターで十三階に上がって――

 インタホンから声がして、ドアが開いたので、ビクンとしてしまった。
 ⑬のボタンを押した。ズィーンと音がしてエレベーターが上昇する。
 エレベーターの中はドア以外の壁に鏡が貼ってあって落ち着かない。両側は合わせ鏡になっているので、はるか向こうまで何人ものわたしが写っている。見なきゃいいんだけど、ついチラ見。
「エ……?」
 八人目ぐらいのわたしがニッコリ笑って手を振った。目を瞬くと、普通にわたしが写っている。

 ビックリしているうちに十三階に到着。

 えと……でも、十三階の何号室だろう?
 エレベーターを下りて、戸惑う。部屋の番号は聞いていない。

 すると、八つ程あるドアの一つが、ぼんやり光っているのに気付く。
「あれかなあ」
 恐る恐る近づき、その前に立つと、音もなくドアが開いた……。

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