大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・164『日光・3』

2020-07-09 12:35:37 | 小説

魔法少女マヂカ・164

『日光・3』語り手:マヂカ    

 

 

 あいつら許せない……

 

 ツンが「わん!」と吠えるのも忘れてドスの効いた呟きをしたのは三猿のせいだと思った。

 犬猿の仲と言うし、口と片目・片耳だけを塞いだ三猿というのは、週刊誌の記者のようで、とても人を喰った感じになる。ムカついても仕方がないと思うのだが、ツンの憎悪は三猿のその上、石段を上がった表門の向こうに向かっているのだ。

「あいつらは上野の山に籠っていた彰義隊……甲陽鎮部隊崩れも混じっている……」

「なに、それ?」

 友里にはチンプンカンプンのようだ、学校では習わないものな。

 甲陽鎮部隊、懐かしい、京を追われた新選組の生き残りが五千両の軍資金と大砲二門を与えられて甲府を目指した部隊だ。名前こそ勇ましいが、無血開城を決めた勝海舟たちには迷惑な存在で、体よく江戸を追い出され、甲州勝沼の戦いでせん滅された連中だ。

 大将の近藤勇は最後まで「拙者は大久保大和だ、近藤勇などと云う者ではない!」と叫んでいた。

 卑怯未練な奴と蔑まれ、切腹することも認められず、下人同様の斬首にされ板橋宿で晒し首になった。

「近藤を知っているの!?」

 ツンが剣呑な目を向けてくる。

「語るほどの事ではない、ツン、逆上せるなよ、やつらは蹴散らすだけでいい。真の敵は、もっと奥に居るからな」

「う、うん」

 江戸の無血開城はツンの主である西郷隆盛と勝海舟の話し合いで決められた。だから、その主の意思に反して立ち向かってきた者たちが許せないんだ。きちんと手綱を引いてやらないと、ツンは暴走しかねない。

 この亜世界では、そういうキレた者たちが化け物になってしまっているようだからな。

「来る!」

「「うん!」」

 同時に風切丸を抜き放ち、正面の石段に足を掛けて跳躍すると表門を超えて神厩舎と三神庫の間の石畳に着地する。

 セイ!

 風切丸を旋回させると、十数匹の化け物の首が飛んだ。

 化け物たちは、統一した軍装ではない。ある者は先祖伝来の甲冑に身を固め、ある者は彰義隊や新選組の御仕着せの上に剣道の胴を着け、またある者は幕軍の洋式軍装にゲベール銃やミニェー銃を携えている。

 しかし、軍装の中身は、ことごとく白骨、あるいは骨と皮のミイラである。こいつらの本性は果たせぬ恨みを追いかけてきた魂魄なのだ。魂魄は渾身の力でなければ切れるものではない、たった今首を落としてやった者の半分は復活して、再び挑みかかって来る。

「心して切れ! こいつら復活するぞ!」

 表門の外に叫ぶ。

 返事は無いが斬撃の音で太刀筋が変わったのが分かる。

 頑張ってくれているようだが、人化して間もないツンと、魔法少女と言うよりは戦闘員の友里には限界がある。大方の敵を引き受けざるを得ない。

 神厩舎の三猿は居ないだろうと思ったら、ちゃっかり神厩舎の軒下に戻って、両眼を見開き両耳をそばだて、白い歯をむき出しにケタケタ笑いながら観戦している。

 太刀の勢いで切ってやろうかと思う。今なら「あ、勢いで切ってしまった」で済むだろう。

 すると、いきなりマスクを出すと覆面にして、プルプルと首を振る。

 見世物じゃない、本当に切るぞ!

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

かの世界この世界:04『二日前』

2020-07-09 06:10:26 | 小説5

の世界の世界:04

『二日前』   

 

 

 電話一本するだけでいい。

 眩しい……思わずつぶった目を開くと、「また徹夜……」お母さんが部屋の電気を点けたところだ。めったに完結しない小説のプロット書いているうちに寝落ちしたんだ。

 パソコンの右下を見て 日付が二日もどったと分かった時には狼狽えた。

 だって、あの時、ああしておけばよかったという後悔はしょっちゅうだけど、実際に戻れることなんてありえない。

 ……かの世部のことは本当?。

 胸から顎にかけての傷も消えていた。ブチギレた冴子の爪にひっかけられて、制服のブラウスを血に染めた傷が。

 テレビは日曜朝のワイドショーをやっている。なんでもかんでも総理大臣のせいにする野党の国対委員長が七面鳥を思わせる表情で与党を批判している。

 でも、明日には野党議員が文科省高級官僚の娘の不正入学に関与していたことが公になって、釈明に追われることになる。

 アジア某国のダムが決壊寸前……これも、明日には決壊して犠牲者が出る。

 日本とK国と某国の合同事業で、それぞれの国の威信をかけたプロジェクト。それが完成寸前の豪雨によってあっさり決壊。

 某国政府とK国は『決壊にいたることはありえない』と発表しているが、日本の企業は沈黙を持って暗に警告している。

 

 一瞬頭をよぎる。

 

 これは壮大なドッキリで、テレビに流れているのは録画したもの。

 だって、時間を巻き戻して有ったことを無かったことにするなんてあり得ない。

 学校で起こった忌まわしいことは、全て暗示をかけられたりして思いこまされているだけなんじゃないか。

 

 以前アイドルグループの番組でこんなのがあった。

 

 体験コーナーで高校の授業を受けさせられたアイドルが――1+1はいくら?――と先生に質問され「2です」と答えて――ええ!?――と、驚かれたり不思議がられたりするというのがあった。スタッフやスタジオ見学のオーディエンスまでもが――ええ?――という表情になり、1+1=1が正しいと言い出すんだ。

 つまり大掛かりにやられると、常識では考えられない状況でも信じてしまうということなんだ。

 テレビを操作して録画を流すなんて、そんなに難しいことじゃない。

 すると、かすかに爆音がして、上空からアナウンスが聞こえてきた。

――……本日新装開店のスーパームンダイでございます、店舗改装のためお休みを頂いておりましたが、本日よりの新装開店。開店セールの特売といたしまして……――

 今時めずらしい宣伝飛行だったので鮮明に覚えている。

 それで、家を出るのをニ十分早めてムンダイでお弁当を買っていったんだ。

 ドッキリの為に飛行機までは飛ばさないだろう……いや、今どきの放送局ならそれくらいは。

 どっちつかずのわたしは、駅前へ急いだ。

 まさか新装開店のやり直しまではやらないだろう。中学のブラスバンドまで呼んで、紅白の幕に薬玉、それに、あのオバチャンたちの行列……

 ドーーーン! パチパチパチ!

 花火が爆ぜる音がして、通りの向こうに花火の爆炎が三つ四つと花開き、キンキラキンの花吹雪にたくさんのミニパラシュート……その二つが屋上看板のマスコットの鼻の下に引っかかり、鼻血みたいになった。まさか、それまでは再現できないだろう。

 いや、キチンと鼻血になった。

 パラシュートは五色あって、そのうちの赤が同じように引っかかるなんてあり得ないだろう。

 店の前は同じようにオバチャンたちの大行列。

 開店の薬玉が割られ、ファンファーレと共にムンダイが新装開店した。

 まだ、どこか半信半疑のわたしは行列に近づく。

 オバチャンパワーは凄い! あれよあれよの間に列に組み込まれ「おねーーちゃんも!」と、前のオバサンがカゴを渡してくれる。一昨日と同じだ……冷凍食品のところでは「ねえ、あのウィンナーとってよ!」、オバチャンに言われて、完全に二日前の流れになってしまう。

 そして、一昨日同様にお弁当用にお握りやお惣菜を買ってしまう。

「そうだ、電話して断らなきゃ」

 スマホを出して、夏祭り実行委員会青年部長さんに電話する……いや、電話じゃ押し切られたら断れない。

 メールにしよう。

――急用で行けなくなりました。申し訳ありません――

 よし、これで行かなくて済む。

 したがって、ヤックンの告白を受けることもなく、ヤックンを想っていた冴子を狂わせることもない……。

 

☆ 主な登場人物

 寺井光子  二年生

 二宮冴子  二年生、不幸な事故で光子に殺される

 中臣美空  三年生、セミロングで『かの世部』部長

 志村時美  三年生、ポニテの『かの世部』副部長

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

あたしのあした・48『エンターキー』

2020-07-09 05:41:10 | ノベル2

・48
『エンターキー』
      

 

 ネットカフェには慣れているつもりだった。

 風間寛一であったころ、議員秘書として思索にふけったり資料を作ったり、時には関係を大っぴらにできない相手とのコミュニケーションの場として利用していた。
 スーツ姿のオッサンというのは、こういうところでは目立たないのでウッカリしていた。

 今は高校一年生の田中恵子の姿なのである。

 制服の上からブルゾンを羽織っているので学校を特定されるようなことはないけれど、昼間のネットカフェで女子高生と言うのは目だって仕方がない。カウンターの清水という店員は、マニュアル通りの対応ながら爽やかな感じの好青年だと思っていたが、今日のわたしを見る目は好色青年だ。
 ブースにたどり着くまでにオッサンとニイチャンがすれ違ったが、粘着質の目で見られるのは閉口だ。
 この男たち、街中では普通の顔つきをしているのだろう、ネットカフェは風俗ではないのだけど、男の自制心を一枚剥いでしまうようなものがあるのかもしれない。

「あ、忘れ物」

 ブースに入ると、すれ違ったオッサンが独り言を言って、左隣のブースに戻って来た。忘れ物であるわけがない。
 パソコンの機種が替わっていたので、ちょっと操作に手間取る。
「お、女の子……」
 扉の向こうで遠慮のない声。
 ブースの扉には小さなガラス窓があって中が覗ける。以前は意識もしなかった小窓が煩わしい、脱いだブルゾンをカーテン代わりに掛ける。
 USBをぶち込んで中身を確認する。迷いはないが、勢いで余計なものまで流してはいけない。確認の上にも確認だ。
 右隣のブースに人が入る気配。言葉にならない声が聞こえる、どうやら学生のカップルのようだ。
 壁一枚向かいのブースでは、ひたすらキーボードを打つ音がする。たぶん営業用の資料かなにかを作っているのだろう、時たまエンターキーやバックスペースキーを打つ音が神経質そうに響くので、それと知れる。

「……よし」

 小さく確認の声をあげ、もう一度、静かに深呼吸。
 エンターキーを密やかに押す。

 これで、全ての情報が明らかになる。

 わたしが流したのは、春風さやかのパスポートと戸籍謄本のコピー、それに政務活動費の詳細、そしてトドメがゼノヴィアの大統領選挙に投票した時のさやかの映像だ。
 これまでのさやかの嘘が青天白日のもとに晒され、さやかは議員辞職に追い込まれるだろう。
 最後に念入りに履歴を消去する。

 わずか十五分ほどの作業だったが、全力疾走をした後のように汗が噴き出した。

 暑くてたまらなかったけど、制服が見えてはいけないのでブルゾンを羽織って外に出る。
 
 スマホを出して智満子に電話。ちょっとバカ騒ぎどもやらなければ居たたまれない秋の夕暮れだった。

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする