大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記 序・7『JQがビタースマイルになった』

2020-07-04 11:21:09 | 小説4

序・7『JQがビタースマイルになった』  

 

 

 並の軍隊における人とロボットの比率は1:3だ。

 ロボットは優秀だが戦闘において独創性が無い。ロボットは戦闘行動や軍事行動の型を憶えているに過ぎない。それは型である以上、優れたCPやAIには読み取られてしまい、すぐに対策がたてられて勝敗が付いてしまう。むろん読みが早く兵力の多い方が方が勝利する。

 CP同士の将棋を考えれば分かる。

 CPは、将棋のルールと無数の型を憶えている。型を読む早さと深さでCP同士の将棋は片が付く。

 だから、世界の軍隊は人間の参謀や指揮官を配置している。ミスを起こす可能性は高くなるが、軍の行動に不確定要因を加え、敵に予想させないためだ。

 人口が日本の十倍という漢明国は底辺の分隊長まで人間だ。

 米軍やロシア軍で小隊長クラス、我が日本軍は中隊長クラスにならなければ人間が居ない。

 二百年以上昔の敗戦が尾を引いて、いまだに軍隊は国民から忌避される風がある。

 その日本軍においても人間が師団長一人だけという編成は、世界中で、このマンチュリア興隆鎮駐屯軍しか存在しない。

 

 日本政府は、人間を多く配置すれば漢明国を刺激しすぎると日和って、一時は駐留軍の全てをロボットだけにすることを本気で考えていた。

 ロボットは、いかに人間に近いものになったとは言え道具に過ぎない。

 ロボットだけの軍隊ならば、いくら壊れても遺棄されても問題は無い。

 二百数十年前、ドイツ軍に追われた英仏軍はダンケルクから決死の撤退に成功して、40万人の英仏軍兵士は無事に救出された。

 そして、ダンケルクの海岸には数多の戦車や火砲、車両が遺棄された。遺棄された兵器を惜しむ者は皆無であった。それは単なる道具でしか無いのだから、もったいないという気持ちが起こっても、可哀想とは思われない。

 二十三世紀の今日、ロボット兵はまさに道具なのだ。仮に全滅しても日本国民の胸が痛むことは無い。国際的にも、人間がドンパチするほどの非難はしない。満州で日本製の兵器が破壊されたという認識に留まる。昔、中東戦争でトヨタのトラックが使われたと言って日本を非難する国が無かったように。

 

 政府と軍の意向を無視して、俺は満州に残った。

 

 駐留軍がロボットになっても、マンチュリアには多くの日本人が残っている。在留日本人たちは、駐留日本軍が完全にロボット化されることに不安と不信感を持っていた「乗員が乗っていない戦車だけを残したようなものだ」とカルチェタランで息巻く者もいた。「だから、さっさと日本に引き揚げろってことでしょ」と白けていたグランマが最後まで残っていたのも皮肉ではあるがな。

 俺が残ったのは、軍人としての矜持だ。

 日本とマンチュリアは骨抜きにされたとはいえ日マン安全保障条約が結ばれている。歴史的に日本の評判を考えるなら、やはり人間が残らなければならない。

 日本は武士道の国だ……って、恥ずかしいことを言わせるな。

「JQ、お前は、やっぱり単なるダンサーじゃないな」

「いまの児玉さん、素敵でしたよ」

「JQ、焼酎に何か入れたか?」

「愛情とリスペクトの気持ち」

 敵の攻撃は、今夜半中だと踏んでいる。司令官室で束の間の待機の相手をJQがしてくれている。敷島博士の調整がどうなっているのか、俺はつい多弁になってしまっている。CIC(戦闘指揮所)に籠って眉間にしわを寄せているには性に合わない。カルチェタランの帰り道、三度にわたって襲撃を喰らったことから見ても、現状での敵情はほとんどブラフ、全くあてにならない。

「それに、児玉さんは、ロボットを可哀そうに思ってくださってる」

「JQ、おまえ、本当はグランマの全てをインストールし終えているんじゃないのか? 完璧じゃないのは、わざとじゃないかという気がする」

「どうして?」

「ここに来るまでの戦いっぷりだ。俺も全ての戦術教範や戦闘術を熟知しているわけではないが、JQの戦いっぷりは効果的だ」

「そうだった?」

「三度目などは、敵はJQの戦闘行動を解析しながら戦っていたが、すべて空振りだったぞ」

「敵よりもデータが多いからじゃないかしら、わたしの戦術データは認知してるだけでもクロマニョン人からこっちのがあるし、自分で認知しているスペックはカタログデータに過ぎませんし」

「戦闘が始まったら、隙を見て逃げるがいい。思ったより敵は性急だ、状況によっては庇いきれないかもしれない」

「それは、司令ご自身、戦死の可能性が高いと言うことですか?」

「ああ、ここに来るまでの敵の戦いっぷりと、あとは俺の勘だ」

「心がけておきます」

 JQがビタースマイルになった。

 脳みその深いところで明滅するものがある、どうやら敵襲が近い。

 

 

 

 

 

 

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あたしのあした・43『あたしがわたしに』

2020-07-04 06:24:15 | ノベル2

・43
『あたしがわたしに』
      

 

 

 わたしの肉体は滅びかけている。

 脳腫瘍は生命の根幹をつかさどる脳幹に達しようとしている。
 今の段階で意識が戻ったとしても、喋ることはおろか指一本も動かすことはできないだろう。

 心も、ほとんど恵子ちゃんに同化してしまっている。

 同化することは構わない。わたしの知識や感性やもろもろのアビリティーが彼女の役に立つなら結構なことである。
 わたしは、ほとんど彼女の意識の底に沈んでしまって、彼女に取り込まれることを願っていた。

 だが、このまま滅びの時を待っているわけにはいかなくなった。

 春風さやかが、議員としても人間としても破滅しかけているのだ。
 さやかの不利になることは、全て秘書のわたしが企んだり不手際だったということで切り抜けられるようにしておいた。
「親の代からの秘書である風間に任せすぎておりました。申し訳ありませんでした」
 これで押し通しておけば、一時の恥をかくだけで済んでいたはずだ。全ては死んでいくわたしが墓の中まで持っていけばいいことであるはずだった……。

「恵子お、まった、そんなの見てるのお!?」

 首っ玉に智満子が抱き付いてきた。
「あ、ごめん。もう帰る?」
「うん、てか、いっしょに行くって言ったっしょ?」
「そだね、行こっか!」
 わたしはパソコンをシャットダウンすると通学カバンをひっつかみ、智満子に絡まれながら国語準備室を出た。

 お仲間たちは、もう校門を出ようとしていた。

 あー、やっと来たあ!

 お仲間たちの声が揃う。
「恵子ったらフェイントなんだよ。図書室にも情報教室にも居なくってさ、国語準備室の奥に籠ってたんだから」
「あそこって、一応は図書室の分室の区分なんだよ」
「そんなの普通の生徒には分かんないわよ」
「そうよ、なんで、あんなとこのパソコン使ってるんよ」
「それは、人の目を気にしないで集中してやれるからじゃん」
 生徒が当たり前に使えるパソコンでは「なにをやってるの?」と不思議がられたり驚かれたりするようなことばかりやっている。
 国語準備室のパソコンは奥まったところにあり、先生たちもめったに使わないので担任の萌恵ちゃん先生に頼み込んで使わせてもらっているのだ。
「でもさ、雲母(きらら)ホテルの温泉だよワクワクしね?」
 ベッキーが目をカマボコ形にして舞い上がっている。
「雲母ホテルの社長さんて、気の利いた人だよね」
 雲母ホテルと言うのは、水泳の補講のためのマイクロバスを貸してくれたホテルだ。その社長さんが、ここのところツイテいないわたしたちに同情して改築したばかりの温泉に招待してくれたのだ。

 せっかくだから、この日ばかりは恵子ちゃんに意識の表面に出てきてもらおうかと思ったのだが断られた。

――なんだか特等席にいるみたいで面白いんです。風間さん、よろしく!――

 わたしは本格的に田中恵子になっていく決心を固める。ま、二か月、意識の底に沈みながらも田中恵子の中にいたのだ、なんとかなるだろう。
「ねえ、恵子って、このごろ自分のこと『わたし』って言うよね?」
 ネッチが思わぬところを指摘してきた。一人称なんて、なんの意識も無かった。

 思いがけず狼狽えてしまった。

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プレリュード・19《キャー、お久しぶり!》

2020-07-04 06:14:17 | 小説3

・19
《キャー、お久しぶり!》   



 

「あ、加藤奈菜ちゃんと違うの?」

 という女性記者の一言で、あたしの運命の輪が回り始めた。

 女性記者は、和田さん。わたしが中学の時お菓子のCMに出た時は、広告会社のディレクターだった。黛朱里さん一人がプロで、あとはオーディション組ばかりだったから、なんとなく部活の雰囲気でやれた。最初は張り切ってたオーディション組は、撮影が夕方ぐらいになるとバテ始めてきた。だけど、休憩時間にロケ弁食べて、みんなでワイワイやっているうちに、また元気が出てきた。
 いま思うと、あの元気は、主役の黛朱里さんと、和田さんらスタッフがペース配分して、テンションが下がらないように現場の空気を作ってたからだと思う。だから、O先輩の危険ドラッグの中継で数年ぶりで会ったときは、尊敬の混ざった懐かしさで胸がいっぱいになった。

「ところで、話しなんだけどさ……」

 懐かしい思い出話を数分で終えると、和田さんは本題に入った。

 で、その本題のお蔭で、あたしは今日の午後から日の出放送の会議室にきている。

「こないだのラジオと、昔のCMのVは観た。和田君の目に狂いはない、どうだろ、一見端役だけど、主役に決心をさせる重要な役割なんだ。引き受けてくれないかな」

 日の出放送は、例年の終戦の日の特集ではなくて、昭和二十年六月の大阪大空襲をテーマに単発のドラマを作っている。主役は成長した黛朱里さん。あたしは、その友達役にどうか……と、言う話。
「あのう、撮影は?」
「もう半分撮り終えてる。あとは主役の友子と友だちの絡みと、爆撃の日の撮影だけ。友子の背景に奥行きを出したいんで、急きょ友だちとの絡みを膨らませることになったんや」
 ディレクターは簡単に説明した。
「あの、撮影はいつぐらいなんでしょ?」
「急な変更なんで明後日から。まあ、一週間程度見てくれればええよ。どうかなあ」

 青天の霹靂というのは、こういうこと。万事塞翁が馬という言葉も浮かんできた。O先輩が、あんなバカなことをしなかったら、わたしは和田さんに会うこともなかった。さらにさかのぼって思い出すと、卒業式の日に臨時で答辞をアドリブでやらされたことも原因と言える。
「やらせてもらいます!」
 静に応えようと思ったが、力が入ってしまった。
 もう忘れたつもりでいてたけど、演劇への熱は冷めてなかった。冷めていたのは高校演劇に対してだけだと改めて感じる。

「キャー、お久しぶり!」

 ハツラツと入ってきたのは、主役友子役の、黛朱里。まるで中学時代の親友に会ったときみたいにフレンドリーに握手した。
「さっそくだけど、テスト兼て、ちょっとやってもらおうかな」
「はい!」
 景気よく返事した。

 セーラー服にモンペ姿になってリハーサル室に行くと、
ルームランナーが二台運ばれてきた。体力テスト?

「空襲警報が出て、逃げる。EFで機銃掃射や爆撃の音も入る。昼ご飯食べかけで逃げ惑うことだけが設定条件。ヒントになる言葉は、このプリント。あとは即興で」
 ルームランナーに乗って駆けだす。ルームランナーの速度はスタッフの人が調整。さすがにプロだけあって、あたしと朱里さんに完璧に合わせてくれる。

「お昼のスイトン、まだニ個残ってた!」
「あたしなんか、まだ三個残ってる。早う警報解除になって……」
 そのとき機銃掃射の音。
「キャ、P公や、あれに当たったら、いっぱつやで!」
 あたしは、その時の気持ちでルームランナーを飛び出して、横のマットに飛び込んだ。そのすぐ後に友子の朱里さん。マットの上で女の子同士で抱き合った。
 直後、すぐ横を機銃掃射の音とスモーク。効果さんが弾着の爆竹まで。あたしらは完全に、その気になって強く抱き合うた。
「お母ちゃーん!」
「スイトーン!」
 の叫び声にスタッフが、思わず笑いをかみ殺す気配。

「よし、OK!」

 声がかかったとき、体中が痛いのに気づく。胸が痛い。あんまりきつく抱きあったので二人の胸が潰れるほどに密着。あたしは、朱里さんがブラもとってることに気が付いた。プロは根性の入り方が違う。
「奈菜ちゃん、絶妙だったよ。さすが演劇部だね」
「演劇部は辞めたんです!」
「あ、そう。でも、これだけのアクションやって息が乱れないのは大したもんだね」

 メタボ解消のためのジョギングの成果やとは言えなかった。

「みなさん、二時四十五分です」
 朱里さんが、唐突に時間を言った。
「みんな、起立してください。一分十八秒で黙とうです」

 あ、きょうは東日本大震災の日だ……。

 一分十八秒後、リハーサル室の全員で黙とうした……。
         
             奈菜……♡ 

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