大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記 序・9『人とロボット・2』

2020-07-16 15:46:14 | 小説4

序・9『人とロボット・2』    

 

 

 サン!

 

 次の命令は、この一言だった。

 三、 参、 山、 桟、 算、 餐、 珊、 惨、 撒、 SAN、 SUN 様々な頭文字が浮かんだ。

 おそらく事前に決められていた作戦の符丁なのだろう、文字そのものに意味は無いんだろうけど、頭の中で『サン』にまつわる軍事用語を思い浮かべてしまう。

 CICの兵士たちは一斉に操作や作業を止めCIC四か所にある出口からほんの数秒で出て行った。

「俺たちも行く、身を低くしろ」

 両手を突いてスタートラインに付いたランナーのような姿勢をとると、畳一畳分ほどの床が跳ねあがり、わたしと司令を真上に開いた天井から撥ね上げた。

「着地したら、バイクに跨れ」

 放物線の頂点から窺うと、五十機余りのウマが擱座している中に博物館モノのバイクがアイドリングの身震いをさせている。駐屯地の南北は、どこから湧き出したのか数千の日本軍R兵(ロボット兵)が西北、南西を目指して疾走している。

 ブロン! ブロロロローーーーーー!!

 スロットルを上げると、バイクは前輪を跳ね上げて駐屯地の開け広げられたゲートを飛び出して西北西を目指した。

「手話はできるな?」

 小さく頷くと、司令は左手で手話を送ってきた。

―― 俺の側を離れるな 必ず日本に戻れる ――

―― このまま日本に? ――

―― しばらくは戦争だ 俺に付いていれば弾も避けていく ――

―― このまま作戦指揮を? ――

―― パルス動力のものは飛行機からウマまで使えない バイクがオシャカになったら俺を背負って走れ ――

―― わたしが司令のウマに? それってセクハラなんですけど ――

―― 俺は人間だ 時速百キロでなんか走れない 以上 ――

―― わたしをウマの代わりに連れ出したの!? ――

 それ以上は応えずに、司令はわたしの前を走った。

 

 司令を背負うとしたらオンブ? それとも四つ足になって背中に?

 

 四つ足は屈辱的だ……と思うのはわたし? それともグランマの感性?

 

 空に光るものがあって目を向けると火星への連絡船だ。高度二万を超えているのでアンチパルスの影響は受けないのだろう、光学ズームすると機体番号から新造貨客船『信濃丸』であると知れる。日本が汎用性を重視して作った新型だ。

 その向こうにも漢明国の連絡船『遼寧』が火星を目指している。

 宇宙は地上のいがみ合いを持ち込めるほど安全じゃないからね、地上で戦争ができるのは、ひょっとしたら、かなり贅沢なことななのかもしれない。

 だったら、こんな贅沢はヤメロ!

 バイクは二時間近く走って、マン漢国境を眼下に望む台地に着いた。

「JQをウマにし損ねたな」

 憎らしいことを言う司令の周囲には、すでに到着している部隊の指揮官たちが集まり始めている。

 日本軍は国境の南北に分かれ、浸透してくる漢明国を引き入れ挟撃する姿勢をとりつつある。

 ただ、挟撃する日本軍は敵の五分の一ほどでしかないことが、なんとも痛ましいのだけれど。

 

 

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かの世界この世界:11『世界を助けてもらいたいの』

2020-07-16 06:16:54 | 小説5

 かの世界この世界:11

『世界を助けてもらいたいの』    

 

 

 2000人助かると、時美のお母さんは別の人と結婚することになるの。

 

 中臣先輩は、学食でお蕎麦が売り切れだったらラーメンを食べるのというくらいの気楽さで言う。

「時美には生まれて来て欲しいから、やっぱり震災の犠牲者は6000人」

「ただいまあ(^▽^)」

 先輩が訂正すると、隠れん坊で最後まで隠れおおせた子どものように志村先輩が現れ、年表も元の姿に戻った。

「いくつもの小さな変化を加えると、2000人助けた上で時美が生まれるようにもできるんだけどね、すごく難しい方程式を解くようにしなくちゃならない。たとえできたとしても、遠い将来に影響が出るかもしれない」

 ヤックンの告白を無かったことにして、冴子を殺すことを回避していなければ信じられない話だ。

 それに、二人の先輩はティータイムの雑談のように話すので、まるで切迫感が無い。

「だから、今のところ震災についてはいじらないんだけど、全てのできごとを放置していると……」

「わ!」

 三つ子のビルが音を立てて崩壊していく。

 思わずのけ反ったが、モニターに映った3Dなので、吹き飛ぶ破片や濛々と寄せ来る爆煙に襲われることもない。

「これって、世界が崩壊したことを意味しているの」

「歴史は三つ子ビルほど単純じゃないけど、いくつかの出来事を修正しないと世界は崩壊してしまうの」

「かの世部はね、そんな歴史のイレギュラーを修正していく活動をしているの」

「それで、寺井さんには才能があるのよ。歴史を修正していく力が」

「そんな力がわたしに?」

「そう、ついさっき、ヤックンの告白を回避したじゃない。あれが成功していなければ、寺井さんは二宮さんを殺してしまう」

「そして、校内を逃げ回ったあげくに、この旧校舎の屋上に追い詰められ飛び降りて死んでしまうことになる」

「わたしや時子にも力があるけど、屋上に逃げる寺井さんを中廊下奥のここ(部室)へ誘導するのが精いっぱいなの」

「だから、ぜひ寺井さんに入部してもらって、わたしたちを……」

「「世界を助けてもらいたいの(o^―^o)」」

 

 二人の先輩の声が揃ったところで再び意識が遠のいていった。

 

☆ 主な登場人物

 寺井光子  二年生

 二宮冴子  二年生、不幸な事故で光子に殺される

 中臣美空  三年生、セミロングで『かの世部』部長

 志村時美  三年生、ポニテの『かの世部』副部長 

 

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あたしのあした・55『雲母は我らが姫殿様』

2020-07-16 06:03:57 | ノベル2

・55

『雲母は我らが姫殿様』     


 水戸藩は、いわゆる御三家である。

 二代目は御存知の水戸光圀で、天下の副将軍の誉れも高く、代々の藩主は参勤交代を免ぜられ、江戸勤番(常駐)と決まっている。
 めったに水戸に帰ることも無く、中には一度も水戸の領地に足を踏み込まずに没した殿様もいる。

 勢い、領内の差配は、家老を頂点とする家臣団にゆだねられて揉めることが多かった。

 母の雪姫が亡くなって二年目、雲母姫は十八歳になっていた。

「水戸様はまるで戦支度ではないか!」

 眉を逆立ててはいるが、雲母姫は楽しそうだ。

 西川の東で、雲母の百姓衆三百と水戸藩の侍衆三百が対峙している。
 百姓衆は手ぶらの野良着姿であるが、水戸藩の侍たちは鎧兜に身を固めた上に鶴翼の陣形で、まさに敵を迎え撃つ戦の構えである。

「やあやあ、遠からん者は音にも聞け! 近くば寄って目にも見よ! 我こそは、水戸徳川家にあって鬼神の重兵衛と呼ばれし、郡奉行酒田重兵衛景光な~り! オホン、お前たちが居座っているのは、我が水戸藩領である、その水戸領内において徒党の陣を張るとはもってのほか! さっさと解散して明け渡せ! さもなくば、この葵の御紋をはためかせ、鎧袖一触にけちらかさん!」
 
 先頭の馬に乗った郡奉行が、陣触れのような大音声で叫んだ。

「居座っておるのではありませーーん! 三百の人をもってーー、雲母の地と水戸様のご領地の境目を示しておるのでーーす!」

 雲母姫は酒田重兵衛に負けない大音声で対抗した。生まれつき声が大きいこともあるが、野良仕事の差配に声を張り上げるので、半端な侍よりも良く通る。
「古より、水戸領と雲母の境は西川をもっていたす! 西川の東を言い張るは無法であ~る!」
「雲母は水戸様よりも古うございます! 雲母の作法では、出水のあとは、測量によって正しき境を決めることになっておりまする! 正しき測量とは、古の西川の流れを計ること。我らの測量では、我らが立つところから二町東、酒田様お立ちになっておられるあたりにございまーーす!」

 水戸藩と雲母は、この秋の嵐の後、流れの変わった西川をめぐり、その境目で争っている。

 藩主が江戸詰めで赤字続きの水戸藩としては、少しでも収入を増やしたいため、隣接する地を少しでも自領に取り込もうとしていた。
 雲母たちは「ここで負けては、他の村々や天領・大名領との争いにも負ける」と腹をくくっていた。
 だが、水戸藩の侍たちのようなごり押しはしない。あくまで先祖伝来の土地を守り抜く方針で、それを測量によって厳密に主張する。

 だが、水戸藩には「佐竹にも見捨てられた雲母」という蔑みがあり、やりかたが強引になる。そして、西川を挟んだ睨みあいになったわけである。

「いたしかたありません、わたしたちの想いが正しいことをお示しいたします!」

 雲母姫が手を上げると、川上の方でドーンという音がした。
「今の音はなんだ!?」
 水戸の侍たちはうろたえた。
「上の池の堤を切りましたーー。水は低きに流れまーーす。すなわーーち、本来の西川の流れに従って流れーー、嵐によってーー変わった流れは干上がりまーーす。我らの測量が正しいことがーー、間もなく分かりまーーす!」

 やがて地震のような地響きをさせて水が流れてきた。

「ふん、堤を切ったとて川の流れは変わらん! みなみな狼狽えめさるな!」

 酒田重兵衛は強気で、侍たちを叱咤する。
 しかし、水の流れは正直であった。
 三百の水戸の侍たちは、寄せ来る奔流に次々に流されて行った。
 このままでは、水戸の三百は溺れ死ぬところであったが、雲母姫は、下のほうに幾重にも縄を渡し、溺れた侍たちが流されつくさないように工夫をしていた。意地を張りとおした酒田重兵衛一人を除いて水戸の侍たちは助かった。

 雲母姫の人気は一躍あがり、上総の百姓たちが姫を見る目は、あたかも遥か海の向こうのジャンヌダルクを見るようであった。

 そして、享保の改革を行った時の将軍徳川吉宗は、上総を安定させるため「水戸徳川家を補佐する」条件のもとに雲母八万石を雲母に任せた。
 雲母姫は女の身でありながら雲母八万石の実質的な当主となった。幕府の記録では、水戸徳川家より雲母姫の入婿になった雲母(徳川)光嗣が当主ということになっているが、雲母の人々は雲母姫こそが「我らの姫殿様」と思い定め、三百年後の今に至っている。

 雲母姫の来歴を調べ終ったあたしは、ネッチといっしょに長いため息をついたのであった! 

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