せやさかい・159
夏目銀之助の出で立ちは学校案内の『制服見本』で出てきそうなくらいに隙が無い。
一年生も七月になったら、ちょっとずつ制服の乱れは出てくる。
シャツを出したり、第一ボタンを外したりネクタイやリボンをルーズにしたり、微妙にミニスカートにした腰パンにしてみたり。
よくあるのは指定以外のカッターシャツを着てくるというもの。
指定と言ってもエンブレムが入っているわけでもなく、特殊な仕様でもない。
襟と二の腕の所に小さく白い校章がプリントしてある。
白のカッターシャツに白のプリントなので、よっぽど注意して見ないと分からないもので、それ以外は市販のカッターシャツと同じなので、学校もカッターシャツをうるさく言うことは無い。
それを、夏目銀之助は寸分の狂いもなく着てくる。
むろん夏なんで、半袖のカッターシャツ。
昨日の部活はエアコンの調子が悪かったんで扇風機二台を回してしのいでいた。
「暑かったらネクタイとかも外してええねんよ、学校の部室とちゃうねんから」
学校でも、この暑さやったらネクタイは免除される。登下校の時はネクタイしてんと怒られるんやけどね。
「いいのです、ネクタイ込みで制服ですから」
「いや、オデコに汗がにじんでるし」
「あ、失礼します」
ポケットからハンカチを出して汗を拭く、いや、貴人の振舞いみたいにハンカチで押さえるだけ。学習院の生徒が汗かいても、もうちょっと大胆に拭くと思うよ。
「男子は暑ければネクタイを免除されますけど、女子はリボン外すのは認められていないでしょ?」
「女子はセーラー服だもん」
留美ちゃんが正論を言う。
セーラー服にとってのリボンは服の一部で、外してしまうと不良というかヤンチャに見えてしまう。アニメとかだったらリボンなしの女子は、ちょっとアウトローな性格付けになってる。
「それにセーラーは、裾も胸元もパカパカだから、男子よりも涼しいのよ」
「うん、どんどん涼しくしてくれてええねんよ」
遠慮をしてると可愛そうやし、ちょっと度を越えたように思える男女平等をからかいたい気持ちもあったし、留美ちゃんの尻馬に乗ってしまう。
「あ、それじゃお言葉に甘えて……」
ゴリゴリの思い込みではないらしく、夏目銀之助はネクタイを外し始めた。
あ……。
留美ちゃんといっしょに、思わず息をのんだ。
ちょっと待って!
小窓の頼子さんがストップをかける。
実は、部活の様子をスカイプで頼子さんに伝えているところ。
文芸部らしく、説明の部分はキーボードを叩いて文章で書いてる。書き終わるまでは口を出さないルールやねんけど、頼子さんはルールを破って直に声を出したというわけ。
「当てるから、答え言っちゃだめよ」
「あ、はい。そやけど三回までですよ」
「うんうん……えと、ネクタイ外すとろくろっ首!」
「ちゃいます」
「首の後ろに電脳へのコネクターがある!」
「攻殻機動隊とちゃいます」
「じゃ……」
「正解を言います」
「まだ二回しか言ってない!」
「真面目な答えが返って来そうにありませんから」
「もう」
と言いながら、素直に答えを聞こうと言う姿勢の頼子さん。
「実はね……普通のネクタイやったんですよ!」
「え、普通のネクタイ!?」
ありえへん答えに、画面の頼子さんは一瞬フリーズした。
頼子さんは、なんでフリーズしたんでしょうか?
その答えは……こうご期待!