大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記 序・10『開戦』

2020-07-20 15:03:04 | 小説4

序・10『開戦』    

 

 

    

 大阪と京都の境目、天王山と男山に挟まれた地形に似ている。

 
 京都に当るのが奉天の街で、天王山・洞ヶ峠を結んだ線の南西に広がる大阪平野が漢明国だ。七百年前の山崎の合戦を思わせる。

 ただ、漢明国は大阪以西の日本を全部含めたよりも広く、兵力は当時の秀吉軍の十倍はいる。

 両軍ともパルス動力が使えないので基本的には元亀天正ころと変わらない歩兵戦闘になりそうだ。

 日本軍は天王山にあたるA高地と洞ヶ峠にあたるB高地を扼している。明智軍とは違い、B高地に陣を敷いているのが日和見の筒井順啓ではなく日本軍R兵部隊。いったん命が下れば進撃中の漢明軍を挟撃できる形だ。

 しかし、敵は十倍の兵力。それも、こちらの配置は正確に捉えられているだろう。

 合わせても一万を切る日本軍の中で人間は俺一人。あとは、員数外のJQを含めて全てロボット。

 ロボットではあるけれど、見かけは人間の兵士と変わらない。配置ごとに屯しているが息遣いや身じろぎは人間そのものだ。指揮命令する人間が違和感を持たないように可能な限り人間に似せて作られている。

「まもなく、敵の主力は奉天市街に入ります」

 中佐参謀が告げる。

「敵は仕掛けてはこないな」

「二個大隊が速度を落としてA・B高地の麓を向いています」

「抑えは僅かに二個大隊か、見くびられたもんだ」

「我が方が降りれば後退しつつ先行部隊の到着を待って殲滅戦に入るつもりでしょう」

「通信士!」

「ハ!」

 実直そうな少尉が敬礼してメモ帳を構える。捜索隊のメンバーの一人だ。

「B高地に連絡。五分後に麓の敵軍に砲撃開始、砲撃しつつ別命を待て」

「『五分後に麓の敵軍に砲撃開始、砲撃しつつ別命を待て』」

「以上」

 復唱が終わると、少尉は一段下の掩体のあるトレンチに入って発光信号を送る。ロボットなのだから情報を並列化させれば済むことなのだが、あえてアナログな通信手段をとっている。万一の漏洩を防ぐためだ。

 百に一つも勝ち目のない戦になるだろうが、俺はワクワクしている。

 戦争を芸術に例えるほど不謹慎ではないが、後世の人間が知って時めくような戦がしたい。
 時めかなければ、人は、国にも歴史にも愛着は持てない。

 俺が、いま、ここに立てているのは、その愛着があるからだ。
 それが無ければ、グランマよりも先に満州を出ている。

 
 ドドドドド! ドドドドド! ドドドドド!

  砲撃が始まった。


 パルス系の兵器が使えないので、アナログな砲撃を行っている。榴弾砲、迫撃砲、その門数、口径と射程、命中率まで、記憶野が教えてくれる。

 知識だけでなく、二分も撃ち続ければ敵に居所を知られて、逆に精密な砲撃が加えられると警告もしてくれている。

 敵は直ぐに反撃を開始、こちらと同じ古典兵器なので、なかなか有効弾にならない、しかし、あと十秒……と思った時に、我が方は俊敏に移動して射点を掴ませない。

 二度ほど射点変更したあと、右手を上げ空気をかき混ぜるように大きく振る。

 再び発光信号が送られ、B高地にも変化。

 せわしなく砲撃・射撃が繰り返されながら、A高地、B高地ともに後方へ引き始める。

 意外そうなJQ、こいつの、こういう表情を見るのが楽しくなってきた。

 しかし、表情は一瞬の事で、再び分かったような顔をする。

「JQ、俺を背負え!」

「え、ほんとうに?」
「急げ、最短コースで奉天!」

 俺を背負うと、他のR兵ともども、A高地を捨て奉天の北方向に駆けだした。

「あ、なんで胸を掴むんですか!?」
「振り落とされんためだ」
「じゃあ、これでどうです?」

 なんと、上腕骨が変形して取っ手が現れた。

「無粋なことをするな」
「もう」
「お、牛になったか?」

 古典的なじゃれ合いだが、並走している兵たちが笑っている。

 戦闘行動には無意味なことだが、兵もJQも俺の感性に合わせている。

 数秒後、背中の上で両手を振って合図する。

 疾走する部隊は長細くなって二隊に分裂、一隊は散開して追撃に移った敵を迎撃、本隊は縦に長くなりはじめた。

 
 JQが怪訝な顔をする、無理もない、師団は奉天の街を包囲し始めているのだからな。

 
 包囲戦は敵の三倍の兵力が無ければ勝利はおろか包囲さえできない。

 戦術的にはとんでもない下策、厚さ一ミリの皮でシュークリームを作るように無謀なことだ。

 予測通り追撃してくる漢明軍の威力が落ちてきた。

「やはり、読めんようだな」

 再び胸を掴もうとすると、JQの首が180度回って、至近から俺を睨みつける。

 古典のスリラー映画か。

 意表を突かれたが、それは止めておけ……。

 

 

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かの世界この世界:15『中島書店』

2020-07-20 06:16:27 | 小説5

かの世界この世界:15

『中島書店』              

 

 

 ネガを見ているようだ。

 むろん日の丸のネガが赤字に白の丸なわけないんだけど、見事に赤白逆転なので、ネガの感じになってしまう。

 神社の宮司さんなんかに聞くのはNGだ。

 神社を離れて駅の方に向かう。

 人通りの多い方が安心できるという理由だけ。

 途中、小学校の横を通る。そうだ、校舎の屋上に日の丸があったはず……見上げたそれは、やっぱり白の丸だ。

 立ち止まっていると、下校途中の小学生に怪訝な目で見られる。

 エホン。

 軽く咳払いして、小学生とすれ違う。

 エホン。

 やつも咳払いして、ニタ~っと笑いやがる。

 構わずに先を急ぐ。

 駅に通じる商店街、抜けたところに中規模書店。

 あれ? うぐいす書店のはずなのに、中島書店になってる。

 レイアウトに変わりはないんだけど、レジや本棚が微妙に違う。

 つい本を手に取りたくなるんだけど、我慢して参考書などのコーナーへ。

 目の端に見えた受験参考書の背表紙は1988年○○大学と書かれている。

 

 たしか昭和だよ……25を引けば昭和~年に変換できる。授業で習った変換式に代入……昭和63年だ。

 わたしって賢い……よく見ると参考書の西暦の下に(昭和63年)と書いてある。

 違う、確かめるのは……地図帳だ。

 あった……学校の地図帳と同じなのに値段は三倍くらいのそれを手に取って後ろの方を見る。

 世界の国々の情報が国旗と一緒に並んでいる……国旗を知っている国なんてニ十か国ほどしかないんだけど、ザッと見た限り首をひねるような国旗は無い。

 問題は日本……やっぱり白の丸だ。

 スマホがあればググってみるんだけど、ここが昭和63年ならば、スマホはおろかパソコンだってあったかどうか。

 ましてネットカフェなんてあるはずもないだろう。

 他の本を読んだら……思ったけど、気力がわかず、そのままうぐいす……中島書店を出る。

 

 ぼんやり駅前を歩いていると急に電話のベルが鳴った!

 

 プルルルル プルルルル プルルルル

 

 え? え?

 

 首を巡らすと久しく見たことが無い電話ボックスの中で公衆電話が鳴っている。

 道行く人たちはNPCのように歩き去っていき、電話のベルに関心を示す人はいない。

 ファイナルファンタジー13で、公衆電話が鳴って、それをとったライトニングがヒントを聞いていたのが思い出された。

 

 もしもし、光子です!

 

 受話器を取ると、女神さまの声が聞こえた……

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あたしのあした・59『東雲の御宗家』

2020-07-20 06:05:47 | ノベル2

・59

『東雲(しののめ)の御宗家』     


 

 へー、そうなんだ!

 ネッチは目を輝かせた。
 きららさんに呼び出されてからの不思議な話をネッチに話し終わったところだ。

「ま、結局浅野さんは忠告を聞かないで、塩の作り方教えなかったんだけどね」
「教えていたら、吉良さんとも上手くいって、松の廊下事件は起こらなくって、忠臣蔵なんてドラマは生まれなかったんだよね」
「でもさ、きらら姫と雲母藩というのは、あちこちのもめ事を解決してるみたいね」
「それが、この本に載っているのね……よっこらしょっと」
 ネッチは広辞苑ほどの『雲母市史・近世』を持ち上げた。
「市長さんの勧めで一応借りたけど、とても読み切れないわよ」
「でしょうね……」
 そう言いながら、興味深そうにページをめくっている。
「あ、これって……」

 ネッチの手は栞を挟んでおいたページで停まった。

「似てるでしょ」
「うん、この肖像画きららさんに似てる。やっぱご先祖だからかな」
 雲母寺に納められていた『雲母姫御肖像』だけは見せたいと思ったので、栞を挟んでおいたのだ。
「……あ、この絵を描かせたのは関根孫太郎だ」
「え?」
「うちのご先祖は、この孫太郎から別れたんだよ」
「え、そうなんだ!」
 本文なんか、まるで読んでないあたしだけど、ネッチはさすがだ。
「ハハ、わたしも読んでないけど、この名前は飛び込んでくるわよ」

――チャーちゃん、用意ができたわよ――

 ネッチのお母さんが用意してくださった風呂敷包を抱えて、あたしとネッチは隣町はネッチの親類の家に赴いた。
「ごめんね、付き合わせちゃって」
「ドンマイ、ドンマイ」
 親類はネッチの家の本家筋にあたる素封家で、最寄りの東雲駅のホームからでも大きな入母屋造りの屋根が見えている。
 屋根の大きさから、すぐ近くに見えたけど、歩いてみると予想の倍ほどの時間が掛かった。ま、それほどに大きいというワケ。

「やあ、お役目ご苦労さま」

 浅野さんのお屋敷並に広い座敷に通され、待つこと五分。恰幅のいい和服のおじさんがニコニコと床の間を背にして座った。
「母の名代で参りました。御宗家にはお変わりも無くお健やかな……」
「硬い挨拶はいいよ。そちら、チャーちゃんといっしょに雲母まつりの腰元に選ばれた田中恵子さんですね」
 わたしのことを御存じなので、びっくりして頭を下げなおした。
「は、はい、田中恵子です」
 突然だったので、小学生みたいに名前しか言えなかった。
「雲母市の広報に写真が出ていましたよ」
 出ていたのは知っているけど、きららさん以外は集合写真のちっこいやつなので、やっぱ恐縮。
「それでは、茶碗改めをお願いします」

 ネッチは風呂敷を解いて、袱紗に入った箱入りの茶碗を出した。

「改めます」
 おじさんは一礼して、ネッチが取り出した茶碗を手に取った。とたんに厳しい目になって、茶碗の様子を検分する。
「景色もよく風格も味わいも優れた茶碗。初釜に申し分なし。お預かりいたします」
 茶碗を箱に戻すと、おじさんはポンポンと手を打った。
「それでは、茶釜を預けます」
 おじさんの声とともに障子が開いて、おじさんと同じ和服姿のイケメンが茶釜の箱を捧げながら入って来た。
「御宗家、家元さま、お改め願います」
 イケメンが、ズイッと茶釜の箱を押し出し、瞬間イケメンの視線を感じたような気がした。

「もう、ここではくつろいでください」

 リビングに通されると、御宗家はとたんに普通のオッサンになった。着物を脱いでジーンズにセーター、ソファーの上では胡座をかいている。
「世が世ならチャーちゃんのお家が宗家、もっとも宗家というのもお茶の世界だけで、役目を果たせば、ただのオッサンだから、どうぞ気楽にね」
「は、はい、ありがとうございます」
 言われて急にくつろげるものではない。
「こないだ大阪に行って、本場のたこ焼きを覚えてきたんで、あとで実験台になってね」
 そう言うと、御宗家……おじさんは箱からたこ焼きの鉄板を取り出した。
「戦前からのたこ焼き屋さんが店じまいするというので、一式譲ってもらってね、今日がお披露目。雲母まつりには出店を出してみようと思ってるんだ」
「御宗家が、たこ焼ですか?」
「うん、こいいうのが性に合っていてね。三百年前の騒動でお茶の宗家になっていなかったら、うちの爺さんの代で、たこ焼を開発していたかもしれない」
「三百年前の騒動?」
「うん、むかし佐竹のお殿様が国替えになったあと、ここいらは天領やら旗本領やらが入り組んでいてね……」
 それは知っている。きららさんからも聞いているし、調べもした。
「東雲も、争いが絶えなかったのを、きらら姫や、そのご家来衆に裁いていただいて、その結果、いまのわたしたちがある」
 おじさんは、雲母と東雲の昔話を、たこ焼とお茶の話を交えながらしてくださった。

「お父さん、用意ができました」

 さっきのイケメンがワゴンにたこ焼きの用意一式を載せて現れた。
「それでは、お二人ともごゆっくり」
 準備がすむと、イケメンは前掛けを外しながら頭を下げた。
「孫一、お前がいなきゃ始まらんだろう」
「あ、でも……」
「チャーちゃんを呼んでくれと言ったのは、お前だぞ」
「のわー! そ、それは!」

 イケメンは、顔を真っ赤にして慌てまくった。
 

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