大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

かの世界この世界:18『相席』

2020-07-23 06:23:38 | 小説5

かの世界この世界:18

『相席』    

 

 

 B駅へ向かうために下りのホームへ。

 

 B駅は下りの先頭方向に改札があるので、ホームの前の方、一両目の印があるところに立つ。

 電車がやって来る上り方向を覗うと、三十年前のお母さんとお祖母ちゃんが現れた。

 同じ電車に乗るんだ。

 嬉しくなって少しだけ寄ってみる。

 

――あの娘さんのお蔭ね――

――そうね、クーポン券、今日が期限。気が付かなきゃ、そのまま帰ってた――

 お母さんがヒラヒラさせてるのは令和二年でもB駅近くにあるBCDマートだ。昭和六十三年だったら新規開店で間もないころかな。素敵な靴が手ごろな値段で手に入るので有名。三十年後のお母さんもちょくちょく利用しているご贔屓の量販店だ。

 ウキウキしているお母さんが新鮮でくすぐったく、わたしは、やってきた下り電車の一両隣の車両に乗った。

 連結部分のガラス窓を通して――お母さん可愛い――ホンワカしているうちにB駅に着いてしまった。

 

 改札の位置が違う。

 

 三十年前のB駅は改装前で、改札に続く跨道橋は中央寄りにある。

 わたしは、お母さんとお祖母ちゃんの後姿を愛でながら改札を出た。

――あ、クレープ屋さん!――

 お母さんがロータリー端っこに停まっているキッチンカーに気づいた。

 女子高生らしい勢いで突進すると。十人ほどの列の最後尾について、お祖母ちゃんにオイデオイデしている。

 なんだか可愛い。あんな無邪気なお母さんは初めてだ。

 

 おっと、ミカドを探さなきゃ。

 

 首を半分回したところで発見。ロータリーに繋がる商店街の角に、これまた新規開店のミカドが見えた。

 三十年後はたこ焼きのお店があるはずの場所だ。

 先輩に言われた時間まで一分あるかないかで窓際のシートに座る。

 わたしの後ろから入って来た学生風のお兄さんが――おっと――という感じで窓際の席を諦めて、奥の四人掛けに収まった。

 ミカドは流行っているようで、カウンター以外の席は埋まってしまっている。

 むろん窓際は四人掛けなので、その気になれば相席できる。満席に近いのに四人掛けを占拠していることに収まりの悪さを感じる。

 オーダーした紅茶を待っているうちに出版社の営業見習いって感じの女性が入って来た。

「すみません、ここ、いいですか?」

 わたしの四人掛けの向かいを指して笑顔を向ける。

「あ、ええ、どうぞ」

 斜め前に座った見習女史は、ぶっといシステム手帳とA4の書類やチラシの束を出して仕事を始めた。

 これなら四人掛けでなきゃならないはずだと納得。

 紅茶を飲み終えたころ、見習い女史は席を立ってカウンターのピンク電話に向かった。

 ピンク電話の傍が、さっきの学生さん。

 学生さんは、チラリと女史を見る。微妙に笑顔になった風。

 女子は電話が終わると「お邪魔してごめんなさい」。のこやかな笑みをコーヒー代といっしょに残して出て行った。

 あ……とたんに目の前が白い闇に満ちてきた。

 

 さあ、約束の三十分が過ぎた。わたしもお勘定を済ませてミカドを出る。

 

 キキキーーーーグワッシャーーーーン!!

 

 ロータリーの方でクラッシュ音。

 セダンが歩道に乗り上げて、ベンチや花壇やなにやらをなぎ倒し、バス停に激突して停まっている。

 交通事故!?

 愕然とした。

 セダンの前方に、捻じれたように転がっているのはお母さん! お祖母ちゃんがへたり込んで呆然としている。

 

 おい、警察! それより救急車! すごい血  だめかもな  早く救急車!

 

 目の前の風景が急速に色彩を失い、次に輪郭が無くなり、わたしは白い闇に投げ出されてしまった。

 

 

 

☆ 主な登場人物

 寺井光子  二年生

 二宮冴子  二年生、不幸な事故で光子に殺される

 中臣美空  三年生、セミロングで『かの世部』部長

 志村時美  三年生、ポニテの『かの世部』副部長 

 

 

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あたしのあした・62『お札納め所』

2020-07-23 06:12:53 | ノベル2

・62
『お札納め所』    



 巫女さんのアルバイトは今日が最終日

 神社のお正月は三が日だけじゃないんだ。
 数は少ないけど、四日以降にお参りに来る人もいるし、三が日の賑わいの後始末もある。
 それも、今日が最終日。

「十時にトラックが来るから」

 神主さんに言われ、巫女装束をたすき掛けして『お札納め所』に向かう。
『お札納め所』は御手洗所の裏にある。板囲いに簡単な屋根が付いた二坪ほどの小屋。
 昔は、古いお札や破魔矢やしめ縄は、神社ごとでお焚き上げをやっていた。
 近ごろでは、たいていの神社は住宅事情や大気汚染の問題で昔ながらのお焚き上げができない。
 そこで神社の組合みたいなところがトラックで回収し、まとめて排気ガスや二酸化炭素の処理ができるところでお焚き上げしている。
 そのトラックがやってくるので、バイト巫女たちが作業にかり出されるわけ。

 あけすけに言えば廃棄処理なんだけど、神さまに関わるものなのでゾンザイには扱えない。

 投げてはいけない、踏みつけてはいけない、息がかかってはいけない……などの決まりごとがある。
 普通にやったらニ十分ほどで終わる作業が一時間近くかかる。
「うんこらしょ!」とか「そーれ!」とか、思わず声が出てはボスの巫女さん(神主の娘さん)に怒られる。
 掛け声って大したものだということが分かった。ここ一番で声を掛けなければ、人間というのは踏ん張れない。
「フン!」とか「スン!」とか、堪えた声が風船から空気が漏れるように出てしまう。ベッキーは、この「フン! スン!」が色っぽい。

「なんだかエロゲの濡れ場みたい」

 ノンコの呟きにはみんなが笑った。怒られるかと思ったら、ボス巫女さんも笑っている。
 あとで聞いたんだけど、こういうお色気の笑いは神さまがお喜びになるそうなのだ。

 作業が終わると、巫女装束のみんなから湯気が立っている。やっぱきつい作業ではあった。

 神さまは汚れとか穢れを嫌うので、みんなで社務所裏の参集殿というところのお風呂に入った。
 解放されたようにキャーキャー言いながらシャワーして、新しい巫女装束に着替える。

「あれ?」

 参集殿から境内に出ると『お札納め所』が気にかかった。なにかやり残したような気になったのだ。
 ひとり『お札納め所』に戻ると、端っこの方にハガキほどのお札が残っていた。
 なんで取り残したんだろ?
 そう思いながらお札に手を掛けた。

 ウッフン……!

 ゾクっと尾てい骨から背中にかけて電気が走ったようになり、ノンコ以上の色っぽい声が出てしまった。
 なんとかお札を持ち上げて振り返ったら、出口が電柱一本分ほど遠のいてしまっている。
「え、うそ……」
 直ぐに出なきゃ大変なことになるという気がして、出口を目指すんだけど、出口はいつまでたっても近づいてこない。
 で、身体が、なんだか得体のしれない快感に痺れて素直に前に進まない。
 このまま痺れる快感の中に居たいという気持ちがせきあげて来る。でも、いま逃げ出さなければ、永遠に閉じ込められるという焦りもあって、最後は誰か分からない励ましの声で、やっと外に出た。

 すると、胸に抱えていたお札が見る見るうちに儚くなって、十秒もしないうちに消えてしまった。

 交代でお昼にして、お札販売所に座った。
 鳥居の向こうから、七人の高校生がやってくる。七人の内一人はロンゲの女の子だ。
 境内の真ん中まで来ると横一列に並んで、見たこともない楽器を取り出して、なんだか懐かしい演奏を始めた。
 そして、いつのまにか天宇受賣命さんが七人の前で激しくも美しく踊っている。

『ありがとう、やっと自由になれました』

 天宇受賣命さんと七人は光になって境内を……神社を……雲母の街全体を覆いつくしてしまった。

 お世話するって、これだったのかなあ……。
 

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