大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

かの世界この世界:09『中臣先輩のロンゲ』

2020-07-14 06:35:24 | 小説5

 

かの世界この世界:09

『中臣先輩のロンゲ』    

 

 

 落ち着いてくると部室の様子が分かって来た。

 

 教室一つ分ほどの部室は畳敷きで、くつろいだ雰囲気なんだけれど窓が無い。三方が障子と襖で、そこを開けると廊下とか別室に繋がっているのかもしれないけど、なんだか、そこには興味を持たない方がいいような気がする。

 中臣先輩が立ち上がって、つられて首を巡らすと、驚いたことに上段……というのかしら、一段高くなっていて、壁面は全体が床の間みたい。三つも掛け軸が掛かっていて、その横は違い棚で、香炉やら漆塗りの文箱みたいなのが上品に置いてある。

 これって、時代劇とかである……書院だったっけ、お殿様が太刀持ちのお小姓なんかを侍らせて家来と話をしたりするところだ。映画かテレビのセットみたいだ。

 中臣先輩は、襖の向こうへ行ったかと思うと、お盆に茶道で使うようなお茶碗を載せて出てきた。

 制服姿なんだけど、お作法に則っているんだろうか、とても和の雰囲気。摺り足で歩くし、畳の縁は踏まない。

 その黒髪とあいまって、大名屋敷の奥女中さんのような雰囲気だ。

 

「まあ、これをお上がりなさい。気持ちが落ち着くわ」

 

 前回と違って落ち着いているつもりだったけど、一服いただくと、自分でも分かるほどに呼吸も拍動も、春のお花畑のように穏やかになってきた。

「落ち着かないと、これからのお話は理解できないからね」

「は、はい」

 もっともだ、うちの学校は古いけど、旧校舎とはいえ、こんな部屋があるのは、そぐわないよ。元々は作法室かなんかだったのかもしれない。そうだよね、学校で畳敷きって言えば作法室か、今は使われなくなった宿直室くらいしかありえない。

「これを見てくれるかしら」

 志村先輩が上段の間を示すと、掛け軸があったところが大型のモニターに代っていて、どこかアジアの大都市を映している。

「大きな三つ子ビルがあるでしょ」

「あ、ニュースで見たことがあります。東アジア最大のビルで、屋上がプールになっていて三つを繋いでいるんですよね」

「うん、先月から右側のビルが立ち入り禁止になってる」

「え、そうなんですか?」

「うん、傾き始めていてね、いずれ、他の二つも使われなくなるわ」

「そうなんですか?」

「日本の他に三つの国の建設会社が入って出来たビルなんだけど、技術の差や手抜き工事のために完成直後から傾き始めてね」

「これを見て」

 中臣先輩が手を動かすと、屋上のプールが3Dの大写しになった。

「あ、あれ?」

 プールの水は片側に寄ってしまって、反対側ではプールの底が露出している。

「東側のビルが沈下し始めてるんでプールが傾いているの」

「主に、X国の手抜きからきてるんだけどね、他の部分が、いくら良くできていても、こういうダメな部分があると、使い物にならなくなる」

「三カ月後には、こうなるわ」

 音は押えられていたが、東側が崩れ始めると、それに連れて他の二つも崩壊してしまった。

 3Dの画像なんだけど、崩壊の風圧が感じられ、中臣先輩の髪を乱暴にかきまわし、先輩は幽霊のようなザンバラ髪になってしまった。

「あ、髪の毛食べちゃった」

「トレードマークなんだろうけど、切るかまとめるかしたほうが良くない?」

「だ、大丈夫よ……」

「さあ、話はここからです……あ、あ~、ペッ、髪が……こんどは絡んで……」

「やっぱ、切ろうよ」

「あ、いや、それは……」

「覚悟しなさい!」

「と、時美さん、それは無体です!」

 志村先輩が中臣先輩を追いかけて、不思議な説明は中断してしまった。

 

 

☆ 主な登場人物

 寺井光子  二年生

 二宮冴子  二年生、不幸な事故で光子に殺される

 中臣美空  三年生、セミロングで『かの世部』部長

 志村時美  三年生、ポニテの『かの世部』副部長

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あたしのあした・53『雲母姫の母』

2020-07-14 06:25:27 | ノベル2

・53

『雲母姫の母』         

 

 

 秋田県は美人が多いことで有名だ

 秋田美人ていうでしょ、これには理由があるの。
 秋田の殿様は佐竹さんというんだけど、元々は雲母市がある茨城県に八十万石で居たお殿様。
 関ヶ原の時にどっちつかずの態度で居たものだから、家康さんに秋田に飛ばされた。

 悔しがった殿様は、領内の可愛い女の子をみんな移転先の秋田に連れて行っちゃった。
 だから、秋田には美人が多い。
 可愛い子が居なくなった茨城地方は、一時期ブスばっかりになった……まあ、言い伝えなんで目を三角にしないでください。

 佐竹さんは秋田に行って二十万石ほどに減らされたので、ご家来を減らさなきゃならない。
 それで、まずは身内から。
 分家に当たる雲母内匠頭(きららたくみのかみ)を改易にした。

 その雲母内匠頭の五代目が雲母姫。

 雲母姫のお母さんは、雲母さんちに済まないと思った佐竹の殿様が、特別に嫁がせたお姫様……ちょっとドラマ仕立てで説明。

「おい、御行列が通るぞ」

 畑仕事をしていたお百姓たちは、肝煎さんの一言で畦道に土下座した。
 頭を垂れたお百姓たちの前を姫カゴの行列が差し掛かる。姫カゴとは云え大名カゴの一種なので相当な重さがあるので町カゴのように二人で担げるものではない。それを二人の中間(ちゅうげん)が易々と担ぎ、残り二人は付き従っている。どうやら空カゴのようだ。
 すると、こともあろうか、姫カゴはお百姓たちの目の前で停まったではないか!

 与作は土下座した頭を一層低くしながらも狼狽えた。

「姫、刻限でございます」

 行列を差配していたお侍が、土下座のお百姓衆の方にに呼びかけたから、みんな驚いた。
「あー、もう、こんな大そうなことをして!」
 与作の後ろで平伏していた百姓娘が顔を上げた。
「姫、これは父上とのお約束でありまするから、このジイに免じて聞き分けてくだされ」
「だって、せっかく村の衆にも馴染んでいただいたんです。ひっそりとお嫁入りしたいじゃないの」
「お聞きわけくだされ、雲母様は百姓身分であるとは申せ、もとを辿れば佐竹家の御連枝。ケジメと申すものがございます」

 姫は思った、これは父である佐竹のお殿様の後ろめたさの現れなんだ。

「与作のおじさん、お世話になりました。亡くなったおかみさんの親類の子だなんてウソ言ってごめんなさい。あたし、この度、雲母さまの嫁になる雪です」
 姫はペコリと頭を下げた。与作さんは、今の今までカミさんの姪だと思っていた姫に恐縮しまくった。
「お世話ついでに申し訳ないんですけど、川向こうの畑仕事している若様をお呼びしてくれませんか」
「へ、へい、ただいま!」
 与作さんは、肝煎さんの慌てた目配せで川向こうの畑にすっ飛んで行った。
「姫、婿殿とのご対面は祝言の席まではなりませんぞ」
「フフ、婿殿とは、この村に来た日から知り合いです。雪としては、祝言の前にお会いしたかったですから。これくらいのことは大目に見てもらっても良いと思います。そうでしょ、ジイ」
「良いも何も、もう、このように知られてしまって……」
「あら、まだ本題はこれからですよ」

 そう、雲母姫は、その母の雪姫のころから色々とあったのだ……。
 

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