大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

オフステージ・139「笑ってごまかすなあ!」

2020-07-05 16:51:31 | 小説・2

オフステージ(こちら空堀高校演劇部)139

『笑ってごまかすなあ!』小山内啓介 

 

 

 空堀高校は歴史の古い学校だ。

 

 創立は百十年前の明治四十三年。

 日露戦争こそは勝利のうちに終わっていたが、第一次大戦は、まだ四年後の事で、江戸幕府最後の将軍慶喜がまだ生きていた。

 我が大阪もゆったりしたもので、空堀に府立中学を作ることになると、隣接する船場の旦那衆の応援もあり、競馬場ができるんかというくらいの敷地が確保され、現在の府立高校でも一二を争う広さの学校になった。

 学校の敷地でもっとも面積が広いのがグラウンドだ。

 空堀のグラウンドに立つと地平線が見えると近所の学校からは噂される。

 モンゴルの大草原ではないので地平線は見えないが、市内で一番狭いと言われる北浜高校の四倍は優にある。

 その北浜高校の野球部が、我が空堀高校の野球部に合同練習を申し込んできたのだ。

 

 そのことが、野球部のエースである田淵を立腹せしめて、食堂でオレと乱闘騒ぎを起こす原因になった。

 

「よう分からんなあ、なんで、合同練習申し込まれると田淵の機嫌が悪くなるねん?」

 とりあえず田淵に謝らせようとする川島さんを制して質問した。訳も分からずに謝られても気持ちが悪いだけだ。

「えと……北浜って、校舎の建て替え工事でグラウンドが半分しか使えないのよ。うちは、府立高校でも有数の広さでしょ」

「うん…………あ、そうか!」

 ピンときた。

 合同練習は名目で、北浜はうちのグラウンドを使いたいだけなんだ。うちなら、甲子園球場と同じスケールで練習ができる。

「小山内君も、元野球部だから分かるでしょ」

 そうなんだ、中学野球じゃ、オレはそこそこのエースだった。肩を壊したので止めちまったがな。

 北浜と空堀じゃ月とスッポンだ、合同練習やっても、北浜にとって空堀は足手まといになるだけだ。

「そうなんや、合同練習とは聞こえはええけど、オレらは北浜の球拾いになってしまうんや。あいつらも、それ知ってて言うてきとるんや」

「田淵、おまえが食堂の列に割り込んできたのは間違うてるけど、おまえがムカつく理由は分かるぞ」

「それでね、北浜の監督と相談したのよ」

 川島さんの可愛らしいω口が微妙にゆがんだ。この人は単に可愛らしいだけのマスコットマネージャーとは違うみたいやなあ……。

「京橋高校が、うちと似た規模じゃない?」

 ああ、たしかに京橋も空堀の八割くらいの広さがある。

「あそこなら、京阪電車で駅三つだし」

 確かに、地下鉄乗り換えでうちに来るよりは近い。

「それでね、せっかく名門北浜と合同練習できるなら、第一に、より近い学校であること。第二に、合同練習して、いちばん利益のある学校だと提案したの」

「え? 近いはともかく、利益があるとは?」

「北浜と合同練習やって、より利益がある方」

「利益……よう分からへん?」

「つまり、京橋と空堀で試合をして負けた方が合同練習するってことにしたのよ。下手な方が伸びしろが大きいでしょ?」

「あ……うん、せやけど、球拾いに伸びしろもないやろ。あ、すまん、気に障ったらかんにんな」

 田淵の顔が赤くなるので、ちょっとフォロー。

「いや、小山内の言う通りや」

「まあ、うちで引き受けたくないから。ま、苦肉の策なのよ」

「まあ、ほんなら京橋との試合次第やねんなあ」

「うん、そう。そこで、小山内君にピンチヒッターに立ってもらいたいわけなのよ」

「あ、そう……って、なんやのん、それは!?」

「アハハハ」

 あ、ちょ、笑ってごまかすなあ!

 

 

 

 

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あたしのあした・44『秘書の本分』

2020-07-05 06:19:26 | ノベル2

・44
『秘書の本分』
      


 

 議員秘書と言うのは汚れ役だ。

 それも、親子二代で務めていれば、政界だけではなく地域や各種業界、社会の表も裏も知り尽くして渡り歩くもので、少々のことには動じない。脳腫瘍になって余命いくばくであってもジタバタしない。議員である春風さやかの周りをきれいにして、汚いことは全て秘書であるわたしがやったことで説明がつくようにしておいた。
 いよいよ死期が迫って来たと自覚した時でも、特急電車に飛び込んで自殺しようとしていた田中恵子という女子高生を助けた。どうせ間もなく終わる命だ、百に一つでも可能性があるならと、昔やりこんだラグビーの勘だけを頼りに特急電車の前に飛び込んだ。
 そして運よく田中恵子を助けられた。
 しかし尽きかけた命の悲しさ、わたしの魂は十七歳の少女の魂に取り込まれてしまった。

 そのことはいい。

 わたしの知識やアビリティーが少女が立ち直る糧になるのなら本望だ。
 二人の魂の相性はいいようで、田中恵子は劇的に回復し、自分をイジメていた十二人のクラスメートを素敵な仲間に変えてしまった。
 わたしは少女に完全に取り込まれ、肉体の終焉とともに魂も消滅するはずだった。

 だが、二世議員の奢りから春風さやかは身を滅ぼそうとしていた。
 なんとかしてやらなければ死にきれない、いや、消滅しきれない。

 秘書の本分を果たさねば。

 わたしは、田中恵子に頼み、春風さやかを立ち直らせるまでは、この恵子の身体を使わせてもらうことにした!

「恵子、なに思い詰めた顔してんのよ」
「そーだそーだ」
 智満子とネッチが泳いで、わたしの横に並んだ。
「え、あ、いや(^_^;)」
 温泉の温もりではない温かさを両側に感じてドギマギしてしまう。
「ね、あたしの胸おっきくなったと思わない?」
 智満子が胸を見せつける。
「あ、そだね」
 まともには見られない。
「ふーん、言われてみれば……ってとこかな」
 わたしを挟んで、ネッチが智満子の胸を覗き込む。
「やっぱ、水泳の補講が効いたのかなあ?」
「かもね、ね、ベッキー、ちょっと立ってみてよ!」
「ハーイ(^O^)/」
 ベッキーが湯船の浅いところで立ち上がる。女同士だから前さえ隠そうとしない。
「「オーー」」
「やっぱ、ベッキー、スタイル良くなったよ!」
「でしょでしょ! ウエスト三センチ細くなった!」
「あたしも、わき腹のとこ!」
「あたし、お尻がかっこよくなったし!」
「あたし、太ももの内っかわ!」
 みんな立ち上がって、ナイスバディーの見せあいになった。
「人生たまには一生懸命やってみるもんね、ね、恵子?」
「あ、恵子ユダってしまってる!?」
「ちょっと、恵子!」

 わたしは生まれたままの姿で助け上げられ、脱衣場の腰掛に寝かされスッポンポンのみんなから介抱された。

「……うん、もう大丈夫」
 ネッチに支えられて上半身を起こす。
「ウ…………」
 今度は鼻血がでてきてしまった。

 雲母ホテルの新装温泉は、わたしを除いて快適な思い出になったようだ。
 

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プレリュード・20《13日の金曜日》

2020-07-05 06:05:28 | 小説3

プレリュード・20
《13日の金曜日》     



 

 撮影は今日から始まる。3月13日の金曜から……。

 別に昨日の12日から始まってもよかったんだけど、なぜかスケジュールは今日からだ。
 別にジェイソンは出てこないけど、13日の金曜日に始めなくてもねえ……というのが最初の感想。

「やあ、今年から宝塚の募集中止やて!」

 新聞を見ながら、富久子役の朱里が言う。場所は、中之島の設定。
 二人はは架空の堂島女学校の生徒の役で、放課後中之島公園を歩いていて、落ちてた新聞を見てため息をつく。
「え、トクちゃん、宝塚いくつもりやったん!?」
「まあな。ま、思てるだけで、お父ちゃんらが許してくれるわけもないけどな」
「ハハ、船場のコイチャン(商家の下の娘の意味)が、受けられるわけも無しやな。うちらも新学期からは勤労奉仕で、ろくに学校いかれへんようになるらしいよ」
「ええやんか、勉強せんでも済むんやさかい」
「もう、不心得もんの非国民!」
「そんなハナちゃんみたいに力んどったら耐えられへんで。せめて中之島の梅の花でも楽しもうや!」

 と、満開の梅の花がある設定。中之島公園は今と戦時中とでは様子が違うんで、CGのはめ込み画面になる。

「せやな、お母ちゃんが言うてたけど、中之島公園もじきに芋畑になるやろうて」
「もう、夢壊すなあ。せっかくのロマンチックが、ワヤやわ。梅がみんなお芋さんに見えてくるやんか!」
「ハハ、それはすんません。せやけど、これが現実やさかいね」

 ここで、ローレライを歌う。調子にのって原曲で。で、憲兵のオッサンに怒られる……とこは、午後から中之島公園の当時とかわらへん、とこを見つくろって、ロケになる。

「カット、OK!」と監督。

「じゃ、昼まで休憩でーす。お弁当は楽屋です。一時にはロケバス乗ります。よろしく!」
 今のシーンは一発でOKが出たんでホッとした。とたんに朱里が胸を鷲掴みにしてきた。
「な、なにすんのよ!?」
「今日はブラ外してんのね。奈菜ってノーブラでも、けっこうあるんだ」
「年相応です。朱里こそ、ちょっと痩せたんじゃない?」
「今ごろ気が付いた? 戦時中のドラマだから、三キロ落としたんだよ」
「そのせい、ロケ弁、ちょっと少ない……」
「アハハ、これがプロじゃ。覚悟いたせ!」
 朱里は、刀で切るふりをした。
「ウー、やられたあ!」
 と、合わせる。
「大阪の子って、ほんとうに、そういう反応するんだ。県民ショーでやってたけど、感動! もっかいやろ!」
「もう、イチビってないで、お弁当にしよ」
 朱里は、さすがにプロ。休憩中も自然にテンションを維持してる。

 ロケ地の中之島に行くと、準備の間に主だったスタッフとキャストで名うてのローカルバラエティーの記者会見を受けることになった。

「監督、なんでまた13日の金曜日に撮影再開なんですか?」
「3月の13日というのは、大阪大空襲の初日だったんですよ。水曜日でしたけどね。で、それに合わせて、この日にしました。76年前の午後11時、最初の大空襲が始まったんです」
「なるほど」
 MCのニイチャン感心しきり。
 実際は、スタッフ・キャストの関係で、この日にせざるをえなかったらしい。この業界、転んでもただでは起きません。

 見学の中に貫ちゃんが混じってるのが分かった。連絡したのは直美と貫ちゃんだけ。あとでサインしてやろっかなあ🎵

 そう楽しみにしてたら、貫ちゃんは、朱里にサインしてもろていた。プンプン! あたしには、やっぱり13日の金曜だった!

           奈菜……♡ 

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