大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・157『実はなになに・2 ホッチキス!』

2020-07-12 13:51:40 | ノベル

せやさかい・157

『実はなになに・2 ホッチキス』さくら        

 

 

 実はステープラーというのが本名らしい。

 

 留美ちゃんがググってはいけないと言われていたので、詩(ことは)ちゃんに聞いた。なんせ、廊下を挟んで向かいの部屋やからね。

「え、ホッチキスじゃないの?」

 詩ちゃんもわたしと同じ反応。

「……ホチキス? 東京出身の子は、そう言っていたような気がするかなあ?」

「あ、それはあるかも! 大阪弁は『っ』が入るのが多いもんね、たとえば……」

 メンコ⇒ベッタン、  洗濯機⇒せんたっき、 儲かりますか?⇒儲かりまっか? 行きますか?⇒行きまっか?、 おなごしさん⇒おなごっさん、 ごつい⇒ごっつい、 等々

「ああ……なんか違うようなきがするけど、ま、そんな感じかなあ……さくらちゃんの言葉って、ちょっと古い大阪弁かも」

「あ……文芸部やからやろか?」

 この一年、あまり本は読めへんかったけど、頼子さんと留美ちゃんの話はたくさん聞いたので覚えたのかも。

「うん、そうだよ。ゆるーくやってるから自然に身に付いたんじゃないかなあ」

「あはは、そやろかあ(o^―^o)」

 喜んでるとテイ兄ちゃんが入ってきた。

「ホッチキスの本名はステープラーやぞ」

「もう、入る時はノックしてよね」

「開いてたでえ」

「開いていても!」

「外国ではホッチキスでは分からへん」

「そうなんや」

「だったら、なぜ、ホッチキスなんて言うの?」

「それはやなあ……まあ、食べながらにしょ」

 テイ兄ちゃんは衣の懐から紙包みを出した。

「あ、回転焼き!」

「まだ、開いてないのに、よう分かるなあ」

「匂いで分かる!」

「田中のお婆ちゃんとこで始めはったんや」

「「いっただきまーす!」」

 食べながらの説明では、ホッチキス言うのは、元々は機関銃のメーカーらしい。その機関銃のメーカーか関連会社が発明したとか、そう言えば針を繰り出す仕掛けが機関銃の仕組みと似てるらしい。

「なるほど、伊達に大学出てへんねえ」

「褒めちゃダメよ、単なるオタクの知識なんだから」

「コトハあ!」

「あら、怒った?」

「いや、いまや世界では『オタク』は誉め言葉やねんぞ!」

「プ、妹と従妹の前で胸張ってもねえ」

「アハハハ」

 どこまでも中のええ兄妹やなあ。

「「どこがあ!?」」

「あ、いまの、そういうとこが(^_^;)」

 

 あくる日、学校で月島先生に呼び出される。

 

「あ、文芸部に入部希望の一年生がいるから、明日にでも会ってやってくれる?」

「え、入部希望!?」

「あれ? なんか不服そう?」

「ああ、ちゃいますちゃいます(^_^;)」

 留美ちゃんが『文芸部は今のママがいい』という言葉を思い出したからとは言いません。

「でね、会うのは、とりあえず学校の部室でやって欲しいの、一応は学校の部活だからね」

「は、はひ!」

 動揺すると、すぐには戻りません。

「あ、でも、なんで先生が文芸部の伝言を?」

「あ、わたし、顧問になっちゃったから」

「え、あ、はひ!」

 ただただ、驚きのさくらでありました。  

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かの世界この世界:07『二日後に戻る』

2020-07-12 06:21:17 | 小説5

の世界の世界:07

『二日後に戻る』      

 

 

 そのまま二日後を迎えた。   

 

 ヤックンに告白させなかったんだから、冴子も穏やかだ……たぶん。

 昇降口への階段を下りていても、冴子に呼び止められることもない。

 従って、昇降口で乱闘になることもなく、不可抗力とは言え、手にした傘で冴子を一突きに殺してしまうこともない。

 制服のブラウスを朱に染めて逃げ回った末に旧校舎の屋上に追い詰められ、飛び降りて頭蓋を柘榴のように割って脳みそをぶちまけて死ぬこともない。

 

「このまま神社行く?」   

 

 終礼が終わると廊下で冴子が待っている。

 お祭りの準備と巫女神楽の稽古が佳境に入って来たのだ。三回目の巫女神楽とあって、冴子もわたしもWKだ。

 WK、つまり期待と緊張。

 神社の歴史上も三回の巫女神楽をやった例は江戸時代に一度あったきりだそうだ。

 予定していた巫女が病気とか事故とかじゃなくて、あまりに美しい巫女だったので、神さまも――十八になるまで務めさせよ――とご託宣された。当時は一人舞の神楽を三年続けたそうだ。

 わたしと冴子の場合は、単にやり手の子が入院したからなんだけど、評判や期待は上がる。

 冴子は、ヤックンへの想いもあって、三年連続の巫女神楽をやったらチャンスも増えるし、ひょっとしたら江戸時代の先例にあやかって、少しは魅力的になれるかと口には出さないけど思っている。

 

「ちょっと寄ってくとこがあるから、先に行っといて」

「あ、うん。じゃ、そこまで……」

 そう言いかけて、中庭の方へ足を向けたので――あれ?――という顔になる。

「三年の先輩に」

 あいまいに旧校舎と芸術棟が重なるあたりを指さす。

「そか、じゃ、ヤックンとおさらいしとくね」

「うん、序のところで微妙に合わないから、しっかりやれって言っといて」

 自然な形で、冴子とヤックンが一緒になれるようにという思いもある。

 

 とにかくは、志村・中臣両先輩に報告と相談だ。

 旧校舎の扉を開くと、そこはかとなくヒンヤリ。

 わたしは中廊下の奥を目指した……。

 

☆ 主な登場人物

 寺井光子  二年生

 二宮冴子  二年生、不幸な事故で光子に殺される

 中臣美空  三年生、セミロングで『かの世部』部長

 志村時美  三年生、ポニテの『かの世部』副部長

 

 

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あたしのあした・51『キララTDK』

2020-07-12 06:11:26 | ノベル2

51

『キララTDK』   

 

 

 あの国の民主主義の成熟が羨ましい!

 国語のオバサンが寝ぼけたことを言う。
 大統領の辞任を求めて、某国では100万人を超えるデモが行われているそうだ。
 で、そのデモが起きることが『民主主義の成熟』を現しているのだそうだ。
 そもそも、大統領が法治国家とは思えない、まるで昔の王朝時代のようなスキャンダルや汚職を起こしたこと、それを許してきた、かの国の前近代性には目をつぶっている。生徒のあたしでも分かること。

 いや、あたしの心の底には風間寛一という議員秘書のオジサンが沈んでいる。風間さんの感性かなあ……。

 そう思って教室の中を見渡す。
 すると、マンガやラノベを読んでいる者、ボーっと窓の外を見ている者、カロリーメイトを齧っているやつ、スマホをいじっている奴もチラホラ。
 オバサンの演説には興味ない……いや、それも通り越して軽蔑のオーラが漂っている。
 そうだよね、萌恵ちゃんは、智満子のスマホには気づいていたものね。

 できた!

 国語の授業が終わるや否や、智満子が叫んだ。
「え、なになに?」と取り巻き達が智満子の周りに集まる。
「これよ、これ!」
 智満子は机の下に置いていたノーパソをドデン!と出した。
 画面にはタヒチアンダンスの衣装やら練習用のジャージ、Tシャツ、ファイルやキーホルダーなどのグッズのデザインが並んでいた。
「え、これ智満子が考えたの?」
「うん、今の国語の授業ではかどった」
 よく見ると教科書やノートの下にはペンタブが覗いている。
 こないだのスマホより数段大胆になっている!
「キララタヒチアンダンスクラブ、略してキララTDKっていうのよ!」

 「かっこいい!」という声の他に「どーよ!」って感じの子が数人いて、智満子が早くもメンバーの獲得に成功していることを示していた。

「ね、恵子も入らない?」
 A定食をテーブルに置くやいなや、智満子が切り出した。
「言ってくると思った」
「じゃ、恵子も!」
 ベッキーが身を乗り出す。
「リボンにソースが付くよ」
 ルーズにしているリボンを持ち上げてやる。第一ボタンを外したブラウスから胸の谷間が覗いている。このオッパイならタヒチアンダンスのコスが似合うだろう。
「恵子は他にやりたいことがあるんだ。でしょ?」
 トンカツを齧りながら智満子。残念とかという感じじゃなくて「あんたも自分の道があるんだ!」という感じ。仲間が、それぞれ自分の道を持てていることを嬉しく思っているような感じだ。智満子は、また一歩成長したようだ。

 ベッキーを始め七人ほどがキララTDKに入った。あたしとネッチは応援団。

 近々キララTDKの発足式をやるとのこと、これには絶対参加する!

 秋の深まりとともに、それぞれの道を歩く気配がした。

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