大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記 序・12『戦死』

2020-07-30 13:13:31 | 小説4

序・12『戦死』    

 

 

 お、俺のソウルを……ダウンロードしろ。

 

 苦しい息の下で、やっとそれだけを言った。

 JQの他は副官のヨイチが居るだけだ。千名の大隊はサカマキ大隊長の指揮で、七千の敵威力偵察部隊の鼻先を掠めにかかっている。敵が次の動きに移るまでは時間が稼げる。

 その後の指揮は俺の頭脳でなければ為し難い。ロボット部隊の行動パターンは将棋の棋譜のように完全に読まれている。

 一か八か、JQにソウルをダウンロードさせ、JQのボディとCPを使わなければ為し難い。

「ソウルをダウンロードしたら、死んでしまう」

「このままでも、俺は……十分と持たない、や、やってくれ!」

「分かった」

 JQは両手で俺のこめかみを挟んだ。微弱な電流が流れて、俺の脳みその保全を図ろうとしている。

「ロボット法なんて無視しろ……か、かかれ」

「死んでも知らないから……」

 意識が飛んだ……目の前にキラキラ光るホールが現れたかと思うと、吸い込まれる感覚がして、本格的にホワイトアウト……してしま……った。

 

「ここからは、わたしが指揮をとる」

 

 副官のヨイチは児玉司令の死亡とわたしの目の光を三秒で確認して、復唱した。

「司令のソウルと確認しました」

「全軍に下令、すみやかに興隆鎮に集結せよ」

「『全軍、すみやかに興隆鎮に集結せよ』、全部隊に伝達します」

 きれいに敬礼を決めると、ヨイチは直近の部隊目指して120キロの速度で走って行った。

 わたしは、司令のテッパチ(ヘルメット)を外すと指先をバリカンモードにして髪の毛を刈る。

 坊主にした司令はわんぱく坊主のようだ、どこか懐かしくて……これはグランマの記憶かな?

 遺髪をポケットに収めると、ジェネレーターを放電させて司令の遺骸に照射。二十秒で灰にした。

 

 興隆鎮に戻ると、すでに部隊の八割が終結を終えている。

 

「この身はJQであるが、ソウルは児玉司令である。十分後に命令を下す。警戒を怠るな!」

 敵は混乱している。

 日本軍は国境で待ち受けていたかと思うと、奉天を包囲。そして、たちまちのうちに興隆鎮に撤退したのだ。

 行動原理が軍隊の常識から外れ過ぎている。児玉司令の履歴と古今東西の戦闘記録を検索して予想を立て直しているに違いない。

 十分もすれば、また威力偵察をかけてくるか、自軍の損失を抑えるため砲撃を加えてくるだろう。

 敵よりも早く行動しなければならない。

「司令、東京から機密電であります」

 ヨイチが差し出した通信文には恐れていたことが記されていた。

『明日の日の出は無し』

 陛下が崩御された。

 この分かりやすい機密電は、ほぼ同時に敵も察知して、天皇崩御時の日本軍の行動を探っていることだろう。検証すればいい、明治このかた天皇崩御の時に戦争をやっていたことは無い。

 腹は決まった。

 

「全軍、わたしに続け!!」

 

 一万のロボット部隊は一本棒になり、120キロの最大戦速で奉天に突撃した。

 奉天を目前にして、これは関ヶ原の島津軍の部隊行動に似ていると思った。

 二千に満たない島津軍は、西軍敗北が決まった瞬間に桃配り山の家康本陣に突撃、家康の心胆を寒からしめた上で戦場を離脱。島津軍は主将島津義弘を護りつつ、二十名ほどが、からくも薩摩に帰りついた。この時の島津軍の火の出るような吶喊に恐れをなし、幕府は幕末に至るまで手出しすることができなかった。

 

 この島津軍同様、日本軍ロボット部隊は98%が壊滅したが、混乱した漢明国は南北の国境まで後退。

 北方に逃げた漢明軍はロシア軍によって武装解除され、南に逃げた部隊は人間の指揮官が残っておらず、作戦行動をとるのに時間がかかり、あくる日に日本軍の新勢力が展開するに及んで身動きがとれなくなり、八十年続いた国ぐるみ滅んでしまった。

 

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かの世界この世界:25『あるはずのモノ ないはずのモノ』

2020-07-30 07:35:02 | 小説5

かの世界この世界:25     

『あるはずのモノ ないはずのモノ』  

 

 

 バフッ! グニュ!

 

 二つの衝撃が同時にやって来た。

 うつ伏せに落ちた前の方がバフッ! 背中側がグニュ!

 一瞬わけがわからないが、コンマ五秒くらいで爽やかな香ばしさが鼻孔をくすぐり、露出した手足にチクチクあたるものがあって、乾草の上に落ちたと分かる。

 背中側のグニュ! 重さがあるので健人が重なっているんだと見当はつくんだけど、感触が変だ。

「ちょっと、健人……」

 反応がない、落下のショックで気絶しているようだ。

 しかし、下敷きにされた方がしっかりしていて、わたしをクッションにした健人が気絶しているのは面白くない。

「ちょっと、どいて!」

 払いのけるようにして起き上がると、意識のない健人はサワサワサワと軽やかな音をさせて乾草の山から転がり落ちてしまった。

「もう、だらしのない……ウワーー!」

 乾草の頼りなさにバランスを崩し、フワフワと転げ、今度はわたしが健人の上に重なった。

 

 ムニュ

 

 不可抗力で健人の胸を掴んでしまった……しまったんだけど、この感触?

 上体を起こして、あいかわらず気絶中の……健人?

 さっきみたいにセーラーの上が捲れ上がってるんだけど、そこから半分顔を出した膨らみはブラの分?

 こいつ、イミテーションのオッパイまで付けてんのか?

 まじまじ見ると、ブラからはみ出ている部分は明らかにシリコンなんかの偽物じゃない。

「ちょ、ちょっと、健人!」

「ウ、ウ~ン」

「目、覚めた?」

「え、あ、テル……」

 変だ。

「健人、大丈夫?」

「う、うん、高いとこ苦手だから、ちょっと気が遠くなってしまって……」

「その声……」

「ん?」

「まるで女の子じゃないの!」

「え、ええ?」

 びっくりして、わたしの顔を見る健人。

 その顔の造作は、幼いころから馴染んだ健人に間違いないんだけど、顎や首筋のラインが微妙に違う。

「胸触ってみ……ばか! わたしのじゃない! 自分のだ、自分の!」

「え、あ……あ……ああ!?」

 

 自分の胸を掴んで驚愕した健人は、次の瞬間、股間に手を伸ばして泣きそうな顔になる。

 

「ど、どうしよう……無いはずのものがあって、有るはずのものが無くなってる! 無くなってるよ~!」

「しっかりしろ! わたしが守ってやるが、うろたえているだけじゃ何もできないぞ!」

「テル……なんだか男っぽい」

「え、ええ?」

 

 わたしは、おそるおそる胸と股間に手をやった……。

 

☆ 主な登場人物

  寺井光子  二年生 今度の世界では小早川照姫

  二宮冴子  二年生、不幸な事故で光子に殺される。回避しようとすれば光子の命が無い。

  中臣美空  三年生、セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生、ポニテの『かの世部』副部長 

  小山内健人 今度の世界の小早川照姫の幼なじみ

 

 

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あたしのあした・69『智満子んちの表札』

2020-07-30 05:58:29 | ノベル2

・69
『智満子んちの表札』         




 あーーーーこんぐらがってきたあーーーー!!

 雲母祭りが終わったあと、市役所の裏側でサイレンサー付きのマシンピストルで撃たれるハメになった!
「ごめん、やっぱ巻き込むわけにはいかない」
 そう言って、ショートヘアにイメチェンしたきららさんは去って行った。
 市役所の裏庭、それも雲母市のビッグイベント『雲母祭り』が終わった直後に祭りのヒロイン雲母姫と、その侍女が撃たれたというのになんのリアクションも無い。

 これは騒がない方がいい。

 直観でそう思った。
 だから、あくる日からは普通に学校に通った。

「「よく食べるわねぇー」」

 智満子とネッチの声が揃った。
「そっかなー」
 そう言いながらラーメンのスープを飲み干す。
「そーよ。ランチのデザートに大盛りラーメンてどーかと思うわよ」
「スープまで飲み干しちゃって、2000キロカロリーはいってるよ」
「どれどれ……」

 ウキャ!

 いきなりわき腹をつままれた。
「ちょ、スープ飲んでるのよ!」
「その割に贅肉になってないんだ」
「ひょっとしたら……」
「キャプ! 胸触んなあ!」
「あいかわらずの憐乳だしい」
 とりあえずは弄られる。このままで終わったらイジメられていたころと変わらない。
「海岸で死んでたのは王女様一人だけにされちゃったね」
 智満子なりに調べているようだ。
 智満子の家でお泊り会をやった翌朝、雲母ヶ浜で男女三人の水死体に遭遇した。

――雲母ヶ浜に身元不明の水死体!――

 ニュースに出たのはそれだけだった。ようやく昨日になって――水死体はゼノヴィア公国のシャルロッテ王女!――と発表された。
「男二人の死体は無かったことにされたのよね」
 若草色のプラコップにお茶を入れながら智満子がため息をつく。
「お父さんからのルートでも分からないの?」
 ネッチの瞳も真剣モード。
「この件には関わるなって、いつになく真剣な声で言われた」
 あのお茶目なお父さんが真剣……お風呂で裸同士で遭遇した時の様子からは想像もできない。
「かなりヤバイことが背景にありそうね」
「学校に爆弾予告した犯人も分かってないし……思うんだけど、王女様の事件と爆破予告は連動してるんじゃないかあ」
「ネッチ、鋭いよ。あたしもそうだと思う」
「爆破予告は雲母市始まって以来のことで、警察なんかも、かなり人を割いて警戒したらしいの……これって、王女様のことから目をそらせるためのフェイクなんじゃ……」
「でもね、深入りはしない方がいいような気がする」
 智満子は、そう言いながらスマホの画面を見せた。
「ん……智満子んちの表札じゃん」
「こーするとね……」
 智満子は指を添えて画面を拡大した。
「「え……あ!?」」
 ネッチと二人息をのんだ。

 苗字の「横」と「田」の間に穴が開いている。

「これって……」

「たぶん銃痕、で、あくる日の表札がこれ……」

 あくる日の表札に、その穴はなかった。
 

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