大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

かの世界この世界:22『鍵穴はどこだ!?』

2020-07-27 06:44:34 | 小説5

かの世界この世界:22     

『鍵穴はどこだ!?』  

 

 これが……!?        「鍵イラスト フ...」の画像検索結果

 

 涙を拭いながら、わたしの手の平を見つめる健人。

 そのまま手洗いソープのCMに使えそうなほどきれいで整った手に感心したのでもなく手相に運命を見たのでもない。

 わたしの手の平に載っている、なんの変哲もない真鍮製の鍵に感動しているのだ。鍵に触ろうとした指はまだ涙にぬれている。こういう感情と好奇心の起伏は子供なんだけど、健人の憎めない所でもある。

「真鍮の鍵って珍しいよ」

「そう言えば……」

 いまどき真鍮製の鍵なんて、昭和、それもアルミサッシとか無い時代の木造二階建ての校舎の窓とか、住宅の玄関とか、木製ロッカーとかでしかお目に掛かれない。

 アニメとか昔の映画とかで観る感じ。何の変哲もないと感じたのは、自分のイメージ。ラノベや小説を読んだりプロット立てる時の鍵は、こんなイメージだ。わたしの感覚ってリアルとはちょっとズレているかも。

 例えて言うなら、サザエさんちの玄関の鍵という感じ。

 実用本位に作られていて、鍵穴に入ってシリンダーのメス鍵を回す部分はシンプルなEの形をしている。

 Eの背中の部分は長さ五センチほどの真鍮の柄になっていて、親指と人差し指で握るところは……スライムのシルエットの形。スライムの口にあたるところに直径三ミリほどの穴が開いていて、ひもを付けたりフックに掛けておいたりするようになっている。その先っぽのEからスライムの部分まで装飾らしいところは一つもない。

 このダイブの鍵を、わたしが持っていることには説明がいるんだけど、健人は、その余裕をくれないだろう。

 

「これで、どこを開けるんだ?」

「しっかりしてよ、異世界の扉に決まってるでしょうが」

「でも、この鍵に合う扉って……」

 健人の戸惑いはもっともだ、実用品として、こんな鍵は見たこともないだろうから。

「言い伝えでは、身の回りというか、周辺の鍵穴の一つが、これに合うように変身してるって」

「ということは、学校の中だな!」

「たぶん!」

 

 教室を飛び出して学校中の鍵穴に当たってみた。

 ところが、学校の鍵穴は、下のイラストの感じ。そっけないマイナスかイナヅマ型だ。

     高校ライトノベル・かの世界の片隅へ:21『鍵穴はどこだ ...    

 真鍮の鍵の鍵穴はこけし型と言うか前方後円墳型だ。

      「鍵穴イラスト ...」の画像検索結果

 ニ十分ほどかかって学校中の鍵穴にあたってみたが、これに合う鍵穴は一つもなかった……。

 

 

 

☆ 主な登場人物

  寺井光子  二年生 今度の世界では小早川照姫

  二宮冴子  二年生、不幸な事故で光子に殺される

  中臣美空  三年生、セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生、ポニテの『かの世部』副部長 

 

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あたしのあした・66『雲母ヶ浜を走る』

2020-07-27 06:05:36 | ノベル2

・66
『雲母ヶ浜を走る』   



 

 ……これが無きゃいい人なんだろうけど。

 智満子のお父さんは無邪気な人だ。
 家にお客さんが来て、お客さんたちが陽気に楽しんでくれるのが無上の喜びという幼児のような心の人。

 だから何億円もするギャラクシースペシャル(キャンピングトレーラー)を買って、あたしたちに提供してくれたりもした。
 昨日の温泉ビックリ事件も、あたしたちが寝静まったと思ってお風呂に入っていたんだ。それを知らずに二度目のお風呂に入ってビックリ!
 智満子は、そんなお父さんを頭ごなしに叱って、まるで親子が逆転したみたいだった。
 智満子には悪いけど、こんな無邪気なオジサンはめったにいるもんじゃない。爆弾事件で儲けものの二日目、今日はどんな事件を起こしてくださるのか、ちょっと楽しみであったりする。

「社長は、朝一番からのお仕事なので、今日のみなさんのお相手は、この手島が承りました」

 朝のダイニングで、朝食の指示を飛ばしながら手島さんが宣言した。
 どうやら智満子の言いつけのようで――これでいいのだ――という顔つきをしている。
「ちなみに、朝食の献立は社長がお立てになり、お味噌汁と玉子焼きは社長がお作りになられたものです」
「わー、智満子のお父さんてすごいんだ」「いい香り」「おいしそう」「旅館の朝食みたい」
 朝食は自炊で、せいぜいトーストに目玉焼きくらいに思っていたので、みんなゴキゲンだ。
「チ、朝はパン食なんだけどなー」
 智満子一人がケチをつける。
「う、この玉子焼き……」
 玉子焼きにかぶりついたネッチが目を見張った。

「「「「「「「「「「ん?」」」」」」」」」

 みんなが注目し、ハッとした智満子が玉子焼きを口に放り込んだ。
「なまっちろい味……ごめん、お父さん関西風にしてる!」
「関西風?」「どれどれ」「あたしも」
 みんなお箸を玉子焼きにすすめる。
 関東の玉子焼きは甘い。それに慣れた口には、とても新鮮な驚きだ。
 みんなは美味しくいただいたんだけど、智満子一人だけ機嫌が悪い。
 ひょっとして、家庭での智満子は、まだ反抗期なのかもしれない。

 朝食を終え、朝のアレコレをすますと、みんなでギャラクシースペシャルに乗り込んだ。

 健康的に雲母城の外周をジョギングしようかということになっていたんだけど、雲母城なら来週の雲母祭りでも行くので智満子の提案で雲母ヶ浜に行くことになった。
「天気はいいですが、波が高いので気を付けてください」
 手島さんは忠告するが、海辺というのは波打ち際が面白い。
 真冬なんだけど、あたしたちは靴も靴下も脱いで波打ち際を走った。
「この爽快なシチュエーションはなんなんだろう?」
「坂本龍馬になった気がする!」
「あたしたち女だよ」
「う~ん……」
「ね、ラブライブサンシャインて、こんな感じじゃね?」
「そーだよ、女子高生八人が制服の裸足で海岸に並んで、学園アイドルの結成を誓うんだ!」
「それって沼津の浜辺だよ」
「おんなじ太平洋岸だよ」
「アバウトすぎ~」
「あれって九人だよ、あたしたち一人足りない」
 几帳面なノエが不足を言う。
「手島さーん、こっち来てくださーい!」
 手島さんを呼んで、無理くり九人にした。
「わたしは、ちょっと無理があるような……」
 手島さんが照れる(〃▽〃)ポッ
「みなさん走ってみません? 身体が温まるし、そのほうが青春て感じがしません?」
「そーだよ! こういう時、アニメって、たいがい走るじゃないよ」
 ベッキーがいいことを言う。
「よーし、あたしが先頭行くから、みんな付いてくるんだよ!」
 智満子が先頭になって走り出した。

 智満子  いーちにーいちに 
 
皆    そーれ! 
 わたし  にーにーにに 
 皆    そーれ! 
 ノッチ  いちに 
 皆    そーれ! 
 ベッキー にーに 
 皆    そーれ! 
 ノエ   いちにさんしにーにさんし 
 皆    ファイトーーー! ヨシ! 


 運動部のノリで五分ほど走ると、みんな頬っぺたがリンゴみたくなってきて、吐く息もSLみたいで面白い。

 わ!!

 不覚にも、なにかに足が引っかかって転んでしまった。他にもネッチとノンコがつまづいた。
「ちょ、なにかあるよ」
 ノンコが、つまづいたところの砂をかき分けた。

「ギョ、ギョエー!」

 ノンコが悲鳴を上げた。
「ひ、人が倒れてるよ!」
「「こっちも!」」
 三人は砂に埋もれた男の人二人と女の人につまづいていた。
 三人とも生きているようには見えない。

 あたしがつまづいたのは、とても綺麗な女の人だった……。
 
  
 

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