銀河太平記・013
ブラフ!
俺たちにだけ聞こえるように叫んだのはテルだ。
他の参列者が爆ぜた音がした地上三十メートルあたりに気をとられた中で、俺たち火星組は御料車の方に注目した。
テロリストだ!
ヒコと俺が気づいた。火星組に隣接する一般参列者の中から三人のジジイが飛び出した!
手にはベルトにでも仕込んであったんだろう、針のように細いタガーを腰だめに構えて御料車に突進していく。
させるかあ!
ヒコと飛び出した。
やっつけようなどとは思っていない。御料車への接近を防ぐ、いや、遅らせるのだ。
遅らせれば、専門の護衛官が取り押さえるなり射殺するなりやってくれる。
独立したとはいえ、火星はまだまだ無頼の星だ。比較的落ち着いている扶桑国でも、地球人なら目をむくような荒っぽい事件が起こっている。
小学校のころから、こういう事件に遭遇した時の訓練はされている。
小さな子供は自分の身を守ること。
俺たちみたいな若者も、むろんわが身を守ることが第一なんだけど、人を引き付ける音や光や破壊が行われた時は、あえて違うところを注目するように訓練されている。
人の気を引き付ける者はブラフであることが多く。実際に危害を加える者は、まるで逆の方向からやってくる。
ほんとうに身を避けなければならない者は、危害を加える実行者だ。
そういう実行者からこそ身を守らなければならない、場合によっては、可能な限り弱い者を守ったり、ターゲットに手が届くのを遅らせなければならない。
視野に入った時の敏捷さで、敵はジジイに化けた戦闘員だと思った。
こんな奴の正面に飛び出したら命が無い。敵の視野の端に出て、まっすぐターゲットに向かうのを遅らせるんだ。
そうすれば……
ビシ! ビシ!
警護員のパルス銃が命中、テロリストは陛下の二メートル手前でくず折れた。
もう一人は、瞬間で不利であることを理解して、横っ飛び……。
グエ!
テロリストはしゃがんだ未来とテルを飛び越したかと思ったら、そのまま道路に落下して動かなくなった。
なにが起こったのか確認する間もなく、御料車の向こう側でくぐもった悶絶の声が起こった。
御料車の窓越しに後姿の児玉元帥が軍刀を鞘に納めるのが見えた。
なんだか、VRゲームで観た剣客のようだった。
陛下はいったん御料車の中に戻られ、前後を走行警備車で固め、近衛師団の兵士たちがその周囲を固く警護、乗馬ズボンに赤線をひいた近衛騎兵は参道の人たちを落ち着かせながら周囲を警戒した。
御参拝中止だと思った。
しかし、警備各所から異常なしの報告があがると再び陛下はお出ましになった。
そして、この事件があったにもかかわらず、五分遅れただけで陛下が予定通りに大鳥居を潜られ。
陛下や児玉元帥をお迎えして、例大祭は三十分ほどで終わって、一般参列者のお参りが許される。
参列者は数万人に及ぶので、二礼二拍手一礼の作法は略して二拍手と一礼で済ます。
「よし、お御籤ひいて、御守り買ってかえろうか!」
「「「おう!」」」
清々して、お守りやらお札を売っている授与所に足を向けると、横合いから礼装の下士官に声をかけられた。
「自分は元帥府のヨイチ准尉であります、元帥が先ほどのご協力にお礼を申されたいとお待ちです。宜しければ元帥府まで御同道いただけませんでしょうか」
「え…………?」
「元帥が!?」
「「げ、げ……」」
テルと未来が反応したが、俺とヒコは、とっさに声も出なかった。
※ この章の主な登場人物
大石 一 (おおいし いち) 扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ) 扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく) 扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる) 扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
※ 事項
扶桑政府 火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる