せやさかい・158
なかなかの子だと思います。
校門を出て、留美ちゃんが発した言葉は敬語になってた。
別に、わたしが感心されるようなことをしたわけやない。
ついさっき、入部希望の一年生に会っての留美ちゃんの感想。
「なかなかやのん?」
「なかなかです」
「なかなかなんかあ……」
わたしは、よう分からへん。
ちょっと小柄なメガネ少年。
喋り方は留美ちゃんに似てる。喋る言葉は標準語でアナウンサーみたいにアクセントまできちんとしてる。たった一年違いやのに、わたしらにも終始敬語で喋ってくれて、それが留美ちゃんにまで伝染してるみたい。
「わたしなんか足元にも及ばないかもしれませんねえ」
「あ……まあ、感想はともかく、わたしに敬語使うのは止めとかへん(^_^;)」
「あ、あ、ごめんなさい(*#ω#)」
「どこらへんがすごいの? 大人っぽい感じいうのか、なんか打ち解けにくい感じで、ちょっと苦手……かな」
「入部届の字がきれいだったでしょ」
「あ、うん。確かにきれいやったけど、あの字は親が書いたんとちゃうかなあ?」
「違うよ、保護者の署名と字が違う。あれは自分で書いた字だよ。ハネと払い方が違ったもん」
うう、わたしには分からへんかった。
「入部届出すのに鞄を開けたでしょ、落ち着いていたようでも緊張していて、帰るまで鞄の口が開いたままだった」
「え、そうやった?」
「鞄の中にラノベと文庫が入ってた。ラノベは『エロマンガ先生』と『オレイモ』と『りゅうおうのおしごと!』で、文庫は書名は分からなかったけど北方謙三だった」
ラノベは分かったけど、北方謙三はよく分からない。
「好きな作家は川原礫と司馬遼太郎とか言ってたっけ?」
「ううん、好きな作家は絞りにくいから、いま読んでいる作家って言ってた」
「あ、アハハ、そうやったっけ。司馬遼太郎は名前しか知らんし、川原礫は聞いたこともないよって」
「SAOの作者よ!」
「SAO?」
「『ソードアートオンライン』、毎年ラノベの売り上げ一位をキープしてる作品よ」
「あ、それなら知ってる。アニメも半分くらいは観たし!」
「それが、鞄の中の本とは一致しない。ハッタリじゃなくて、同時に何冊も読んでるのよ。すごいわよ、あの子は」
「そうなん? ま、苗字は『夏目』で、おお! いう感じやけど、名前は『銀之助』で笑いかけた。夏目ときたら漱石やもんね」
「漱石の本名は『金之助』、『銀之助』というのは完全に漱石を意識してるわよ」
「え、そうなん?」
「本人もすごいけど、親もただものじゃない……なんか、圧倒される」
夏目くんもスゴイんやろけど、きちんと受け止めてる留美ちゃんもスゴイよ。
わたしは、ただのメガネ少年の印象でしかなかったし。
嬉しかったのは、文芸部の部活はうちの本堂裏の座敷でやることをすんなり受け入れてくれたこと。
今までのライフスタイル変えんでもええしね。