大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・158『新入部員・1』

2020-07-18 14:48:11 | ノベル

せやさかい・158

『新入部員・1』さくら        

 

 

 なかなかの子だと思います。

 

 校門を出て、留美ちゃんが発した言葉は敬語になってた。

 別に、わたしが感心されるようなことをしたわけやない。

 ついさっき、入部希望の一年生に会っての留美ちゃんの感想。

「なかなかやのん?」

「なかなかです」

「なかなかなんかあ……」

 わたしは、よう分からへん。

 ちょっと小柄なメガネ少年。

 喋り方は留美ちゃんに似てる。喋る言葉は標準語でアナウンサーみたいにアクセントまできちんとしてる。たった一年違いやのに、わたしらにも終始敬語で喋ってくれて、それが留美ちゃんにまで伝染してるみたい。

「わたしなんか足元にも及ばないかもしれませんねえ」

「あ……まあ、感想はともかく、わたしに敬語使うのは止めとかへん(^_^;)」

「あ、あ、ごめんなさい(*#ω#)」

「どこらへんがすごいの? 大人っぽい感じいうのか、なんか打ち解けにくい感じで、ちょっと苦手……かな」

「入部届の字がきれいだったでしょ」

「あ、うん。確かにきれいやったけど、あの字は親が書いたんとちゃうかなあ?」

「違うよ、保護者の署名と字が違う。あれは自分で書いた字だよ。ハネと払い方が違ったもん」

 うう、わたしには分からへんかった。

「入部届出すのに鞄を開けたでしょ、落ち着いていたようでも緊張していて、帰るまで鞄の口が開いたままだった」

「え、そうやった?」

「鞄の中にラノベと文庫が入ってた。ラノベは『エロマンガ先生』と『オレイモ』と『りゅうおうのおしごと!』で、文庫は書名は分からなかったけど北方謙三だった」

 ラノベは分かったけど、北方謙三はよく分からない。

「好きな作家は川原礫と司馬遼太郎とか言ってたっけ?」

「ううん、好きな作家は絞りにくいから、いま読んでいる作家って言ってた」

「あ、アハハ、そうやったっけ。司馬遼太郎は名前しか知らんし、川原礫は聞いたこともないよって」

「SAOの作者よ!」

「SAO?」

「『ソードアートオンライン』、毎年ラノベの売り上げ一位をキープしてる作品よ」

「あ、それなら知ってる。アニメも半分くらいは観たし!」

「それが、鞄の中の本とは一致しない。ハッタリじゃなくて、同時に何冊も読んでるのよ。すごいわよ、あの子は」

「そうなん? ま、苗字は『夏目』で、おお! いう感じやけど、名前は『銀之助』で笑いかけた。夏目ときたら漱石やもんね」

「漱石の本名は『金之助』、『銀之助』というのは完全に漱石を意識してるわよ」

「え、そうなん?」

「本人もすごいけど、親もただものじゃない……なんか、圧倒される」

 夏目くんもスゴイんやろけど、きちんと受け止めてる留美ちゃんもスゴイよ。

 わたしは、ただのメガネ少年の印象でしかなかったし。

 

 嬉しかったのは、文芸部の部活はうちの本堂裏の座敷でやることをすんなり受け入れてくれたこと。

 今までのライフスタイル変えんでもええしね。

 

 

 

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かの世界この世界:13『ワープ』

2020-07-18 06:05:58 | 小説5

かの世界この世界:13

『ワープ』    

 

 

 世界の綻び……このわたしが?

 

 わたしは、ヤックンに告白させないことだけを願っている。

 告白させたら、冴子がブチギレる。

 ブチギレた冴子は鬼になって跳びかかって来て昇降口の階段をもつれ合いながら転げ落ちて、わたしは冴子を殺してしまうんだ。冴子を殺したわたしは旧校舎の屋上に追い詰められ、飛び降りて死んでしまうんだ。

 それを回避したいために過去に戻っているんだ。

 先輩には悪いけど、自分のためなんだ。世界の綻びと言われても困る。

 

「旅立たなければ、この半日が無限にループするしかないの。108回ループして分かったわ」

 

「で、でも、この帰り道に冴子が告白するかもしれないし」

「冴子は、そんな子じゃない」

「知っているでしょ、あの子はヤックンが告白してくれるのでなければ受け入れられないのよ」

 中臣先輩が悲しそうに首を振る。

「で、でも108回もループしているなんて……」

 二人の先輩の言うことを認めれば、なにかとんでもない世界というか段階に足を踏み入れざるを得ない気がして、頑なになる。

「ループしているのよ、今すぐに旅立たなければ!」

「時子」

「ごめん……追い詰めるつもりじゃないの」

「その玉垣の上を見てくれる」

「玉垣……」

 

 神社の結界を玉垣という、子どもの背丈ほどの石柱の壁には石柱ごとに奉納者と寄付した金額が彫り込まれている。

 鳥居のすぐ横が、最高額の奉納者である地銀の社名……そこから始まって、数えると108番目の玉垣まで小石が置かれていた。

 

 これは……!?

 

「思い出した?」

「ループし終わると記憶が無くなるから、帰りに鳥居をくぐるたびに小石を載せておくように暗示をかけたの」

 小石を置く自分の姿がハタハタと蘇る。

「こことは違う世界、わたしたちは『かの世界』と呼んでいるわ」

「三つ子ビルの一つ一つのブロックのように無数の『かの世界』が寄り集まって宇宙とでもいうべきものを作っているの、そのいくつかの『かの世界』がほころび始めているのよ」

「それを修正して来て欲しいの、修正しなければ、三つ子ビルのように、この宇宙全体が崩壊してしまうわ」

「世界の修正だなんて、わたしにはできません。自分の不始末さえ108回かけても直せないのに」

「光子はラノベを書くでしょ? もうノートに何冊もプロットを書き溜めて」

「子どもの頃のメモを含めると、とうに万を超えるくらいのストーリーを」

「その粘りと想像力があれば、きっとできる」

「必ずできるわ」

 すると、コラ画像みたくノートに書き溜めたプロットやストーリーの断片がキラキラと明滅しながら神社の境内を取り巻いて数えきれない流星群のようになった。

 流星群は急速に輪を縮め、先輩とわたしを、ついにはわたしだけを取り巻くようになって、恐ろしくて動けなくなった。

 

「この世界にも歪みが出始めた」

「もう時間がない、飛んで!」

 二人の先輩がゲームのヒーラーのように私に向けて、勢いよく手をかざした。

 

 ウワーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!

 

 とたんに鳥居を中心に風景が渦を巻くように捩れて、ついにはわたし自身もよじれて意識が飛んでしまった。

 

 

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あたしのあした・57『松の廊下』

2020-07-18 05:28:53 | ノベル2

・57

『松の廊下』     

 

 

 どうぞ~こちらへ~

 春風のような笑顔で、きららさんは迎えてくださった。

「どうぞ~」と誘われた二メートルほどの廊下を曲がると、殿中松の廊下かと思わせるくらいの幅広の長い板敷の廊下に繋がっていた。松の廊下は広い庭に面していて、なんでマンションの中にこんなものがあるんだと不思議なんだけれど、きららさんのポワポワ笑顔に包まれると、不思議さの割にビックリはしない。
 二度ほど角を曲がったけど、曲がるたびに松の廊下は果てしない。
 庭の方から黄色いチョウチョがハタハタと飛んできて、わたしと並んだかと思うと、フッと方向を変えて、あたしの顔を掠めた。

 え……………………?

 廊下を、烏帽子に長袴のお大名たちが歩いている。
 長袴ってのは、足が完全に袴の中に潜ってしまって、そのままでは歩行も困難。両手で袴をつまんでソロソロとしか歩けない。
 これは、わざと動きにくくしているんだ。たとえ酔っぱらったりもめ事が起こったりしても、江戸城中では絶対乱暴な行為をさせないと言う幕府の工夫なんだろう。

 そう思っていると、後ろからパタパタと走ってくる音がした。

「おのれ、吉良上野介! わが遺恨、きりきりと受けてみよ!」

 青い長袴の大名が脇差を抜いて、わたしの横を走り抜けた。

「お、おのれ、狼藉者!」
 黒い長袴のお爺さんが、アタフタと逃げる。だけどお爺さんの方は、長袴に足をとられ思うように逃げられない。
「えい!」
 青い方が脇差を振り下ろした。
「ギャー!」
 黒い方は額を切られ、烏帽子も吹き飛んで尻餅をついた。
「殿中でござる! 殿中でござるぞ、浅野殿!」
 裃姿の侍が青い方を羽交い絞めにした。
「お放しくだされ梶川殿、武士の、武士の情けでござる!」
「殿中の刃傷はご法度、鯉口三寸抜いたれば、その身は切腹、お家は断絶でござるぞ!」
「もとより承知の上、ことここに至っては、トドメを、にっくき吉良上野介にトドメを!」
 梶川さんというお侍は屈強で、ブチギレた浅野内匠頭を吉良さんから遠ざけ、その間に、茶坊主や大名旗本らが吉良上野介を担ぎ上げて避難させてしまった。

「ちょっと違うのが混ざっちゃったわね」

 声が聞こえると、そこは広い座敷だった。
 いつのまにか正面にきららさんと向かい合って座っている。
「えと、今のは……」

「きららときら(吉良)が似てるから、ゴッチャになったのね」

「そうなんですか?」
「ま、吉良さんの語源は『雲母』からきてるって説もあるから、どこかで関連してるかもしれないけど。今のは電波が混信してるくらいに思ってもらっていいわ」
「そうなんですか」
「きょう来ていただいたのは、恵子さんにお願いがあってなの」
「はい、お願いですか?」
「ええ、今度の雲母姫フェスタで、老女のうららをやってもらえないかしら」
「ろ、老女ですか?」
「ええ、雲母姫を生まれた時から支えてくれたオバサンなの」
「あの、えと、あたし、まだ高校生なんですけど」
「ハハ、もう三百年も昔の話だから、少々の歳なんて誤差みたいなものよ」
「でも、あたしみたいな者が……」
「ううん、あなたでなきゃ出来ないの。あなたには普通の女の子には無い力があるから」
「力……ですか」
「ほら、恵さんの心には、もう一人の人格がいる……でしょ」
「あ……」

 近ごろ、ほとんど意識することが亡くなった風間寛一さんが、ホワっと浮き出してくるのを感じた……。

 

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