大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

あたしのあした・42『あたしの中に住んだ人・2』

2020-07-03 06:39:22 | ノベル2

・42
『あたしの中に住んだ人・2』
      

 

 今度はパソコンの画面の中に現れた。

 風間さんのことが気になったので、ネットで「風間寛一」を検索してみたのだ。

 風間さんのことは、退院した後の事情聴取のときに、お巡りさんに教えてもらってはいた。
 衆議院議員の春風さやかの秘書で、正義感の強いやり手だと聞いた。たまたま駅のホームで、あたしが電車に飛び込んだところを反射的に飛び込んで助けてくれた命の恩人。
 並の人間にはできないことだと感謝して何度か御見舞にもいった。意識が無いので、枕もとでそっと頭を下げて感謝の気持ちを表すことしかできなかったけど。
 その風間さんのことを調べてみる。
 知っていた以上のことは出てこない。そうだろう、ネットに出てくることなんてオフィシャルなことしかないから、風間さんの心情までは分からない。

 三回スクロールして読み直し、途方に暮れて、画面の「風間寛一」の名前をボールペンのお尻でトントンしている。
 すると、ウィキペディアの画面が切り替わって、風間さんが現れた。

――やあ、ここに現れる方がエネルギーが少なくて済む。
「風間さん!?」
――きみの調べたいと思う気持ちとパソコンの力のお蔭だよ。
「えと……」いざとなったら、なにから聞いていいか分からなくなる。
――わたしは、脳腫瘍の末期なので長くはない。二か月前、駅前の交差点で死んだような目をしたきみを見かけたんだ。
 偶然だが、行先は同じ駅のホームだった。そして、きみはやってきた電車に飛び込もうとした。
 わたしが飛び込めば助けてあげることができるかもしれない。
 ラグビーをやっていたのでタックルやトライには自信があったし、ダメでもいっしょに死ぬだけだ、そう思ったんだよ。
 そして、なんとかきみを助けることができた。
「そ、その節は、ありがとうございました!」
――お礼を言うのは早いよ。実は衝撃的なことを伝えなきゃならない。
「えと、なんでしょう?」
――じつは、きみとわたしは融合してしまっているんだ。
「ユーゴー?」
――病院で目を覚ました時、わたしはきみになっていた。
「どういうことですか?」
――目覚めたとき看護婦さんに声を掛けられ、返事した声が変だった。で、鏡を見ると、わたしはきみの姿になっていた。
「あの、あたし目覚めた時は誰も居なかったですけど」
――それは、恵子さん、きみが自分の意識で目覚めた時だよ。
 つまり、二回目の目覚めだ。わたしは、きみを驚かせたくなかった。だから意識の底に潜ったんだ。
 すると、どうやらきみと同化してしまったようなんだ。
「でも、今は別々に……」
――パソコンの力を借りてね。自分の力だけでやると、昨日の金縛りのように続かなくなってしまう。
「えと……」
――退院して最初にお風呂に入った時、ドキドキしたでしょ?
「あ、ええ、なんだか自分の身体じゃないみたい……って、あれは!?」
――そう、あれはわたしの感性だろうね。

 顔が熱くなった、恥ずかしいから……って、あたしの感性? 訳わかんなんくなってきた。

「学校に復帰してからのあれこれって、実にあたしらしくないんですけど、それは風間さんの……」
――おそらくは……。
「そうなんだ……あたしにしては上出来すぎますもんね」
 あたしは凹んだ。あたしは、あんなにアクティブで思いやりのある人間じゃない。
――でも、こんな風に融合してしまうのは、恵子さん、きみの中にも同じような感性があるからなんだよ。
 同じでなければ、こんな風に融合したりはしないと思う。
「そうなんですか?」
――そうなんだ。近ごろは、ほとんどきみの意識で動いているといってもいい。
 仲間への気遣いはきみならではだと思うよ、議員秘書の感覚からだったら、あの子たちとは切れていたと思う、いっしょに居ても、あまりきみのためにはならないからね。自信を持っていいよ。
「ありがとうございます」
――そこで本題なんだけれども。
「は、はい」

 思わず居住まいを正してしまった。

――恵子さん、しばらくきみの身体を貸してもらえないだろうか?
「は、はい!」

 うっかり反射的に返事をしてしまったが、うろたえまくるあたしであった。

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プレリュード・18《O先輩・2》

2020-07-03 06:28:26 | 小説3

プレリュード・18
《O先輩・2》    



 

「きみ、ちょっと待ち」

 必殺の中村主水(藤田まこと)みたいな刑事さんがO先輩に声を掛けた。

 O先輩は、こないだの『拉致事件』で世間を騒がせ、警察にも多大の迷惑をかけたので、彼女と、仲間四人を連れてF署まで、雁首揃えて地域安全課の課長さんに詫びを入れにきたところ。
 白昼、五人乗りのセダンに六人、それも一人がトランクに入ったら、今日日だれでも拉致だと思う。警察はヘリコプター出してまでの大騒ぎになった。それが単なるおふざけやったんやから、絞られて当たり前。
 匿名にはなってたけど、三面記事のトップにもなったし、今日もS署にはO先輩らが詫びを入れるというので、マスコミが何社も来ている。

 これで、少しは懲りるやろ。
 そう思ったとたんの中村主水。
「きみ、任意やけど、尿検査させてもらえへんか」
「え、ああ、いいっすよ」

 と気楽に答えたけど、全員が危険ドラッグ服用の結果が出た。
「そんなん、オレ、覚えないですよ!」
 言うても後の祭り。そこからは強制捜査。
 まず車の中から、動かぬ証拠のビニール袋。簡易鑑定で危険ドラッグの痕跡発見。

 以上のことが、テレビではなくてSNSで流れた。テレビがテロップで流す前に、わたしはO先輩の家にチャリで直行。
 
 心配やからと違います、面白そうやから。

 大阪だけじゃないと思うけど、女子高生の行動原理は、面白いかどうかだけ。

 O先輩の家に行くと、もう警察が入っていた。

 青いシートで目隠ししてるけど、向かいのマンションの二階への階段からは丸見え。
「なんや、あんたらも来てたん?」
 直美をはじめ演劇部の面々。普段は仲の悪い演劇部の子らやけど、面白いもの見る時は、お仲間になる。これも大阪の女子高生の特徴。

 段ボールの箱が、いくつも運び出される。中には蓋が開きっぱなしというか、閉められないぐらいパンパンのやつも。

「O先輩の本て、マンガとラノベと……エロ本ばっかりやな」
 演劇部のFがため息つきながら肩を落とす。
「箱の中で見えへんけど、DVDとかも怪しげなもんばっかりや……多分」
 余計なひと言やった。Fは本気でがっくりきてる。
「いや、男の大学生て、こんなもんやで。探したらええとこもあるんとちゃう?」
「探さんとないんかいな……」

 逆効果だったみたい。

 まあ、自分らで勝手に偉い先輩だと思ってきたんだから自業自得。それに、これ以上の慰めは逆効果と思って、わたしはマンションから出た。

「あ、加藤奈菜ちゃんと違うの?」
 取材の新聞記者から、声をかけられる。
「はい、そうですけど……」
「あは、やっぱり。あなたってちっとも変わらない。忘れた? あたしよ、あたし!」

 記憶の底から蘇ってきた。その女性記者の髪をボブに置き換えると、当時の面影が浮かんできた。
 その女性記者さんは、中学生のころお菓子のCMのスタッフやってたオネエサンだ!

 カメラがわたしを撮っているのに気がつかなかった……。

              奈菜……♡ 

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