魔法少女マヂカ・164
あいつら許せない……
ツンが「わん!」と吠えるのも忘れてドスの効いた呟きをしたのは三猿のせいだと思った。
犬猿の仲と言うし、口と片目・片耳だけを塞いだ三猿というのは、週刊誌の記者のようで、とても人を喰った感じになる。ムカついても仕方がないと思うのだが、ツンの憎悪は三猿のその上、石段を上がった表門の向こうに向かっているのだ。
「あいつらは上野の山に籠っていた彰義隊……甲陽鎮部隊崩れも混じっている……」
「なに、それ?」
友里にはチンプンカンプンのようだ、学校では習わないものな。
甲陽鎮部隊、懐かしい、京を追われた新選組の生き残りが五千両の軍資金と大砲二門を与えられて甲府を目指した部隊だ。名前こそ勇ましいが、無血開城を決めた勝海舟たちには迷惑な存在で、体よく江戸を追い出され、甲州勝沼の戦いでせん滅された連中だ。
大将の近藤勇は最後まで「拙者は大久保大和だ、近藤勇などと云う者ではない!」と叫んでいた。
卑怯未練な奴と蔑まれ、切腹することも認められず、下人同様の斬首にされ板橋宿で晒し首になった。
「近藤を知っているの!?」
ツンが剣呑な目を向けてくる。
「語るほどの事ではない、ツン、逆上せるなよ、やつらは蹴散らすだけでいい。真の敵は、もっと奥に居るからな」
「う、うん」
江戸の無血開城はツンの主である西郷隆盛と勝海舟の話し合いで決められた。だから、その主の意思に反して立ち向かってきた者たちが許せないんだ。きちんと手綱を引いてやらないと、ツンは暴走しかねない。
この亜世界では、そういうキレた者たちが化け物になってしまっているようだからな。
「来る!」
「「うん!」」
同時に風切丸を抜き放ち、正面の石段に足を掛けて跳躍すると表門を超えて神厩舎と三神庫の間の石畳に着地する。
セイ!
風切丸を旋回させると、十数匹の化け物の首が飛んだ。
化け物たちは、統一した軍装ではない。ある者は先祖伝来の甲冑に身を固め、ある者は彰義隊や新選組の御仕着せの上に剣道の胴を着け、またある者は幕軍の洋式軍装にゲベール銃やミニェー銃を携えている。
しかし、軍装の中身は、ことごとく白骨、あるいは骨と皮のミイラである。こいつらの本性は果たせぬ恨みを追いかけてきた魂魄なのだ。魂魄は渾身の力でなければ切れるものではない、たった今首を落としてやった者の半分は復活して、再び挑みかかって来る。
「心して切れ! こいつら復活するぞ!」
表門の外に叫ぶ。
返事は無いが斬撃の音で太刀筋が変わったのが分かる。
頑張ってくれているようだが、人化して間もないツンと、魔法少女と言うよりは戦闘員の友里には限界がある。大方の敵を引き受けざるを得ない。
神厩舎の三猿は居ないだろうと思ったら、ちゃっかり神厩舎の軒下に戻って、両眼を見開き両耳をそばだて、白い歯をむき出しにケタケタ笑いながら観戦している。
太刀の勢いで切ってやろうかと思う。今なら「あ、勢いで切ってしまった」で済むだろう。
すると、いきなりマスクを出すと覆面にして、プルプルと首を振る。
見世物じゃない、本当に切るぞ!