大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

かの世界この世界:26『風の向くまま』

2020-07-31 06:12:31 | 小説5

かの世界この世界:26     

『風の向くまま』  

 

 

 わたしには、あるべきものは有って、有ってはならないものは無かった。

 

「……健人だけがカミングアウトしたんだ」

「カ、カミングアウト言うなあ!」

 腕をブンブン振って抗議する健人、エキサイトすればするほど黄色い声になるので何ともおかしい。

「ちょ、慣れるのに時間かかるから、興奮しないでくれる……ハ、ハハハ、ハーーおっかしいよ~」

「おかしくなんかない……」

「さて……」

 右手を上げてウィンドウを開いて、ステータスを確認する。

 

 HP:200 MP:100 属性:?

 持ち物:ポーション・5 マップ:1 所持金:1000ギル

 装備:始りの制服

 

 ポーションがエントリープライズのようだ。使ってみなければ分からないが、ポーションの効き目は250くらいのものだろう。

 いろいろやったRPGの初期回復アイテムの効果がそれくらいだ。

 逆に言えば、ポーションを一回まるまる使っても最大で199しか回復しない(HPは最低でも1は残していないと死亡判定になってしまい、直近のセーブポイントまで戻されてしまう)ので、200というHPが、いかにショボイかが分かる。

 属性は経験値を稼いでコマを進めなければ決められないようだ。

 装備は始りの制服で、たぶん、いま身に付けている学校の制服のことなんだろう。

 攻撃用の武器も防御用の盾やシールドも無いので、システムは分からないが、早く獲得しておいた方がいいだろう。

 マップは『始りの草原』とある。たぶん、今いる原っぱがそうなんだろう。後にも先にも『始りの草原』しかないのは、冒険が進むにつれてマップが増えていく仕掛けになっているんだろう。

「どこに行ったらいいか分からないよ……」

 同じようにウィンドウを開いた健人が、早くも途方に暮れている。

「ヘタレるの早すぎ!」

「わ、悪かったよ」

「とにかく周囲を観察してヒントを探そ……始まったばかりの出発点なんだから、そんなに難しいはずはないよ」

「う、うん……」

 とりあえず立ち上がる。

 当てがあるわけじゃないけど、座ったままだと、気持ちが前向きにならない。

 ノロノロと立ち上がった健人は女の子らしく、制服のあちこちに着いた乾草の欠片をハタハタと掃う。

 乾草の欠片は、わずかに健人の右後ろに落ちていく。

 

 そうか!

 

 わたしは、一掴みの乾草を揉みしだいて粉々にすると「えい!」っと頭上に投げた。

 乾草の粉は欠片よりもハッキリと右後ろに流れていく。

「わかった!」

「え?」

「風の向くままよ!」

 

 草原のあちこちに乾草の山の崩れがある。たぶん、わたし達より先に来た者たちが着地した跡だろう。

 その崩れで乾草を揉みしだいては「えい!」と投げ上げ、風の向きを見失わないようにして進んでいった。

 そうやって百回近く繰り返して、やっと草原の中に伸びる一本の道を発見したのだった……。

 

 

☆ 主な登場人物

  寺井光子  二年生 今度の世界では小早川照姫

  二宮冴子  二年生、不幸な事故で光子に殺される。回避しようとすれば光子の命が無い。

  中臣美空  三年生、セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生、ポニテの『かの世部』副部長 

  小山内健人 今度の世界の小早川照姫の幼なじみ

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

あたしのあした・70『食べ過ぎと奈良漬』

2020-07-31 05:54:38 | ノベル2

・70
『食べ過ぎと奈良漬』       




 ちょっと、食べ過ぎだよ!

 また注意された。


 ベッキーとかノエとかは、二日目で諦めたようだけど、ネッチと智満子は懲りずに注意する。
「ランチとラーメン大盛りはダメだって」
「半分よこしなさい!」
 ネッチは、割り箸を構えて、あたしの横に座った。
「あ、ちょっ……」
 あたしを押しのけ、顔を密着させて、ラーメンをすするネッチ。

 ズズズーーー ズルズルズルーーー

 ラーメンをすする音がこだまし、食堂に居合わせた生徒や先生に注目される。
 英語講師のケントが目を丸くしている。学校でも評判の美少女二人が、大盛りラーメンに首を突っ込んで、盛大なバキューム音をたててラーメンをすすっている姿は相当なカルチャーショックに決まってる。
 智満子が、なにやらケントに耳打ち。すると、ケントはウンウン頷いて、スマホであたしたちを撮影し始めた。
「「ちょ、ちょっと!」」
 さすがに恥ずかしいので抗議の声を上げる。

 ギャップ萌

 というタイトルで動画サイトにアップされて、しばらく評判になるんだけど、これが本題ではない。

 あくる日の食堂では、あたしも学習してメニューを変えた。
「それも愚劣だなー」
 あいかわらず二人の親友には評判が悪い。
「だって、この方がカロリーは低いんだよ!」
 あたしは口を尖らす。
「ランチライス食べてるのって、初めて見た!」
 あたしは、ラーメン大盛りを止めて、代わりにライスに替えた。
 さすがのネッチも前日のラーメンに懲りて手を出さない。ケントは、今日も面白いことがあるんじゃないかと、スマホを手に構えている。
「ライスの横にあるのってチーズの一種?」
「あ、奈良漬。付け合わせに用意したんだけど、不評だってんでもらっちゃった」
 ポリポリといい音をさせて奈良漬を齧る。
「恵子って、奈良漬食べなかったわよね?」
「あ、そう言えば……奈良漬で意地悪されてたっけ……」
 感慨ひとしおだ。不登校になるちょっと前、食堂で意地悪されて、ランチの横に奈良漬をドバドバと積まれたことがある。積まれた本人は忘れているのに、犯人の智満子が覚えている。
 たしかに不登校が直って、いろいろ変化があって、奈良漬も食べられるようになったけど、こんなに食べるのは初めてかも。
「ちょっと保健室いこ!」
 二人に保健室に引っ張って行かれる。

「「どーいうことよ!?」」

 むりやり体重計に載せて、載せた二人が驚いている。
「ちっとも増えてないじゃん!?」
「あれだけ食べてんのに!?」
「どーしてだろうねー?」

 トボケテおいたが、正直自分でも驚いている。

 その日、家に帰って原因が分かった……。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする