大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・166『日光・5』

2020-07-21 15:43:28 | 小説

魔法少女マヂカ・166

『日光・5』語り手:マヂカ    

 

 

 風切丸を正眼に構えて東京タワーに対峙する。

 

 333メートルの東京タワーに165センチの魔法少女では絵にもならない。

 奴が攻撃の構えを見せたら、精一杯奴にまとわりついて、取りあえず友里とツンを逃がすことだけを考えよう。

 背中に感じる気配は、ツンが右、友里が少し後ろの左だ。

 ツンは、もともとは西郷さんの猟犬、一人でもどうにかするだろう。

 声をかけてやりたいが、僅かな隙を見せても命取りになりかねない。対峙しているのが精いっぱいだ。

 やつは壬生で見たレゴブロックでもなく、宇都宮で見た猪突猛進の化け物でもない。

 四本の脚で立ち上がった姿は、あっぱれ身の丈333メートルの鉄の巨人だ。

 

 いや、待て、333メートル?

 

 こいつにはトップデッキから上が無かったはずだ。

 しかし、間近の足元に居るので、トップデッキから上の姿が判然としない。

―― 上ある あるよ上 ――

 ツンのつぶやきが聞こえた。

 わたしの気持ちを察して、後ずさって確認したんだ。さすがは西郷さんの猟犬。

 しかし、確認したからと言って危機的状況であることに変わりは無い。頭が付いた分、俊敏になり、予想しない動きをするかもしれない。

 一か八か!

 セイ!!

 後ろに跳躍すると友里を抱きかかえて、さらに二の鳥居の外まで逃げる。

 

『待ってください』

 

 一瞬、誰が喋っているのか分からない。左手で友里を庇って右手で風切丸を中段に構える。

『わたしです』

 え?

『わたしです、あなたたちの前にいる東京タワーです』

 ガチャリ!

 わたしに倣って友里も太刀を構え、ツンは牙をむいた。

『戦うつもりはありません、取りあえず話を聞いてください……と、その前に』

 トップデッキから上がプルンと揺れたかと思うと、取り囲んでいた敵意が消えた。残っていた亡霊たちが姿を消したようだ。

『東京タワーと合体しましたが、わたしは宇都宮タワーなんです。東京タワーは首から上を失くしてしまっていたので、日光まで追いかけて、ついさっき合体しました』

 そうだ、宇都宮で見かけた時に、まるで東京タワーの首のようだと感じた。

 なるほど、合体すると、もとからそうであったようにしっくりしている。

『完成から六十年を超えて、東京タワーはしだいに衰えてきました。スカイツリーが出来て人々の関心は、あのノッポの妹に向かって、だんだん力が衰え、東日本大震災でアンテナが傾いてからは、トップデッキから上はほとんど形だけになってしまい、とうとう理性失って妖になってしまったのです。それで、宇都宮タワーのわたしが補ってみたのです』

「そうなんだ……でも、なんだか最初からその姿だったみたいな感じで違和感が無いぞ」

『そう言っていただけると嬉しいです。これで、この世界も落ち着くと思います。あとは、神田明神さんが元気になられることです』

「そうだな」

「えと、いい?」

「なんだ友里?」

「こっちの世界が落ち着いたら神田明神さんも元気になるんじゃないの?」

「本人も回復の努力をしなければならないということじゃないのか?」

『この世界は、そっちの世界と対になっていると思いますよ……神田明神さんの成り立ちに問題を解くカギがあると思います』

「東京タワーと対になるような……」

「……神田明神というのは平将門の首を祀ったことが始まりだったなあ……そうか!」

「分かったのマジカ!?」

「将門の胴をなんとかすればいいのだな」

『詳しくは分かりませんが、そっちの方でお考えになればよいかと。それに、こちらの方が片付けば、神田明神さんも、それなりには回復なさっておられるかと思います』

「分かった、とりあえず戻ってみることにするよ」

『それから……トップデッキの継ぎ目にこんなものがありました』

 トップデッキの継ぎ目あたりからハラハラと封書が落ちてきた。

 まかせて!

 ツンがジャンプして口に咥えて降りてきて新体操の選手がフィニッシュを決めるようにポーズを決めた。

 それは封緘された封筒で『西郷吉之介真名』と書かれている。

「西郷さんの本名だ!」

「急いで持って行ってやろう!」

『では、名残惜しいですが、神田明神さんと西郷さんにもよろしく』

 

 久しぶりに神器『ひそか』を取り出してアカ巫女にミッションコンプリートを告げるわたしであった。

 

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かの世界この世界:16『喫茶みかど』

2020-07-21 06:11:35 | 小説5

かの世界この世界:16

『喫茶みかど』   

 

 

 女神さまは中臣先輩だ。

 

 ほんの一時間足らずぶりなんだけど、ニューヨークかどこかで財布もスマホもパスポートも無くして知り合いに出会った感じ。

――どうやら、とても難しい世界に行ってしまったようね――

「はい、えと、わたしどうしたらいいんでしょう……」

「あのね…………」

 電話の向こうでボシャボシャと話声、どうやら志村先輩と話し合っているようだ。

――……わかった、うん……いい、みっちゃん。一つ課題を解決すれば、その世界から離脱できるの。いま、時美に探してもらってるから……うん、こっち? えと……みっちゃん――

「はい」

――駅一つ向こうに『みかど』って喫茶店があるの――

「あ、A駅の方ですね」

 リアルっていうか元の世界のA駅前で見かけたことがある。

――その『みかど』の窓際の四人掛けシートに三時半から四時までの間座っていてもらいたいの――

「座って何をするんですか?」

――意味はまだ分からない。ただ、座っていることで、そっちの世界が三十年後に大きな影響があるらしいの。お願いできるかなあ――

 ひどく申し訳なさそうな口調、先輩にも詳しいことは分からないんだろう。

「分かりました、三時半なら余裕です!」

 場所も分かっているので、明るく応えて受話器を置いた。

 自販機で切符を買うなんて久しぶり。

 行先ボタンとお金、どっちが先か? ちょっと悩んで、ボタンを押すけど反応なし。お金なんだと、百円と十円二枚を投入。

 すると、この駅を真ん中に上り下り二駅ずつのランプが点いてA駅を選ぶ。

 改札機ではふんだくられるように切符が吸い込まれるので、ちょっとオタ着く。

 スイカとか定期はスイっと改札機を舐めるだけなので暴力的に感じてしまうんだ。

 

 寒!

 

 電車に乗ると、暴力的な冷房に震える。

 設定温度間違えてるんじゃないかと腹と鳥肌がたつけど、周囲のお客さんたちは平然としている。

「うわ!」

 進行方向の反対につんのめる。

 電車の加速が、ガックンガックンしていてびっくり。

 元の世界では、もっと滑らかに加速していたと思う。これじゃ、立っているお年寄りなんか……周囲を見ると、そのお年寄りも含め、みんな器用にショックをいなしている。

 スマホはおろか携帯を触っている人も居ない。お年寄りは三四人くらいで、車両の平均年齢は、かなり若いように思える。

 そうか、昭和63年は、お年寄りの数は少ないんだ。

 驚いたり感心しているうちにA駅に着く。

 身構えて改札機へ……やっぱりふんだくられるのには慣れない。

 

 A駅の控え目な駅前を歩く。

 

 記憶では、もうちょっと賑やかなんだけど、三十年前はこんなものなのかもしれない。

 

 そして、『みかど』という喫茶店は見つからなかった……。

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あたしのあした・60『年賀状を書くことにして』

2020-07-21 06:01:26 | ノベル2

・60

『年賀状を書くことにして』    

 

 

 何年ぶりかで年賀状を書くことにした。

 最後に年賀状を書いたのは……小学校の四年生だったかな?
 出さなくなったのは携帯のせい。それと、年賀状を出すほど親しい友達も知り合いも居なかったから。

 今年は違う。

 あたしは、郵便局に行った。


 ドアを開けると、年末の熱気でムンムンしていた。
 三つある窓口は、どれも十人待ち以上だ。シートはお年寄りで埋まっているので、若者らしくシャンとして立って待つ。
 窓口の順番が回ってくるまで悩んだけど「241」の順番が回って来たときには二十枚と決まった。

 年賀状のデザインのため、家とは反対側の駅の向こう側に行く。

 あ、いたいた。

 ロータリーの隅っこに、手相見のおじさんと並んで、大学生くらいの女の子が似顔絵の露店を出している。
 以前はオジサンで、値段も千円だったので素通りしていたけど、今月の半ばから女の子に変わって、値段も八百円に下がった。
 安くなったことも理由なんだけど、女の子というのがとっつき易くて、とっつき易いと思ったとたんに――描いてもらった似顔絵を年賀状に使おう!――と、閃いた。

「年賀状に使うんです」

 お金を払って椅子に座ると、聞かれもしないのに、ハッキリと言う。
「そうなんだ。じゃ、正月仕様で描いてみましょうか?」
「正月仕様って?」
「日本髪にしたり、着物にしたり」
「あ、そういうのはいいです。できるだけありのままに描いてください」
 言ってからためらった。髪はともかく、首から下は普段着のフリースだ。
「すみません、制服姿で描いてもらえませんか? えと、これが制服です」
 生徒手帳の身分証明書を開いて見せた。
「分かりました、可愛い制服ですね。じゃ、ちょっと笑顔になってもらえますか?」
「え、あ、はい」
 笑顔になるが、描いている間ずっと笑顔じゃ辛いなあ……と思っていると「あ、もういいですよ」と言われ安心。
「こないだまでは父がやってたんですけどね、風邪こじらせて、あたしがピンチヒッターなんです」
「あ、お父さんだったんですか?」
「知ってらっしゃるの?」
「はい、とっても芸術家って感じでしたね」
「フフ、ちょっと近寄りにくいでしょ?」
「エヘヘ、でも、サンプルに出していた絵なんか、すごかったですよ」
「たしかに……ちょっと顎あげて……お父さんの後じゃ、とても同じ料金設定はできなくて……」
「それで八百円?」
「ええ、でも、お客さんは、父の時よりも増えて、結果的には儲かってます、少しだけど」
 視野の端っこに人が集まり始めているのが見えた。どうやら、あたしが客寄せになっているようだ。
 似顔絵というのは時間がかかるので、待っている人の何人かは順番だけとって、隣で手相を見てもらっている人も居る。
「不思議……あなたの中には、もう一人別の人格が見える」
「え?」
 驚くと同時に思い当たった。

 あんまり意識しなくなったけど、あたしの中には風間寛一というオジサンが住んでいる。

「ひょっとしたら人生の変わり目なのかも……」
 そこまで言うと、彼女は、がぜん絵描きの顔になって絵に集中し始めた。

 八百円じゃ申し訳ないほどいい絵になった。感激して何度も「ありがとうございます」を言ってしまった。
「ううん、おかげで、お客さん一杯待っていてださってるし、こちらこそよ」

 そのあと、久しぶりに風間さんの病院に向かった。

 お花は持ち込みできない病院なので、似顔絵さんから千円でサンプルの風景画を買って持って行った。

 で、残念だった。

 風間さんは、先月の末に亡くなっていた。

 行き場のない風景画だけが手元に残った……。

 

 

 

 

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