大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

かの世界この世界:23『8時58分 わたしのリアル』

2020-07-28 07:13:32 | 小説5

かの世界この世界:23     

『8時58分 わたしのリアル』  

 

 

 

 もう屋上から飛ぶしかないかも……

 

 学校中を捜してもピッタリの鍵穴は見つからず、昇降口の階段でヘタってしまう。

 ヘタってしまうと、さっきまでの勢いはどこかに行ってしまって、わたしの呟きにギクッとする健人。

「もう飛ぶ気も無くなったんでしょ?」

「ん、んなことねー」

 熱しやすく冷めやすい健人、これ以上言うと、このまま家に帰って布団をかぶってしまいそう。

 まあ、互いに呼吸が整えてからだと口をつぐむ。

 

 無人の昇降口に、せわしない二人のブレスだけが際立つ。

 ダイブは、三年に一度、学校で七人だけが許される。

 

 この世界は、わたしが寺井光子として存在していた世界に酷似しているが、根本のところが違う。

 この世界は対応する異世界と対になっていて、異世界が混乱すると、その影響がモロに出る。

 想定外の事故や災害は、異世界の混乱に原因がある。

 想定外の事故や災害の数カ月後に、選ばれた学校に白羽の矢が立つ。

 矢が立つと言っても、本物の矢が飛んでくるわけではない。

 生徒のスマホや携帯にメールの形でやってくる。選ばれた生徒はメールに指示された相手に応諾を伝えたうえで創立記念の日にダイブする。

 応諾を伝える相手は、年によって変わる。

 校長である場合、特定の生徒である場合、先生の誰かである場合もあれば、特定のクラスの掃除用具入れである場合もあり、トイレの便器であったり校庭の桜の木であったりもする。

 ダイブし、異世界で成果を上げれば、成果の出来に従って、こちらの世界の災いが軽減される。

 そして成果を上げたダイバーも、成果に応じた報酬を受けられる……とされている。

 

 されている……というのは、こちらに戻った時には、なにが報酬であったかを忘れるからだ。

 

 健人はスマホのメールに気づくのが遅れた。

――有効期限が切れました。ダイブは六人で行われますが、どうしても参加したい場合は六人の同意を得るか屋上から命を懸けてダイブするか、いずれかの方法でも可能です。その場合でも、リミットは創立記念日の午前九時までとします。あなたの報告相手は幼なじみの小早川照姫です――

 健人は六人に頼み込んだが、ダイブの朝、女装して来ることを条件にされてしまったのだ。

 そして、この昇降口に至っている。

 

 これってなんだ? まるでヘタレ系異世界転生ラノベのプロローグみたいじゃない?

 頭に一冊のノートが浮かぶ……『アイデア帳・1』の表題の下には小早川照姫と一字ずつ色を変えて記名してある……ペンネーム? そうだ、寺井光子のペンネーム……始めて作ったアイデア帳だ。ふと浮かんだアイデアをチマチマと書き連ねた落書き帳……その中に、こういうアイデアがあったんだ。寺井光子の脳内幻想の欠片たち……でも、昇降口でヘタレの健人と並んで息を整えているのは小早川照姫、口から飛び出しそうな心臓、額やこめかみから伝う汗はめっぽうリアルで、唇に垂れてきたのを舌でなぞると、ちゃんとしょっぱい。

 ここは小早川照姫がリアルな世界……え? わたしのリアルは光子……光代? 光姫? 苗字は?

「なんとかしてよ、テル」

「なんとかって、健人の問題でしょうが!」

「だって、テルが引っ張り回すから」

 ムカ!

 張り倒してやりたくなるが、ここは押える。時間がないんだ!

 

「飛び降りなくていいから、いちど屋上に行ってみよう」

「また屋上に?」

「行くよ!」

 ゲシュタルト崩壊している健人の襟首を掴まえて屋上への階段を駆け上がる!

 チラ見した時計は8時58分を指していた。

 もう一つの名前はもう思い出せなくなってしまった……

 

 

☆ 主な登場人物

 

  寺井光子  二年生 今度の世界では小早川照姫

 

  二宮冴子  二年生、不幸な事故で光子に殺される。回避しようとすれば光子の命が無い。

 

  中臣美空  三年生、セミロングで『かの世部』部長

 

  志村時美  三年生、ポニテの『かの世部』副部長 

 

  小山内健人 今度の世界の小早川照姫の幼なじみ

 

 

 

 

 

 

 

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あたしのあした・67『雲母市二大事件!』

2020-07-28 06:08:46 | ノベル2

・67
『雲母市二大事件!』     


 

 

 とんでもないことになった!

 あたしがつまづいた女の人は息をしていなかった。

「こっちもダメ!」

 ネッチとノンコがつまづいた二人の男の人もこと切れているようだ。
「見るんじゃありません! みんな車に戻って!」
 手島さんがビシャリと言った。
 あたしたちは、生まれて初めて水死体を発見したのだ! それも三人も!
 八人もいるので気絶こそしなかったけど、パニックになりかけ。
 息が荒くなり、何人かは口を押えて吐き気を堪えている。手島さんの指示は正しい。
 おろおろよろよろとギャラクシースペシャルに戻りながら、チラっと手島さんをかえりみる。
 手島さんは、気丈にも三人の息を再確認してスマホを取り出したところだ。警察に電話するんだろう。
 たった今まで、恥ずかしがりながら『ラブライブサンシャインごっこ』に付き合っていたとは思えい気丈さだ。
 で、その様子を振り返り振り返りしながらも見ているあたしも、かなり腹が座っているのだろうか。

 日本のセキュリテイーは大したもんだと思う。

 三分後には救急車、三分半後にはパトカーがやってきた。
 みんなはギャラクシースペシャルの中でひっくり返っている。死体に触れたノンコなどは、裸になってシャワー室に籠って体中を洗いまくっている。あたしは、パトカーが来てからは二階に上がり、備え付けのスコープで成り行きを見守った。
「あれ……?」
 目を疑った。
 手島さんが頭を押えながらお巡りさんの質問に答えている。指の間からは一筋血が流れ、救急隊員の人が「大丈夫ですか?」という感じで手島さんの顔を覗き込んでいる。
 そして、ぶったまげたことには、二人の男の人の死体が消えている。

 なにかあったんだ!

 ギャラクシースペシャルと浜辺の間には岩場や防潮堤があって、ギャラクシースペシャルの一階部分からは見えなくなっている。
 車の中でヘゲヘゲになっている間に異変があったんだ。
 やがて、頭に包帯を巻いた痛々しい姿の手島さんがお巡りさんに支えられながら戻って来た。
「手島さん、何があったんですか!?」
 二階から駆け下りてきて、ドアが開くのももどかしく聞きただした。
「あなたたちの姿が見えなくなって、後ろからガツンとやられてね、気が付いたら男の人二人の死体が無くなっていて、救急隊員の人に助けられたの。えと、お巡りさんが、あなたたちからも事情を聞きたいということなので協力してあげて」
「そろそろ救急車に戻りましょう、頭だから、早急に検査しないと」
「はい、あとはお願いします。車の運転は手配しておくから心配しないで、では……」
 それだけ言うと、手島さんは一瞬気を失った。でも、すぐに持ち直し、「大丈夫です……」を繰り返しながら、自分で救急車まで歩いて行った。

 亡くなった女の人はゼノヴィア公国の王位継承第一位のシャルロッテ王女だということが分かった。

 お忍びで来日していたということ以外は何もわかってはいなかったけど、明らかに大事件! スキャンダル!
 あ、それから、学校を大騒ぎにした爆弾予告は予想通り、悪質な悪戯であったようで、なにも起こらなかった。

 小さな地方都市である雲母市は、二つの事件で大騒ぎ。

 それ以上大ごとになることはなかったが、あたしは胸騒ぎが止まらなかった……。

 

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