大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・172『ソフィアが立ち止まる』

2020-10-02 13:06:29 | ノベル

・172

『ソフィアが立ち止まる』頼子    

 

 

 これは何ですかです?

 

 ソフィアが立ち止まった。

 もう何回目か分からない。日ごろはわたしのガードの任務に気をとられて周囲の事は『テロリストが隠れるのならどこだろう?』という意識でしか風景を観ていないソフィアなんだけど、散策部という部活動だという意識が強くなってくると、来日半年のソフィアの好奇心が大きくなってくる。

 三日前は『町内会会長』とか『婦人部長』とかのアクリルの札が吊るしてあるのに気を留めた。

「ああ、自治会の役員をやっている家のしるしだよ」

「自治会?」

 欧米で自治会とか自治組織と言えばオランダのように国家を作ってしまったり独立運動の主役になることもあって、ソフィアには興味深いのだ。レンブラントの『夜警』って絵を知っているだろうか、自分の街は人を雇ったり、自分たちで武器を持ってでも守り抜いて、必要とあれば自分たちで王様を擁立したりする。

 そう言う意識があるので、興味の持ち方が違うのよ。

 表札を見ては日本人の苗字の多さにもびっくり。

 その驚きにいちいち説明して、いや、説明しきれないんだけどね。

「これは何ですか、です?」

「うん?」

 それは郵便受けや表札の脇に書かれている記号だ。記号と数字の組み合わせで、暗証番号や電化製品のシリアルに似ている。

「なんだろうね?」

 簡単なものは引き算の数式のようだ。10-3 8-5 7-19

 ソフィアは、その数式を指でなぞる。

「これは…………泥棒の記号です!」

「え!?」

「警察に連絡した方がいい……です!」

 ソフィアの目は本気で、すぐにスマホを出して電話をし始めた。

 番号タッチが三回ではなかったので110番ではない、なにより電話の向こうと話すこともなく切ってしまうし。

「どこに連絡したの?」

「警察です」

 しばらくすると、本当にパトカーがやってきた。

 こういう場合、わたしは正面に出てはいけないことになっているので一歩下がって見ている。

 ソフィアも緊張しているんだろう、口癖の『です』を連発してお巡りさんに説明。

 お巡りさんは、近所の家々もチェックして、在宅の家とは直接話をして確信を得たようだ。

「やっぱり、泥棒のマーキングのようです。数字は、家の住人が不在になる時間を書いたもののようです」

「そうなの!? 中には複雑なのもあるけど」

「それは、より具体的に侵入経路や方法を示す記号のようです」

「つまり、もう泥棒する気満々のターゲット!?」

「よく分かったわね(^_^;)」

 さすがは王室のガードだと感心、同い年の女の子だとは思えない。

「内容とか意味ではなく、書かれたものから感じる悪意です、邪心で書かれたものには邪な気を感じます、です」

「そ、そうなんだ」

 

 現場はお巡りさんに任せて、わたしたちは先を急ぐ。

 

「あれ?」

 次にソフィアが立ち止まったのはお地蔵さんの前だった。

 

 

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ポナの季節・51『ヘブンリーアーティストの審査会だ!』       

2020-10-02 06:19:18 | 小説6

・51
『ヘブンリーアーティストの審査会だ!』  

  

ポナ:みそっかすの英訳 (Person Of No Account )の頭文字をとって新子が自分で付けたあだ名

 

 安祐美のボーカルは圧巻だった!

 ヘブンリーアーティストの審査は来週の予定だったが、希望者が多く、前倒しで前半組をやることになった。その前半組に入ったので、この一週間余りの安祐美のレッスンは、幽霊とは思えない熱の入り方だった。それでポナもみなみも授業中に居眠りをして恥をかくハメになってしまった。

 むろん曲はプリプリのダイアモンズ。ドラム、ギター、ベース、キーボードのアンサンブルもパンチも申し分なかった。審査員の中にもプリプリ世代は多く、あまりの完成度の高さに涙する者さえいた。

 前半組の音楽部門だけで四十組が出たが、審査員は審査員室に缶詰めになって当落を審議し、二十五組を合格とした。

「半分以上合格するんなら、ここまでやらなくてもいけたんじゃない?」

 ファミレスでやった祝勝会で、みなみが言った。真面目なみなみは、昨日の授業中の居眠りが悔しかった。
「合格は、とっくの昔に確信してたけどね、やるからには、いつも全力投球で悔いのないものやりたいからさ」
 もうどこから見ても生きている人間にしか見えない安祐美が言う。
「うん、なんつうか。やり抜いたって達成感はいいよね」
 二杯目のラーメンを食べながら、ポナが賛成と感動をいっしょに伝えた。

 ファミレスというのは、メニューが多様で、本格的なコ-スものから、ランチやラーメンまであるのがいい。ポナのララランチは、ここにきてもスタイルが変わらない。ただ、ラーメンがもう一杯多いというところに、ポナの感動が現れていた。もっともラーメン二杯目は半額のクーポン券があったおかげではあるが。

「ライセンスもらえたんだからさ、まだ日も高いし、デビューとかやってみる?」
 由紀が嬉しそうに言うと、奈菜ものってきたが、意外なことに安祐美が待ったをかけた。
「デビューは大事だからさ、もっときちんとやりたいの」
 そう言えば、今日は審査だけだったので、楽器や機材以外はおざなりだった。服装はてんでバラバラで、ポナなんかは学校のジャージ姿だった。
「そう言えば、そうだね……」
「でも、コスって高くつくよ」
「ねえ、ネットオークションとかで、安いの手に入るかも。お父さんなんかヤフオクバリバリだし」
 ポナは略して言ったが、要はお母さんの命令で要らないものを出品し、家庭園芸などお母さんが必要なものを買っている。でも娘のポナから見ればやりすぎで、こないだなんか、チイネエが着ていて、みなみにも貸し出した乃木坂の制服までオークションに出していた。もっとも売り上げはチイネエの臨時収入にはなったのだが。
「じゃ、それはポナに任せるとして、問題はユニット名」
「リトプリじゃいけないの?」
 五人は、審査に出るにあたって、リトルプリプリを縮めてリトプリで出ていた。みんなは気に入っていたが、安祐美はこだわりがあるようだった。
「よし、それじゃ、ユニット名は安祐美におまかせ!」

 あと、機材の保管場所や、定期的な練習場所の確保について話し合って解散した。今日の審査でお互いの距離がうんと近くなったので、みなみの家で二次会をやろうと、「遅くなるから」と連絡したみなみのお母さんから逆提案された。
「悪い、あたし疲れちゃったから」
 安祐美が遠慮した。横にいたポナが見ると、指先が少し透けはじめていた。
――実体化してているのにも限界があるんだ――
 そう気づいたポナだったが、みんなには言わなかった。


ポナの周辺の人たち

父     寺沢達孝(59歳)   定年間近の高校教師
母     寺沢豊子(49歳)   父の元教え子。五人の子どもを、しっかり育てた、しっかり母さん
長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉
次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員だったが、乃木坂の講師になる。
長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官
次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ
三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )
ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。死んでペンダントになった。

高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)
支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子
橋本由紀  ポナのクラスメート、元気な生徒会副会長
浜崎安祐美 世田谷女学院に住み着いている幽霊
吉岡先生  美術の常勤講師、演劇部をしたくて仕方がない。
佐伯美智  父の演劇部の部長
蟹江大輔  ポナを好きな修学院高校の生徒

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かの世界この世界:89『ポチの退屈・1』

2020-10-02 06:10:23 | 小説5

かの世界この世界:89

『ポチの退屈・1』   

 

 

 ノルデンハーフェンへ北上する街道は曲がりくねっている。

 

 そもそもが自然に発展した地域だからだ。

 かつては、街道沿いにいくつもの町や村や耕作地が広がっていたのだが、無残に瓦礫の山か焼け野原になり果てている。

 瓦礫や焼け野原なので、視界を遮るものに乏しく、曲がりくねった道の様子がよく分かる。

 平和で盛んだったころは、カーブを曲がるごとに変化する街の様子や景色が旅の無聊を慰めてくれたものだが、こうも荒れた景色が見通せては辛いものがある。

「タングリス、わたしが幽囚の身であった間に荒れ果てたものだな。堕天使の筆頭とは言え、この荒れようには凹んでしまうぞ」

「はい、しかし、戦線は北西の方に移ったようで行程は楽になりました」

 まあ、エスナルの泉からの帰り、ムヘン山地を通り抜ける緊張感に比べれば楽なものだ。Cアラーム(クリーチャー警報機)の電源は入れてあるが、なんの反応もない。

「……ちょっと退屈なの」

 ハッチの縁に顎をのせ、しみじみとポチがこぼす。

 車内ではケイトもロキも居ねむってしまい、年かさのテルは相手をしてくれず、人型に変身して間もないポチは退屈で仕方がない様子だ。

「ならば、我がリトルデーモンとして、我の肩でも揉め」

「やだ、リトルデーモンじゃないもん」

――それなら、わたしが任務を与えましょう――

 ヘッドセットを通してタングリスが提案する。

「なに! おもしろいこと!?」

 ポチは車内に潜り込むと、直接タングリスに聞きに行く。数秒すると操縦席のハッチが開いてポチが元気よく飛び出した。

「じゃ、行ってくるね!」

「お、おう」

 四号の上で一回転すると、ポチは遠雷のように砲声が轟く西の空に飛び立っていった。

「なにを命じたんだ?」

――ちょっと、戦線の動きに気になるところがあるので調べさせようと思いました。好奇心いっぱいのポチには向いていると思いました――

――大丈夫かい、敵と間違われて撃たれたりしないか?――

 テルが心配する。

――味方識別信号チップを持たせてやった――

「そ、そうか、わたしも同じ気持ちだった」

――そうですか――

 そ、そーだ! いちおう、わたしがコマンダーなんだからね、そ、それくらいは思うぞ!

 いつの間に目覚めたのか、ケイトとロキが車内で笑った……ちょっとムカつくブリュンヒルデであった。

 

☆ ステータス

 HP:7000 MP:43 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー

 持ち物:ポーション・55 マップ:6 金の針:0 所持金:500ギル(リポ払い残高35000ギル)

 装備:剣士の装備レベル15(トールソード) 弓兵の装備レベル15(トールボウ)

 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー)

 白魔法: ケイト(ケアルラ) 

 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士

 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係

 タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 

 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児

 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6の人形に擬態

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

 

 

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