大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記 序・11『威力偵察』

2020-07-25 10:42:08 | 小説4

序・11『威力偵察』    

 

 

 

 壮大なハッタリだ。

 

 たった一万の兵で十万の漢明兵が籠る奉天を包囲しているのだ。

 パルス系観測機器が使えないとは言え、敵は、ほぼ正確に我が方の勢力を把握しているだろう。JQ風に表現するなら厚さ一ミリ、超薄皮のシュークリームだからな。

「いえ、0.1ミリです」

「そ、そうか(^_^;)」

 敵もバカではないから、俺の癖や日本軍の戦歴を熟知している。

 おそらく、三百年前、日本軍が奉天に籠ったロシア軍に対し日本軍が行った『奉天包囲戦』意識するだろう。日本軍はロシアの半分に満たない勢力でロシア軍を包囲した。

 包囲戦は敵の三倍の兵力が無くてはできないのが常識だ。ロシアのクロパトキンは、その常識に囚われ、果敢に戦うことなく破れてしまった。

 二十三世紀の今日は日露戦争ではない。パルス系の兵器や観測機器が使えないからと言っても、敵の情報は、ほぼ筒抜けだ。99%は彼我共に情報を掴んでいる。

 だが、残りの1%に敵は不安をいだく。児玉が包囲したのは勝算があるに違いない、勝算が無ければ、こんな無謀なことはやらないはずだとな。クロパトキンのことは知っているはずだが、日露戦争三百年後の今日、日本軍がやるとは思わない。壮大な伏兵があるとか、日本本土からの奇襲がある、あるいは、奉天市民の中にスリーパーが居て、体内に戦術核を仕込んでいてゲリラ的な攻撃に出てくるとか。恐怖の想像力はマンチュリアの草原よりも広くなっているに違いない。

 実はなにもない。

 敵の妄想を広げておけば、ひょっとしたら活路が開けるかもしれない。栄えある日本軍としてみっともないことは出来ない。その二点だけで、日本軍史上最大のハッタリをかましているにすぎないのだ。

「敵に威力偵察の様子あり!」

 斥候の報告が上がってきた。

「規模は?」

「一個旅団、七千ほど」

 威力偵察だけで日本軍の全勢力に匹敵する。

「後退しつつ応射!」

 まともにぶつかるわけにはいかない、一個旅団相手にアクロバットをやるしかない。

「一個大隊だけ付いてこい! 敵をかき回す!」

「やっぱり、わたしがウマ?」

「すまん、指揮官先頭が日本軍の伝統だからな」

 不足顔のJQに肩車をさせる。時速100キロは出るR兵部隊を人間の足では指揮できない。

「死ぬかもしれないわよ」

「敵もパルス系の兵器が使えない、そうそう命中はしない」

 パルス系が使えないということは、戦闘にしろ通信にしろ三百年前に戻ったのも同然で、赤外線照準もできない。全てがアナログに戻ってしまうのだ。

「吶喊(とっかん)!」

 号令をかけると、やっと千名の大隊を率いて突撃。

 JQは、マッハの速度で飛んでくる銃砲弾を避けながら進んでくれる。どうやら横須賀に記念艦展示されている『こんごう』のイージスシステムほどの能力がありそうだ。

 しかし、俺は調子に乗り過ぎていたのかもしれない。

 ビシ!

 JQの処理能力を超えた一発の弾丸がビンタのような音をさせて俺のアーマーを貫いてしまった。

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かの世界この世界:20『みっちゃん飛んで!』

2020-07-25 06:17:24 | 小説5

かの世界この世界:20     

『みっちゃん飛んで!』  

 

 

 あ………

 

 そう言ったきり中臣先輩は息をのんだ。

 ロンゲのお姫様カットで眉が隠れているのでとことんの表情は読めない。

 中臣先輩は表情の核心を眉に表す人なんだ。

 眉を見せてください……とも言えずに志村先輩を見る。キリリとしたポーカーフェイスで、さっきまでの陽気さが無い。

 消極的だけど、次の任務が大変なことを物語っている。

 

 モニターには、どこにでもある一軒家が映っている。

 

 二階建てで、カーポートと十坪ほどの庭が付いている。

 ラノベの主人公が住んでいそうな中産階級の見本のような家。今にもトーストを咥えた女子高生が飛び出してきそうな雰囲気だ。そして、最初の角を曲がったところで男の子とぶつかって――なんて失礼な奴!――お互いに思う。そして学校に着いたら、そいつが転校生でビックリして、そこからお話が始まるとか……。

「ミッチャンの思った通りよ、しばらくしたら誰かが飛び出してきて、角を曲がったところでミッチャンがぶつかるの」

「そんなラブコメみたいな任務なんですか?」

「ラブコメではないと思う。でも、そういうフラグが立っているのは分かる」

「そう、フラグなのよ……」

 志村先輩がマウスを操作すると、カメラが引きになりながら上昇……通り二つ向こうに学校が見えてくる。

「この学校が舞台なんですか?」

「これは小学校……見て、屋上の……」

「あ」

 それは、前の任務でも見た『白の丸』だ。

「この『白の丸』を『日の丸』に戻さなきゃクリアにはならないと思う」

「でも、それは、このステージの任務ではないと思うのよ」

「チュートリアルに毛の生えたような任務だと思う。白の丸に関わるのは、まだ先」

「初期設定は……HP50 MP50」

「時間が迫ってる。時子、ダブルクリックして」

「うん」

 中臣先輩がカチカチとクリックすると、ドアからトースト咥えて飛び出してきたショートヘアーの女の子……外股だ……え、女装男子!?

「時間よ、みっちゃん飛んで!」

「は、はい!」

 一瞬でホワイトアウトして、再び次元の狭間に投げ出されるわたしだった…… 

 

 

☆ 主な登場人物

  寺井光子  二年生

  二宮冴子  二年生、不幸な事故で光子に殺される

  中臣美空  三年生、セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生、ポニテの『かの世部』副部長 

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あたしのあした・64『残り福の雲母戎』

2020-07-25 06:04:13 | ノベル2

・64
『残り福の雲母戎』    



 久々にお仲間が揃った。

 ボスの智満子以下、ねっち、ノンコ、ノエ、ベッキー、ミャー、マサミ、そしてあたし。
 ちょうど雲母戎神社の残り福、智満子が――いっちょ盛大にやろうぜ!――のメールを打ってきて、急なことだったんだけど、なんとみんなの都合がピッタリ合って、八人打ち揃っての残り福とあいなった!
「こういうコスの合わせ方もあったんだねーー!」
 最初はグズっていたベッキーも、神社に向かうオーディエンスやらモブのみなさんから好意的に注目されるとゴキゲンになってきた。

 あたしたちは、学校の制服をバッチリ決めてお参りに行ったのだった。

「完璧を期したいから、これ支給」

 智満子は全員にお揃いのハイソと手袋を支給していた。
 制服というのは、ほんの一部が違っても目立つものだ。ソックスとか手袋とか靴とか。靴は学校指定のローファーなので、ソックスと手袋を揃えたというワケ。高校というのは軍隊じゃないんだから、制服といっても、そういう細部が微妙に違う。そういう微妙に違う高校生を世間の人は見慣れているので、完璧にやると、わずかなことなんだけど、とても新鮮に見えるものなんだね。

 智満子えらい!

 そう思ったんだけど、智満子には、もう一つ狙いがある、ま、それは後ほど。

「みんなジャージは持ってきたよね?」
「ハーイ!」
 とお返事。この訳も後ほど。

「あら、あなたたちもお参り!?」
「「「「「「「「「?」」」」」」」」」
 注目を浴びていて緊張していたんだろう、九人とも気が付かなかった。
 わが担任の萌恵ちゃん先生が数人の先生と笹やら熊手を持ちながら歩いている。
「はい、みんなでお参りすれば御利益もひとしおだろうと思いまして」
 智満子がコスに合わせたお嬢様言葉で応える。
「なんだか、おまえら雰囲気が違うなあ」
 生指部長の水野先生がいぶかし気に言う。服装の違反には目ざとい先生だけど、きちんとした着こなしには観察力が着いてこないようで可笑しい。
 先生たちと別れた後、いよいよ鳥居をくぐってお参りだ。

「まず手水所(ちょうずや)だよ」

 いつも人の後ろでアワアワしているベッキーが率先する。巫女のアルバイトで覚えたことが役にたって、ちょっぴり自信が出てきたようだ。
 あたしも手伝って作法通り左手から右手、そして口を漱いで拝殿に並ぶ。
 まずは、あたしとベッキーがお参りして見本を示す。
 鈴を振ってお賽銭、二礼二拍手一礼、お願い事をして後ろと替わる。
 九人のトラッドな制服姿は新鮮なようで、見物やらお参りに来ていた外人さんたちが何枚も写真を撮ってくれた。

「じゃ、縁起物買いに行きますわよ」

 智満子がお嬢様のノリでみんなを引率。なんだか智満子の緊張はマックスぎみだ。どうして?
 原因はすぐに分かった。
 お札販売所に並んだ福娘、その中でひときわ美しく輝いていたのが、なんとお姉さんの瑠衣子さんだったではないか!
「あら、いらっしゃい、こっちこっち!」
 目ざとく、あたしたちを見つけて手を招き猫にした。
「みんなにお揃いのお守りを、それと熊手の竹をくださいませ」
 ばっちり笑顔を決めてお姉さんの福娘にご注文。
「フフ、わたしの負けだわ。智満子たち、とても素敵よ」
 後ろからでも智満子がホッとしたのが分かって可笑しい。

「そうか、智満子、お姉さんと張り合ってたんだ」

 帰り道、人ごみの中、押されて横に付いたのをいいことに、智満子の耳元で囁いた。
「少しはね……でも、ほんとの狙いは、これからよ」
 で、あたしたちは、智満子の家に向かった。
 智満子が不登校のときにお邪魔して以来なんだけど、やっぱスゴイ!
 さすがは『雲母の不動産王』の家だ。小さな小学校程の敷地に老舗ホテルのような三階建て。
 八人の中には初めて来たという子も居て、目を回している。

 実は、お参りのあと、みんなでお泊り会をすることになっていたのだ。

 女の子のお泊りというのは荷物が大変。で、荷物のほとんどは着替えとお泊りセット。
 そこで智満子は考えた。あくる日は普通に学校もあることだし、いっそ制服のまんまがいい。雲母戎のお参りに団体の制服姿なら目立つし、一石二鳥。智満子はお姉さんと賭けていたようで、その勝負もクリアーできる。
 夜はジャージでお気楽に、で、朝は、そのまま制服に戻って学校に行けば楽勝この上ない。
「明日、学校へはギャラクシースペシャル出してもらえるからね」
 憶えてるかしら、滋賀県のタヒチアンダンス大会にみんなで行ったときに乗せてもらった横田地所ご自慢のデラックスキャンピングトレーラー! あれにまた乗れるんだ!

 食事とお風呂が終わって間もないころ、みんなのスマホに同じメールが入った。
 学校からの一斉緊急メールだ!

 その内容は驚くべきものだった。

――学校に爆発物が仕掛けたという知らせがありました。点検と捜査のため、明日は臨時休校といたします――

 ええーーーー!? 
 

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