大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・159『新入部員・2』

2020-07-24 12:53:47 | ノベル

せやさかい・159

『新入部員・2』さくら        

 

 

 夏目銀之助の出で立ちは学校案内の『制服見本』で出てきそうなくらいに隙が無い。

 

 一年生も七月になったら、ちょっとずつ制服の乱れは出てくる。

 シャツを出したり、第一ボタンを外したりネクタイやリボンをルーズにしたり、微妙にミニスカートにした腰パンにしてみたり。

 よくあるのは指定以外のカッターシャツを着てくるというもの。

 指定と言ってもエンブレムが入っているわけでもなく、特殊な仕様でもない。

 襟と二の腕の所に小さく白い校章がプリントしてある。

 白のカッターシャツに白のプリントなので、よっぽど注意して見ないと分からないもので、それ以外は市販のカッターシャツと同じなので、学校もカッターシャツをうるさく言うことは無い。

 それを、夏目銀之助は寸分の狂いもなく着てくる。

 むろん夏なんで、半袖のカッターシャツ。

 昨日の部活はエアコンの調子が悪かったんで扇風機二台を回してしのいでいた。

「暑かったらネクタイとかも外してええねんよ、学校の部室とちゃうねんから」

 学校でも、この暑さやったらネクタイは免除される。登下校の時はネクタイしてんと怒られるんやけどね。

「いいのです、ネクタイ込みで制服ですから」

「いや、オデコに汗がにじんでるし」

「あ、失礼します」

 ポケットからハンカチを出して汗を拭く、いや、貴人の振舞いみたいにハンカチで押さえるだけ。学習院の生徒が汗かいても、もうちょっと大胆に拭くと思うよ。

「男子は暑ければネクタイを免除されますけど、女子はリボン外すのは認められていないでしょ?」

「女子はセーラー服だもん」

 留美ちゃんが正論を言う。

 セーラー服にとってのリボンは服の一部で、外してしまうと不良というかヤンチャに見えてしまう。アニメとかだったらリボンなしの女子は、ちょっとアウトローな性格付けになってる。

「それにセーラーは、裾も胸元もパカパカだから、男子よりも涼しいのよ」

「うん、どんどん涼しくしてくれてええねんよ」

 遠慮をしてると可愛そうやし、ちょっと度を越えたように思える男女平等をからかいたい気持ちもあったし、留美ちゃんの尻馬に乗ってしまう。

「あ、それじゃお言葉に甘えて……」

 ゴリゴリの思い込みではないらしく、夏目銀之助はネクタイを外し始めた。

 あ……。

 留美ちゃんといっしょに、思わず息をのんだ。

 

 ちょっと待って!

 

 小窓の頼子さんがストップをかける。

 実は、部活の様子をスカイプで頼子さんに伝えているところ。

 文芸部らしく、説明の部分はキーボードを叩いて文章で書いてる。書き終わるまでは口を出さないルールやねんけど、頼子さんはルールを破って直に声を出したというわけ。

「当てるから、答え言っちゃだめよ」

「あ、はい。そやけど三回までですよ」

「うんうん……えと、ネクタイ外すとろくろっ首!」

「ちゃいます」

「首の後ろに電脳へのコネクターがある!」

「攻殻機動隊とちゃいます」

「じゃ……」

「正解を言います」

「まだ二回しか言ってない!」

「真面目な答えが返って来そうにありませんから」

「もう」

 と言いながら、素直に答えを聞こうと言う姿勢の頼子さん。

「実はね……普通のネクタイやったんですよ!」

「え、普通のネクタイ!?」

 ありえへん答えに、画面の頼子さんは一瞬フリーズした。

 

 頼子さんは、なんでフリーズしたんでしょうか?

 その答えは……こうご期待!

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かの世界この世界:19『新しい任務が表示された』

2020-07-24 05:40:35 | 小説5

かの世界この世界:19     

『新しい任務が表示された』  

 

 

 白い闇の真ん中がドーナツ状に凝縮していき、二呼吸するうちにUFOのような発行体になり、拉致されるのかと思ったらリング状の蛍光灯だと合点がいく。

 どこかで見たような……考えていると霧が晴れるように白い闇が消えていき、部室の天井だと分かる。

 分かると同時に背中に引力を感じる。

 何のことは無い、見えているのが天井ならば背中は床だ。床方向に引力があるのはあたりまえ。

 どうも、わたしの感覚は視覚的なようだ。

 

 気が付いた?

 

 ギクッとした。

 視界の左に志村先輩の心配顔。

 ホッと吐息。

 右側に中臣先輩。

 

 突然見えたみたいだけど、さっきから居たんだろう。私の感覚は聴覚的?

 

「大変だったわね」

「そっと起きるのよ」

「あ、はい……あ」

 上半身を起こすと部室がグラ~っと回って、わたしはカエルを潰したように腹這いになった。めちゃくちゃ気持ちが悪い。

 体中の穴から寺井光子の実体が溶けだしてクラゲかバクテリアになってしまいそう。

 

 ソロリと先輩の優しい手で上向きにされる……すると中臣先輩の顔がズ~ンと寄って来た。

 どうやら抱き起されている……先輩の美しい顔はさらに寄って来る。先輩のロンゲがハラリと頬に掛かった。

 ア……

 わたしの口が先輩の唇で覆われてしまった。

 生まれて初めてのキスが先輩……すると口移しに爽やかなものが流し込まれ、ビックリしたけど不快じゃない。

 爽やかなものは、瞬くうちに全身に漲って平衡感覚が戻って来た。

「初めてだから次元酔いしたのよ」

「次元酔い?」

「口移しにしてごめんね」

「わたしの方が良かった?」

「茶化しちゃダメよ美空」

「ハハ、まあ、この次は自分で飲みなよ、このドリンクだから。冷蔵庫に冷やしてあるから、あとでもう一本くらい飲んどくといいよ」

「は、はい。ありがとうございました中臣先輩」

「よかった無事に戻ってきて……あれを見て」

 

 先輩が指したモニターを見ると、映っている三本の柱の右端のが青みを増している。ようく見ると、柱は無数の小部屋と言うか細胞というかで出来ていて、その半分ほどが青くなっている。残りは赤や、どっちつかずの白。見ようによっては無数のフランス国旗が埋め込まれているように見える。

「ミッチャンのお蔭よ」

「わたしですか?」

「うん、光子がミカドの窓際に座ったんで、あの学生と営業見習い風の女は出会わずに済んだ」

「あ、あの二人……」

「二人が出会うと、二年後には結婚して子供が生まれるの」

「男の子なんだけど、五十年後に総理大臣になるんだ」

「そして国策を誤って、日本どころか世界をメチャクチャにするの」

「メチャクチャに?」

「うん、でも生まれないことになったから、多分大丈夫」

「あの青いところが安全になった世界なんですね」

「そう、青が安全。赤は滅亡、白は一進一退というところ」

「真ん中のひと際明るい青がね、ミッチャンが修正したところ」

「あ、でも……」

 

 思い出した。わたしと出会ったことで三十年前のお母さんは死んでしまうんだ。

 

「そうなんだ。危機は回避したけど光子は生まれない世界になってしまった」

「それで戻ってきたんですか?」

「まあ……でも、あの世界は大丈夫だから」

 自分が生まれない世界と言うのは釈然としないが、母親の事故死を防げなかったという衝撃は小さくなった。

 だって、他の世界、真ん中と左側の柱には、母が生きていて、当然わたしも生まれている世界がたくさん残っているのだ。

「そして、ミッチャンが冴ちゃんに殺されない世界も、まだ現れていない」

「それって……」

「もうひと頑張りしなくっちゃ……」

 志村先輩がノーパソを操作すると、モニターに新しい任務が表示された。

 

☆ 主な登場人物

  寺井光子  二年生

  二宮冴子  二年生、不幸な事故で光子に殺される

  中臣美空  三年生、セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生、ポニテの『かの世部』副部長 

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あたしのあした・63『しめ縄と七草粥』

2020-07-24 05:22:42 | ノベル2

・63
『しめ縄と七草粥』    




 例年なら8日なんだけど、今年は10日だ。

 ……て、始業式のこと。
 7日から三連休なので二日の儲け。
 ま、ピンときて喜んでいるのは小中高生よね。

 バイトも終わって懐も温かいので、ネッチにメールして遊びに行くことにした。

 家を出る前は戸締りやガスの元栓などをチェック。お母さんがボンヤリ屋さんなので、しっかり者の娘が代わりにやる。
 不登校していたころは、こんなチェックはしなかったので、ささいなことなんだけど嬉しい。
 
 しかし、我ながら念がいっている。

 窓やベランダの施錠はともかく、パソコンのメール着信やら電話の着信チェックまでやってしまって苦笑する。
 これは、わたしの中に潜んでいる風間寛一というオジサンの為せる技なのかもしれない。

――よし、では出発するとしようか!――

 玄関ドアを閉めて施錠を指さし確認「よし!」
 視野の隅に入ったしめ縄が気になる。
 もう七日、連休明けにはゴミの収集。こういうものは気づいた時に処理しておかないと、月の終わりまで掛けっぱなしということになりかねない。
 でも、もう少し正月気分でいたいというのが正直なところ。
 ま、いっか。ため息一つついて回れ右。階段を下りかけてスマホが鳴る。

――ごめん 初釜の後始末で出られなくなった ほんと(。-人-。) ゴメンネ――

 ネッチからのメール。
 ネッチの家はお茶屋さんで、かつ関根流茶道の教室もやっている。家業とあっては仕方ない。
 気合いの入った正月ルックのオメカシが、我ながら疎ましくなってくる。
 玄関のしめ縄を外して家に戻る。
 鏡に映った顔は寂しそうだ、ちょっぴり施したメイクが出番を失ったピエロみたいだ。

 だめだ、前向きの恵子にならなきゃ!

 思うんだけど、身体はソフアーの上でマグロ状態。

 プルルル~~プルルル~

 珍しくお家電話が鳴った。
「はい、田中です……」

 電話の相手と話し終わると、バッグを掴んで玄関を飛び出す。
「おっと」
 階段のところでタタラを踏んで、再び玄関へ。
「これでよし!」
 しめ縄を掛け直すと、二段飛ばしで階段を下りて駅を目指した!

「ハハハ、まるでキャンセルされたデートが復活したみたいね」

 電話の主が目の前で笑う。

 わたしは、我が主君である雲母きららさんのマンションに来ているのだ。
「あ、まだまだお正月って言われて嬉しくなっちゃって」
「ま、そこ座って」
 和室のやぐら炬燵に誘われる。こたつの上にはなにやら土鍋がグツグツ。
「まずは縁起物から」
 蓋がとられると、それは七草粥だった。

 せり なずな ごぎょう はこべら ほとけのざ すずな すずしろ

 きららさんは、ていねいに教えてくださった。
 お粥なので、味はどうかな~と思ったんだけど、さすが雲母姫、雲母七万石伝統の味を引き継いでおられました。
「雲母神社で巫女さんのバイトしてたんですけど……」
 こないだまでやっていた巫女さんバイトでの不思議を話した。
「七人の高校生って……女子が一人だったのよね?」
「ええ、で、みんな手に手に楽器を持っていました」
「それって七福神だわよ!」
「七福神?」
「宇受賣命さんも喜んで踊っていたんでしょ?」
「ええ、なんちゅーか十八禁の踊りだったですけど」
「それって、雲母の街が豊かになるってお知らせよ。恵ちゃんが持ち上げたお札って、雲母の運を封じ込めていたんだと思うわよ」
「そうなんですか!?」
「恵ちゃんは、神さまに選ばれたのね……」
「そうなんですか!?」
 嬉しくなってきた。

「でもね、その分、試練も引き受けてしまったような気もするわ……」

 きららさんの目が、なんだか嗜虐的になってきた……。
 

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